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第二章 ルートⅢ
第21話 彼女の事情
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「レイベルト!」
ん?
「やっと見つけたよぉ……じゃなかった。ただいまよりアオイ以下騎士一名と兵三名、レイベルト伯爵の指揮下に入ります!」
「よし。つい先ほどストレッチ王国の刺客と思わしき者複数から襲撃を受けた。ここに倒れている奴らがそうだ。背後関係を洗う為、生きている者も死んでいる者も王都へ運ぶぞ。」
「持ってきたわ!」
は?
エイミーが縄を抱えて立っている。
まさか……
「一人で行ったのか?」
「うん。家はすぐそこだし。早い方が良いでしょ?」
たった今襲われたばかりだというのに何を……いや、少なくとも騎士以上に強いようなのでそう易々とやられはしないだろう。
だが、一応注意だけはしておくか。
「……危険だから単独行動するのはよせ。あー……本任務の保護対象が縄を持ってきたのでこれで生きている奴は縛れ。誰か街の警備兵がいる詰所に行き馬車を借りてきてくれ。」
「「「「「は!」」」」」
俺達は周囲を警戒して待機し、更なる襲撃を受ける事なく無事に借りてきた馬車二台と合流。ついでに追加の人員も借りる事が出来た。
これで一安心、か……。
「あー、一応紹介しておく。この人は勇者アオイ。」
「ど、どうも……。」
アオイが非常に気まずげな顔で会釈をする。
恐らく彼女はエイミーの境遇に同情し、後先考えず勢いで助けるなんて言ったのだろう。
この馬車には俺、アオイ、エイミーの三人が乗り、なんとも言えない空気が流れている。
「で、こっちがエイミーだ。」
「は、初めまして……。」
エイミーも目を伏せ気まずそうな顔で挨拶をする。
「「「……。」」」
色々と話さなければならない事はある。
エイミーが裏切ったのではないと分かった今、俺と彼女はどうするのかについて、それらも含めたアオイとの話し合い、スパイが発覚した経緯などだ。
無我夢中で助けに来たまでは良いが、その後の事を何も考えていなかった。
また、傷ついたであろう彼女に対しどう向き合って良いくか……。
「あー……エイミーはどうして縄なんてたくさん持ってたんだ?」
馬鹿か俺は!
何で世間話なんて……いや、ここから会話を広げて、少しずつでも以前のような空気を感じてもらえれば……
「私は今酒場で働いてるんだけど……それだけじゃやっていけなくて、両親に内職の仕事を貰ってきて縄を編ませてるの。」
そこまで生活が困窮しているのか。
格好を見て大変だったろうと思ってはいたが、俺は分かった気になっていただけだった。
「そう、だったのか。おじさんとおばさんは元気……なのか?」
「毎日元気に働いてるよ。時々逃げ出そうとするから縛るのにも使えて便利なの。」
「ん?」
縛る? 聞き間違い、だよな……?
エイミーは頬を膨らませ、やや拗ねたような顔をしている。
物騒な事を言う表情には見えない。多分俺が聞き間違えたんだろう。
「私、レイベルトの事は恨んでない。でも、モネーノ家とロカネ家の事は……正直恨んでる。あいつらを殺してやろうかって……頭を過ぎったの。結局、出来なかったけどね。」
無理もない。
俺だって当初は激しい怒りを感じていたのだから。
「そう考えてしまうのも仕方ない……と思う。」
自嘲気味に笑う彼女の顔を見ると胸が締め付けられる。
「……言い難いだろう事を聞いてしまうんだけどさ。エイミーさんの手紙に書かれていた事は本当なんだよね?」
「えっと、はい。」
「薬とか暗示も……」
「はい……。最初は自分でも知りませんでしたが、スパイを殴って吐かせたのでそうだと思います。」
アオイが聞き難い事を聞いてくれた。
この場面で聞くのもどうかと思ったが、俺だと多分切り出せなかったように思う。
正直、俺は聞くかどうかも躊躇していたのだ。
「やっぱり手紙に書いてあった通りエイミーさんが裏切ったわけじゃなかっ……」
「「殴って?!」」
スパイを殴って情報を吐かせていたのか。
どうしてエイミーの手紙に突然スパイの話が出てくるのかとは思っていたが、そういう事か。
信じ難いが、今のエイミーなら殴って相手を脅す事も可能だろう。
「アオイ、エイミーの言う事は恐らく本当だ。さっきの襲撃も七人のうち三人はエイミーが直接片付けた。」
「へぇ……強いだなんて聞いてないっていうか……それなら戦争に参加してくれても……」
「ごめんなさい。強くなったのはつい先日の事でして、前までは少し護身が出来る程度の娘でしかなかったんです。」
「あ、責めてるわけじゃ……え? つい先日?」
「はい。つい先日急に強くなりました。」
「急に?? そんな事、ある?」
アオイが戸惑うのも無理はない。
人が急に強くなるなどあり得ないのだ。普通ならば剣術なり魔法なりを訓練して、少しずつ強くなっていくものなんだからな。
「聞けば冗談みたいな話なんだがアオイ、エイミーの目を見てみろ。」
「うん? それで何が分かるの?」
「良いから。見てみろって。」
俺が何を言いたいのか分かっていないながらも、エイミーの目をじっと見つめるアオイ。
「どれどれ……? 別に普通じゃん。いきなり婚約者の可愛さを自慢する男ってやーよねー。」
「ぷっ。」
おいエイミー。噴き出すのは酷くないか?
まぁ、少しでも笑顔が見られるのは良い傾向か。彼女の警戒心というか、緊張が少し解けたように見える。
冗談を言ってくれているのも、エイミーを気遣っての事だろう。
アオイには感謝しないとな。
「いや、そうじゃなくて。エイミーの目の色だよ、黒いだろ?」
「黒いからなんなのさ。」
あぁそうか。
アオイの住んでいた所では黒い目など珍しくもないから気が付かないのか。
「エイミー。目の色は戻せるんだろ? 最初会った時は普通の色だったもんな。」
「うん。」
俺が声を掛けると、エイミーの目は薄い青へと変化する。
こうして直接その様子を見ても未だに信じられない。
「凄い。色が変わった。これってどういう事なの?」
「黒い目ってのは勇者の特徴なんだ。つまり、エイミーは勇者の子孫であり、その特性とか能力というものを先祖返りとして発現したんだろう。過去に王家で一度だけ先祖返りの事例は確認されている。」
「成る程ね。エイミーさんは伝説の勇者の子孫だったわけか。でも何で急に?」
「俺も詳しい事は聞いてなかったな。何故目の色が変化するようになったんだ?」
エイミーは少し目を閉じ、何かを考えているようだった。
そして、ゆっくりと話始める。
「……多分きっかけは怒りとか悲しみとか、そんな感情なんだと思う。」
エイミーは元婚約相手の商会に呼び出された。
行ってみると、実は騎士家簒奪の為に両家に金を積んで俺達の婚約を解消させ、薬の使用や暗示までエイミーに掛けていた事を暴露し、体を許した事をなじられ、嘲笑されたのだという。
怒りに任せてその場にいた者達を殴り潰し、運よく生き残った元婚約者が命乞いにスパイであると自ら情報を吐き、今回の件が発覚。
その後、色々あって両親に怒りを向けた際に瞳の色が黒くなった事を指摘されて気付いたのだそうだ。
「何て卑劣な……でも、そいつを捕まえれば……」
「ごめんなさい! 私、私は……許せなくて……その人を殺して、しまいました。」
消え入りそうな声で謝る彼女を見ると、本当に辛い思いをさせてしまったのだと我ながら情けなくなってくる。
そして同時に、かつてない程のない怒りがこみ上げてきた。
「気にする必要はない。どの道そいつが生き残る目は無かっただろうさ。仮にエイミーが情けをかけてそいつを逃がしたとしても、俺が絶対に見つけ出してこの手で殺していただろう。」
「レ、レイベルト……。」
むしろこの手で殺してやれないのが残念なくらいだ。
「俺は、エイミーをこんな目に遭わせてくれた隣国を許せない……。」
「同感だね。私だってこんな非道な事をする国なんて放置しておきたくないよ。」
アオイ……。
「今回、エイミーさんのお蔭で手紙から芋づる式に他のスパイも見つけ出す事は可能だと思う。国内が落ち着けば……。」
「あぁ……。じっくり反撃の準備を整え、礼をしに行かないとな。」
なにが休戦条約だ。
そんなもの……クソ食らえだ!
ん?
「やっと見つけたよぉ……じゃなかった。ただいまよりアオイ以下騎士一名と兵三名、レイベルト伯爵の指揮下に入ります!」
「よし。つい先ほどストレッチ王国の刺客と思わしき者複数から襲撃を受けた。ここに倒れている奴らがそうだ。背後関係を洗う為、生きている者も死んでいる者も王都へ運ぶぞ。」
「持ってきたわ!」
は?
エイミーが縄を抱えて立っている。
まさか……
「一人で行ったのか?」
「うん。家はすぐそこだし。早い方が良いでしょ?」
たった今襲われたばかりだというのに何を……いや、少なくとも騎士以上に強いようなのでそう易々とやられはしないだろう。
だが、一応注意だけはしておくか。
「……危険だから単独行動するのはよせ。あー……本任務の保護対象が縄を持ってきたのでこれで生きている奴は縛れ。誰か街の警備兵がいる詰所に行き馬車を借りてきてくれ。」
「「「「「は!」」」」」
俺達は周囲を警戒して待機し、更なる襲撃を受ける事なく無事に借りてきた馬車二台と合流。ついでに追加の人員も借りる事が出来た。
これで一安心、か……。
「あー、一応紹介しておく。この人は勇者アオイ。」
「ど、どうも……。」
アオイが非常に気まずげな顔で会釈をする。
恐らく彼女はエイミーの境遇に同情し、後先考えず勢いで助けるなんて言ったのだろう。
この馬車には俺、アオイ、エイミーの三人が乗り、なんとも言えない空気が流れている。
「で、こっちがエイミーだ。」
「は、初めまして……。」
エイミーも目を伏せ気まずそうな顔で挨拶をする。
「「「……。」」」
色々と話さなければならない事はある。
エイミーが裏切ったのではないと分かった今、俺と彼女はどうするのかについて、それらも含めたアオイとの話し合い、スパイが発覚した経緯などだ。
無我夢中で助けに来たまでは良いが、その後の事を何も考えていなかった。
また、傷ついたであろう彼女に対しどう向き合って良いくか……。
「あー……エイミーはどうして縄なんてたくさん持ってたんだ?」
馬鹿か俺は!
何で世間話なんて……いや、ここから会話を広げて、少しずつでも以前のような空気を感じてもらえれば……
「私は今酒場で働いてるんだけど……それだけじゃやっていけなくて、両親に内職の仕事を貰ってきて縄を編ませてるの。」
そこまで生活が困窮しているのか。
格好を見て大変だったろうと思ってはいたが、俺は分かった気になっていただけだった。
「そう、だったのか。おじさんとおばさんは元気……なのか?」
「毎日元気に働いてるよ。時々逃げ出そうとするから縛るのにも使えて便利なの。」
「ん?」
縛る? 聞き間違い、だよな……?
エイミーは頬を膨らませ、やや拗ねたような顔をしている。
物騒な事を言う表情には見えない。多分俺が聞き間違えたんだろう。
「私、レイベルトの事は恨んでない。でも、モネーノ家とロカネ家の事は……正直恨んでる。あいつらを殺してやろうかって……頭を過ぎったの。結局、出来なかったけどね。」
無理もない。
俺だって当初は激しい怒りを感じていたのだから。
「そう考えてしまうのも仕方ない……と思う。」
自嘲気味に笑う彼女の顔を見ると胸が締め付けられる。
「……言い難いだろう事を聞いてしまうんだけどさ。エイミーさんの手紙に書かれていた事は本当なんだよね?」
「えっと、はい。」
「薬とか暗示も……」
「はい……。最初は自分でも知りませんでしたが、スパイを殴って吐かせたのでそうだと思います。」
アオイが聞き難い事を聞いてくれた。
この場面で聞くのもどうかと思ったが、俺だと多分切り出せなかったように思う。
正直、俺は聞くかどうかも躊躇していたのだ。
「やっぱり手紙に書いてあった通りエイミーさんが裏切ったわけじゃなかっ……」
「「殴って?!」」
スパイを殴って情報を吐かせていたのか。
どうしてエイミーの手紙に突然スパイの話が出てくるのかとは思っていたが、そういう事か。
信じ難いが、今のエイミーなら殴って相手を脅す事も可能だろう。
「アオイ、エイミーの言う事は恐らく本当だ。さっきの襲撃も七人のうち三人はエイミーが直接片付けた。」
「へぇ……強いだなんて聞いてないっていうか……それなら戦争に参加してくれても……」
「ごめんなさい。強くなったのはつい先日の事でして、前までは少し護身が出来る程度の娘でしかなかったんです。」
「あ、責めてるわけじゃ……え? つい先日?」
「はい。つい先日急に強くなりました。」
「急に?? そんな事、ある?」
アオイが戸惑うのも無理はない。
人が急に強くなるなどあり得ないのだ。普通ならば剣術なり魔法なりを訓練して、少しずつ強くなっていくものなんだからな。
「聞けば冗談みたいな話なんだがアオイ、エイミーの目を見てみろ。」
「うん? それで何が分かるの?」
「良いから。見てみろって。」
俺が何を言いたいのか分かっていないながらも、エイミーの目をじっと見つめるアオイ。
「どれどれ……? 別に普通じゃん。いきなり婚約者の可愛さを自慢する男ってやーよねー。」
「ぷっ。」
おいエイミー。噴き出すのは酷くないか?
まぁ、少しでも笑顔が見られるのは良い傾向か。彼女の警戒心というか、緊張が少し解けたように見える。
冗談を言ってくれているのも、エイミーを気遣っての事だろう。
アオイには感謝しないとな。
「いや、そうじゃなくて。エイミーの目の色だよ、黒いだろ?」
「黒いからなんなのさ。」
あぁそうか。
アオイの住んでいた所では黒い目など珍しくもないから気が付かないのか。
「エイミー。目の色は戻せるんだろ? 最初会った時は普通の色だったもんな。」
「うん。」
俺が声を掛けると、エイミーの目は薄い青へと変化する。
こうして直接その様子を見ても未だに信じられない。
「凄い。色が変わった。これってどういう事なの?」
「黒い目ってのは勇者の特徴なんだ。つまり、エイミーは勇者の子孫であり、その特性とか能力というものを先祖返りとして発現したんだろう。過去に王家で一度だけ先祖返りの事例は確認されている。」
「成る程ね。エイミーさんは伝説の勇者の子孫だったわけか。でも何で急に?」
「俺も詳しい事は聞いてなかったな。何故目の色が変化するようになったんだ?」
エイミーは少し目を閉じ、何かを考えているようだった。
そして、ゆっくりと話始める。
「……多分きっかけは怒りとか悲しみとか、そんな感情なんだと思う。」
エイミーは元婚約相手の商会に呼び出された。
行ってみると、実は騎士家簒奪の為に両家に金を積んで俺達の婚約を解消させ、薬の使用や暗示までエイミーに掛けていた事を暴露し、体を許した事をなじられ、嘲笑されたのだという。
怒りに任せてその場にいた者達を殴り潰し、運よく生き残った元婚約者が命乞いにスパイであると自ら情報を吐き、今回の件が発覚。
その後、色々あって両親に怒りを向けた際に瞳の色が黒くなった事を指摘されて気付いたのだそうだ。
「何て卑劣な……でも、そいつを捕まえれば……」
「ごめんなさい! 私、私は……許せなくて……その人を殺して、しまいました。」
消え入りそうな声で謝る彼女を見ると、本当に辛い思いをさせてしまったのだと我ながら情けなくなってくる。
そして同時に、かつてない程のない怒りがこみ上げてきた。
「気にする必要はない。どの道そいつが生き残る目は無かっただろうさ。仮にエイミーが情けをかけてそいつを逃がしたとしても、俺が絶対に見つけ出してこの手で殺していただろう。」
「レ、レイベルト……。」
むしろこの手で殺してやれないのが残念なくらいだ。
「俺は、エイミーをこんな目に遭わせてくれた隣国を許せない……。」
「同感だね。私だってこんな非道な事をする国なんて放置しておきたくないよ。」
アオイ……。
「今回、エイミーさんのお蔭で手紙から芋づる式に他のスパイも見つけ出す事は可能だと思う。国内が落ち着けば……。」
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