戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

文字の大きさ
92 / 128
最終章 幸せな日々

番外編 第25話 魔法訓練

しおりを挟む
 少し引き気味のカイル王子を余所に、今度は魔法の訓練が始まった。

 レイベルトが猛然と斬りかかり、シューメルちゃんは泣いて逃げながら距離を開けようと必死に魔法を撃っている。


「あの……魔法を斬っているようですが?」

「はい。あれはレイベルトにしか使えない技です。魔法の核を斬る事で魔法自体を消滅させてしまうのですが、今のところ誰にも再現出来ず、原理もまるで不明です。」

「神技、という事ですね。」


 まぁ、そうと言えない事もないわね。


「レイア殿の奥方の魔法も尋常ではない。あれ程の大魔法を恐るべき速度で連発している。あれはレイベルト殿のような相手と対峙した時に無理なく逃げる為の魔法訓練で合っているでしょうか?」

「はい。概ねその通りです。」


 魔法を斬れる奴なんて他にいないと思うけどね。


「更に付け加えるならシューメルの魔力が尽きた後、強制的に魔力を振り絞る訓練も兼ねていますね。時間が掛かるので今日はもう少しで終わらせますけど。」


 シューメルちゃんの魔力が尽きるまでとなれば、まだまだ時間が掛かる。

 それに、魔力切れの後に魔力を振り絞るのは多大な負担がかかり、とてもじゃないけど人様には見せられない顔になってしまうので、訓練風景を最後まで見せないのは賢明ね。


「成る程。私も……訓練すればあのように大魔法を連発出来るようになるのでしょうか?」

「訓練次第ではありますが可能です。ナガツキ大公家の兵は大して魔力の素養がなくとも大魔法十発くらいは撃てるようになりました。カイル王子程の素養があれば、魔法だけなら勇者級と言われる程度には仕上げてみせますよ?」


 碧ちゃんと私で魔法を訓練してあげれば出来そうね。

 宮廷魔法使いと魔法戦が出来るというだけあって、魔力量がアーリィと同程度にはある。

 カイル王子が魔法を撃ち続け、魔力切れになれば私が魔力を供給し、更にカイル王子が魔法を撃つ、という無限ループを実施したらそう時間は掛からないと思う。


「アーリィ殿を守るために私も頑張りたいと思います。」


 決意した顔で呟くカイル王子。

 あの訓練を見た後でやる気になるのは凄い。

 レイベルトったらもう少し軽めの訓練を見せてくれるのかと思ったけど、普段通りの訓練をするものだから、引かれたらどうしようと気が気じゃなかった。

 魔法に関してはまだ常識的と言えなくもない訓練だったから良かったわ。


「ママ。私も少しだけ魔法を練習したいです。」

「良いよ。風魔法はダメだけど。」

「私もたくさん魔法を撃ってみたいです。楽しそうです。」


 アーリィ? シューメルちゃんは泣きながら魔法撃ってるけど、本当に楽しそうに見えるの?


「アオイ殿。何故風魔法はダメなのですか?」

「アーリィは風魔法と相性が良すぎるからです。強い女の子は男性に遠ざけられますので、間違っても強くならないように親として禁止しています。」

「そうでしたか……。私はアーリィ殿が強くても気にしませんよ? こんなに可愛くいじらしい娘が多少強くとも問題はありません。むしろ私がアーリィ殿よりも強くなってみせます。」


 なんて男らしいのかしら。アーリィはこの人に巡り合えて幸せだわ。

 鍛えてしまえば多少なんて強さでは済まなくなってしまいそうなのが問題ね。


「カイル様は素敵です。私はカイル様と結婚しますので、風魔法も練習していいでしょ? お願いしますママ。」


 腕を組みうーんと頭を悩ませる碧ちゃん。

 今までもアーリィにだけは魔法の練習自体適当な言い訳をして引き延ばしてきたんだから、渋るのも分かるわ。

 この事実を言えば絶対に訓練しようと言い出すのが目に見えていたからこそ、レイベルトにだけは伝えてなかったけど。


「アオイ殿。私はアーリィ殿が強くても気になりません。ですから教えてあげても良いのでは?」

「それはアーリィが勇者級になったとしてもですか?」

「え?」

「普通に訓練するだけで勇者級に手が届いてしまいそうな娘ですが、本当に大丈夫ですか?」

「ははははは。大丈夫ですとも。アーリィ殿がそうなると言うならこのカイル、見事に勇者級にまで駆け上がってみせましょう!」


 うん。これは確定ね。

 アーリィの結婚相手はカイル王子で決まりだわ。アーリィも気に入ってるみたいだし。


「カイル王子がそこまで言うのでしたら……。アーリィ? あっちで練習しよっか。」

「はい!」


 なんて眩しい笑顔。

 余程魔法を練習したかったのね。


「せっかくなので、私もアーリィ殿の練習を見学します。」













 私達は練兵場の中央、普段親衛隊が訓練する場所へと来ていた。


「さて、アーリィはどんな魔法が使いたい?」

「ママが訓練する時に使っている竜巻を起こす魔法が良いです。」


 いきなり竜巻は難易度が高いわ。


「最初だから難しいと思うけど……ま、良いか。一度撃ってみるから、魔力の流れを良く見るんだよ?」

「はい!」


 碧ちゃんが手をかざすと、極小規模な威力を抑えた竜巻がその場に出現して周囲の土や砂を巻き上げていた。

 最初だから小さい威力で覚えるのは良いわね。


「流石はアオイ殿ですね。勇者の称号は伊達ではない。魔力操作が驚く程綺麗でした。」

「恐縮です。」


 カイル王子も魔力の流れが分かる人みたい。


「私もやってみます。カイル様も見てて下さいね。」

「はい。応援してますよ。」


 二人のやり取りのなんて微笑ましいこと。

 アーリィは真剣な顔つきになり手をかざす。すると本当に小規模で可愛らしい風がクルクルと地を這うように舞っていた。


「おお! アーリィ殿の魔法が成功している。」

「カイル様。これだとお掃除にしか使えないです。」


 あら。ちょっとしか威力が出ないからって落ち込んじゃったわね。


「これだけ難しい魔法を一度で成功させるのは凄い事ですよ。自信を持って下さい。」

「そうでしょうか?」

「はい。私も初めての魔法を一度で成功させるというのはそうそうありません。本当に素晴らしい才能をお持ちだ。」

「……もっと頑張ります!」


 カイル王子に褒められたのが余程嬉しかったのね。更にやる気を見せるアーリィはとても可愛らしい。

 でも私の見通しは甘かった。多分、碧ちゃんも同じことを思っているはず。

 アーリィが二度目に発動した時、竜巻は思いの外大きい威力で出現した。初心者が出す威力じゃない。

 三度目の発動では碧ちゃんがさっき加減した魔法と同規模だった。

 四度目、危ないからと言って少し遠くに発動された竜巻は付近に待機していたアーリィ親衛隊をゴミのように巻き上げ吹き飛ばし、屋敷の離れを半壊させた。

 もう完全にサクラが本気で発動した時と同レベルだ。


「……アーリィ? 後で親衛隊の皆に謝るんだよ?」

「はい。」


 碧ちゃんは現実逃避を始めてしまったみたいね。


「早く巻き込まれた人達を救助しないと!」


 カイル王子が焦って親衛隊を助けようと言い出した。

 まぁ、それが普通の反応よね。


「親衛隊はこの程度で死にませんのでご安心を。彼らは打たれ強いので、あの高さから落下しても死にません。あちらをご覧ください。」


 私が指さした方向には吹き飛ばされ地面に叩きつけられながらも、自らの足で元気に立ち上がる親衛隊員達の姿が…………。


「んなアホな。」


 王子は口をあんぐりと開け、元気な親衛隊達を見つめ続けるのだった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活

石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。 ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。 だから、ただ見せつけられても困るだけだった。 何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。 この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。 勿論ヒロインもチートはありません。 他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。 1~2話は何時もの使いまわし。 亀更新になるかも知れません。 他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...