戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

文字の大きさ
44 / 128
第二章 ルートⅢ

第21話 彼女の事情

しおりを挟む
「レイベルト!」


 ん?


「やっと見つけたよぉ……じゃなかった。ただいまよりアオイ以下騎士一名と兵三名、レイベルト伯爵の指揮下に入ります!」

「よし。つい先ほどストレッチ王国の刺客と思わしき者複数から襲撃を受けた。ここに倒れている奴らがそうだ。背後関係を洗う為、生きている者も死んでいる者も王都へ運ぶぞ。」

「持ってきたわ!」


 は?

 エイミーが縄を抱えて立っている。

 まさか……


「一人で行ったのか?」

「うん。家はすぐそこだし。早い方が良いでしょ?」


 たった今襲われたばかりだというのに何を……いや、少なくとも騎士以上に強いようなのでそう易々とやられはしないだろう。

 だが、一応注意だけはしておくか。


「……危険だから単独行動するのはよせ。あー……本任務の保護対象が縄を持ってきたのでこれで生きている奴は縛れ。誰か街の警備兵がいる詰所に行き馬車を借りてきてくれ。」

「「「「「は!」」」」」








 俺達は周囲を警戒して待機し、更なる襲撃を受ける事なく無事に借りてきた馬車二台と合流。ついでに追加の人員も借りる事が出来た。

 これで一安心、か……。


「あー、一応紹介しておく。この人は勇者アオイ。」

「ど、どうも……。」


 アオイが非常に気まずげな顔で会釈をする。

 恐らく彼女はエイミーの境遇に同情し、後先考えず勢いで助けるなんて言ったのだろう。

 この馬車には俺、アオイ、エイミーの三人が乗り、なんとも言えない空気が流れている。


「で、こっちがエイミーだ。」

「は、初めまして……。」


 エイミーも目を伏せ気まずそうな顔で挨拶をする。


「「「……。」」」


 色々と話さなければならない事はある。

 エイミーが裏切ったのではないと分かった今、俺と彼女はどうするのかについて、それらも含めたアオイとの話し合い、スパイが発覚した経緯などだ。

 無我夢中で助けに来たまでは良いが、その後の事を何も考えていなかった。

 また、傷ついたであろう彼女に対しどう向き合って良いくか……。


「あー……エイミーはどうして縄なんてたくさん持ってたんだ?」


 馬鹿か俺は!

 何で世間話なんて……いや、ここから会話を広げて、少しずつでも以前のような空気を感じてもらえれば……


「私は今酒場で働いてるんだけど……それだけじゃやっていけなくて、両親に内職の仕事を貰ってきて縄を編ませてるの。」


 そこまで生活が困窮しているのか。

 格好を見て大変だったろうと思ってはいたが、俺は分かった気になっていただけだった。


「そう、だったのか。おじさんとおばさんは元気……なのか?」

「毎日元気に働いてるよ。時々逃げ出そうとするから縛るのにも使えて便利なの。」

「ん?」


 縛る? 聞き間違い、だよな……?

 エイミーは頬を膨らませ、やや拗ねたような顔をしている。

 物騒な事を言う表情には見えない。多分俺が聞き間違えたんだろう。


「私、レイベルトの事は恨んでない。でも、モネーノ家とロカネ家の事は……正直恨んでる。あいつらを殺してやろうかって……頭を過ぎったの。結局、出来なかったけどね。」


 無理もない。

 俺だって当初は激しい怒りを感じていたのだから。


「そう考えてしまうのも仕方ない……と思う。」


 自嘲気味に笑う彼女の顔を見ると胸が締め付けられる。


「……言い難いだろう事を聞いてしまうんだけどさ。エイミーさんの手紙に書かれていた事は本当なんだよね?」

「えっと、はい。」

「薬とか暗示も……」

「はい……。最初は自分でも知りませんでしたが、スパイを殴って吐かせたのでそうだと思います。」


 アオイが聞き難い事を聞いてくれた。

 この場面で聞くのもどうかと思ったが、俺だと多分切り出せなかったように思う。

 正直、俺は聞くかどうかも躊躇していたのだ。


「やっぱり手紙に書いてあった通りエイミーさんが裏切ったわけじゃなかっ……」

「「殴って?!」」


 スパイを殴って情報を吐かせていたのか。

 どうしてエイミーの手紙に突然スパイの話が出てくるのかとは思っていたが、そういう事か。

 信じ難いが、今のエイミーなら殴って相手を脅す事も可能だろう。


「アオイ、エイミーの言う事は恐らく本当だ。さっきの襲撃も七人のうち三人はエイミーが直接片付けた。」

「へぇ……強いだなんて聞いてないっていうか……それなら戦争に参加してくれても……」

「ごめんなさい。強くなったのはつい先日の事でして、前までは少し護身が出来る程度の娘でしかなかったんです。」

「あ、責めてるわけじゃ……え? つい先日?」

「はい。つい先日急に強くなりました。」

「急に?? そんな事、ある?」


 アオイが戸惑うのも無理はない。

 人が急に強くなるなどあり得ないのだ。普通ならば剣術なり魔法なりを訓練して、少しずつ強くなっていくものなんだからな。


「聞けば冗談みたいな話なんだがアオイ、エイミーの目を見てみろ。」

「うん? それで何が分かるの?」

「良いから。見てみろって。」


 俺が何を言いたいのか分かっていないながらも、エイミーの目をじっと見つめるアオイ。


「どれどれ……? 別に普通じゃん。いきなり婚約者の可愛さを自慢する男ってやーよねー。」

「ぷっ。」


 おいエイミー。噴き出すのは酷くないか?

 まぁ、少しでも笑顔が見られるのは良い傾向か。彼女の警戒心というか、緊張が少し解けたように見える。

 冗談を言ってくれているのも、エイミーを気遣っての事だろう。

 アオイには感謝しないとな。


「いや、そうじゃなくて。エイミーの目の色だよ、黒いだろ?」

「黒いからなんなのさ。」


 あぁそうか。

 アオイの住んでいた所では黒い目など珍しくもないから気が付かないのか。


「エイミー。目の色は戻せるんだろ? 最初会った時は普通の色だったもんな。」

「うん。」


 俺が声を掛けると、エイミーの目は薄い青へと変化する。

 こうして直接その様子を見ても未だに信じられない。


「凄い。色が変わった。これってどういう事なの?」

「黒い目ってのは勇者の特徴なんだ。つまり、エイミーは勇者の子孫であり、その特性とか能力というものを先祖返りとして発現したんだろう。過去に王家で一度だけ先祖返りの事例は確認されている。」

「成る程ね。エイミーさんは伝説の勇者の子孫だったわけか。でも何で急に?」

「俺も詳しい事は聞いてなかったな。何故目の色が変化するようになったんだ?」


 エイミーは少し目を閉じ、何かを考えているようだった。

 そして、ゆっくりと話始める。


「……多分きっかけは怒りとか悲しみとか、そんな感情なんだと思う。」


 エイミーは元婚約相手の商会に呼び出された。

 行ってみると、実は騎士家簒奪の為に両家に金を積んで俺達の婚約を解消させ、薬の使用や暗示までエイミーに掛けていた事を暴露し、体を許した事をなじられ、嘲笑されたのだという。

 怒りに任せてその場にいた者達を殴り潰し、運よく生き残った元婚約者が命乞いにスパイであると自ら情報を吐き、今回の件が発覚。

 その後、色々あって両親に怒りを向けた際に瞳の色が黒くなった事を指摘されて気付いたのだそうだ。


「何て卑劣な……でも、そいつを捕まえれば……」

「ごめんなさい! 私、私は……許せなくて……その人を殺して、しまいました。」


 消え入りそうな声で謝る彼女を見ると、本当に辛い思いをさせてしまったのだと我ながら情けなくなってくる。

 そして同時に、かつてない程のない怒りがこみ上げてきた。


「気にする必要はない。どの道そいつが生き残る目は無かっただろうさ。仮にエイミーが情けをかけてそいつを逃がしたとしても、俺が絶対に見つけ出してこの手で殺していただろう。」

「レ、レイベルト……。」


 むしろこの手で殺してやれないのが残念なくらいだ。


「俺は、エイミーをこんな目に遭わせてくれた隣国を許せない……。」

「同感だね。私だってこんな非道な事をする国なんて放置しておきたくないよ。」


 アオイ……。


「今回、エイミーさんのお蔭で手紙から芋づる式に他のスパイも見つけ出す事は可能だと思う。国内が落ち着けば……。」

「あぁ……。じっくり反撃の準備を整え、礼をしに行かないとな。」


 なにが休戦条約だ。

 そんなもの……クソ食らえだ!

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...