戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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第二章 ルートⅡ

第20話 勇者の暗号

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 議論の末、アオイの提案通りこの機会にストレッチ王国を追い込む方向となった。

 最善なのは襲撃犯を説得して三人で向こう側の王宮に強襲し、国を解体する事。

 それが無理なら、襲撃犯を俺達が止めてから向こうの王宮に強襲する。

 どちらも不可能であった場合は襲撃犯を止めて俺達は国に戻り、ストレッチ王国側が国土を割譲してくれるのを待つ。

 お偉方からは、不幸な出来事ではあるが襲撃犯の行いでストレッチ王国側がかなりのダメージを受けている事もあり、襲撃犯が言う事を聞いてくれないなら止めるだけに留めて無理せず戻ってきても良いとの事。

 アオイには皆甘いと言われたが、アオイの世界では歴史上虐殺なんてそれ程珍しい事ではなかったようだ。


「王よ。レイベルト伯爵とその妻アオイがストレッチ王国襲撃犯を止めに向かいたいと思います。」

「うむ。頼んだぞ。他国民とはいえ虐殺は止めなければならん。」


 王の言う通りだ。他国民かもしれんが、同じ人間なんだ。

 決して虐殺なんて行われるべきじゃない。

 それを許せば、結局ストレッチ王国と俺達が同じになってしまう。


「はい。その前に対策として、伝説の勇者についての記録や装備なんかは残っていないのでしょうか? 先祖返りの話を聞くに、かなり強力な魔法が使えるようですので。」

「装備と謎の暗号文書があるぞ。」


 装備はわかるが……暗号?

 勇者サクラの奥義でも書かれているのだろうか。


「一応お主らにも見せておこう。難解過ぎて学者達が匙を投げた代物じゃ。」


 俺達は宝物庫に案内され、伝説の勇者サクラが残したとされる暗号文書を見せてもらった。

 恐らく四、五種類の文字が複合的に使われていると推測される非常に難解な暗号であった為、今まで解読を試みた学者が完全に匙を投げてしまったらしい。


「へぇー? どれどれ……って日本語じゃん。」

「そういう名前の暗号なのか?」

「違う違う。私は日本っていう国から来たんだけど、日本の言葉で書かれた文書って事。」

「だから日本語……か。ふむ。文字が分からんのもそうだが、文字の種類が違うものが混じって意味不明だな。アオイは日常的に暗号のような文字を使ってやり取りしていたのか?」

「うーん。まぁ日本語は難しいって聞いた事があるし、知らない人が見たらそう見えるのかな? 四、五種類って事だから……平仮名、片仮名、漢字、アラビア数字、後は多分アルファベットを言っているんだと思う。」

「暗号と変わらないだろ。」


 間違いなく暗号だぞ。

 なんて不便な言語なんだ。


「一応、普通の言語なんだけどなぁ。ま、今から読んであげるからさ!」

「伝説の勇者が残した文書か……」


 正直、興味がある。


「えっと……結構丸っこい字で書いてるなぁ……。」








 そうしてアオイが暗号を読み解いている間、伝説の勇者が残したとされる装備を身に付けてみた。

 王が言うには、魔法の威力が向上するらしいと伝わっているのだが、どうにも変化があるようには感じられない。

 名前は“ネコミミカッチョシャン”と“アキバさんが作ったお土産の冥土服”というらしい。

 アキバさんって誰だよ。


「後で勇者アオイにも試して貰うと良い。」

「はい。勇者ならば効果があるのかもしれません。」

「しかし……お主、全く似合っとらんな。」


 ほっとけ。


「恐らくはサイズが合わないのかと。」

「問題はそこじゃないと思うがの。」


 その後も王に宝物庫を案内されながらあれやこれやらの説明を聞き、役に立ちそうな物がないか探してみたが、特に戦闘で役立ちそうな物は置かれていなかった。

 そうしてある程度時間が過ぎた頃、アオイが暗号文書を全て読み終えたようだ。


「先ず、この暗号と言われた文書は勇者桜の日記だね。日記の割に物語っぽく書かれていたから少し読むのに時間が掛かったけど……。」


 アオイの説明によると……

 勇者サクラは莫大な魔力の保持者であり、自分の世界由来の呪文を唱えて超常の存在を召喚出来たそうだ。

 ソレによって『さぐぬtヴぃらヴんみr』という謎の世界と繋がってしまい、精神を侵食されたらしい。

 更にはソレの召喚の副産物として、相手を殺す事でほんのわずかに力が増えるのだという。

 また、勇者サクラは固有能力として時折選択肢が出現し、死んでもその地点からやり直しが可能であり、その際には記憶と一部能力が引き継がれ、精神への侵食も解除されるそうだ。


「とんでもない能力だな。間違いなく最強の勇者だ。」


 やり直しが出来るなんて反則が過ぎる。

 敵に回したら勝ち目などない。


「最終的には選択肢が出現していない地点にまで戻る事が出来る程能力が進化したみたいだね。」

「もはや神の領域だ。」

「でも、勇者桜の子や孫は黒い目と魔力こそ受け継いだけど、固有能力は一切発現しなかったって書いてある。」


 そんなもの受け継がれてたまるか。


「先祖返りの襲撃犯が固有能力を持っていたらマズいぞ。」

「大丈夫だと思うよ。いくら先祖返りって言っても、直の子供でさえ引き継がれなかった能力なんて400年後の子孫には発現しないでしょ。」

「それは分からないぞ?」


 少し楽観的過ぎやしないか。


「襲撃犯が勇者桜の生まれ変わりとかだったら分からないけどね。」

「生まれ変わりなんてあるのか?」

「さぁ?」


 さぁって……。


「ただ、そんな能力を持っているんだったら、先祖返りしてしまう程の怒りや悲しみを経験する前に戻れば良いだけさ。それが出来ていないという事は、能力を持っていないって事。」


 アオイは楽観視しているが、俺は妙な胸騒ぎを覚えた。

 本当に襲撃犯は固有能力を発現していないと言えるのか?

 あくまで先祖返りなのだから、半端な形で能力を発現しているという事はないのか?

 だが、あるかないかも分からない能力を恐れて救援に向かわないというのも……


「なーに難しい顔してんの。私達英勇夫婦に勝てる奴なんていないって。あれ程の死線をくぐり抜けたってのに、レイベルトったら謙虚なんだから。」

「慎重になるのは悪い事じゃないさ。」

「英雄レイベルトは案外慎重派なんじゃな。勇者アオイよ。戻って来たら勇者サクラの暗号文書を儂らにも分かるよう翻訳してくれんかの?」

「任せて下さい! 暗号でも襲撃犯でもお任せあれ。」

「はっはっは。頼もしいのう。英雄も少しは見習わんとな。」

「は、はぁ……。」


 なんとなく、本当になんとなくだが……

 嫌な予感がする。
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