戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ

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最終章 幸せな日々

番外編 第36話 ナガツキ家

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 アーリィ音速事件はナガツキ家に大きな影響を及ぼした。

 人が空を飛べる事を証明したのもそうだが、アーリィ親衛隊がアーリィを守るために必要だと言って空を飛ぶ訓練を始めだしたのだ。

 親衛隊は何度も地面に激突しては「まだまだ訓練が足りない。」と言って再び宙に飛び上がる事を繰り返していた。

 当然、それを知った他の親衛隊も訓練を始めた。

 俺も、アオイも、エイミーも、サクラも、レイアも……全員が飛ぶ訓練を始めた。

 シューメルとドゥエナリルは訓練を嫌がったので強制的に参加させている。




 あの事件から半月が経過した今、アオイとサクラは宙に浮いてゆっくりと移動する事が出来るようになっている。

 この二人は風魔法が得意だからだろう。

 俺とレイア、そして親衛隊の隊員たちは相変わらず飛び上がっては地面に激突する日々を過ごしている。このまま訓練を続ければいずれ……。

 シューメルは魔法の制御が甘い上に出力が強く、良くどこかに吹っ飛んでいる。以前、民家の屋根に突き刺さってしまい、アオイと一緒に頭を下げに行った。

 ドゥエナリルは何故か飛びもしないのに地面に激突する。これに関してはまるで意味が分からなかった。

 エイミーは飛ぶ事自体は出来るもののまだまだ制御が甘く、空から降りる際は地面に激突する。

 そしてアーリィはと言えば……最高マッハ3で飛ぶらしい。

 アオイが時々「疲れたからマッハで帰って来た。」と言う事があったので、恐らく相当速いと表現する言葉なのだろう。

 アーリィが最高速度で飛び始めると屋敷の窓ガラスが割れるという事が何度かあり、もっと高いところで遊びなさいとアオイが激怒していた。

 アオイが言うには戦闘機とも空中戦が出来るだろうとの事だ。

 勇者の世界にはアーリィのような速度で飛ぶ道具がいくつもあるという。なんと恐ろしい世界なのだろうか。

 いや、恐ろしい世界の道具と同じ速さで飛ぶアーリィが恐ろしいのか?


「レイベルト様。こちらの世界で言うところの勇者級というのは、さぐぬtヴぃらヴんみrの基準で魔力値が十万を超えた者をそう呼ぶのだと思います。準勇者級は三~五万前後でしょう。」

「成る程。」

「したがって、アーリィ様はその基準から言えば魔力値一万二千程しかなく、準勇者級にも届いていません。ですが……。」

「ああ。アーリィは魔法を使う際の無駄がほぼ無い。」

「そうです。私が見たところ、レイベルト様がおっしゃったようにアーリィ様は通常の魔法を使う際、僅か1%しか無駄が発生していません。つまり魔力値一万二千のアーリィ様は実質、魔力値が百万の存在と同等と言えるのだと思います。」


 ドゥエナリルは強くはないが、魔力を正確に測ったり見たりする事が得意なようで、アーリィの魔法について色々と教えてくれた。

 メメちゃんといい、ドゥエナリルといい、我が家のペットは凄くお利口さんだ。


「しかもですよ!」


 突然大きな声で手を広げて語り出すドゥエナリル。


「アーリィ様の風魔法はもっと恐ろしいのです!」

「どういう事だ?」

「いいですかレイベルト様。通常は百の魔力で一の魔法が発動します。殆どの魔力は無駄になっているのです。」

「ああ。俺もそう記憶している。」

「アーリィ様の風魔法は百の魔力で五百の魔法が発動しています。その際に一の魔力が無駄として排出されているのを同時に確認しています。」


 は?


「計算が合わないじゃないか。その四百はどこから来たんだ?」

「そうなんです! 百の魔力で百の魔法が発動するなら百歩譲って理解出来ます。ですが、百の魔力で五百の魔法が発動するなど常識破りにも程があります。何です? ナガツキ家の皆様はやはり人間ではなかったのですか?」


 本当に意味が分からん。

 魔力に対して五倍の風魔法が発動しているだと?

 まさか………


「勇者の能力。」

「何です? それ。」

「勇者には固有能力があるそうだ。アオイもエイミーも固有能力が備わっている。」

「要は子供のアーリィ様にも能力が発現した。そういう事ですか?」

「ああ。恐らくな。」


 固有能力だとすれば納得は出来る。

 レイアにも相手の強さを測るという能力が発現したらしいが、アーリィにまで能力があるとは……。


「アーリィ様に訓練を施さないという意味が最早ありませんね。アーリィ様は現時点で勇者級の十倍の魔力値と同等と言えます。しかも風魔法限定で言えば五十倍です。碌な訓練もせずにこれですよ? これで訓練して勇者級まで魔力値が増えたら……。」

「風魔法だけで言えば魔力値五千万換算になるな。」

「現ランキング一位のエイミー様は魔力値二千三百万です。その倍以上ですか……。ナガツキ家の皆様は人間を名乗るのやめた方が良いんじゃないですか? 人間に失礼ですよ。」

「どういう意味だ?」

「皆人類から逸脱してるじゃないですか。サクラ様は既に勇者級だし、レイア様だってああ見えて準勇者級と勇者級の中間くらいはありますよね? 一、二年もすれば見事に勇者級の仲間入りです。ほら、人類じゃないです。」

「勇者級は勇者級だろ。人類だぞ。」

「そこがオカシイんです。勇者級は勇者がなるものであって、召喚されたわけでもない人間がなるものじゃありません。そんな事はさぐぬtヴぃらヴんみrの神で、ある程度知性がある存在なら誰だって知ってますよ。」

「そうなのか?」

「はい。人類の歴史を紐解けば準勇者級の存在までは確認されていますが、勇者として召喚されてもいない人間が勇者級になった事例は一件もありません。かつてのイットリウム公国に現れた犯罪者マーダスが準勇者級です。彼は400年前の戦争で敵味方関係なく殺しまくった最悪の殺人鬼だそうで、さぐぬtヴぃらヴんみr大辞典で検索すればすぐ出てきますよ。」


 そんな奴がいたのか。せっかくなら俺が訓練をしてやりたかった。

 しかし大辞典の方も気になるな。


「大辞典って何だ?」

「さぐぬtヴぃらヴんみrの神が使えるツールです。検索画面に言葉を入れて検索すれば大抵の情報は出てきます。」

「ほう。便利なものだな。」

「はい。試しにナガツキ大公家で検索してみますね。」


 ドゥエナリルの目の前には半透明な良く分からない文字が書かれたものが浮かび上がり、指で何かを操作しているようだ。


「……ヒットしました。」

「何て書いてあるんだ?」

「えっと……ナガツキ大公家とは人類を逸脱し、全ての世界を破滅に導く力を持っている。現在確認出来ている2,308ある世界。その中でも生物の強さでは頂点に位置するさぐぬtヴぃらヴんみrではあるが、その世界の神を全て投入しても負けが確定している人類(?)の貴族家である。死にたくなければ手を出すな。生きたければ知らないフリをしろ。決して見ようとするな。奴らは見られている事に気付くぞ……。もう人間じゃないんじゃないですか?」

「おいおい。風評被害も甚だしいな。」

「人類に疑問符がついているじゃないですか。」

「俺達は何も悪い事はしないぞ?」

「多分そういう事じゃないと思いますぅ……続きを読みますね。」


 まだあるのか。


「中でも危険なのはエイミー=ナガツキとレイベルト=ナガツキ。エイミー=ナガツキは地球人類が持つ最悪の兵器である核以上の威力を魔法で撃ち出す事が可能であり、単体でさぐぬtヴぃらヴんみrの神を全て滅ぼし得る。次にレイベルト=ナガツキは原理不明の奇怪な技で何でも斬り捨てる。体力が続く限り暴れれば、さぐぬtヴぃらヴんみrの神全てを滅ぼしたあたりで相打ちになる。次点で危険なのはアーリィ=ナガツキ。奴は潜在能力のみで神ランキング三位の強さと同格である……。やっぱり人間じゃないですぅ。」


 確か向こうの神は千体ほどいるという話だった。

 俺はたったの千体と相打ちか。訓練が足りていないな。

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