戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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最終章 幸せな日々

番外編 第5話 恋は勘違い

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「レ・イ・ア・君っ!」

「サクラ姉さん。どうかした?」


 弟レイアの為、お母さんのような年増には惑わされないよう私が若い娘の良さを教えてあげなきゃ。

 絶対にお母さんの魔の手から弟を救い出して見せる!


「お姉さんとデートでもいかが?」

「サクラ姉さんとデート…………。」


 少しだけ顔を赤らめて呟く様子から察するに気乗りしない、興味ない、という風には見えない。

 あれ? まんざらでもない?

 まぁ、私はお母さんにそっくりだからか。

 だけど、巷では超絶モテモテのサクラお姉さんを代用品扱いとは良い度胸じゃない。絶対に私の良さを分からせてやる。


「丁度いいかも……いつが良い!?」


 うわっ。予想外の食いつきの良さ。

 そこまでお母さんを……?

 きっとお母さんとデートする時の予行練習だと思ってるのね。でも、そうはいかない。

 この機会を利用してサクラお姉さんに恋させてやるんだから!
※目的が違います

















「レイア君。サクラ、お腹空いたなぁ。」


 私はレイアと腕を組み、街へとお出掛けしていた。

 勿論、一人称を自分の名前にするのも忘れない。

 デート中は可愛くおねだりが基本だって、最近流行っている恋愛本に書いていた。


「う、うん。じゃあ一狩り行く?」


 なんでやねん。

 デート中に獲物を狩る男なんて聞いたこともないって。

 しかも大公家の嫡男には狩りなんて必要ないでしょうが。

 でも恋愛本には男を立てろって書いてたから、やんわり誘導しよう。


「それよりもぉ。サクラはお菓子が食べたいっていうかぁ……。」

「そ、そっか。だったら話題のお菓子屋さんに行ってみようか。後その……色々当たってるからもう少し離れた方が。」


 当ててんのよ。

 碧ママが言うには、お母さんの胸はBカップで私はCカップというらしい。

 お母さんより一段階上の実力を思い知るが良いわ。

 ちなみに碧ママは私よりも巨大だった。何がとは言わないけど。


「レイア君ったら照れないで? ほらほら行くよ。」

「柔らかぁ……。」


 この子、なんてだらしない顔をするのかしら。

 もう私に落ちてない? 大丈夫?




 私はだらしない顔をした弟を連れ、今流行のお菓子屋さん『菓子野郎』の店内に入った。

 乱暴な店名とは裏腹に、店内は明るくスッキリとした印象の居心地が良い作りになっている。

 有名な商品はいくつかあるけど、その中でも良く話題にあがる『ただただ白いだけの恋人』と『ゴリ丸のチョコレート』を注文して席に着く。


「最近調子はどお?」

「調子? 突然そんな事聞かれても……。」


 確かに。


「えっと。悩みとかないのかなって。」

「悩み? 悩み…………うん。」


 あらら。考え込んじゃった。


「もしかして悩み、あるの?」

「い、一応……。」


 結構素直ね。

 誤魔化されると思ってたんだけど。


「どんな悩みなのか聞いても良い?」

「まぁ……元々言うつもりだったし。」

「だったら遠慮しないでお姉さんに聞かせて。」

「分かったよ。あのさ…………。」


 まだ子供だと思ってたけど、真剣な顔がお父さんにそっくりで結構格好良い。

 ま、前回の私の旦那様程じゃないけどね。


「エイミーママを見ると動悸がするんだ。」


 やっぱり恋なの?

 やばい。どうしよう。


「き、気のせいじゃないかな。」

「気のせいじゃない。なんかこう……胸が締め付けられるというか。」


 あぁ……これはどうにもならない。

 恋だ。青春だ。若さ故の過ちだ。


「見てると背筋がゾクゾクするんだ。」


 はい?


「妙な冷や汗が出る時もある。」


 ん? 恋ってそんな感じだったっけ?


「まるでさ、子供の頃目にした肉食獣を目の前にしたような気分になるんだ。」


 肉食獣…………。

 お母さんはお父さんに対して肉食獣になるけど、多分そういう意味じゃないわよね。

 生き物としての存在レベルが違い過ぎて、恐怖の感情が湧きたつって事かな。


「エイミーママって実は相当強いんじゃないか?」

「突然どうしたの?」

「いや、だからさ。エイミーママって実は強いのかなって。」

「強いよ。多分、世界最強じゃないかな。」


 神の力を継承した人間を倒せる存在がいるとも思えない。

 今は封印状態ではあるけど。


「でも、エイミーママは父さんや母さんと同じ部隊にいただけなんだろ? 戦ってるところなんて見た事ないぞ。」


 そう言えば、レイアとアーリィはお母さんの戦闘してるところを見た事がないかも。


「間違いなく強い。でも、それがどうかしたの?」

「あぁ。この前、母さんに叱られてぶっ飛ばされた時があったんだけど、エイミーママが抱きしめてくれて、その時に感じたんだ。」

「何を?」


 何でぶっ飛ばされたのかは気になるけど、要はその時に恋をしちゃったって言いたいのね。


「まるで人間じゃないのかと思う程の魔力量。母さんの十倍や二十倍どころじゃないよな?」


 あれ?

 思ってた話と違う。


「そうだね。碧ママとは比較にならない魔力量だね。」

「やっぱりな。最近人の魔力を感じる事が出来るようになってきてさ。いや正確に言えば、自分より格上が相手だとピンとくるんだよ。あ、この人は俺より強いなって。」


 もしかして、勇者の血筋に発現する固有能力?

 以前、お母さんが言ってた。勇者には固有能力があると。

 お母さんにはやり直す能力が、碧ママには戦闘思考傍受コンバットインターセプションが固有能力として備わっている。


「ただ……いくらエイミーママが強かったとしても、あり得ないんだ。あんな魔力量は人間じゃ有り得ない。」

「レイアの言う通りだけど、結局何が言いたいのかしら?」


 続きを促すと、さも重大な何かがあると言わんばかりの顔つきで予想とは斜め上の発言が飛び出てきた。


「絶対に誰にも言わないで欲しいんだけど……エイミーママって実は人間じゃないのか?」


 あー……かつて倒した怪物の力を取り込んでいるので、純粋な人間とは言い難いかもしれない。


「い、一応人間だよ? その理屈で言うなら、私も人間じゃない事になるじゃない。」

「サクラ姉さんは人間だよ。なんとなく分かるんだ。でもエイミーママは…………。」


 何て言おうかな。

 思い詰めた顔をしているから、あんまり下手な事も言えないわ。


「俺はエイミーママが悪魔に乗っ取られてるんじゃないかって思ってる。だからサクラ姉さんにも協力して欲しいんだ。」

「協力?」

「あぁ。父さんと母さんには言えない。二人はエイミーママの事となると、理屈も何もあったものじゃないからな。そこでサクラ姉さんに協力を頼みたいんだ。」


 レイアに恋を諦めさせようと思ってただけなのに、どうしてこうなった?


「別に悪魔に乗っ取られたりとかは…………。」
「俺にとってはエイミーママだって大好きな母親なんだ! 悪魔から助け出してあげたい!」


 どうしよう。本当にどうしよう。

 レイアったら変な勘違いしてるじゃない。

 この状況、お母さんに恋してるよりも厄介だわ。


「俺と一緒にエイミーママを乗っ取っている悪魔を倒してくれ!」

「レイア……あのね? 別にお母さんは乗っ取られたりなんかはしてないよ?」

「そんな……。父さんと母さんだけじゃなく、サクラ姉さんまで悪魔に洗脳されてたなんて…………。」


 レイアの表情が一気に絶望へと傾いてしまった。

 このままだと、家族に変な溝が出来てしまう。


「違うのよ? そうじゃなくて、そのぉ……相手は悪魔じゃないの。」

「え? 悪魔じゃない? なら一体……。」


 どう誤魔化せば良いの?

 本当にどうしよう。


「えっと。お母さんはとある神を信仰していて、その神に魅入られているの。私も今まで倒す機会をうかがっていたのよ。」

「成る程! じゃあ俺達は協力出来るね!」


 あぁ……やっちゃった…………。


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