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勇者の孫にTS転生した。今更やり直しを要求してももう遅い
ローブをきたおんな
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迷宮の二周目は、一周目とは逆の布陣になった。地図を描く必要が無いので、シリオンが前衛に出ている。その隣にウルスラ。そしてトリスキスは後列から鎚矛を振り回すウルスラに攻撃の指導を入れて、トールはその隣で地図を片手にニヤニヤしている。前衛が魔法使いと(ほぼ)素人とか、無茶苦茶舐めプである。とはいえ、出て来る敵は殆どシリオンの魔法で黒焦げなので、舐めプするだけの余裕があるのも事実なのだが。
「やっ!」
『ガゴン』という音と共に、四つ足の動物姿をした機械の頭がひしゃげて動かなくなる。ウルスラの怪力と相まって、歯車の鎚矛は中々の威力だった。……ただし、当たれば…であるが。
後ろから指導してもらった上で、空振り4回の後にようやくヒットして、当たれば戦闘用っぽいアニマルドローンが一発擱座である。
(なんというか…えらく極端な『大砲』キャラだなぁ…)
などと他人事のように呆れてしまうくらい当たらない。最初から分かっていたことであるが。
分かっていてなんでこうなったかと言えば、何もしないで後ろを付いていくだけの迷宮探索が後ろめたく、トールに「何かできることない?」と言った結果である。「んじゃ、前に出て戦ってみろ」と言われたのだ。極端すぎやしませんかね?勇者様は。
まぁトールの記憶の中では、ウルスラはれっきとした剣士だったのだから仕方ない。命中率が低いのは、完全に『現在の中の人』のせいだ。いくら機械の身体がハイスペックでも、中の人に戦闘の経験どころか武道の心得すら皆無のうえ、運動神経がゼロなのでどうしょうもない。頑丈な身体と、シリオンが余計な敵は片っ端から燃やして1対1での戦闘になっているから、どうにか対処できている。
(明らかな経験不足をあんまり見せたく無いなぁ…絶対ボロが出るよ…)と思っていたらトリスキスがフォローを入れてくれた。
「目はいいんだけど…身体が付いてこない感じ?」
トリスキスが片目を瞑っていたので、ウルスラはありがたく乗っかって元剣士のはずなのにどうにも戦闘がヘタクソな言い訳をしておいた。
「真上から真下に振り下ろすだけでも、関節をどう動かすか考えなきゃならいからね」
実際のところは、繰り返し練習しておけば決まった動作ならある程度は思った通りに身体を動かせるようにはなりつつあるのだが、止まったマトならともかく相手が回避行動を取るとどうしようもなくなる。このあたりは経験がモノを言うので、経験0、喩えて言うならレベル1のウルスラでは無理もないのである。こうして少しは実戦を積めば、多少はマシになるかもしれないが、結局単なる寄生がパワーレベリングになっただけな気もする。しかもNEXT EXP がやたらと膨大だ。
「お、なんか出た」
擱座した機体が迷宮に飲まれると、何かの部品が出現した。シリオンが拾い上げて、宙に透かしたりひっくり返したりしながら鑑定しようとしている。
「人型かは判らんが、機械の身体の部品っぽいな」
「よしっ。わざわざ迷宮に来たんだからこうでないとな」
今更レアアイテムなんぞ収納の肥しでしかないトールが、妙に嬉しそうにしている。孫可愛さのあまりと言えばそれまでだが、それでもまぁウルスラも、嬉しそうなトールを見れば「来てみてよかった」と思えるのだから、成果は大事だ。
そんなこんなで、出てくる敵をシリオンが焼き払い、残ったのをトリスキスにフォローされながらウルスラがぺしぺし潰し、宝箱は罠なんぞ気にせずトールがカチ割り、パワーレベリングしながら地下2階を回っている途中でトールが後ろを振り向いた。
「どうやって入ったか知らんが、黙って付け回すとか行儀がなっとらんな。用があるなら姿見せろや」
平坦な声だがかなりの殺気が籠められていた。ややあって迷宮の薄暗がりからフード付きの外套を被った大小二人の人影が現れた。
「かなり強力な隠蔽をかけていたんだがね……さすが勇者というべきか」
小柄な体形の方がそう言った。子供の声のように聞こえる。
「岩人と森人か…珍しい組み合わせだな」
「チッ」
トールの後ろでシリオンが舌打ちをする。子供の声に聞こえるが、岩人には老齢の女性の声と判る。そしてそれだけでなく、明らかに聞き覚えのある声だったからだ。
「入口は監視されてるのに、どうやって入ったんだ?」
シリオンが忌々しそうに言った。
トールの言った通り、通常は探索中の迷宮に後から入るとことはできない。組合が迷宮を管理下に置くと、まず入り口に扉を作って封鎖する。その最大の理由は、探索者が勝手に迷宮に入らないようにするためだ。かつては、複数の探索小隊がバッティングしてトラブル(多くは殺し合いに発展する)が頻繁に起きた。それを防ぐためである。だから、突入中の小隊から救援要請がなければ扉が開かれる事はない。隠蔽の魔法を使っても迷宮には入れないはずだ(内側からも、所定の手順を踏まないと扉は開かない。万が一徘徊者が溢れた場合に少しでも足止めするためである)。だからこそ、鉢合わせしそうな競売には顔を出さずに迷宮に入る方を選んだのに、よもや岩人が迷宮に横入りしてくるとは計算違いもいいところだ。
「たぶん…隠蔽をかけて、迷宮の入り口から岩人と森人が出て来たように見せたんじゃないの?。シリオンとトリスキスがさも忘れ物でもしたように。で、しばらくしてから何食わぬ顔で戻り、入り口を開けて貰って入った…」
「あぁ、なるほど…」
ウルスラが前世の世界でありがちなトリックを言ってみたら、シリオンが関心したように頷いた。口調がどこぞの少年探偵っぽくなってしまったのは、見逃して欲しい。
ウルスラが解明したトリックにシリオンは肩をすくめる。シリオンとトリスキスは正体を隠すために目立たない外套をかぶっていた。それを逆手に取られた形だ。
「悪いなトール、こいつは俺案件だ」
そう言うとシリオンは、かけていたカバンを降ろしてトールの前に出た。この小柄な人影は自分の知り合いだ、用があるのはトールではなく自分のはずだ。
だが、トールは幾分渋い表情だ。
「今、お前ぇに居なくなられると困るんだがな」
「なら、誰何なんかしないで不意打ちして『迷宮の不審者』を始末しとくべきだったな。顔合わせちまった以上は、殺し損ねて逃がしたら面倒だ」
シリオンは、暗に自分が相手をしてもいいという姿勢を見せたトールに釘を刺す。分が悪い相手だというのは明らかだったが、トールに相手をさせる訳にもいかないのだ。自分の耳が確かなら、この人影は祖国の重鎮だからだ。仮にこの場を切り抜けても、万が一国家間のトラブルに発展してトールの屋敷…というよりは、ウルスラというこれ以上なく興味深い存在を手放す事になったら意味が無い。シリオンは(とはいえ、どうしたもんだかな…)と思いながらも人影と対峙する。
「<黄玉(トパーズ)の頭>が自らお出ましかよ、年寄は暇でいいな。それとも、<宝石箱>が口煩い婆さんに面倒を押し付けたのかい?」
岩人の国グラナイナダにおいて、<宝石箱>と通称されている議会の貴族院は、選帝侯会議も兼ねており(元首は帝ではなく王であるが)事実上の最高意思決定機関である。彼らは、終身刑から脱走したシリオンが只人に拘束された時点で、刑を永久追放に切り替えた。言うなれば只人に面倒を押し付けて知らんぷりしたのである。にも拘わらず今になって刺客を…しかも選帝侯の一人を送るという事は、何か大きな方針転換があったのだろうか。
「『元』だよ、頭の座は譲って来た。<宝石箱>とは無関係だ、隠居前に心残りを片付けておこうかと思っただけさ」
飄々とシリオンの嫌味を受け流し、小柄な人影は外套を脱ぎ捨てた。
地味な外套の下から現れたのは濃紺のローブだった。金糸で装飾が施され、全身に装身具が煌めいている。それを身に着けているのは、見た目は少女と言っていい。只人で言えば成人前の子供の姿だった。ただ、髪は只人には絶対に無い黄色だ。金髪ではない、透けるような黄色なのだ。そして見た目は少女であるが、シリオンと本人の口ぶりからすると、これでかなりの高齢という事になる。
(うわ、リアルロリババァだ…)
ウルスラがそう思った瞬間に、ギロリと睨みつけられた。
(げ、心の声が読めるのか?。マジ強キャラ、桑原桑原…)
ウルスラは、さりげなく横に動いてトールの陰に隠れる。
ババァが強キャラで、ロリババァはそれを上回る強キャラなのは、業界の常識である。そしてそれは、業界人ではないシリオンに取っても同様だった。
シリオンの顔がさらに険しくなった。
元<黄玉の頭>アイマスナーは、どちらかと言えば技術者肌の多い<宝石箱>の中では武断派で知られる。現役時代は魔導兵団の指揮官を務めていた魔女だし、現役を退いて選帝侯となった後も、兵団に強い影響力を持っていた。
そして、確かに全盛期は過ぎているが、隠居にはまだ早い歳だ。事実、今でもこの大陸の魔法使いでは上位十指に数えられる使い手である。にも拘わらず職を辞して、しかも現役時代の戦装束で来たという事は、<宝石箱>の意向に逆らう事を承知の上で、本気でシリオンを殺しに来たという事だ。
「散々やらかしたのは否定せんが、アンタにそこまで恨みを買うようなことしたっけ?」
身に覚えは山ほどあるが、シリオンも一応は保身した上でやらかしていた。天敵であるアイマスナーと魔法兵団に直接損害を出すような事はしていなかったはずだ。
「単にお前が気に入らないだけだよ。あたしにとってお前の存在は岩人の宿痾そのものだ、生かしとく理由は無いね」
アイマスナーは一言で切って捨てた。シリオンは眉をしかめる。個人の好き嫌いが理由では、交渉の余地は皆無だ。
(ったく。これだから嫌なんだよ、脳筋は…)
…実際、アイマスナーは無軌道なシリオンが大嫌いだった。岩人の誇りを汚す許すべからざる狂人だと思っている。だが、技術を重んじる一部の岩人の間で、人格はともかくとして彼の挙げた業績が評価されているのも事実なのだ。そしてそれ故に<宝石箱>は自分達の責任の範囲外に出たシリオンを『追放』という体にしたのだ。シリオンが、追放先で好き放題やって得た知見を秘匿せず、自分たちに必ず公開すると信じているからこそだ。それがまたアイマスナーの怒りを募らせている。そんなふざけた期待ごとシリオンを叩き潰してやらなければ気が済まない。
アイマスナーは、ちらりとウルスラに視線を移す。今しがた自分に妙な感情を向けて来たこの人影は、人間とは異なる気配を持っている。これが只人の領域内で<狂気>のシリオンが好き放題やった成果なのだとしたら…こいつも叩き潰す必要がある。
(まぁ、ダメそうな時はあっちも俺も半殺しぐらいでトールが止めてくれるだろ。そのためにも、正気でいてもらわないとな。まかり間違ってもウルスラを巻き込まないようにしよ…)
…などとシリオンが考えているとは露知らず、アイマスナーは特大地雷の信管を踏み抜こうとしていた。
「やっ!」
『ガゴン』という音と共に、四つ足の動物姿をした機械の頭がひしゃげて動かなくなる。ウルスラの怪力と相まって、歯車の鎚矛は中々の威力だった。……ただし、当たれば…であるが。
後ろから指導してもらった上で、空振り4回の後にようやくヒットして、当たれば戦闘用っぽいアニマルドローンが一発擱座である。
(なんというか…えらく極端な『大砲』キャラだなぁ…)
などと他人事のように呆れてしまうくらい当たらない。最初から分かっていたことであるが。
分かっていてなんでこうなったかと言えば、何もしないで後ろを付いていくだけの迷宮探索が後ろめたく、トールに「何かできることない?」と言った結果である。「んじゃ、前に出て戦ってみろ」と言われたのだ。極端すぎやしませんかね?勇者様は。
まぁトールの記憶の中では、ウルスラはれっきとした剣士だったのだから仕方ない。命中率が低いのは、完全に『現在の中の人』のせいだ。いくら機械の身体がハイスペックでも、中の人に戦闘の経験どころか武道の心得すら皆無のうえ、運動神経がゼロなのでどうしょうもない。頑丈な身体と、シリオンが余計な敵は片っ端から燃やして1対1での戦闘になっているから、どうにか対処できている。
(明らかな経験不足をあんまり見せたく無いなぁ…絶対ボロが出るよ…)と思っていたらトリスキスがフォローを入れてくれた。
「目はいいんだけど…身体が付いてこない感じ?」
トリスキスが片目を瞑っていたので、ウルスラはありがたく乗っかって元剣士のはずなのにどうにも戦闘がヘタクソな言い訳をしておいた。
「真上から真下に振り下ろすだけでも、関節をどう動かすか考えなきゃならいからね」
実際のところは、繰り返し練習しておけば決まった動作ならある程度は思った通りに身体を動かせるようにはなりつつあるのだが、止まったマトならともかく相手が回避行動を取るとどうしようもなくなる。このあたりは経験がモノを言うので、経験0、喩えて言うならレベル1のウルスラでは無理もないのである。こうして少しは実戦を積めば、多少はマシになるかもしれないが、結局単なる寄生がパワーレベリングになっただけな気もする。しかもNEXT EXP がやたらと膨大だ。
「お、なんか出た」
擱座した機体が迷宮に飲まれると、何かの部品が出現した。シリオンが拾い上げて、宙に透かしたりひっくり返したりしながら鑑定しようとしている。
「人型かは判らんが、機械の身体の部品っぽいな」
「よしっ。わざわざ迷宮に来たんだからこうでないとな」
今更レアアイテムなんぞ収納の肥しでしかないトールが、妙に嬉しそうにしている。孫可愛さのあまりと言えばそれまでだが、それでもまぁウルスラも、嬉しそうなトールを見れば「来てみてよかった」と思えるのだから、成果は大事だ。
そんなこんなで、出てくる敵をシリオンが焼き払い、残ったのをトリスキスにフォローされながらウルスラがぺしぺし潰し、宝箱は罠なんぞ気にせずトールがカチ割り、パワーレベリングしながら地下2階を回っている途中でトールが後ろを振り向いた。
「どうやって入ったか知らんが、黙って付け回すとか行儀がなっとらんな。用があるなら姿見せろや」
平坦な声だがかなりの殺気が籠められていた。ややあって迷宮の薄暗がりからフード付きの外套を被った大小二人の人影が現れた。
「かなり強力な隠蔽をかけていたんだがね……さすが勇者というべきか」
小柄な体形の方がそう言った。子供の声のように聞こえる。
「岩人と森人か…珍しい組み合わせだな」
「チッ」
トールの後ろでシリオンが舌打ちをする。子供の声に聞こえるが、岩人には老齢の女性の声と判る。そしてそれだけでなく、明らかに聞き覚えのある声だったからだ。
「入口は監視されてるのに、どうやって入ったんだ?」
シリオンが忌々しそうに言った。
トールの言った通り、通常は探索中の迷宮に後から入るとことはできない。組合が迷宮を管理下に置くと、まず入り口に扉を作って封鎖する。その最大の理由は、探索者が勝手に迷宮に入らないようにするためだ。かつては、複数の探索小隊がバッティングしてトラブル(多くは殺し合いに発展する)が頻繁に起きた。それを防ぐためである。だから、突入中の小隊から救援要請がなければ扉が開かれる事はない。隠蔽の魔法を使っても迷宮には入れないはずだ(内側からも、所定の手順を踏まないと扉は開かない。万が一徘徊者が溢れた場合に少しでも足止めするためである)。だからこそ、鉢合わせしそうな競売には顔を出さずに迷宮に入る方を選んだのに、よもや岩人が迷宮に横入りしてくるとは計算違いもいいところだ。
「たぶん…隠蔽をかけて、迷宮の入り口から岩人と森人が出て来たように見せたんじゃないの?。シリオンとトリスキスがさも忘れ物でもしたように。で、しばらくしてから何食わぬ顔で戻り、入り口を開けて貰って入った…」
「あぁ、なるほど…」
ウルスラが前世の世界でありがちなトリックを言ってみたら、シリオンが関心したように頷いた。口調がどこぞの少年探偵っぽくなってしまったのは、見逃して欲しい。
ウルスラが解明したトリックにシリオンは肩をすくめる。シリオンとトリスキスは正体を隠すために目立たない外套をかぶっていた。それを逆手に取られた形だ。
「悪いなトール、こいつは俺案件だ」
そう言うとシリオンは、かけていたカバンを降ろしてトールの前に出た。この小柄な人影は自分の知り合いだ、用があるのはトールではなく自分のはずだ。
だが、トールは幾分渋い表情だ。
「今、お前ぇに居なくなられると困るんだがな」
「なら、誰何なんかしないで不意打ちして『迷宮の不審者』を始末しとくべきだったな。顔合わせちまった以上は、殺し損ねて逃がしたら面倒だ」
シリオンは、暗に自分が相手をしてもいいという姿勢を見せたトールに釘を刺す。分が悪い相手だというのは明らかだったが、トールに相手をさせる訳にもいかないのだ。自分の耳が確かなら、この人影は祖国の重鎮だからだ。仮にこの場を切り抜けても、万が一国家間のトラブルに発展してトールの屋敷…というよりは、ウルスラというこれ以上なく興味深い存在を手放す事になったら意味が無い。シリオンは(とはいえ、どうしたもんだかな…)と思いながらも人影と対峙する。
「<黄玉(トパーズ)の頭>が自らお出ましかよ、年寄は暇でいいな。それとも、<宝石箱>が口煩い婆さんに面倒を押し付けたのかい?」
岩人の国グラナイナダにおいて、<宝石箱>と通称されている議会の貴族院は、選帝侯会議も兼ねており(元首は帝ではなく王であるが)事実上の最高意思決定機関である。彼らは、終身刑から脱走したシリオンが只人に拘束された時点で、刑を永久追放に切り替えた。言うなれば只人に面倒を押し付けて知らんぷりしたのである。にも拘わらず今になって刺客を…しかも選帝侯の一人を送るという事は、何か大きな方針転換があったのだろうか。
「『元』だよ、頭の座は譲って来た。<宝石箱>とは無関係だ、隠居前に心残りを片付けておこうかと思っただけさ」
飄々とシリオンの嫌味を受け流し、小柄な人影は外套を脱ぎ捨てた。
地味な外套の下から現れたのは濃紺のローブだった。金糸で装飾が施され、全身に装身具が煌めいている。それを身に着けているのは、見た目は少女と言っていい。只人で言えば成人前の子供の姿だった。ただ、髪は只人には絶対に無い黄色だ。金髪ではない、透けるような黄色なのだ。そして見た目は少女であるが、シリオンと本人の口ぶりからすると、これでかなりの高齢という事になる。
(うわ、リアルロリババァだ…)
ウルスラがそう思った瞬間に、ギロリと睨みつけられた。
(げ、心の声が読めるのか?。マジ強キャラ、桑原桑原…)
ウルスラは、さりげなく横に動いてトールの陰に隠れる。
ババァが強キャラで、ロリババァはそれを上回る強キャラなのは、業界の常識である。そしてそれは、業界人ではないシリオンに取っても同様だった。
シリオンの顔がさらに険しくなった。
元<黄玉の頭>アイマスナーは、どちらかと言えば技術者肌の多い<宝石箱>の中では武断派で知られる。現役時代は魔導兵団の指揮官を務めていた魔女だし、現役を退いて選帝侯となった後も、兵団に強い影響力を持っていた。
そして、確かに全盛期は過ぎているが、隠居にはまだ早い歳だ。事実、今でもこの大陸の魔法使いでは上位十指に数えられる使い手である。にも拘わらず職を辞して、しかも現役時代の戦装束で来たという事は、<宝石箱>の意向に逆らう事を承知の上で、本気でシリオンを殺しに来たという事だ。
「散々やらかしたのは否定せんが、アンタにそこまで恨みを買うようなことしたっけ?」
身に覚えは山ほどあるが、シリオンも一応は保身した上でやらかしていた。天敵であるアイマスナーと魔法兵団に直接損害を出すような事はしていなかったはずだ。
「単にお前が気に入らないだけだよ。あたしにとってお前の存在は岩人の宿痾そのものだ、生かしとく理由は無いね」
アイマスナーは一言で切って捨てた。シリオンは眉をしかめる。個人の好き嫌いが理由では、交渉の余地は皆無だ。
(ったく。これだから嫌なんだよ、脳筋は…)
…実際、アイマスナーは無軌道なシリオンが大嫌いだった。岩人の誇りを汚す許すべからざる狂人だと思っている。だが、技術を重んじる一部の岩人の間で、人格はともかくとして彼の挙げた業績が評価されているのも事実なのだ。そしてそれ故に<宝石箱>は自分達の責任の範囲外に出たシリオンを『追放』という体にしたのだ。シリオンが、追放先で好き放題やって得た知見を秘匿せず、自分たちに必ず公開すると信じているからこそだ。それがまたアイマスナーの怒りを募らせている。そんなふざけた期待ごとシリオンを叩き潰してやらなければ気が済まない。
アイマスナーは、ちらりとウルスラに視線を移す。今しがた自分に妙な感情を向けて来たこの人影は、人間とは異なる気配を持っている。これが只人の領域内で<狂気>のシリオンが好き放題やった成果なのだとしたら…こいつも叩き潰す必要がある。
(まぁ、ダメそうな時はあっちも俺も半殺しぐらいでトールが止めてくれるだろ。そのためにも、正気でいてもらわないとな。まかり間違ってもウルスラを巻き込まないようにしよ…)
…などとシリオンが考えているとは露知らず、アイマスナーは特大地雷の信管を踏み抜こうとしていた。
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