私のアレに値が付いた!?

ネコヅキ

文字の大きさ
23 / 235

負債者の枷。

しおりを挟む
 困った客。それは元の世界、異世界問わずに存在している様で、文句を言うとすぐにキレるからタチが悪い。私も平均よりは優れた容姿をしているが為に、散々迷惑を被ったモノだ。

 その困った客が、隣で受付をしている女の子。マリーさんに食って掛かって喚いている。ソイツはお相撲さんの様にでっぷりとした体型で、派手で高そうな毛皮のコートを着込み、ソーセージと勘違いしそうな指の全てに宝石の付いた指輪を嵌めている。富豪を絵に書いた様なオバハンだ。

 困った客の中でもオバハンは特に厄介だ。図々しくて恥じらいがなく、若い達を敵視しているとしか思えない言動をズバズバと言う。

「ウチのカトリーヌちゃんは、大人しくて人なんぞ襲わないザーマスっ」

 何がカトリーヌちゃんか。ぱっと見、ゴンザレスにしか見えない。

「いぃえ、例え襲わなかったとしてもぉ、街中で猛獣わぁ連れて歩けませんー」
「猛獣だなんて失礼ザマスねっ。カトリーヌちゃんは『ワルドキャット・・・・』という立派な『猫』ザーマスっ!」

 大型犬よりも大きい図体でどこが猫だ。どう足掻いても虎だろうがっ。

「そうわ言われましてもぉ、決定事項ですのでぇ」

 マリーさんとオバハンとの問答は更に続いてゆく。そのオバハンが窓口の一つを潰している所為で、私ともう一人の女性スタッフ。ローザさんの負担が増えていた。いい加減してくれぇっ!



 豊穣祭三日目。祭りとしては慎ましやかに始まった初日とは違い、徐々に人出が増えて賑やかになりつつある。お祭りの期間は十五日間。これから最終日に向かって更に増えるのだと言う。そして人出が増えれば、当然ナンパも多くなる。私はさっき口説かれたし、ローザさんは現在進行形で口説かれている。オバハンが退かない事もあり、お客さんが一時的に私に集中する。

 通商ギルドアルカイックに於ける私達受付の仕事は、入港して来た船が運んだ荷物の倉庫への割り振り。備え付けのプレートに船の代表者が手を乗せ、ジャジャッと出てきたレシートに書かれた番号の鍵を渡す。該当が無い場合は、受付部門の責任者が対応する。仕事としては簡単なものだけれど、一日中立ちんぼは脚を四センチほど太くする。地味にキツイ。

「ですからぁ、無理なものは無理なんですぅ」

 関わるのが嫌なのだろう。後ろに並んでいる人達も、オバハンとの距離を一定以上開けて助ける気配がまるで無い。私達も集中する入庫待ちの人達に追われてフォローどころじゃ無い。マリーさんは既に泣き出しそうだった。

「ええいっ! アンタじゃ埒が明かないザマスっ!」

 言って私をキッと睨むオバハンに、思わずたじろぐ。え、ちょっと待って。次、私!?

 ズンズン。と地響きが聞こえる様な錯覚を覚える。それはさながら重戦車だ。眠いカバの様な目は完全に私をロックオンしていた。

 不意に重戦車オバハンの姿が遮られる。ひょろっとした背の高い人が、私とオバハンとの間に割って入った為だ。

「これはこれはホーマー夫人。何時にも増して素晴らしいお召し物。そして大変凛々しいご家族ですな」
「オマエは確かルレイル。とか言ったザマスね」
「私如きの名を覚えていて下さって大変嬉しゅう御座います。さて、お連れになられている『猫』ですが、かん十二位の皆様のご決定で御座います故、規定通りケージに入れさせて頂くか、お乗りになられた魔導船内にてお預け頂けます様お願い申し上げます。もし、その規定をお破りになられた場合には……お分かりですね?」

 アルカイックスマイルを微塵も崩さずに言うものだから、側で見ているコッチが怖い。それを真正面から見ている重戦車オバハンが、一歩また一歩と後退り、遂にはゴンザレ……カトリーヌの側まで後退した。

「チッ、セバス」
「ここに」

 重戦車オバハンの一声に、カトリーヌの陰から初老の男が進み出た。

「カトリーヌを船に。良いザマスか? カトリーヌの機嫌を損ねない様に細心の注意を払うザーマス」
「畏まりました」

 初老の男は恭しくお辞儀をすると、カトリーヌを伴って出て行った。

「これで良いザマスね」
「はい、有難う御座います。それでは、祭りを十二分にお楽しみ下さい」

 ルレイルさんに舌打ちを残して重戦車オバハンが出て行く。その進路上に居た人の壁が割れ、人為的なモーゼの十戒が発生した。その姿が完全に見えなくなると、ルレイルさんは疲れた感じのアルカイックスマイルを浮かべて首を僅かに振った。

「やれやれ。去年は『スロンパオ』で今年は『ワルドキャット』ですか。あのご夫人にも困ったモノですね……」

 そうボソリと呟いて、自室へと戻って行った。

「ねぇ、『すろんぱお』って何ですか?」
「ええっとそうねぇ。こう、鼻が長くて大きな動物よ」

 ローザさんの身振り手振りで頭に思い浮かんだのは、動物園でお馴染みの象の姿だった。



 プチリ、プチリと上着のボタンを外してゆくと、窮屈な場所に押し込められていたマシュマロが、たゆんと解き放たれる。その柔らかさに反比例して、脚は浮腫んで棒の様に固い。

「ねぇアユザワさん。私達これから飲みに行くんだけど、アユザワさんも行かない?」

 そう声を掛けてきたのは、薄らと日に焼けたスレンダーボディに淡い水色の下着が映えるローザさん。凛々しくてカッコイイ系女子の彼女は、受付嬢歴五年の二十五歳だ。

「カナちゃんはぁ、お酒飲めるんでしょぉ?」

 ローザさんの隣から海老反りながらひょっこりと顔を出したのは、今日窓口でオバハンに絡まれていたマリーさんだ。舌っ足らずのぽっちゃり系女子で受付嬢歴半年の二十二歳。ボブヘアがよく似合っている。

「ええ、一応は……」

 元の世界では友人に連れられて飲みに行ってはいたが、死因が急性アルコール中毒な事もあって、今はなるべくお酒から離れている。ちなみに、酔うとキス魔に変貌するらしい。

「どうかな?」

 どうと言われても……

「外出するならギルドマスタールレイルさんに許可を貰ってこないといけませんし」
「え?」
「何でぇ許可がいるのぉ?」

 不思議そうに目をパチクリさせる二人。

「えっと、まあ。借金がありまして……」
「ああ、そういう事」
「えぇ、どういう事ぉ……?」

 それでローザさんは納得してくれたが、マリーさんは首を傾げている。

「それじゃあどうする? 別の機会にする?」
「一応、ギルドマスターに聞いてみます」
「分かった。それじゃ、待ってるから」
「はい」

 折角誘ってくれたんだし、ダメ元で聞いてみよう。

「ええ、構いませんよ」

 満面のアルカイックスマイルを浮かべてルレイルさんは即答する。うーん、意外にアッサリとオーケーが出たな。もっとこう、何か言われるかと思ったが。

「同僚との親交を深めるのも立派な仕事の一環ですからね。ですが、出掛ける前にこちらを着けて貰います」

 机の引き出しをガラリと開けて、中に入っていたモノを机の上に置く。

「それは……?」
「魔法のチョーカーです。これには探査魔術が施されていますので、あなたが何処に居るのかスグに分かりますのでそのつもりで。それと、くれぐれも外すような行為はなさらない方が懸命ですね」

 ルレイルさんの真剣なアルカイックスマイルにゴクリとツバを飲み込んだ。

「も、もしそれを外そうとしちゃったら……?」
「その時はビリビリっとします」
「び、ビリビリ。ですか?」
「ええ。ビリビリっとです」

 言葉から想像がつかないが、ドアノブに手を触れた時の様な静電気並のビリビリなのだろうか? それならあまり気にしなくても……

「無理に取ろうとすると命を落とし兼ねませんのでご注意して下さい」

 違ったっ。命懸けだったっ。

「それでは、今この場で嵌めて下さい」

 机の上のチョーカーを手に取って首に嵌めると、カチリと音が聞こえて固定される。別段圧迫感は無いが、普段こういうのを着け慣れてない所為かちょっと気になる程度。不満があるとすれば、もう少し小洒落た感が欲しかった。まあ、一種の拘束具みたいなモノだからそこまで求めるのも無理があるか。

「それでは、あまり飲み過ぎない様に気を付けて下さいね」
「はい有難う御座います。では、行ってきます」

 ルレイルさんに軽く頭を下げてから、ローザさんとの待ち合わせの場所へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...