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群狼ノ滅ビ

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時代が侍を滅ぼすのだ。

江戸の街、最後に会った山岡が寂しげにそう呟いた。
まだ、俺達がいる。いつもなら、真っ先にそう反論しそうな近藤ですら、その言葉に目を伏せただけだった。

全てが、時代の流れだった。

京の白刃を潜り抜け、幾度となく死線を越えてきた仲間も、いまはもう無かった。永倉が去り、原田が消えた。新撰組の象徴だった近藤は処刑され、全ての隊士から畏怖された沖田も、もうこの世にはいない。

それでも自分が戦っているのは、時代を惜しんででも、まして幕府に殉ずるためでもなかった。

俺達はここにいる。

狂乱の時代に生き、戦い抜いた新撰組はまだここにいる。

未だに京の残滓を引きずり、それでも戦っているのは、新撰組は時代に飲み込まれてなどはいない。ただ、そう言いたいからだった。しかし、その悪あがきも終わりを告げようとしていた。

函館五稜郭。

踏みしめた床が、ぎしりと悲鳴を上げた。

西洋風の廊下の悲鳴に、歳三は一人、くつくつと笑った。最新鋭と言われていた五稜郭でさえ、老いているのだ。幕府が朽ち果てたのも必然だったのかもしれない。

身が裂けるような夜の寒さの中、歳三は本営が置かれた部屋の扉をくぐった。

二人の男が、歳三を待っていた。

総裁榎本武揚、陸軍奉行大鳥圭介。煌々と光るランプのしたに、その明るさとは対照的な陰鬱な表情を浮かべていた。

「召集は二時間も前だったはずだが」

最初に沈んだ声を発したのは、机の上で手を組んでいる大鳥だった。しかし、言葉の攻撃性に見あった、力強さは全く無い。肉体も精神も、疲労困憊しているのだろう。

二人の本来の強みであるはずの聡明ささえ、その瞳からは消え去り、瞼には濃い隈が張り付いていた。

「良いんだ、大鳥君。それほど意味がある会議でもない。土方君も、掛けてくれ」

そう言って榎本が一つの椅子を指差した。椅子のすぐ後ろには、場違いな掛軸がある。

それを一瞥して、歳三は首を横に振った。

「そこは、俺の椅子じゃないな」

「どういうことかな」

「もう、戦は終わったよ」

歳三の言葉に、二人が息を飲むのがわかった。

函館政府の中でも好戦派の歳三が、そんな言葉を言うとは思っていなかっただろう。そして、二人が降伏を考えているのならば、新撰組土方歳三の存在は、恐怖ですらあったはずだ。

味方の最高実力者ですら、そう恐れを抱くほど、新撰組は道を遮る者全てを殺してきた。

「ここらで、お仕舞いにしよう」

固まっていた大鳥が、その言葉で我を取り戻したように立ち上がった。倒れた椅子の音が、五月蝿いほどに響いた。

「土方君。君は降伏すると」

「大鳥さん。もう、肩を張るのは止めようじゃないか」

「何を」

「それに、俺は降伏なんてしないよ」

「自刃でもすると?」

「まさか。俺は戦い抜くさ」

「何を言っている」

大鳥が喚いた。

目の前の二人は、本心では降伏したいだろう。 しかし、二人が持つ武士道が、容易にはそれを許さない。

侍が滅びたとはいえ、その魂は生きているのだ。

だから、歳三は二人の背中を押しに来たのだった。所詮、二人は戦場の男ではない。京の街を覆う狂気にも耐えられなかっただろう。

だが、学がある。二人が生きるのは戦場などでなない。これからの新時代にこそその力を発揮する。歳三は、その新たな時代に二人を送り出すつもりだった。

「ここから先は、狼達の墓場だ。幕末の京から戦い抜いた群狼達の。あんたたちに、ここで戦う資格は無いぜ」

「土方君、それは」

「降伏しろ」

その瞬間、大鳥が刀に手をかけた。だが、歳三の鬼気に押されたのだろう。手を柄に掛けたまま、固まった。

「学のあるあんた達は、わかっているはずだ。その才能は、この北辺で散らすよりも、新しい時代でこそ輝けると」

「しかしな」

「榎本さん。楽しかったよ、俺は。だから、もうここで良い。榎本さん達は、降伏してくれ。死ぬ
覚悟がついていない奴らを生かすのも、大将の務めだよ」

「君が、それを言うのか。新撰組、鬼の副長と呼ばれた土方歳三が」

鬼の副長。

懐かしい響きだった。いつのころか、歳三はそう呼ばれだした。敵からも、味方からさえも恐れられた。

「鬼の目にも涙って謂うだろう。まあいい。俺の話はそれだけだ。ここから戦うのは俺達だけ。榎本さんや大鳥さんは、降伏してほしい。そう言いに来たんだよ」

榎本が腕をくみ、大鳥が唸り声をあげている。

降伏。

気持ちはそちらに傾いているだろう。数秒が、何倍にも感じた。榎本が水差しの水を飲み、ゆっくりと息を吐き出した。

「君は、ここで死ぬのか?」

「狼だからな」

「そうか」

榎本の言葉に、歳三は微笑み返した。これで、最後だった。

さらば。榎本もそれが分かったのだろう。椅子から立ち上がり、静かに右手を差し出してきた。

握手。西洋の風習で、最初に榎本に会ったとき、戸惑ったのを覚えている。大きな手だった。歳三は、その手を握り返し、一度だけ頷いた。

「さらば」

「うむ」

「大鳥さんも、な」

大鳥がぎこちなく頷いたのを見て、歳三は二人に背を向けた。

もう会うことはないだろう。しかし、不思議なほどに惜しむ気持ちは無かった。一度も振り替えることなく、歳三は本営の置かれた建物を後にした。

朝。襖から差し込む光で、歳三は目をさました。起き上がり、布団を畳んだ。懐中時計の短針は七時を指している。久々に、深く眠ったようだった。

北征が始まって以来、昼夜を問わない闘いの連続だった。

隣の部屋には新撰組隊士、市村がいるはずだが、もう起きているのだろう。気配は無かった。歳三は軍服の上に、フランス人将校から贈られた黒い外套を着込み、長靴に足をいれた。

朝の巡回が、習性のようになっていた。隊士を連れるわけでもない。ただ、自分が立っている場所を、自分の足で歩き、自分の目で確めたかった。

建ち並ぶ長屋を、抜けた。京であれば、そこに隠れていた志士が斬りかかってくる事が日常で、一瞬たりとも気を緩められなかった。

それを思ってみても、今は随分と平和になったものだった。太刀も持っていない。あるのは懐に忍ばせた、いまいち狙いの定まらない拳銃だけ。五稜郭は囲まれ、すぐにでも総攻撃を受けそうな今を平和だと思ってしまう。その感覚の麻痺に苦笑して、歳三は五稜郭の星形の突端の一つに足を向けた。

桜が、あった。

空き地になった場所に、一本だけ立っている。初めて見たとき、何故か強く惹かれた。北の厳しい寒さの中で、孤独に耐えながら屹立している。仲間を失い、独りもがいている。そんな自分に似たものを感じたのかも知れなかった。

先客がいた。

片腕を失った男。風にはためく片袖に、桜の花びらが舞っている。少しの間見とれ、歳三は男に近付いていった。

「お前も、ここか」

その言葉に、男が振り返り笑みを浮かべた。少しの曇りも無いそれが、歳三には痛々しかった。

伊庭八郎。

かつては伊庭の子天狗と呼ばれた麒麟児で、将来を誰よりも嘱望されていた。しかし、その伊庭も木古内で負傷していた。その顔には、死相が濃く張り付いている。

生きていれば、沖田や藤堂と同い年。ゆえに、そこから重ねてしまうものが多くあった。

「土方さんも、よくここにいますよね」

「散歩がてらな。身体はもういいのか?」

「安静にしていても、死ぬと言われましたよ。それならば、畳の上などでは死にたくありません」

「猛っているな」

伊庭の傷は、腹だった。かなり深く、本当ならば動けないほどの痛みだという。

それを伊庭は、典医にモルヒネを打ってもらい痛みを誤魔化している。それでも、動けるものではないと典医などは目を丸くしていた。

生と死の間で、あるところを越えると、人は信じられないような状態になることがある。斬っても斬っても死ななくなる者や、異様なほどの剣捌きを見せる者もいる。今の伊庭は、まさしくその状態だった。

畳の上で死にたくない。

それは、伊庭なりの意地だろう。年少ながら、ここまで闘い抜いた。華々しく散りたい。その気持ちは、痛いほどに分かった。

「遊撃隊は今、何人残っている?」

「随分と減りましたよ。昨日、また四人死んで、三十八人になりました」

「減ったな。信じられないくらい、減った」

「それは京から、ですか?」

「俺の闘いは、京の小路から始まった。仲間を一人失い、二人失い。もう、何人になったかな。それを数えることはしなかったよ」

「それは」

「重くなるんだよ。刀が。だから、死者を想う暇など無かった。だが、それももう終わるな」

「本営の方針は、やはり降伏ですか?」

「ああ」

「土方さん、あなたはそれで」

はっとしたような目をした伊庭に、歳三は微笑みかけた。

「俺は明日、滅ぶ」

「どういう事ですか?」

「そのまま、さ。俺は明日、最後の逆転を狙って官軍に攻撃を掛ける。錦の御旗を奪えればよし。奪えなくとも、もうここには戻ってこない」

それが、旧幕府軍の最後の戦いになるだろう。

歳三は、明日で区切りをつけるつもりだった。諦めて、死にに行きたくはなかった。勝ちに行く。その中で滅びを迎えるというならば、それでよかった。

「お前も、来るか」

「良いのですか?」

「ああ。伊庭の子天狗が滅ぶ場所は、戦場こそが相応しいだろ」

伊庭は学問において麒麟児と呼ばれたが、剣の腕も一流だった。近藤や沖田。二人の友、一流の剣士を戦場で死なせてやれなかった事が、歳三にそう言わせていた。

伊庭が、笑った。

「土方さんは、鬼の副長なんて言われていますが、その実、鬼ではありませんね」

「ほう」

「鬼になろうとした、鬼よりも強い修羅ですよ。しかし、その心は鬼よりも弱く優しい」

「弱い、ね」

その単語を頭のなかで弄び、歳三はにやりと笑った。

的を射てもいた。

鬼にならねばならぬ。新撰組を鉄の掟の支配下に置いたとき、そう自分に言い聞かせた。だが、鬼になろうとするあまり、いつの間にか鬼よりも強靭で、残酷な修羅になっていた。

それは、鬼であることを耐えられなかった歳三の弱さかもしれなかった。

「因果なことを言うなあ」

「もともと、私は学問の方が好きなのですよ」

「そうだったな。が、あまり人の心を読むと、早死にするぞ」

「もう死にますよ」

何故か笑いが込み上げてきた。

伊庭もなのだろう。押さえるでもなく、桜を見上げて笑った。

桜が、舞っていた。

「明日、伊庭の子天狗は死ぬるか」

「新撰組副長土方歳三の滅び、しかと見届けます」

頷き、歳三はその場から離れた。

これも一つの別れだった。気持ちが何か真っ白に洗われたように、清々しかった。北の清冽な空気が、そう思わせるのか。

無性に、酒が飲みたかった。

函館では今、妓楼が流行っているという。死ぬ前の、人の本能のようなものだろう。しかし、歳三には全く興味がなかった。女とは、唯一の関係でいたかった。一夜の契りなど、虚しさしか感じない。

唯一と思いかけた女性も、もういない。

だから、酒が飲みたかった。

夜の帷がおり、五稜郭にも無数の篝火が灯された。

京の春とは比べ物になら無いほどに、風が冷たい。歳三は、いつもより強い長靴の音を聞きながら、函館の街を歩いた。

皆、首脳部が降伏を考えている事を、薄々は感じているのだろう。擦れ違う者のほとんどが緊張を失い、諦めの表情を浮かべている。榎本が、五稜郭に備蓄されていた全ての酒を全兵士に配給したことも、それを助長させていた。

これは、一悶着起こるかもしれない。居場所を失ったかのように肩を閉じて歩く兵達を見て、歳三はそう思った。

降伏派が多数を占めているとはいえ、少数だが伊庭のように徹底抗戦を望むものもいるのだ。自暴自棄になった抗戦派が、諦めを漂わせる者と出会えば、見境い無く喧嘩騒ぎになるだろう。
宿所に戻った歳三は島田を呼び寄せ、その取り締まりを指示した。

函館政府の最精鋭、新撰組三十六名と遊撃隊を巡回させることで、混乱はほぼ起きないだろう。榎本達が降伏するにしろ、明日まで軍の実質的な総指揮は歳三なのだ。秩序を乱すことを許すつもりはなかった。

歳三の部屋にも酒が届けられていた。

榎本の配給か。そう思い、歳三は小さな木箱を手に取った。その中には、小さな甕と一通の文があった。

その書体を見て、歳三は思わず口元を緩めた。

懐かしかった。

鴻ノ池善右衛門。摂津河内の豪商で、京では新撰組の資金を手配させる代わりに、新撰組も鴻ノ池の商売を守っていた。商人ながら血の気の多い男で、自ら剣を修業してもいた。

歳三達がここまで戦ってこられたのも、鴻ノ池の助力が大きかった。

小さな甕は、灘の酒だった。最後の酒に、飲み慣れたこの酒は有り難かった。

歳三も巡回に出た。供には島田のみ。新撰組と遊撃隊が巡回すると触れている。その効果もあって、目立って騒ぐものもいなかった。途中、酔って立ち塞がった兵が三人いたが、島田が瞬時に打ち倒していた。

明日、五時に全軍出撃。それだけを伝え、歳三は全員を解散させた。旧幕府軍の最後の戦。死ぬ者は、そこで死ぬだけだった。

暁と同時に、官軍に奇襲をかける。狙いは官軍参謀黒田清隆。鳥羽伏見での借りもある。死出に供える華としては上出来過ぎるほどだ。

灯油の火が、揺れた。

どこかから風が入ってきたのだろう。微かに冷たさを感じた。灯りを机の上に置き、歳三は椅子に深く腰を掛けた。

新撰組局中法度。

一枚の巻物があった。新撰組を鋼の組織に叩き上げ、隊士全員の命すらを拘束した。歳三自ら筆を取り、書き記した。何枚も写されたが、最初の一枚を歳三は常に肌身離さず持っている。

それを机の上に広げ、歳三は盃に酒を注いだ。

四箇条からなり、罰は切腹のみ。見つめていると、様々な男達の顔が鮮明に浮かんでくる。掟を守ろうと、死んだ者がいた。掟によって死んだ者がいた。その全てが、影となり歳三の前に現れていた。

歳三は自然に、その影に語りかけていた。

近藤さん。

餓鬼の頃から、あんたはいつだって大将だったよな。俺はそれを不満と思ったことはない。京に上る事を決めたのも、清河などを担ぐためじゃない。大将たるあんたが、行くと決めたからだ。

新撰組が何かと問われれば、俺はこう言う。

近藤勇こそが、新撰組だと。

だから、あんたが死んだ時、俺の中では新撰組は滅びたんだよ。そうして俺はただ一匹、野良の狼になった。死にきれず、だが死に場所を求める狼に。

まあ、こんなところまで来ちまうとは、思ってもみなかったがな

だが、もう悲しんでなんかいないよ。俺ももうすぐそっちへ行く。だから、先に言っておく。

地獄でも、あんたが大将だ。

敵は、閻魔くらいが俺達にはちょうどいいさ。

沖田。

お前の剣は、間違いなく最強だった。病を得て、お前は変わった。死んでも構わない。多分、お前は命を諦めていたのだろう。お前の剣には、捨て身の恐怖があった。向かい合って勝てる者など、天下に五指もいまい。

剣士は剣士を求める。

強く純粋な剣士ほど、そうなのだろう。お前は京にいたときから、病に倒れ病床に臥してなお、全力をぶつけられる強い剣士を求めていた。

済まなかったな。剣に死なせてやれなかった。

そこで、もう少し待ってろ。俺ももうすぐ仲間を引き連れていく。そうしたら、近藤さんと共に戦の始まりだ。

山南。

お前には言いたいことが山ほどあるんだ。覚悟して待ってろよ。だが、最初に言う言葉はもう決まっている。

ありがとよ、だ。

俺はお前を掟に殺した。それが新撰組という刀を叩き上げる最善だと信じていたから。抵抗しようと思えば、お前には出来たはずだ。それだけの剣の腕もあった。だが、お前は一切の抵抗をしなかった。そして、裁きの刃を受け入れた。

俺は、知っていたよ。

お前も新撰組に命を賭けていたという事を。だからこそ、お前は抵抗もせず、掟に従ったのだろう。それが新撰組を強くすると理解していたから。

志衛館にいたころから、兄のような存在だった。見えないところで、かなり助けられたよ。だから、最初に言う言葉は決まっている。

原田。

お前は、俺の生き写しみたいなものだったな。初めて出会った時、俺は驚いたよ。ここまで自分に似ている男がいるものなのかと。

我流の剣。冷徹な思考。全てに通じるものがあった。

いつも斜に構え、物事に皮肉な眼差しを向ける。それを見るたびに、俺は同族嫌悪とでも言うかな。苛立っていたよ。だが、同時に最も頼りにしてもいたさ。

それが、いきなりどっかに消えちまいやがって。 風の噂に、お前の死を聞いた。お前の事だ。きっと華々しく散ったのだろう。

お前とももうすぐ会えると思うと、血が踊る。

それからも、影は無数に現れ、消えていった。伊東や藤堂の影もあった。その全てと話しながら、歳三はいつの間にか瞼を閉じていた。

冴え渡る寒さで、歳三は目を開いた。

心気が澄み渡り、いつになく清々しい気持ちだった。筋を伸ばし、歳三は立ち上がった。外套を羽織り、黒い手袋をはめた。全身黒尽くめ。北の雪の中ではよく目立った。狙撃の的になると何度も言われたが、それを改める気はなかった。

「副長、全軍揃いました」

島田が扉の前に立っていた。

「副長はよせと言っているだろう。俺は陸軍の奉行並だぜ」

「いえ、久しぶりに兼定を佩いておられますので。そのおつもりなのかなと」

「目端がきくな、島田」

確かに蝦夷に来てからは、兼定を佩いてはいなかった。新撰組はもう無い。無意識のその思いが、そうさせていたのかもしれない。

新撰組副長として死ぬ。

京にいた頃は、確信に近い思いを持っていた。それを思い出し、歳三はにやりと笑った。

「島田」

「はっ」

「前言撤回だ。副長でいい」

「了解です」

笑顔を見せる島田の横を通り、歳三は部屋を出た。島田と市川が、すぐ後ろに付いてくる。
五稜郭南門。総勢千八百余が砂利の上に整列していた。

石垣の上に立ち、歳三は全軍を見渡した。限界だな。歳三がそう思うほどに、皆の顔は疲労していた。

「これが、最後の戦になる」

静かに、歳三は語り始めた。

官軍は、五稜郭陥落が間近ということで、その気鋭は天を衝くほど高いだろう。今の士気のままぶつからせれば、一瞬で壊滅する。

「ここまで闘い抜いた歴戦の諸君らだ。戦況がいかなるものか、嫌というほどに理解しているであろう。万策尽きた。そう思っている者もいるのだろうな」

歳三の言葉に、うつむいていた兵士達が顔を上げた。

歳三の言葉に期待する者もいるだろう。常勝。そう畏怖されるだけの戦いを、歳三は繰り広げてきた。だが、歳三にももう策はなかった。

見回し、歳三は静かに宣言した。

「その通りだ。もう、我々が採りうる策は一つもない」

兵士達に、ざわめきが広がった。

その時、歳三は兼定を抜き放った。歳三の尋常でない殺気に気付いたのだろう。硬直したように、再びその場が静まりかえった。

「諸君は、ここまで闘い抜いた。敗北を覆そうと、餓えを雪で満たしてきた。それは何が為か、誰が為か」

全ては己の為だろう。歳三はそう言いたかった。

幕府が滅び、生きる場所を失った。だが、侍は諦めなかったのだ。失ったが故に、己の生きる場所を作り出そうとしたのだ。

それが、この戦いだろう。

「俺達は生きる場所を創るために、ここに来た。俺達の国を創るために」

夢、と言い換えてもいい。

「誇りを持てよ、旧幕の精鋭共」

歳三は叫び、兼定を天に衝き上げた。

「国破れたるとも、山河はある。ここまで闘い抜いた事が俺達の生きた証。後世に残らずとも、この証は間違いなく諸君らの誇りだ」

熱く込み上げてくるものがあった。

兵士達も同じなのだろう。うつむいていた兵士は、次々に顔を上げ始めた。その全員が、拳を握りしめている。

「これが最後の闘いだ。誇りを胸に、刀を振るえ」

一つ、二つと声が上がり始めた。

皆、心の奥底から叫んでいる。うねり、大渦になった。千八百の剣が、天空を目指していた。

「全軍、出陣」

兼定が空を斬り裂いた瞬間、喚声が爆発した。

二隊編成。指揮は永井尚志と瀧川充太郎。二隊が左右に分かれ、何かに憑かれたように駆け出していた。

「俺達も、行くぞ」

二隊を見ながら、歳三は島田に出陣を命じた。周囲には新撰組と遊撃隊を中心にした斬り込み隊がいる。

「まずはどちらへ?」

「函館山だ。瀧川の側面援護を行う」

函館山を取られれば、戦況は一気に官軍側に傾く。取られるわけにはいかない地だった。だが、狙いは函館山の死守では無い。

土方歳三がここにいる。そう官軍に思わせたかった。

官軍が勝つためには、五稜郭を落とすことだが、それよりも手っ取り早い方法がある。

それは、土方歳三を討ち取ることだ。旧幕府軍の勝利の象徴である歳三を討てば、旧幕府軍の士気は崩壊する。官軍参謀部もそれが分かっているはずだ。

歳三が兵の薄い函館山に出現したとなれば、そこに兵力を集中してくる。その時、手薄になった官軍参謀黒田清隆の本陣を、全軍で衝くつもりだった。

大将首を取るか取られるか。それでしか決着がつかない戦い。最後の闘いに相応しいと思った。

「伊庭」

「はい」

昨日よりも、顔は蒼白い。だが、死ぬ間際とは思えないほどに覇気がある。

「函館山に死んでくれ」

伊庭がにこりと笑った。

「承知」

敵の本陣を衝くためには、誰かが函館山に群がった敵を引き付けておく必要がある。

死しか無い戦場。それを、伊庭は事も無げに受けてみせた。

「見事に死んで見せます」

頷き、歳三は市村が曳いてきた黒馬に乗った。全員が騎乗した。

「疾駆」

歳三は先頭を駆けた。百騎が一塊になって、市街地を駆け抜ける。

江戸以北の戦いで、歳三は騎馬にミニエー銃を持たせていた。騎馬の機動力と、銃の破壊力は敵の意表を衝くことを容易くする。

フランス人将校によれば、現フランス皇帝の叔父、ナポレオン一世。フランス史上最大の英雄が、竜騎兵と名付け好んでいたと驚いていた。

その驚きを、歳三は鼻で笑った。別に驚くようなことではない。戦理を突き詰めれば、そこにしか行き着かないのだ。それを伝統云々と言う者は、愚か者でしかない。

それに、真新しいことでもなかった。戦国の世。石田三成の莫逆の友、大谷刑部が火縄銃を騎馬に持たせたというような事を、少年のころ話が面白くて師事していた歴史学者に聞いたことがあった。

市街地を抜けた時、遠くで銃声が聞こえ始めた。方角からして、永井の部隊が戦端をきったのだろう。徐々に銃声は激しくなった。

永井の攻撃は、奇襲。この銃声で官軍も歳三達が動き出したことを気付く。

「旗」

歳三の掛け声に、島田が威勢よく気合いを発した。同時に、風を受けて舞う旗が高く掲げられた。
誠。大書された文字は、幕末、京で最も恐れられた誓いだった。

歳三は馬腹を蹴り、速度を上げた。三十分ほど駆けた時、歳三は函館山を見上げる事が出来る平原に百騎を停止させた。

旗が林立していた。

黒い十字紋。二匹の龍を型どった紋様が所狭しと風にたなびき、その下には無数にも思える大砲が並んでいる。

兵は二千ほど。敵も歴戦である。甘くはない。

そのうち、官軍の兵が慌ただしく動き始めたのが見えた。歳三達の騎馬を見付けたのだろう。翻っているのは誠の旗。官軍にとっては、兵数以上の威圧があるはずだった。

「まだ出るなよ」

島田達を抑えて、歳三はじっくりと官軍の陣地を睨み付けた。

「島田、どう見る」

「やはり、ここに精鋭を集めてきたようですね」

「動きが良いな」

「はい」

官軍の動きは、予想していたよりも数段速かった。兵一人一人の動きが機敏で、ほとんどの兵が銃を構え照準を合わせている。

歳三達が現れて十分程しかたっていないが、既に迎撃体制を整え終わりそうだった。

「騎馬に間隔を作れ。前後左右の者と、二十歩以上は開けろよ」

これで、官軍からは平原の中に消えたように映るはずだ。薩摩が天下に誇る大砲も、効果は半減する。

だが、二千の銃口が有ることには変わりない。歳三は自然と涌き出てくる生唾を飲み込んだ。
風が草原を撫で、太陽の光が流れるように映った。

法螺。空に鳴り響いた瞬間、歳三はさらに騎馬を広げた。同時に、山肌から地が割れるほどの轟音が爆発した。

大地に二千の弾丸が突き刺さり、土が巻き上がる。百騎のうち、五、六騎が馬上から消えた。

「もっと広がれ。もう少し耐えろ」

片手で馬を操る伊庭などにはかなり過酷な動きだろうが、斟酌する余裕は無い。

歳三は、騎馬を目まぐるしく動かしたが、それだけで犠牲を出さないことは不可能だ。さらに八騎が落ちたとき、官軍が動き出した。

左右に四百ずつ。

歳三を囲むように、平原に降りてきた。そして追い討ちをかけるように、歳三達の背後から、どこからともなく五百程の歩兵が現れていた

吊り野伏せ。指揮官は間違いなく薩摩の人間なのだろう。薩摩が得意とする戦術に間違いなかった。

左右、後ろの敵が完全に歳三達を包囲した。逃げ場が無い。

それを見て、歳三は思わず笑いが込み上げてきた。

全て、想定通りだった。

「島田、今だ」

鐘の甲高い音が、高らかに響いた。

その瞬間、歳三は馬腹を思いきり蹴った。山を駆け登りながら、騎馬を小さく固めた。左右と後ろにいた官軍が、つられるように動き出す。

歳三は兼定を抜き放ち、水平に構えた。

敵の指揮官には暴挙にしか見えないだろう。包囲の中に、飛び込んでくる阿呆だと。

「その通りだ」

歳三が叫んだ時、敵の本陣から大きな喚声が上がった。十字紋が大きく揺れた次の瞬間、敵全体に混乱が走り抜けた。

瀧川だった。

歳三が陽動を受け持ち、瀧川の五百が挟み撃つ。どんなに小数だろうと、官軍は新撰組土方歳三を無視出来ない。歳三の策が完全に決まっていた。

遮る敵を蹴散らし、歳三は一際大きな旗の元に座る男に向かって駆けた。

度胸のある男なのだろう。抜刀し、馬上の歳三を憎悪の眼差しで睨み付けてきた。

すれ違う。

敵の剣筋がはっきり見えた。届かない。見極め、歳三は兼定を一閃させた。手応えは、ほとんどなかった。

駆け抜け馬首を返したとき、首を失った男はゆっくりと倒れていた。

味方の歓声が轟いた。

「伊庭、後は任せた」

伊庭はすぐ横を駆けていた。

伊庭の子天狗、最後の闘いを見せてやれ。手綱を口で噛み締め、隻腕で剣を振るう侍に、歳三は決別を告げた。

伊庭が力強く頷いたのを合図に、歳三は騎馬を反転させた。従えるのは新撰組の三十名程。誠の旗は、再び伏せた。

「決着は正午だ。餌は五稜郭。島田、全軍に通達。徐々に負け、少しずつ兵を伏せよと。集結地は一本木」

「分かりました」

官軍が勝つ手段は、歳三を討つか五稜郭を陥落させるかのどちらか。歳三は既に降伏を決めている五稜郭を、囮にするつもりだった。

函館山に現れた新撰組副長と本丸五稜郭。

敵の参謀黒田並大抵の智者ではない。この二つの陽動にも、その真意に気付くかもしれない。だが、たとえ気付いたとしても、黒田は兵力分散を止めることは出来ない。

この策の狙いは、黒田清隆などではないからだ。

同朋を殺戮された薩長の、土方憎しという感情。

そして蝦夷での官軍の主攻を担うのは、当初官軍と徹底抗戦をしていたにも関わらず、幕府に裏切られた奥州連合の諸藩。明治政府の歓心を買うため、五稜郭を無視することは出来ない。

その二つの感情が、歳三に見えた隙だった。

それで、黒田の本陣は二千程度まで減らせるだろう。こちらは、七、八百は集まる。まともなぶつかり合いならば、こちらは幼少から戦闘に明け暮れてきた幕府の正規軍。兵力差による有利不利は、ほとんどなくなる。

平原を駆ける途中、遠くで函館山に向かっていどする部隊が見えた。一瞥し、歳三は背を伏せた。
一本木に到着した時、そこには既に二、三百の兵士が集まっていた。

小さな関門がある。板も日に焼けて黒ずんでいる。建てられて随分と経っているようだが、所々新しい箇所があった。旧幕府軍が攻めてくるという情報を得た松前藩が整備したのだろう。

戦乱を、壁で分断する。

人が平穏を守るために編み出した知恵でもある。だがそれも、今日でその役目が終わる。敗者という立場であることが心残りではあるが、この戦争が国内最後の戦になるだろうということが歳三にも分かっていた。

明治政府は過去千数百年無かったような新しいものを造り出そうとしている。そして、その仮想敵はもはや国内ではなく、海外の強大な国家になる。幕末の動乱の終焉が意味するものが、時代の波に揉まれてきた歳三には見えていた。

関所の柱に繋げた黒馬の前に立ち、歳三は市川が運んできた握り飯を頬張った。かすかに塩の味がする。

三十分待つ間に次々と味方が増えていき、歳三の予想以上に集まっていた。千余はいそうだった。
時間が速かった。懐中時計の短針が十二を指したのを見て、歳三は腕組みを解いた。そして、少し離れたところに立っていた市川を呼び寄せた。

「鉄、今日までよくやった」

歳三はほとんど人を誉めない。それを知っている市川が、緊張したように背筋を伸ばした。

「これが最後の命令だ」

「はっ」

「この伝令書を榎本に届けてくれ。ここから五稜郭まで早馬で行け。戦はすぐに始まる。届けたら直ちに戻ってこいよ」

直立して頷き、市川は駆け出していった。市川が馬に飛び乗った時、島田がすぐ横に立っていた。

「最後まで憎まれ役なんですね。副長は」

「近藤さんの意思だからな」

「その台詞も、ひねくれている副長らしいですよ」

「言ってろ」

茶化すように言う島田から顔を背け、歳三は舌打ちをした。

出陣前、歳三は榎本に頼んでいた。この時間に市川を五稜郭に行かせる。そこで市川を拘束してくれと。どれだけ憎まれようと、少年のうちは死なせないという近藤の意思を破るつもりは無かった。

市川の事を頭から振り払い、歳三は騎乗した。

それを合図に、全兵士が立ち上がる。

函館山と五稜郭から、伝令が来ていた。共に敵が集中し始めたというものだった。頃合いだった。今を逃せば、もう官軍本陣を衝く機会は無くなる。

進発。

島田の号令に、全兵士が力強く頷いた。

歩兵も全力で駆けさせた。時が命の急襲。見つかれば、それだけ函館山や五稜郭に分散した敵が戻ってくるのが速くなる。市街地を縫うように駆け、歳三はその先頭を駆けた。建ち並ぶ民家には、人の気配は無い。

市街地を抜けた時、平原が広がった。目の前には小高い丘。そこを越えれば、官軍の本陣がある。
一気に駆け抜けた。

「島田」

「ここに」

丘の頂上で馬を竿立ちにし、歳三は兼定を抜き放った。

やはり、最後に相応しい。眼下に広がる官軍二千の銃口が、歳三目掛けて構えられているのを見て、そう思った。

やはり、黒田清隆は読んでいた。その上で引くことはせず、真っ向からぶつかろうとしている。

「侍だな」

呟き、歳三は目を細めた。

官軍は両翼がやや飛び出している横陣を敷いている。十字紋はその中央で風にはためいていた。
旗には力がある。

歳三は傍に寄せてきた島田に頷いた。旗。割れんばかりの島田の号令が響く。

誠の旗が高々と上げられた。

その瞬間、味方からは天地を揺るがすような歓声が上がり、敵にも大きなどよめきが上がった。

「これが、俺達が戦い抜き、手にしたものかな」

味方の士気を最大にまで上げ、敵を恐怖に突き落とす。それが、誠の旗の持つ力だった。

あんたと共に作り上げたものだぜ、近藤さん。歳三は近藤に話しかけていた。

これが、この国で誠の旗が上がる最後だ。

「小細工はいい」

これで、最後だ。

遠くに紺碧の海が見えた。風が強い。真っ青な空を行く雲は、信じられないほどに速かった。

兼定の切っ先を、太陽に重ねた。

日野に産まれ、近藤達と出会った。浪士組の参集、離散。誠の旗に、新撰組を造り上げた。そして京を血に染め、奥州に戦火を拡げた。

走馬灯。瞼の裏で、鮮やかに駆け巡った時、歳三は目を開けた。

兼定を、振り下ろした。

「全軍、突撃」

腹の底から叫んだ。雄叫びといってもいい。

刹那、敵味方の喚声をかき消すほどの銃声が轟いた。見渡す限りの大地が目くれあがり、霧散する。

敵までは四半里もない。下り坂の勢いも伴って、歳三は風を追い抜くほどに加速した。

全てが鮮明だった。

飛来する鉛の弾が、全て見えた。躱すともなく躱し、当たりそうなものは兼定が切り落としていた。銃を構える敵の表情が、はっきりと見えた。怯えている者、怒り狂う者、冷静な者。

三度呼吸した時、歳三はすぐ真下に敵を捉えていた。

延びてくる無数の銃剣が、不意に舞い上がった。無意識に兼定が動いていた。血の雨が舞う。兼定の切っ先から伸びた、赤い一条の筋が地に落ちた。

その瞬間、歳三の背後から大きな衝撃があった。全兵士が、渾身の力で突っ込んできていた。
新撰組がいた。

誠の旗を掲げた騎馬が、不意に歳三の前に出た。島田魁。三十騎が、一丸となって十字紋に向かって駆け出した。

敵の歩兵が、波に飲まれるように薙ぎ倒されていく。

十字紋まであと一息。

そこまで迫った時、騎馬の勢いはかなり減っていた。刹那、騎馬が弾けるように左右に別れた。
道が出来た。

十字紋までの、一本道。そこだけ、まるで戦闘が停止したかのように静まり返っていた。

道の途中、島田が誠の旗を高く掲げている。ゆっくりと騎馬を進め、歳三は島田の前に出た。黒田清隆だろう。猛々しい男がいた。

華々しい舞台じゃないか。

俺が死ぬには勿体ないほどに華々しい。闘いの中で死ねる。侍として、これ以上の誉れはあるまいよ。

誠の旗を一度だけ見上げ、歳三は敵を見据えた。

今、行く。

「新撰組副長土方歳三、参る」

叫び声が風に紛れた時、歳三は光の中に駆け出した。
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みんなの感想(1件)

堅他不願(かたほかふがん)

 新撰組最後のいくさ、しかと読み届けました。

解除
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