もしも、夏休みの課題が「ドラクエのゲーム感想文」だったら…

hotelmo

文字の大きさ
43 / 45
本編

LEVEL40 / キーパーソン

しおりを挟む
 8月23日。勇斗達のゲーム感想文の合宿が行われる日であり、その日の午前中は学進ゼミの3回目の授業がある。

 お盆を過ぎても相変わらず暑い日が続く。最近のニュースといえば、政治とか経済とかよりもむしろ、猛暑を扱った天気のニュースの方が多い気がする。


 「今日、合宿でしょう?」

 朝8時。あまりの暑さに、朝からアイスキャンディーに手を伸ばす勇斗に対し、美香が尋ねる。

 「そう。でも、その前に塾があるから」

 ゲーム感想文を何とか終わらせたい一心で、学進ゼミの体験入学を「直談判」してから10日が経過した。そしてその間、何もかもが目まぐるしく変化した気がする。


 勇斗はもはや「どこにでもいる生徒」ではなかった。学校の教師は彼の「ゲーム感想文」の完成度に賭けているし、塾もまた「自分達の塾の広告塔」である。

 むろん、本人はそのことにまだ気付いていないのだが……


 ▽

 午前9時50分。勇斗は「いつもの」授業を受けるため、学進ゼミ虎ノ口校に到着した。

 (まだ3回目なのか。というより「もう3回目」なのかな)

 よく考えてみれば、ここの授業はまだ2回しか受けていない。当初の約束は「4回か5回」だったから、実際には半分の予定も消化していないことになる。

 
 ――これ以上、教わる事ってあるんだろうか?

 実際に2回の授業で感想文は完成させることが出来たし、合宿でも過去2回、杉田から教わった内容を教えるつもりだ。

 それに、夕方から夜にかけて合宿があるのだから、なるべく今日の午前中~昼間はゆっくり休んでおきたかったという気持ちもある。


 「おはよう」
 「おはようございます」

 午前10時。いつもの教室に杉田が入ってきて、3回目の授業が始まる。

 
 「さて、何を教えようかな……」

 やはりそうか、と勇斗は思った。おそらく自分は「予想よりも早く」カリキュラムの内容を消化したのではないか?つまり「4回か5回」というのは、1回の授業で理解できなかった場合を想定した「おまけ」だったのではないだろうか?

 
 「あ、そうそう。龍崎、お前合宿やるんだよな」
 「ええ、実は今日の夕方からなんですよ」
 「えっ、今日なの?」
 「今日ですけど何か?」

 予想以上に驚く杉田の反応に、勇斗は逆に驚かされた。

 確かに、杉田には合宿が決まりそうという内容の電話で話した。

 ……そういえば、具体的な日程までは話していない。

 
 「で、どこでやるんだ?」
 「学校ですよ」
 「学校? マジかよそれ! 」

 ――何をこの人は一体、そんなに驚いているのだろうか?

 むろん、勇斗は学進ゼミナールでスタッフミーティングが開かれており、自分が「トロイの木馬」という役割を与えられようとは夢にも思っていない。

 
 「最初、友達の誰かの家でやろうと思ったんですよ。でも、友達の親が学校に連絡したら、学校の先生が学校を使っていいって言うんで」

 杉田にはそれが信じ難い内容らしく、

 「本当にそうなのか?」
 「本当って、嘘を言ってどうするんですか?」
 「で、何人くらい参加するんだ?」
 「えっと、確か7人です。自分も入れて」
 
 全て事実である。学校で合宿をすることも、そして自分も含め7人の人間が参加することも。

 
 「一体どうなってるんだ?」

 合宿の話をしたとき、何故か玉野から電話がかかってきて「学校を使ってもいい」という。

 そして今日、杉田には以前にも合宿の計画を話したにもかかわらず、いざ正式な日程と場所が決まった途端に「本当なのか?」と尋ねてくる。

 まるで自分の感想文の内容次第で何か問題が発生するのではないか、とでも言わんばかりの雰囲気に、勇斗は不信感すら抱くようになっていた。

  
 「まあ、この際だから言っておくけどな」
 「何ですか?この際って」
 「お前な、結構有名になってるんだよ」

 有名になっている……稔からも言われたことだ。

 どうやら自分がゲーム感想文を書けたということに対して関心を示している人間がいるらしい。

 確かに、当初は簡単だと思っていたゲーム感想文が実は難しくて、それでほとんどの生徒が終わっていない。

 それだけではない。ゲームに興味を示さず、勉強に励んでいる。「本来、優等生であるはずの」生徒が、課題の内容が書けないために「落ちこぼれ」に転落する危機さえ感じているのだ。


 「まあ何かな、いわば「キーパーソン重要人物」って奴だよ」
 「キーパーソン……ですか?」

 おそらく杉田の言っていることは事実だろう。

 自分が合宿の内容について「事実」を言った。そして杉田も含め、大人達も勇斗に対して今、事実を言ったのである。


 「そう。今のお前はもう、「普通の生徒」じゃないんだよ」

 普通の生徒じゃない……その言葉は勇斗にとって、良い意味なのか悪い意味なのかは理解できなかった。

 ライトノベル等によくある「異世界いせかい転生てんせい」ってわけじゃない。にもかかわらず、自分が何か特別な存在のように扱われているような気がする。

 
 「どういうことですか?それ」
 「皆、お前に注目してるってことだよ」
 「注目って、一体何ですか?」
 「ゲーム感想文を存続すべきかどうか」

 つまり、自分が如何にして感想文を書けるようになったか。そして、その方法は他の生徒にも当てはまるのかどうか。

 その内容次第でゲーム感想文という「実験的な課題」の存続意義が問われる状態になっているというのである。


 (何か大変なことに巻き込まれてないか?)
 
 大人達の中心に一人の少年がいて、彼を中心にストーリーが回っていく……小説や漫画の世界ならば「主人公の俺カッケー」と喜ぶことも出来るだろう。

 だが、今の勇斗が評価されているのは戦闘力や魔力といったものではない。あくまで「感想文の内容」だ。
 
 それは期待されている反面、彼の感想文の内容が悪ければ「失敗作」として扱われてしまう可能性もあるというのを意味する。

 
 「だからさ、こうなった以上は感想文を完璧に仕上げたい」
 「完璧……ですか?」
 「そう。「龍崎」じゃなくて「龍崎」になるんだよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...