不死身のボッカ

暁丸

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勇者の孫にTS転生した。今更やり直しを要求してももう遅い

?つえ

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 結果から言えば、トールの交渉はあっさりと受け入れられた。表舞台に出なくなって久しいものの、庶民の間では未だに<勇者>トールのネームバリューは大きいらしい。探索者組合は、『勇者来訪』を宣伝に使う気満々のようだった。

 交渉を終えたトールとウルスラが組合の事務室を出て販売所を見ると、外套で顔を隠したシリオンとトリスキスが壁に掛けられた販売品の木札を端から眺めていた。木札と言っても絵馬くらいの大きさがあり、説明書きに加えて簡単な絵図が書かれている。

 「何か掘り出し物はあったか?」

 お忍びなんぞ気にしない(さすがに名前を呼ばないくらいの気遣いはするが)トールがデカイ声をかけたが、シリオンは首を振った。

 「ここに出てるのは、ガラクタに近い物ばかりだな」
 「まぁ仕方ねぇか」

 言いながらトールも木札を端から眺めて行く。絵しか見ていないから、あっという間に二人を追い越したトールは、目を留めた札を取ると「これ見せてくれや」と係に声をかけた。
 やり取りの後、代金を支払ってトールが受け取って来たの物を見て三人は首をかしげた。トールが指でくるくる回して見せたのは歯車だった。そこそこ厚みがあるヘリカルギアで、シャフトの穴も大きいから、何か大きな出力の機械用のギアらしい。この迷宮に来たのはウルスラに使える部品を探してだが、人間の身体を模したウルスラに歯車は使われていない。

 「歯車なんか何に使うの?」
 「お前の武器に丁度良いかと思ってな」
 「武器?」

 歯車みたいな武器というと、『円盤〇ころ!』とブン投げる姿を想像したが、それには少し小さいように思える。もう少し大きければ腕に付けて機○拳だのGE〇R戦士だのも考えられるが、ウルスラは機を読めないし改造しようにも脳が無い。あと、巨大ロボでもない。
 などとしょーもないことを考えていたら、トールは収納から腕ぐらいの太さで、樹皮がついたままの小ぶりな丸太を引っ張りだした。

 「シリオン、加工頼むわ。これが嵌るように丸く削って、抜けねぇように頭だけ太く残してくれ」
 「ブフッ」
 「?」

 珍しく、いつものアルカイックスマイルを崩して噴出したトリスキスにシリオンとウルスラは怪訝な顔をするが、トリスキスは「ごめんなさい」とだけ言って後ろを向いてしまった。

 「……あぁ、なるほどね」

 トールの取り出した丸太を見つめたシリオンは、それだけで事情を察したらしい。歯車を受け取ってシャフトの穴に指を這わせた。シリオンはノギスなど必要とせず同程度の精度で寸法を出せる。歯車を返して代わりに丸太を受け取ると組合の事務所を出て裏手に回り、通りに背を向けて何か魔法を使い出した。四半時(30分)も過ぎた頃、「これで嵌るはずだ」と言って、トールに加工された丸棒を手渡した。
 棒は頭が一番太くなっていて、そこからだんだん細くなって握りの部分は削り込まれており、すっぽ抜け防止に端の部分はまた太くなっていた。バットのミニチュアのような形をしている。
 トールは握りの方から歯車を差し込んで太くなった頭の部分に推し込むと、何度か石畳に打ち付けてしっかり固定できているのを確かめてから、「ほれ」と言ってウルスラに手渡した。

 「これなら、上手く当たらなくても十分痛てぇだろ」
 「あー、鎚矛(メイス)か」

 それは木製の柄に歯車の鎚頭を持つ戦棍だった。

 (これ、先端が回転したらカシ〇ートだよねぇ)とは思ったが、シリオンに聞かせたら本当にやりかねないので黙っておく。

 「確かに、これで殴られたら痛そうだけど……わたしが思い切り振ると剣でも折れちゃうんだから、木の柄じゃすぐ折れちゃうんじゃ?」
 「世界樹の枝だから、お前が全力で殴ったって折れねぇよ。それと歯車は不破鋼(アダマンタイト)製だ、重たいが頑丈さには定評がある」
 「世界樹!!なんでそんなものを」
 「若い頃に森人に貰ったんだよ。あの枝切り出すのに月単位の日数かかるくらい頑丈なんだが、使い道も無いんで収納の肥しになってたんだわ」

 (トリスキスが噴出した原因はコレか!!)
 枝はかつて、森人からの大事の案件を解決した報酬なのだが、森人渾身のレアアイテムもトールにとってはコレクションでしか無かったらしい。

 「ん?待った。そんな頑丈なの、四半時でどうやって削ったの?」
 「魔法だよ。魔法でなきゃ、丸く削り出すだけで何月かかるか判らんわ」

 そういうシリオンはとても自慢げだった。目深に被ったフード越しに、シリオンのドヤ顔が見えるようだった。

 「加工の魔法なんてのがあるんだ…」
 「『創造の理』ってな。今住んでる屋敷だって、コイツが一人で建てたんだ」
 「へぇ~~」

 ウルスラは割りと本気で感嘆している。日本でファンタジーといえばゲーム世界が主流だから、戦闘以外の魔法はむしろ新鮮な驚きだった。しかもあの屋敷は結構大きい。それを一人で構築したというのだから、シリオンの魔力は相当に大きいのだろう。

 「少しは敬う気になったか?」

 トールの補足に、シリオンは益々ドヤ顔だ。だが、それでウルスラのシリオンへの評価が変わるかと言えばそうでも無かった。

 「最初から敬ってるよ、これだけの身体作ってくれたんだから。それ以上にトンでもないキチ〇イだと思ってるだけ」
 「わはははは」
 「よく判ったね。こいつは祖国じゃ〈狂気〉だの〈気○い〉シリオンって呼ばれてたんだよ」
 「まさかの公認だった!」

 トールが愉快そうに笑う理由をトリスキスが説明すると、シリオンはドヤ顔から一転して苦虫を噛み潰したような顔で「天才はいつの時代も理解されない」だのブツブツ呟いている。

 「いやでも、不破鋼と世界樹を岩人が加工したんだから凄い逸品なんだと思うけど…こんな贅沢な武器貰っても、多分いまのわたしには使いこなせないと思うよ」
 「別に使いこなす必要はねぇよ。ただ、仮にも俺の孫が迷宮に入るのに手ぶらじゃ格好付かんだろ、目立つ所にぶら下げてろ」
 「うぅ見た目だけか。結構重いのに」

 そう言ってブンブン素振りしてみる。この身体では重さはほとんど感じないが、感覚としてそこそこ重い武器だというのは判る。

 「どうせ当たらんだろ。後で見映えのする吊り革作ってやるから、今のところは背嚢にでも差しとけ」
 「へーい…」

 さっきの仕返しとばかりにシリオンにズバリ言われたウルスラは、肩を落として荷物に鎚矛をくくりつけたのだった。



 そうして入った迷宮では、確かにウルスラの鎚矛の出番は無かった。
 前衛を務めるトールとトリスキスの二人で、ほとんどの敵を斬り倒してしまったのだ。シリオンは、地図描きを務めて全く戦闘に参加していない。マッピングは、本来なら戦闘にはほぼ役に立たないウルスラがやるべきなのだが、まだペンで書けるレベルで指が動かせないのだ。なら荷物持ちを…と言いたい所だが、戦利品はトールが片っ端から収納に放り込んでいるので、ウルスラは文字通り役立たずの『寄生』状態である。少々居たたまれなくなってきた。

 「やっぱりわたし留守番の方が良かったんじゃ…」
 「アレの前では一人二人の戦力なんぞ誤差だ。気にすんな」

 シリオンは地図を描いている用箋挟みから目を離しもしないで、ペンで前衛の二人を指した。トールとトリスキスの働きは、一言で言えば『蹂躙』である。万が一に備えて周囲に注意を向ける必要すらなかった。本来なら火力を期待される岩人の魔法使いに地図描きをやらせているくらいなのだから、シリオンの言うとおり二人で十分な戦力なのだ。
 そして実際のところ、目測だけで寸法を正確に読み取れるうえに、目くらましの魔法のような偽装もほぼ利かないシリオンは、確かにマッピングにはうってつけだった。あっという間に詳細な地図を描き上げて行く。

 二日かけて迷宮最深部まで踏破した勇者小隊は、三日目に戻って来た。都合三日は迷宮踏破の最短記録更新である。最深部には、縞鋼(ウーツ)の魔導兵が居たが、ほとんど出オチのごとくトールに斬り捨てられている。
 ただ、取得した財宝は少々残念な結果だった。期待していた古代の人型機械の部品は無く、魔導兵の落としたのも部品ではなく縞鋼のインゴットだった。トールからすれば珍しい物でもなく全部組合に売却となったが、組合としては汎用性のある素材が出た事でかなり嬉しい結果だったようだ。



 「ダメかぁ。あんまり長居もしたくないし、上がりにするか?」

 シリオンとしても、あんまり期待していた訳では無いらしい。自分の趣味で引っ張りまわす話でも無いと思ったシリオンだったが、今度は逆にトールがやる気になっていた。

 「組合じゃ、もう一回回って欲しいってよ。鋳塊が一回限りか毎回出るか確かめたいらしいな」
 「じゃ、もう一回潜って終わりにしよ。地図できたから二日で回れるでしょ」

 というような具合に三人の意見がまとまり、迷宮をもう一周する事になったのだった。
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