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第一章 第二王子との出会い
10.私の名前
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実を言うと、アルベルトがずっと私の名前を呼ぶのを避けていたことは、なんとなく気づいていた。
……私を呼ぶ時に一瞬言葉を詰まらせることが何度かあったし。
本人は自然に見せていたみたいだったから、私も便乗して気にしてないふりをしていたわけだが。
だけど、アルベルトの質問の意図が分からなかった私は、どう答えようか悩んでしまう。
これで下手なことを言って、知られたくないことまで知られてしまったら……。
そんな不安があったからだ。
「……その反応は気づいてたみたいだね。」
やはり策士と言うべきか、アルベルトは私が黙り込んだのを見て、確信したようにそう告げた。
「はい、気づいてました。」
その顔を見て観念した私は正直にそう答える。
アルベルトは満足そうに頷くと、「どうしてだと思う?」と戯けたように聞いてきた。
クロエの名前を呼ばなかった理由……。
そんなの、姿が変わって別人だと思ったからなんじゃ……?
そう思ってアルベルトを見ると、いかにも何か企んでますと言うような笑顔を浮かべていることに気がつき、これは違うなと考え直す。
なら、どうしてだろう。
アルベルトの前で姿が変わったのだから、私=クロエだと言うことはわかっているのだろう。
それに、王族であるアルベルトは転生についても知っていたはずだ。
あっ、それなら……。
「転生者だと思ったから?」
だから、クロエだと言わなかった、とか。
アルベルトは転生者が中身と外見が違う人だと理解している。
それで外見が変わった私にそのまま同じ名前で呼ぶのを避けたのかもしれない。
「そうだね、それもあるよ。……でも1番は、君がせっかく再スタートを切ろうとしているのに、クロエとして縛り付けることにならないか、不安だったからだよ。」
だけどアルベルトはそう言うと力無く笑って、その表情を誤魔化すように、ぽんっと私の頭に手を乗せた。
いわゆるアルベルトに頭ポンポンをされている状況なので、普段の私なら絶対赤くなって固まるだけのはずだった。
だけど、それよりも言葉の方に注目していた私は、ビックリして思わず問いかけた。
「そんなことを気にしてくれてたんですか?」
だって、あんなに意味深な質問投げかけといて、まさか私に気を遣って名前を呼ばなかったなんて誰が想像できるだろうか。
しかも言ってから後悔したのか、少し恥ずかしそうに口元を抑えているのも、なんだか可愛く思えてしまう。
「そうだよ。だから、別に何か意図して呼ばなかったわけじゃないってことを知っておいて欲しくて。……嫌われたく無いし。」
最後の方は小声で聞き取ることは叶わなかったが、アルベルトは少し不貞腐れたようにそう言った。
その顔を見て、自然と笑みが溢れてしまう。
……あぁ、やっぱり。
やっぱりアルベルトになら言っても大丈夫だ。
ここまで私のことを考えてくれて、本音を口に出すの得意じゃないのに、私が不安にならない様にちゃんと伝えてくれて……。
多分、私が名前のことを気にしてるのに気づいていたんだろうな。
それで敢えて話題に出すことで、私の気持ちを知って、嫌がったら止めるつもりだったのだろう。
そんなアルベルトの優しさに私は何度も救われた。
だから私も、大丈夫だって思えてしまうんだ。
そうだよね、一度失ったからなんだって言うんだ。
私は転生して、魂はその時と変わらないままだ。
だから、私はずっと……私の名前はずっと、
「私の名前はい……いえ、沙羅です。」
つい癖で名字を言っていまいそうになったが、すんでの所で止めて名前だけ伝える。
だって名字は前世の家族とのもの。
この世界にはないものなのだから。
それにこれは、私が人生をやり直すっていう決意を込めたものでもある。
前世のようには絶対にならない、そんな意味も込めて名字は名乗らないことにしたのだ。
この世界ではただの沙羅として、第二の人生をスタートさせるんだ!
「さらちゃん、か。改めてよろしくね。」
『名前もかわいい。俺と結婚したら、サラ・ホワイトになるのか。』
アルベルトは幸せを噛み締めるように何度も私の名前を心の中で呼んでいる。
……私の名前って、なにかの呪文だっけ?と思ってしまうくらいには唱えているアルベルトを呆れながら見つめていると、不意に目が合ってしまった。
するとさっきまでの真剣さはどこえやら、ふっと愛おしそうに微笑んで、どうしたのか尋ねてくれる。
そんなアルベルトの様子を見て私は確信してしまったんだ。
…——ああ、きっともう後戻りはできないんだって。
……私を呼ぶ時に一瞬言葉を詰まらせることが何度かあったし。
本人は自然に見せていたみたいだったから、私も便乗して気にしてないふりをしていたわけだが。
だけど、アルベルトの質問の意図が分からなかった私は、どう答えようか悩んでしまう。
これで下手なことを言って、知られたくないことまで知られてしまったら……。
そんな不安があったからだ。
「……その反応は気づいてたみたいだね。」
やはり策士と言うべきか、アルベルトは私が黙り込んだのを見て、確信したようにそう告げた。
「はい、気づいてました。」
その顔を見て観念した私は正直にそう答える。
アルベルトは満足そうに頷くと、「どうしてだと思う?」と戯けたように聞いてきた。
クロエの名前を呼ばなかった理由……。
そんなの、姿が変わって別人だと思ったからなんじゃ……?
そう思ってアルベルトを見ると、いかにも何か企んでますと言うような笑顔を浮かべていることに気がつき、これは違うなと考え直す。
なら、どうしてだろう。
アルベルトの前で姿が変わったのだから、私=クロエだと言うことはわかっているのだろう。
それに、王族であるアルベルトは転生についても知っていたはずだ。
あっ、それなら……。
「転生者だと思ったから?」
だから、クロエだと言わなかった、とか。
アルベルトは転生者が中身と外見が違う人だと理解している。
それで外見が変わった私にそのまま同じ名前で呼ぶのを避けたのかもしれない。
「そうだね、それもあるよ。……でも1番は、君がせっかく再スタートを切ろうとしているのに、クロエとして縛り付けることにならないか、不安だったからだよ。」
だけどアルベルトはそう言うと力無く笑って、その表情を誤魔化すように、ぽんっと私の頭に手を乗せた。
いわゆるアルベルトに頭ポンポンをされている状況なので、普段の私なら絶対赤くなって固まるだけのはずだった。
だけど、それよりも言葉の方に注目していた私は、ビックリして思わず問いかけた。
「そんなことを気にしてくれてたんですか?」
だって、あんなに意味深な質問投げかけといて、まさか私に気を遣って名前を呼ばなかったなんて誰が想像できるだろうか。
しかも言ってから後悔したのか、少し恥ずかしそうに口元を抑えているのも、なんだか可愛く思えてしまう。
「そうだよ。だから、別に何か意図して呼ばなかったわけじゃないってことを知っておいて欲しくて。……嫌われたく無いし。」
最後の方は小声で聞き取ることは叶わなかったが、アルベルトは少し不貞腐れたようにそう言った。
その顔を見て、自然と笑みが溢れてしまう。
……あぁ、やっぱり。
やっぱりアルベルトになら言っても大丈夫だ。
ここまで私のことを考えてくれて、本音を口に出すの得意じゃないのに、私が不安にならない様にちゃんと伝えてくれて……。
多分、私が名前のことを気にしてるのに気づいていたんだろうな。
それで敢えて話題に出すことで、私の気持ちを知って、嫌がったら止めるつもりだったのだろう。
そんなアルベルトの優しさに私は何度も救われた。
だから私も、大丈夫だって思えてしまうんだ。
そうだよね、一度失ったからなんだって言うんだ。
私は転生して、魂はその時と変わらないままだ。
だから、私はずっと……私の名前はずっと、
「私の名前はい……いえ、沙羅です。」
つい癖で名字を言っていまいそうになったが、すんでの所で止めて名前だけ伝える。
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するとさっきまでの真剣さはどこえやら、ふっと愛おしそうに微笑んで、どうしたのか尋ねてくれる。
そんなアルベルトの様子を見て私は確信してしまったんだ。
…——ああ、きっともう後戻りはできないんだって。
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