平安少女は異世界の夢を見る

とうちゃんすらいむ

文字の大きさ
21 / 23

二十一話 私は果報者ですね

しおりを挟む
そんなたえに向かって、仲間に抱えられた男は、弱々しい声で呟きます。

「な、なんで…そんなに強いんだよ…」
「いいえ、私は強くはありません。ただ、貴方の心が弱かったのでしょう」

男の使い込まれた剣を見て、剣圧を感じて見て、恐らくまともに攻撃を受ければ無傷ではいられなかったはず。ただ、男の心の弱さにつけこんだずるい女が勝っただけと、満身するどころか逆に虚しさがこみ上げ、たえはとぼとぼとチカの方に歩いていきます。

「つまらない試合を見せてしまい、申し訳ありません…」

先程の剣幕とはうってかわって、しょぼんとした表情のたえに、怪我がなくて本当に良かったよ!と飛び付いたチカ。

戦い始めたたえの剣幕に、かなり驚いてしまったのでしたが、最後に大声で叫んだ言葉にたえの優しさを感じ、やっぱりたえさんは優しい人なんだなと改めて実感しました。

そんな中、賭けとは別にたえの容姿や装備に興味を示し集まった冒険者が、遠慮しながらたえに声をかけます。

板を紐で結び、段違いにして留めている肩当てや、胴の部分に描かれている和の模様…たえの大よろいには散る桜が描かれています…急所や足を守るためのひれたいなど、こちらの世界では見られない仕組みを質問する冒険者達。

その方たちに対して、大よろいを脱いで見てもらったり、反対にそんな冒険者の方たちが着ている皮や鉄の鎧を借りて着てみたりするたえを見て、年上の冒険者は装備屋のよい情報をくれたり、同じくらいのランクの冒険者達にはパーティへの勧誘をもらったりして、チカにひやひやされたりしました。

そんな冒険者の皆さんにお礼を言いながらも、今は恩人のチカと共にいろいろな事を経験したいので…と遠慮しながら断るたえに、機会があったらよろしくな!と握手を求める冒険者に、やっと慣れた握手で答えるたえ。

不快な思いをし、八つ当たりぎみで力をふるいましたが、これからは自分ではない誰かのために戦おうと心に決めたたえでございました。

そんなたえが次に思ったのが、大よろいの事。

父の形見である大よろいを着て、それなりに戦いましたが、正直自分の身長や体型にあってなく、動く度にからんからんとなる肩当てや、ひれたいが気になっていたところでしたので、こちらの世界の冒険者の方々の装備に興味を示していました。

先程いろいろな方の防具を借りていろいろ具合を見てみたのですが、一長一短あり、どうにも決められないので悩んでいたたえに、チカからオーダーメイドを勧めるチカ。

自分だけの装備と言うことにかなり興味を示したものの、金銭がかかるのでは?と難色を示したたえに、ぐふふふと悪うチカはさっき稼がせてもらいましたからと言い、手元にあった札束をたえに見せました。

「たえさんの装備のためならいくらでも使いますよ!ただ、ちょっとだけデザート食べたいんでそっちにも使わせて下さいね!こんなチャンスなかなかないんでヘソクリ全額投入して本当に良かったよ…ホントありがたや~ありがたや~」と拝んでいます。

「私がチカさんを拝んだことはありましたが、まさか私が拝まれることになるなんて変なものですね」

そう言いながら、何故かわからないけど役に立ったことがわかって笑顔になったたえは、周りに人が徐々にいなくなっているのを見て、もはやここに用はないだろうと練習場を後にします。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

賭けに負け、しょぼんとしている冒険者達を横目に見ながら、たえとチカはとある一軒のお店に足を運んでいました。

トンカチを交差させたデザインの看板を目印にして中に入ると、中から「らっしゃい!手が離せないから適当に見てくんな!」と奥のほうから声がしました。

店番もいなくて大丈夫なのか?と余計な心配をするチカは一応奥に向かって声をかけ、たえの装備を見繕おうとし、周りを見ます。

武器防具屋と言ったこのお店は、主に中古の武器防具を取り扱っていますが、必要な箇所を丁寧に直しているため新品同様の機能をし、なにより安いと評判らしく、冒険者ギルドにいた冒険者に強く勧められた場所。

機能的には全く問題ない綺麗な装備品を見て、たえに合わせていたところ、奥から出てきた店主と思われる方を見て、たえは頭を下げます。

「声を聞いてもっと若い方かと思いました」
「いやいや~俺まだ30代なんだけどな…」
「あ、たえさん、この方ドワーフなんですよ。元々、若くてもずんぐりむっくりで、髭もふさふさな逞しいご老人のような容姿なんですよ」

そう説明され納得するたえは、改めて自分の装備品についての相談をし始めようとしたところ、目の前のドワーフに大よろいを凝視され戸惑いを隠せません。

ふむふむうんうん言いながら、何やら考えこんでいたドワーフは、急にたえに向かって「装備一式貸してくれないか?悪いようにはしないからさ」と頭を下げてきました。

店頭に並ぶ丁寧な仕事がされた装備品と、真剣な目をした目の前の人物を見て、信用足る人物と思ったたえは、亡き父の形見であることを言いながら大切に扱う事を条件に貸す事を決めまして、一度宿に帰る事にしました。

一応と言うことで借りた防具は、兵士ガンと同じような鎧だったため、まるで兵士の方見たいですねと笑いながら歩くたえの後ろを、何やら確認しながら歩くチカの手には、しっかりとした契約書がありました。

「たえさんはホントお人好しなんだから…わたしがしっかりしないとね」
「本当に頼りになりますね、ありがとうございます。チカさん。」

そう言いながら笑うたえとチカ。

こちらに来てまだ間もないけど、良い人たちに囲まれ私は果報者だなと、赤く染まりかけた空を見て思うたえでした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...