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篠宮は屋敷内の部屋へと運ばれた。フランツはこの館の前当主で篠宮とは旧年の知り合いだとエドワードにいった。フランツが表舞台を好まず、既に音楽祭のことは彼の息子にまかされていたということもありエドワードは初めてその事実を知った。
フランツはどちらかと言えば控えめであまり華やかな印象はなかった。息子のラヴランとは正反対だ。
「ノブコと出会ったのは三十年以上も前のことで……」
フランツは話し始めた。
「彼女もまだ若くてそれは美しかった……」
フランツは懐かしむように目を細める。
「彼女は学生で音楽祭を見に来ていた旅行者だった。私たちは互いに惹かれあい、彼女の滞在中は毎日のように会っておりました」
フランツはそこでエドワードを見た。
「だが……彼女はファントムと出会ってしまった」
エドワードは背に冷たいものを感じた。
「私はこの館の者ですからファントムの噂は幼い頃から耳にしておりましたが。まさか実在するとは思いもしておりませんでした 」
エドワードの緊張に反するように何故かフランツは笑っていた。
「ノブコの目にはもうファントムしか見えなくなってしまった。その日以来。そして彼女はスターの座を手にいれた」
フランツはしばらく間を置きそして再び語りだした。
「私は……彼女を待てなかった」
エドワードは何も言えずただフランツを見つめていた。
「私にはこの館を受け継ぐ義務があった。2年後、私は妻をとり跡継ぎもできた。妻は控えめでよくできた女性だった……彼女は私の心を知りながら、6年前にこの世を去るまで一途に尽くしてくれました」
フランツはエドワードをまっすぐに見た。
「私は彼女の望みがソプラノ歌手になることだと知っていたから……ファントムとの出会いを愚かにも喜んでしまったんですよ」
エドワードは微かにふるえる自分の体を感じながら初めて、静かに口を開いた。
「彼女も、……エイミも彼に?」
「おそらくは」
エドワードは速まる鼓動をどうすることもできなかった。
「彼女の夢を尊重するか自分の気持ちをとるか。よく考えてみるべきでした。代償は思った以上に大きかった……」
「ファントムの正体は何なんです?人間?それとも……」
「この屋敷が建った当初からその噂はあると聞きます。この世に数百年近く生きている人間なんて存在するものでしょうか。彼はまさしく幽霊ですよ」
エドワードは再び言葉をなくした。
フランツはどちらかと言えば控えめであまり華やかな印象はなかった。息子のラヴランとは正反対だ。
「ノブコと出会ったのは三十年以上も前のことで……」
フランツは話し始めた。
「彼女もまだ若くてそれは美しかった……」
フランツは懐かしむように目を細める。
「彼女は学生で音楽祭を見に来ていた旅行者だった。私たちは互いに惹かれあい、彼女の滞在中は毎日のように会っておりました」
フランツはそこでエドワードを見た。
「だが……彼女はファントムと出会ってしまった」
エドワードは背に冷たいものを感じた。
「私はこの館の者ですからファントムの噂は幼い頃から耳にしておりましたが。まさか実在するとは思いもしておりませんでした 」
エドワードの緊張に反するように何故かフランツは笑っていた。
「ノブコの目にはもうファントムしか見えなくなってしまった。その日以来。そして彼女はスターの座を手にいれた」
フランツはしばらく間を置きそして再び語りだした。
「私は……彼女を待てなかった」
エドワードは何も言えずただフランツを見つめていた。
「私にはこの館を受け継ぐ義務があった。2年後、私は妻をとり跡継ぎもできた。妻は控えめでよくできた女性だった……彼女は私の心を知りながら、6年前にこの世を去るまで一途に尽くしてくれました」
フランツはエドワードをまっすぐに見た。
「私は彼女の望みがソプラノ歌手になることだと知っていたから……ファントムとの出会いを愚かにも喜んでしまったんですよ」
エドワードは微かにふるえる自分の体を感じながら初めて、静かに口を開いた。
「彼女も、……エイミも彼に?」
「おそらくは」
エドワードは速まる鼓動をどうすることもできなかった。
「彼女の夢を尊重するか自分の気持ちをとるか。よく考えてみるべきでした。代償は思った以上に大きかった……」
「ファントムの正体は何なんです?人間?それとも……」
「この屋敷が建った当初からその噂はあると聞きます。この世に数百年近く生きている人間なんて存在するものでしょうか。彼はまさしく幽霊ですよ」
エドワードは再び言葉をなくした。
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