平安少女は異世界の夢を見る

とうちゃんすらいむ

文字の大きさ
22 / 23

二十二話 十二単でそわそわ。私も女ですから…

しおりを挟む
「あの女半端ないって!大剣振り上げる前に肩打ち抜くってどういう事?そんなんできひいやん!信じられへんわ!!!!!!!」

帰り道の一角の酒場からそんな声が聞こえてきましたが、気のせい気のせいと通り過ぎる女二人は宿に向かって歩いていきます。

夕暮れから夜になるにつれ、食事や酒を用意する場所が増え、徐々に賑やかになる風景を楽しそうに見ながらにこにこしているたえを見て、チカも楽しそうにしています。

「このようないとおかしな風景。チカさんが私を見つけてくれなかったら見れなかったのでしょうね」
「ん?ここってそんなにおかしい風景なの?たえさんの住んでた場所ってどんなんだったのかな?」
「いえいえ、私の田舎にはこのような賑やかな場所はございませんでした。毎日働いて疲れて寝ての繰り返しでございましたので、この様に毎日を楽しく生きようとしている人達が沢山集まる風景は、私にとってとても貴重で珍しく、そしてとても楽しい風景なのですよ」

田舎から出てきて、木曾の義仲様と一緒に都に入った当初、都というところはどういったところなのだろう?と心を躍らせていたのですが、実際のところ、食うに困る方々がそこら中にいる状態。そして自分たちも何もない状態だったため、いろいろな場所から食料を強奪と言ってもいい行動で得た平安時代の事を思い出し、もうあの頃のような悲しい事は見たくないと思うたえ。

出来る事ならこの夢は冷めて欲しくないと思いながら、隣のチカとだらだら話しながら宿に着くと、さっそくおかみさんに声をかけられる二人。

「たえちゃん!たえちゃんにお客様来てたんだけど、冒険者だから帰りがわからないって言ったら、これお礼にって渡してくれたのよ。どうしようかねぇ?」

そう言いながらおかみさんが指さす先を見ると、食事処に置いてある箱にこれでもか!と言わんばかりに積んである野菜の山がありまして、たえは思わず目を輝かせます。

「お野菜がいっぱいでございますね!このように美味しそうなお野菜は皆で一緒に食べるのが美味しい事でしょう。もし宜しければ、このお野菜を使って何かお料理を作ってくださると嬉しいのですが、いかがでしょうか?」
「いいのかい?みんな!今日のご飯はたえちゃんが貰った野菜沢山の料理だよ!お礼言いなよ!」

そう言うおかみさんの言葉に、周りの冒険者達から「「ゴチです!」」と返事があり、いつの間にか食堂に人の輪が出来、気が付けば冒険者同士の交流会のような形になってしまいました。二人はちょっと戸惑いながらも楽しい時を過ごすことが出来たので、明日にでもお礼を言いに行こうと思ったたえでした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

自分の部屋に帰り、なんとなく行李を見たたえは思わずああっ!と声をあげました。
その声に驚いたチカが近くに寄ると、行李の中には何やら何重にも重なった色鮮やかな服があり、出会ってから見たことの無いようなそわそわしてとても可愛らしい表情をしたたえに戸惑うチカ。

「たえさん?この綺麗な色の服って・・・全部たえさんのなの?」
「いいえ・・・私が一時お借りした行李の中には最初小袖の着物しか入っていなかったのですが、先ほど見てみたら、十二単がありましたのでとても驚いてしまいまして・・・・本当にすいません」

そう言いながらもどこかそわそわしているたえに、遠慮しながらも着たいんだろうなぁ~と察し、チカはきちゃえきちゃえ~!!と十二単を行李から取り出します。これは私へのご褒美なのでしょうか?とぼそぼそと言いながらも、一人で着れないと言い、たえはチカにお手伝いをお願いすることにしました。

白い下着代わりの着物に赤いはかまをはき、単(ひとえ)という裏地のない着物を着る。
そのうえから少し小さな単を何枚も重ねて着ていくにつれ、重なった場所が美しく重なっていくのを手伝いながら、たえが徐々に美しくなっていくのを見て少し羨ましくなってしまったチカは、たえさんは綺麗だから羨ましいとこぼしました。すると、たえは驚いてあたふたしはじめました。

「私は日ノ本の国では、日に焼け肌が黒く、目が大きく、顔が細かく口が大きかったので、日ノ本の貴族の美しい方々とは逆に醜女と言われることがあったくらいなのですよ。私は自分の顔に自信などありませんし、こんな私の事を受け入れてくれている方々は本当に心が広い方なのだと感謝してもしきれないくらいなのです」

そう言いながら、最後に渡された扇子を手にうっとりとしながら、やっと慣れた鏡を見ていたたえは、自分には勿体ないからと十二単を脱ごうとしましたが、ちょっと待って!というチカの剣幕に推され、少し待っていたところ、おかみさんや同じ宿に住んでいた女性冒険者たちが押し寄せ、見たこともない姿のたえに賛美の声をあげました。

綺麗!

かわいい!

そんな言葉を聞きながら、気が付けば涙が流れていたたえは、自分にも女というものがあったのだなと思い、それに気が付かせてくれたチカに改めて感謝をしながら、抱き着き涙しました。その後、二人の部屋では女性冒険者&おかみさんが十二単を着たり、最近のファッション事情などを話したりと、女性同士の話に華が咲くことになりました。

冒険者だけど女ですもの。

少しだけ、おしゃれもしたいし、可愛いものも好きですから、そんな話をするのも悪くないんじゃないかな?と一緒にいた女性冒険者に言われて、改めて自分が女なんだなぁと思ったたえは、重ねた十二単のシルエットの美しさにも感謝するのでありました。



※十二単と言っても実際に十二枚着た訳ではないみたいですね。
ただ、重ね着という事もあり、総重量は軽く10KGはあったそうですので、どの時代の女性もオシャレには気合を入れていたのかな?と思った作者です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

唯一平民の悪役令嬢は吸血鬼な従者がお気に入りなのである。

彩世幻夜
ファンタジー
※ 2019年ファンタジー小説大賞 148 位! 読者の皆様、ありがとうございました! 裕福な商家の生まれながら身分は平民の悪役令嬢に転生したアンリが、ユニークスキル「クリエイト」を駆使してシナリオ改変に挑む、恋と冒険から始まる成り上がりの物語。 ※2019年10月23日 完結 新作 【あやかしたちのとまり木の日常】 連載開始しました

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

処理中です...