神様に世界を見てきて欲しいと言われたので、旅に出る準備をしようと思います。

ネコヅキ

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五 クエスト

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 スマホサイズの真っ白なカードに宝石を置くと、カードから淡い光が輝き始めてゆっくりとだけど確実にカードに文字が浮かび上がってくる。その様子はまるで炙り出しによく似ていた。
 カードから放たれていた淡い輝きが収まる。宝石ジュエル内の情報の写しが終わったのだと判断した私は、誰の目にも触れる前に置いてあったカードを奪い取る。そして安堵のため息を吐いた。

(良かった。神の祝福ギフトの情報は何処にも載ってない)
 ギフトと呼ばれた神の祝福である空気を操る力は、この世界の風魔術に似て非なるモノ。私だけしか持っていないであろう術を公にしたら大騒ぎになるに違いなく、故に誰にも知られる訳にはいかなかった。

「ルナ、どうかしたの? ちょっと変だよ?」
「ケイトの言う通りですわ。先程から少し変ですわよ? 今だって、オーガの様な形相でカードを取り上げて……まるで誰かに見られては不味い事が書かれていたかの様に見えましたわ」
「う……」
 ヴィエラの言った通りに見られては困るモノが記載されている可能性があった為に鬼気迫る勢いで取り上げた訳だがそれが杞憂に終わった今、誤魔化すのが非常に難しい事態に直面していた。
 舌をちょろっと出して可愛くテヘ。…………じゃ通じないだろうし、今は逆に何かないかとカードに目を通す羽目になっている。

「あっ。こ、これ! これが記載されているのってヤじゃない?」
 自分でもこれで誤魔化しは無理だろうなと思っている。けれど何かを言わなければ、神の祝福ギフトでもどうにも出来ない場の空気とやらに押し潰されそうだった。

「別に歳なんて記載されてても問題なくない?」
「そ、そりゃあ今なら良いけど、何十年か後にさ、『えっ、この女ずいぶんと若作りしてんな』とか思われたらヤじゃん」
「確かにそうよね」
 私の言う事に同意をしてくれたのは受付のお姉さんだった。

「女であるのならばいつまでも若く見られたいと思うのは誰でも同じ。今はそう思えないあなた達もいつかはそう思える日がきっと来るわ」
「ふーん。じゃあ若く見えるお姉さんも実は結構な歳いっ! たぁぁいっ!」
 ケイトの後頭部をヴィエラが引っ叩いた。空気が読めないケイトの一言に受付のお姉さんの笑顔が凍り付いた瞬間がハッキリと分かり、癇癪を起こす寸前でそれを阻止したヴィエラには心の中でグッジョブを贈る。そして、神の祝福ギフトの事はあまり気にしなくてもいいのかなと思い始めていた。だってケイトのKYは最早スキルなんだもの。

「あ、あの。友人から聞いたんですけど、国境を越えるには二つほどランクを上げる必要があるとか……」
 ヴィエラから聞かされていた話をより詳しく知る為に質問する。

「あら、よく知っているわね。そうよ、越境するにはランクがDの冒険者資格が必須事項なんだ、け、ど……え? お嬢ちゃん達って旅人希望なの? 良い所のお嬢様に見えるんだけど……?」
 少し意外そうな顔をするお姉さん。 

「はい。折角ですので世界を見て回りたいなと思いまして」
 それが私を拾ってくれた神様との約束。出来うる限りで良いよ。との事だけど、私自身も結構興味が湧いている。ぼんやりと光る水面が見れる砂浜や七色の逆さ水晶がある洞窟。極めつけは、らぴゅ……そ、空飛ぶ島があるらしいという事だ。

「そうなの……けどね。今は受けられる依頼自体が無いのよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。最近ね、採集エリア周辺で盗賊の目撃情報があって、採集依頼を取り下げているの」
「盗賊……?」
「そんなの、討伐しちゃえばいいんじゃない?」
「それがそうもいかないのよ」
「どういう事?」
 コテン。と首を傾げるケイト。

「あなた達は盗賊に対しての武力行使規定は知っているのかしら?」
「……確か、自衛と略奪行為をしている最中。若しくは、何処からか討伐の依頼が出た時のみだったかと思いますわ」
「すごい、よく知っていたわね。彼女の言う通りに、襲われて自身を守る時や略奪行為をしている時。それか討伐依頼が出た時。この三つなの。今回目撃された人達はね、近付く人に脅したりと恫喝をするものの一切手出しはしないのよ」
 野山で獣を狩っているだけならば狩人となんら変わる事は無い。それでも街中に入れないのは住民の不安が増大するからだという。

「じゃあ、その人達を無視して作業すれば良いんじゃないかな?」
「つい先日ね、それをやろうとした男の子達が居たの。けどね、抜身の剣をぶら下げてそばで佇んでいるんだって」
「い、胃が溶けそうな状況ねそれは……」
 屈んだ所で背中をバッサリといかれるんじゃないかと気が気じゃない。

「もう少ししたらギルドで調査をする予定になっているから、それまで待ってて貰えるかしら?」
「分かりました。私達はそんなに慌ててませんから」
 まあ、私達は卒業までにランクを上げれば良いので、状況が改善されるまでノンビリと待つ事に決めて冒険者ギルドを後にした。


 ☆ ☆ ☆


 よく晴れた休講日。東の門へと歩みを進めながら、私とヴィエラ、そしてケイトと、いつもの三人組が歩いている。最後尾から着いてくるケイトが口を開いた。

「それにしても、どうして急に再開したんだろうねぇ?」
「あんた受付のお姉さんの話を聞いてなかったの?」
「そうですわ。調査した結果、森の中を彷徨いていた盗賊風の者達が居なくなっていたからですわよ」
 ギルドが調査をした所、報告のあった盗賊風の男達の姿すらも見えなかった事から、状況終了を宣言して採集依頼が再開される事となった。
 その事を受付のお姉さんから聞いて、今度の休講日。つまり今日に、依頼を受けたのだ。そして今は、採集依頼である薬草の群生地へと赴く為に東門前で街を出る為の順番待ちをしている。

「止まれ、街の外には何の用だ?」
 順番が回って来た私達を槍を持った兵士さんが制止する。ヴィエラはカバンの中からギルドに貼られていた依頼書を取り出して兵士さんに渡した。

「採集依頼で森まで行きますの」
「ふむ。ここの所、採集依頼で頻繁に外へ出る様になったが問題は解決したのかい?」
「ええ。その様に伺っていますわ」
「そうか。だが、街の近くだからといって油断はしない様にな。呼び笛は持っているな?」
「ここにあるよー」
 ネックレスになっている笛を胸元から取り出すケイト。兵士さんは唖然としながら頭の先からつま先まで視線を二往復させる。

「あの……お嬢ちゃんはその格好で行くのか?」
「うんっ。可愛いでしょう?」
 くるりんと一回転して可愛くカーテシーをするケイト。兵士さんはケイトに指を差してヴィエラに向かって何かを訴えかけていた。

「まあ、本人がそれで良いと言うのですから……」
「そ、そうか。何かあったら呼び笛を吹きなさい」
「分かりましたわ」
 差し戻された依頼書を受け取りカバンに入れるヴィエラ。通された門を抜けると、青々と茂った草原に街道が何処までも真っ直ぐに続いている風景が目に入る。

「見るのは二度目か……」
 一度目は学院に通う為に実家から引っ越しして来た時だ。

「左に見える森が採集場所?」
「そうですわ。街の近くで紅玉石の効果内だとはいえ、獣などは普通に居ますから、注意して進みますわよ」
 街に配置されている紅玉石は影法師が街中に入り込むのを防ぐ一種の結界を張っている。けれど普通の獣達には全く効果が無い為に、索敵には神経を削らねばならない。
 私の持つ神の祝福ギフトで広域探査は可能だけど、何故気付いたのかと問われて女の勘だと答えるのにも限界がある為に、余程の切羽詰まった状態でなければスルーせざるを得なかった。

 街道から外れて森の入り口に立つ。草木が鬱陶と茂るその森は、お天道様が出ているのもかかわらず薄暗い。最早獣道とは言い難い程に人の足によって踏み固められた道は、森の奥へと続いていた。

「この先なの?」
「ええ。ここから入った先に群生地があるそうですわ」
「なんか、寒いよぉ……」
 陽が当たり難い所為か湿気が多い為か。森の中の気温は外よりも低いらしく、薄着のケイトなんかは素肌を摩ったりしている。

「そんな格好で来るからですわ」
 ケイトの服装は街中に居る時と何ら変わらない。素肌の露出が多めでスカートが短めのドレス服。夏場の海岸での描写でよくある麦わら帽子が似合うお姉さんの様な格好だ。

「だって、冒険者ってみんな地味なんだもん」
 世の冒険者が聞いたら襲いかかって来そうなセリフを吐くケイト。SNSなら炎上もんである。

「あのね。地味なのは動き易さに趣を置いた結果ですわよ?」
「それに歩くと下草でスカートはボロボロになるしね。だから足回りは革製の物がベストなのよ」
「そうですわ。ケイトのその格好だと、足が切り傷だらけになりますわよ?」
「うんうん。帰る頃には傷が痒くて仕方がないでしょうねぇ……」
 私とヴィエラがケイトのモロ出しの足に視線を向けると、ケイトはヒッと小さく悲鳴を上げた。

「ど、どうしよう……」
「街に戻って着替えるか、今日は中止にして後日にするか」
「ケイトだけ置いていくって手もありますわね」
「そんなの嫌っ! 今日、三人で、達成するの!」
 踵を返して街へと向かったケイトに、私とヴィエラは肩を竦めて後を追った。


 ☆ ☆ ☆


 門番の兵士さんにそら見た事かと言われ、近場の武具店に探索の為の装備を買い求めて二度目の森の入り口に立っていた。
 ケイトが買ったのは革製の袖付き胸当てとエプロン。そしてロングブーツのみ。ゴワゴワして嫌だの何だの文句を付けて、元の服装の上に着込んでいる。
 私は紺色のシャツに革製の胸当てを付け、スカートも革で作られた長目のもの。それなりの重量があって紐で結んで肩で吊らないとパンツがモロっと見えてしまうのが難点だ。
 ヴィエラは白いシャツではあるが胸当ては革で、下は乗馬で着用するキュロットと革製のブーツ。これでカウボーイハットとホルスターを付けたら西部劇の女ガンマンにしか見えない。

「さてと、これでようやく進めますわね」
「そうだね」
「お、重い……」
 街からここまで移動しただけで息が上がっているケイト。革製の防具は滑した皮を幾重にも重ねている為に普段着よりも重いのは当たり前だ。

「この程度で根を上げていては、一生社交界デビューは出来ませんわよ」
 十五歳で予定されている誕生日会は、社交界のお披露目パーティーとなっている。パーティーは各家の威信をかけて盛大に催され、一晩で二、三ヶ月分の金を消費すると云われている。

「え? この重いのと社交界と何の関係が……?」
「勿論ありますわ。ドレスのフルセットはこれよりも重いですわよ」
「うそぉ……」
 言葉を失うケイト。ヴィエラの言う通りにドレスのフルセットは金属鎧並みに重い。頭にてんこ盛りのアクセサリーを始め、ダンスをしても着崩れない様に各種パットを装備。人の背中を足蹴にしてまで極限に締め付けるコルセットと、スカートにはふわりと見せる為の金属が仕込まれている。私も一度着てダンスどころか動く事すらもままならなかった事を覚えている。

「社交界デビューまで後五年ありますわ。それまでトレーニングするしかありませんわね」
「うう……」
「よしそれじゃ、レッスンワン。革鎧を着こなせる様になろう」
 項垂れるケイトの背中を押して、三人初の採集クエストを達成の為に薬草の群生地へと向かったのだった。
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