戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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第一章

第13話 不安

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 私はどこで間違えてしまったんだろう。

 幼馴染のレイベルトがずっと好きだったはずなのに……。


 彼と私はいつも一緒だった。

 家はすぐ近所だし、親同士の関係も良好。誕生日にはプレゼントを贈り合い、何かあれば互いに相談するような……幼い頃から良く遊ぶ一番の友達としての関係を築いていた。

 私は昔から彼が好きだった。

 いつから好きだったのか自分でも分からない程に昔から……。

 そんな私の思い人、レイベルトは近所の女の子からは良くモテる。

 彼を取られるのが嫌で、何度も他の女の子を牽制して近付けないようにした。多分近所の女の子たちから私は嫌われてしまっているけど、別にそれでも構わなかった。

 結果として、彼の周りには私以外の女性の影は見られない。その事実さえあれば私は大丈夫。

 でも、彼の一番の友達という立場を確立していないがら、臆病な私は彼にずっと気持ちを伝える事が出来なくて……仲の良い幼馴染くらいにしか思われていないのだと思い込んで、自分からは勇気が出せず告白出来なかった。

 彼との関係を進められないまま悪戯に時だけが過ぎていく日々。


 そんなある日……戦争が始まるのだと国から発表があった。

 私はまだ自分の気持ちを伝えていない。このままだと一生会えなくなる事だってあるかもしれない。

 彼が戦争に行ってしまうと知らされた時は目の前が真っ白になってしまった。


 何が戦争よ……彼との仲を引き裂くのはやめて!


 私はなんとかこの機会に気持ちを伝えようと決意した。昔から良く二人で過ごした小高い丘。そこで想いを伝えよう。


 町の半分程度が見えるその丘は、幼い頃に二人で探検ごっこをした思い出の場所。

 少し成長した頃には二人で散歩をしたり将来の話をした思い出の場所。

 そして……


「戦争から帰ってきたら、結婚しよう。」


 私から告白するつもりが、レイベルトから不意打ちの告白を受けてしまった。彼の声は少しかすれ、それが冗談やからかいの類では決して無い事が伝わって来る。


「絶対に帰ってきてね。死んだら許さない。それまで待ってるから……絶対に。」


 そう言って私は……嬉しさと悲しさがない交ぜになったキスで返事をした。


 戦争に行かないで一緒に逃げましょう!


 この言葉が言えればどれだけ良かった事か。

 でも言えない。二人で逃げるにしたって逃げる当てもないし、特にレイベルトは騎士になったばかりの新人とは思えない程に強くそれなりに有名人。身を隠すのも難しい。

 私には彼を待つ事しか出来ないのだ。


 この日は両家公認で婚約を結んだ大切な記念日となり、そして戦争に行ってしまうレイベルトが私に告白してくれた丘は、何よりも大切な……本当に大切な思い出の場所となった。




 レイベルトが戦争に行ってしまってから一週間後。

 両家は即座に婚約を解消してしまった。私の同意も、当然レイベルトの同意も得ずに。

 今回の戦争は完全に負け戦で、レイベルトはどうせ死ぬだろうと両家が判断した結果だそうだ。

 勿論抵抗したが、何の力もない小娘が二つの騎士家に逆らえるはずもなく、彼が帰って来たら婚約を結び直す事に希望を託すしかなかった。

 両親から戦争の経過を知らされる度に不安を胸に募らせていく日々。彼から定期的に届く手紙を何よりも心の拠り所として過ごした。





 レイベルトが戦争に行ってから一年が過ぎた。

 英雄と呼ばれるようになり、街でも連戦連勝だと常に話題に上がる彼を誇らしく思う一方で、今度はあの戦場へ行っただとか、流石に今度こそはマズいのではないかという噂を聞く度、彼が死んでしまうのではないかという不安に苛まれ続けていた。


 最近私には言い寄って来る一人の男がいる。

 その人、ネイルはお調子者で私を笑わせようと度々ちょっかいをかけてくるが、不思議と憎めない。

 そこそこ大きく商売をしている商家の息子。


「婚約者が居るからやめて欲しいわ。」


 レイベルトが好きで、他の人の事など考えられない私は断るのだが……


「友達としてなら良いだろ? 別に浮気をするわけじゃない。何でも悩みを聞くよ?」


 大切な彼と会えない日々を過ごし、両親には早く別の男と結婚しろと言われ続けている今、とても救われるような言葉だった。


「そうよね。相談する友達くらいなら居ても良いわよね。」


 近所の女の子には嫌われているし、レイベルトだけが居れば良いと思っていたから男の子との交流は全くない。

 誰にもこの辛さを相談する事も吐き出す事も出来ない私はネイルの提案を了承した。


 日を追うごとに戦争は激化の一途を辿る。

 レイベルトは常に死と隣り合わせの戦場へと送られ続け、私の不安はピークに達していた事も相まって、つい両親の愚痴を吐き出しがてら何度もネイルと二人で会ってしまう。

 私は友達のつもりでいたが、ネイルがこちらに気があるという事は分かっていたし、彼の気持ちを利用しているような引け目も感じていた。


「やっぱり君が好きなんだ。」


 そう言って抱きしめられキスをされた私は、罪悪感で抵抗する事が出来なかった。


「ダメよ。私には婚約者が居るんだから。」


 口だけは抵抗を示したが、相手もそんな私の態度を織り込み済みなのだろう。


「英雄だって人間だ。酷い戦場へ送られ続け、生き残るというのは難しい。エイミーはそれでも待つのかもしれないけど、僕がその負担を軽くしてあげるよ。」


 そう言われた私はレイベルトが死ぬわけないと反論するが、勿論分かっている。

 ネイルの言う事の方がきっと正しいんだって。

 そうして強引に迫られ続け、とうとう私は一度だけ……と自分にも相手にも言い訳をしながら体を許してしまった。

 彼が死んでしまうのではないかという不安が行為の際には少しだけ忘れられ、それでいてレイベルトを裏切ってしまった罪悪感とネイルから与えられる初めての痛みに心がバラバラになるような感覚。

 一度だけと言ったにもかかわらず、その後は会う度に今度こそ最後……と口にしては抱かれ続ける。

 レイベルトに会えない寂しさを埋める事は出来なかったが、レイベルトが死んでしまうのではないかという焦燥感を一時的に忘れられる麻薬を摂取し続けているようなものだった。

 ネイルと体を重ねるようになって半年が経つ頃。

 初めは痛みしかない行為だったものがいつの間にか快楽さえも感じるようになってしまい、私はネイルから与えられる麻薬のような感覚を摂取せずにはいられない。

 もう……言い訳さえも口にしなくなっていた。

 丁度そんな時……レイベルトからの手紙が途絶えてしまう。

 そうなってからの私は常に不安を消そうと一層ネイルを激しく求めるようになり、同時に妊娠が発覚。


 レイベルト、お願い。帰って来て……。

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