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第二章 ルートⅠ
第18話 決別
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アオイと過ごす日々の中、俺の心の傷は徐々に癒えていく。こうして悲しい記憶は風化し、いずれは苦い思い出の一つとなるのだろう。
そんな折、元婚約者にして幼馴染であるエイミーから手紙が届いた。
今さら何の用があるというのだろうか?
自身の心が少しだけざわつくのを感じながら、事情を一番理解しているアオイと一緒に中を確認する。
英雄だ何だと言われてはいても、心は普通の人間という事か……。
愛しいレイベルトへ
あの時は一時の気の迷いだったの。あなたが戦争に行って帰って来ないんじゃないかと毎日が不安で寂しかった。
その寂しさに耐えられなくて、別の人と会ってしまったの。
でも寂しさは埋まらなかった。
馬鹿だったわ。待つ事が出来なかった弱い私を許して下さい。
あなたがどうしても必要よ。今でも愛しているの。
今の私は寂れた酒場で働きながら、なんとか生活するのがやっと。あなたとの輝かしい思い出だけが私の宝物。それだけが支えになっています。
心を入れ替えるから、どうかもう一度私にチャンスを下さい。
宝物を取り戻す機会を与えて下さい。
ずっと待っています。
あなたとの思い出を胸に宿し、永遠に……
生涯を約束したエイミーより
困る。
アオイと夫婦になり、アオイを愛してしまった今となっては、滑稽な内容としか思えない……が、同情するような気持ちが湧いてくるのもまた事実。
肩書と立場を得た今の俺なら、最低限の援助くらいはしても良いのではないだろうか……。
「ジュリメールだね。この世界にもあるんだ。」
「なんだそれは?」
アオイの国では浮気した女が男とヨリを戻したい時、ロミオとジュリエットなる物語をなぞらえ、悲劇のヒロインを気取った文章を相手に送るのだという。
男がヨリを戻そうと送った場合はロミオメールと言うそうだ。
「立ち直ったとはいえ、レイベルトはこんな手紙に返事をするのも気分が悪いでしょ? 私が返事を書いてあげるね。」
アオイは俺から手紙を奪い取り、楽しそうに返事を書き始める。
俺はあれから音沙汰もない自分やエイミーの実家の事をふと思い出し、どうなったのかとアオイに尋ねると教えてくれた。
先ず、両家共に結構な借金を抱えたそうだ。
あいつらが騎士の位を没収され、商人に金を騙し取られたとしても……土地や屋敷、元々家に残っている物があれば十分暮らしていけるだろうと俺は思っていたが、甘かった。
騎士という身分を失ったあいつらは、金そのものは少し裕福な商人程度に蓄えはあったはずだったが……
悪徳商人達から騙し討ちのような形で財産の殆どを切り取られたのだという。
加えて、いつの間にか妙に高い金利で借金をしていて首が回らなくなったんだそうだ。
当然あいつらだってあがこうとはしたらしい。
その方面に詳しい知り合いに聞こうとするが、英雄を騙し討ちした家だと悪評が立っているせいで、どこへ行っても門前払い。
最後には俺とエイミーの実家は両親が何者かに襲撃されて死亡。エイミーだけがひっそりと生きているそうだ。
復讐なんてするつもりは無かったし、ここまでの罰は望んでいなかった。
しかし、不思議と悪徳商人どもを咎める気にはならなかった。
悪徳商人どもは余程やり口が上手いのだろう。この短い期間で何をどうすれば借金を抱える事が出来るのか疑問だ。
純粋に興味を覚える。
「アオイはこうなるって分かってたのか?」
「まぁね。私の世界でも、没落しかかったタイミングにハゲタカのように悪い奴が群がるってのは相場が決まってるからね。」
「そうか。」
流石はシンガクコウ?とかいう学者の養成所に通っていただけの事はある。
「あ、ついでに教えておくけどさ。エイミーの結婚相手の家は潰れたらしいよ? これまた過激な人に襲撃されたんだって。」
手紙を書きながら、エイミーの相手の事を教えてくれるアオイ。
「そうか……。流石に襲撃までされるってのは理不尽な気もしないでもないが、だからと言って襲撃犯に対してどうこうしようって気にもならんな。」
「え? レイベルトはそいつらを恨んでないの?」
「まぁ、相手の男やその家に対して思うところがないと言えば嘘になるが、結局相手を選んだのはエイミーだからな。俺としてはその男や家に対して特に恨みなんかはない。」
「英雄は中身まで高潔だったんだね。」
「よせよせ。俺を褒めたってなにも出てこないぞ?」
「褒めるって言うか、単純に凄いなぁって思っただけ……よし! お手紙完成っと。」
「お? 出来たのか。どれどれ?」
俺がアオイの書いた手紙を覗き込もうとすると……
「レイベルトは見ちゃダーメ。どうせ情けをかけるような返事を書くつもりだったんでしょ? せっかく上手く書けたんだから、修正されちゃたまらないよ。後日、君が完全にふっ切れたタイミングで読ませてあげる。」
修正するような内容を書いたのか?
それはそれで問題な気がするんだが。
「しかしな……。」
「嘘は書いてないから安心して。」
チョコレートのように甘いんだから……と言って異国の姫と言っても差し支えない程の美女は、しっしっと俺を追いやる。
チョコレートが何かは知らんが、正直アオイの言う通りだった。
返事を書くのも気分が悪いし、かと言って長年幼馴染として付き合いのあった俺は、断りの返事と多少の援助くらいはしてやるべきか……と思っていたのだ。
結局、エイミーからの手紙が届いたのはあの1通だけだった。
充実した新婚生活で過去の失恋を忘れ、エイミーの事もすっかり思い出さなくなっていたある日の事。
「そう言えばレイベルトはさ、エイミーの事は心の整理がついているでしょ? 前に私が書いた手紙の返事を見せてあげる。」
今更という気もするが、これもケジメと思いアオイが代筆した手紙を読む事にする。
彼女はこの時の為にわざわざ写しを用意していたようだ。
「どれどれ……。」
裏切者のエイミーへ
もう良いんだ。君はその人と幸せになると良い。なれるかは知らんが。
俺は確かに裏切られたけど、君より強くて優しくて賢い上に料理上手な絶対に裏切らない美人で胸のデカい勇者と結婚したんだ。美人のね。
エイミーなんかとは比較にならないさ。比べるのも失礼だ。謝って欲しい。
ずっと待っているなんて嘘をついてはいけないよ?
君はそう言って待てなかっただろう。つまり、前科がある。
どうせまた同じことをするのだろう。美人の勇者と違って。
既に別の男がいるんじゃないのかい? 美人の勇者と違って。
思い出を胸に……じゃなくてさ、他の男の子供を腹に宿しているよね? 美人の勇者と違って。
ジョークのセンスがイマイチだ。面白くないから、もっと面白い事が言えるようになったらまた手紙を書いてくれ。君は美人の勇者と違うから無理だろうがな。
酒場で働いているから何だ? 酒場を馬鹿にしてはいけないよ。皆働いて生活しているんだからね。
宝物と言っているけど、その宝をドブに捨てたのは君なんだから、こちらに言われても困る。それに君との思い出はもう俺の宝物じゃないし。
病気には気を付けるんだよ? 寂しいからと言って色んな男に股を開くと、すぐに病気になってしまう。
もし良かったら、娼館通いが趣味の騎士団長を知っているから紹介するよ。寂しかったらその男に連絡を取れば、懐と股の寂しさを紛らわしてくれるはずだ。
彼は金払いが良いらしいからね。
英雄レイベルト=ナガツキ伯爵より 真心を込めて
「これはひどい……。」
ニコニコしながら、手紙の写しを読む俺の横に立っているアオイ。
俺はアオイが好きだ。エイミーへの未練を断ち切った今、堂々と胸を張ってアオイを愛していると言える。
しかし、この手紙の内容にはかなり引いてしまったのは内緒だ。というか、俺の横で機嫌良さそうにしている彼女が書いた内容とは思えない。
アオイには、私の国の言い回しが分かってきたじゃないかと感心されたよ。
どんな場面で使う言い回しなのかは不明だが、そういう事じゃない。素直な感想として言ったんだが……
「しかしこれじゃあ、アオイじゃなくてアオリだな。」
「座布団持って来ようか?」
意味がわからん。
そんな折、元婚約者にして幼馴染であるエイミーから手紙が届いた。
今さら何の用があるというのだろうか?
自身の心が少しだけざわつくのを感じながら、事情を一番理解しているアオイと一緒に中を確認する。
英雄だ何だと言われてはいても、心は普通の人間という事か……。
愛しいレイベルトへ
あの時は一時の気の迷いだったの。あなたが戦争に行って帰って来ないんじゃないかと毎日が不安で寂しかった。
その寂しさに耐えられなくて、別の人と会ってしまったの。
でも寂しさは埋まらなかった。
馬鹿だったわ。待つ事が出来なかった弱い私を許して下さい。
あなたがどうしても必要よ。今でも愛しているの。
今の私は寂れた酒場で働きながら、なんとか生活するのがやっと。あなたとの輝かしい思い出だけが私の宝物。それだけが支えになっています。
心を入れ替えるから、どうかもう一度私にチャンスを下さい。
宝物を取り戻す機会を与えて下さい。
ずっと待っています。
あなたとの思い出を胸に宿し、永遠に……
生涯を約束したエイミーより
困る。
アオイと夫婦になり、アオイを愛してしまった今となっては、滑稽な内容としか思えない……が、同情するような気持ちが湧いてくるのもまた事実。
肩書と立場を得た今の俺なら、最低限の援助くらいはしても良いのではないだろうか……。
「ジュリメールだね。この世界にもあるんだ。」
「なんだそれは?」
アオイの国では浮気した女が男とヨリを戻したい時、ロミオとジュリエットなる物語をなぞらえ、悲劇のヒロインを気取った文章を相手に送るのだという。
男がヨリを戻そうと送った場合はロミオメールと言うそうだ。
「立ち直ったとはいえ、レイベルトはこんな手紙に返事をするのも気分が悪いでしょ? 私が返事を書いてあげるね。」
アオイは俺から手紙を奪い取り、楽しそうに返事を書き始める。
俺はあれから音沙汰もない自分やエイミーの実家の事をふと思い出し、どうなったのかとアオイに尋ねると教えてくれた。
先ず、両家共に結構な借金を抱えたそうだ。
あいつらが騎士の位を没収され、商人に金を騙し取られたとしても……土地や屋敷、元々家に残っている物があれば十分暮らしていけるだろうと俺は思っていたが、甘かった。
騎士という身分を失ったあいつらは、金そのものは少し裕福な商人程度に蓄えはあったはずだったが……
悪徳商人達から騙し討ちのような形で財産の殆どを切り取られたのだという。
加えて、いつの間にか妙に高い金利で借金をしていて首が回らなくなったんだそうだ。
当然あいつらだってあがこうとはしたらしい。
その方面に詳しい知り合いに聞こうとするが、英雄を騙し討ちした家だと悪評が立っているせいで、どこへ行っても門前払い。
最後には俺とエイミーの実家は両親が何者かに襲撃されて死亡。エイミーだけがひっそりと生きているそうだ。
復讐なんてするつもりは無かったし、ここまでの罰は望んでいなかった。
しかし、不思議と悪徳商人どもを咎める気にはならなかった。
悪徳商人どもは余程やり口が上手いのだろう。この短い期間で何をどうすれば借金を抱える事が出来るのか疑問だ。
純粋に興味を覚える。
「アオイはこうなるって分かってたのか?」
「まぁね。私の世界でも、没落しかかったタイミングにハゲタカのように悪い奴が群がるってのは相場が決まってるからね。」
「そうか。」
流石はシンガクコウ?とかいう学者の養成所に通っていただけの事はある。
「あ、ついでに教えておくけどさ。エイミーの結婚相手の家は潰れたらしいよ? これまた過激な人に襲撃されたんだって。」
手紙を書きながら、エイミーの相手の事を教えてくれるアオイ。
「そうか……。流石に襲撃までされるってのは理不尽な気もしないでもないが、だからと言って襲撃犯に対してどうこうしようって気にもならんな。」
「え? レイベルトはそいつらを恨んでないの?」
「まぁ、相手の男やその家に対して思うところがないと言えば嘘になるが、結局相手を選んだのはエイミーだからな。俺としてはその男や家に対して特に恨みなんかはない。」
「英雄は中身まで高潔だったんだね。」
「よせよせ。俺を褒めたってなにも出てこないぞ?」
「褒めるって言うか、単純に凄いなぁって思っただけ……よし! お手紙完成っと。」
「お? 出来たのか。どれどれ?」
俺がアオイの書いた手紙を覗き込もうとすると……
「レイベルトは見ちゃダーメ。どうせ情けをかけるような返事を書くつもりだったんでしょ? せっかく上手く書けたんだから、修正されちゃたまらないよ。後日、君が完全にふっ切れたタイミングで読ませてあげる。」
修正するような内容を書いたのか?
それはそれで問題な気がするんだが。
「しかしな……。」
「嘘は書いてないから安心して。」
チョコレートのように甘いんだから……と言って異国の姫と言っても差し支えない程の美女は、しっしっと俺を追いやる。
チョコレートが何かは知らんが、正直アオイの言う通りだった。
返事を書くのも気分が悪いし、かと言って長年幼馴染として付き合いのあった俺は、断りの返事と多少の援助くらいはしてやるべきか……と思っていたのだ。
結局、エイミーからの手紙が届いたのはあの1通だけだった。
充実した新婚生活で過去の失恋を忘れ、エイミーの事もすっかり思い出さなくなっていたある日の事。
「そう言えばレイベルトはさ、エイミーの事は心の整理がついているでしょ? 前に私が書いた手紙の返事を見せてあげる。」
今更という気もするが、これもケジメと思いアオイが代筆した手紙を読む事にする。
彼女はこの時の為にわざわざ写しを用意していたようだ。
「どれどれ……。」
裏切者のエイミーへ
もう良いんだ。君はその人と幸せになると良い。なれるかは知らんが。
俺は確かに裏切られたけど、君より強くて優しくて賢い上に料理上手な絶対に裏切らない美人で胸のデカい勇者と結婚したんだ。美人のね。
エイミーなんかとは比較にならないさ。比べるのも失礼だ。謝って欲しい。
ずっと待っているなんて嘘をついてはいけないよ?
君はそう言って待てなかっただろう。つまり、前科がある。
どうせまた同じことをするのだろう。美人の勇者と違って。
既に別の男がいるんじゃないのかい? 美人の勇者と違って。
思い出を胸に……じゃなくてさ、他の男の子供を腹に宿しているよね? 美人の勇者と違って。
ジョークのセンスがイマイチだ。面白くないから、もっと面白い事が言えるようになったらまた手紙を書いてくれ。君は美人の勇者と違うから無理だろうがな。
酒場で働いているから何だ? 酒場を馬鹿にしてはいけないよ。皆働いて生活しているんだからね。
宝物と言っているけど、その宝をドブに捨てたのは君なんだから、こちらに言われても困る。それに君との思い出はもう俺の宝物じゃないし。
病気には気を付けるんだよ? 寂しいからと言って色んな男に股を開くと、すぐに病気になってしまう。
もし良かったら、娼館通いが趣味の騎士団長を知っているから紹介するよ。寂しかったらその男に連絡を取れば、懐と股の寂しさを紛らわしてくれるはずだ。
彼は金払いが良いらしいからね。
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ニコニコしながら、手紙の写しを読む俺の横に立っているアオイ。
俺はアオイが好きだ。エイミーへの未練を断ち切った今、堂々と胸を張ってアオイを愛していると言える。
しかし、この手紙の内容にはかなり引いてしまったのは内緒だ。というか、俺の横で機嫌良さそうにしている彼女が書いた内容とは思えない。
アオイには、私の国の言い回しが分かってきたじゃないかと感心されたよ。
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