不死身のボッカ

暁丸

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遺されたもの

ジョブチェンジ1

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 「帰って来たみたいだよ」

 食堂に入って来たトリスキスがそう言った。
 テーブルには、皿に山積みになった薬を前にシリオンが突っ伏していたが、トリスキスの声に反応してのっそりと身体を起こした。

 「……ずいぶんかかったな…まぁ、おかげでこっちの作業も十分時間が取れたんで良かったが」

 言いながら皿の薬を鷲掴みにして口に放り込み、カップの水で飲み下す。眠気飛ばしやら、元気が出るクスリやらなにやらのミックスだ。まだ作業半ばの物があるので、寝落ちする前にもうひと頑張りしなければならない。

 「二日起きて二日寝るなら、普通に半日ずつ寝て起きればいいのに」

 トリスキスが呆れ気味に言った。トータルで寝る時間が同じなら、徹夜する意味など無いだろうと思えたのだ。

 「こう…気分が乗っているときに作業を中断したくねぇんだよ。あと、思いついた事はその場ですぐやらないと忘れる」
 「メモしときゃいいじゃない」
 「後でメモ読んでも、意味不明すぎてなんのメモだか思い出せないんだよ…」

 あまりにダメな言い訳に、トリスキスは『やれやれ』とばかりに肩をすくめた。

 「んで、一人で戻ってきたのか?」
 「ううん、馬車の車列。あの騎士が送ってくれてるんじゃないの?出たときより随分多いのが気になるけど…」
 「ふぅん…じゃあまぁ、下手打って逃げて来た訳じゃ無いってことかな。勝算は高そうだったけど、ここの今後にも関わってる話だしなぁ。詳しく話を聞いてからだな」

 …などと呑気に構えていたのだが……



 「陛下の御成りである!、一同!控えよ!」

 姿勢を正した老魔女が大声を上げた。
 つづれ折りの階段を必死の形相でどうにか登り切って、ついさっきまでゼェゼェ言っていたイクスが、どうにか息を整えると直立不動に背筋を伸ばし、王宮の先触れよろしく王の来訪を告げたのだ。

 「知らんがな……」

 呆れつつ一応は頭を下げたシリオンが、小声で隣のウルスラをつついた。

 「何だあの婆さん?突然押しかけて来てデカイ声で…年寄が無理してたら頭の血管切れるぞ。いや、その前に腰骨イッちまうんじゃねぇか?」
 「宮廷魔法使い件護衛。王様愛が強すぎる人なんで勘弁して上げて。城でも王様から絶対離れなかったよ」
 「只人であの外見ならいい歳だろ、もう少し落ち着いてそうなもんだが…。あんな暑苦しいのがずっとくっついてて、お前よく我慢できたな」
 「できてない、ちょっと縊りそうになった。そしたら黙ったけど」
 「ケケケケ…そりゃよっぽどだな」

 などとシリオンとウルスラがコソコソ話していたら、豪華な装飾の外套を羽織った王が足取りも軽やかに階段を登り切った。護衛として付いているのだろうオーサイム卿が疲れ切った顔をしている。

 「良い。非公式の視察ゆえ、礼儀は無用」

 にこやかにそう言いながら、王は興味深そうに周りを見渡す。

 「ここが勇者屋敷か…このような荒地に見事なものだな。ウルスラ嬢、皆を紹介いただけぬか?」
 「はい。これなるは、わたしの身体を作った岩人の技術者シリオン、そしてあちらが屋敷を取り仕切る森人トリスキスにございます」
 「うむ、あなたたち二人をこの地に送る決定に余は関与していないが、承認をしたのは間違いなく余である。不自由させた事は済まなく思う。また、その死の時までよく勇者を支えてくれたとの事、感謝する」

 シリオンとトリスキスは、意外そうに顔を見合わせると、頭を下げた。

 「勿体無いお言葉、恐悦至極でございます…」

 シリオンが棒読み気味に答えるが、王は気にも留めない。

 「勇者殿の墓に案内してくれぬか」
 「はい、承知いたしました」

 よそ行きの顔と声で、ウルスラは王をトールの墓所まで案内した。祈りを捧げる王を残して下がると、またシリオンが突いて来た。

 「驚いたわ。俺達に礼まで言うとは思わなかった」
 「城で話した限り、頭の回転速いし王様と思えないほど融通の利く人だよ」
 「で、何しに来たんだ?」
 「おっさん(オーサイム卿)の提言が通って、ここが〈勇者〉の墓で王家直轄になる事が決まったので、その視察と墓参……という名目。実際は、そろそろ限界なウルスラと最後まで一緒に居たいって事だと思う」
 「王都からだと往復込みで数月かかるのに、よく許されたな」
 「許されて無いよ。側近だけ動かしてこっそり謁見の予定を調整して、二月ばかりまとまった時間を作ったら護衛も連れずに城から抜け出して来た。おかげで、道中の責任を負う事になったおっさんが真っ青な顔してたよ」

 シリオンが無茶苦茶微妙な表情になった。

 「……融通利くたって程があんだろよ、そんな王様で大丈夫なのかよ」
 「王宮の方は、王不在でも国政が廻るように制度を整えてあるから問題無いってさ。てか、あの王様もんのすごい完璧超人だよ。唯一の欠点がわたしガチ勢なとこだけ」
 「へえ~~」

 シリオンはなぜかニヤリと笑った。

 「そこまでガチ勢なら、ちょうどいいわ」



 「ちょっと待てや!、何じゃこりゃーーーーーーーーーーー!!」

 姿見で自分を見たウルスラの絶叫が響いた。
 ウルスラの身体は、今までの首から上だけが生身を偽装したものではない。全身に疑獣の革を貼ったものになっている。それを誇示するように、着ている服も背中が大きく開いて両肩も露出したものになっていた。しかも今までの身体より少し大きく…成長した姿に作られている。

 「トールの遺産に希少素材が山ほどあったから、奮発して全身を生身の人間に偽装できるようにしてみたんだ。今までと違ってちゃんと(ピーー)も付いてるぞ、まぁ形だけだけどな」
 「つけるなよそんなもん、何に使うんだよ!。というか、俺用の新しい身体ったら、普通は男の身体を作るだろよ!」
 「今度の身体は、全裸でも人間と区別付かないってのを目標にしてんだから必要だろよ。お前が『人間に紛れ込めるように工夫してくれ』つーたんだぞ。あと、只人の身体の数値の蓄積が前のお前のしか無いんでな、男の身体は諦めろ。まぁ、前の身体の成長後を想像して適当に大きく作っただけだから、別人だと言いはりゃどうにかなるんじゃねの?」
 「嘘つけぇぇぇぇぇぇええ。無茶苦茶気合入れて成長後のウルスラの顔を作ってあるじゃねぇかーーーーーー」

 ウルスラは頭を抱えてへたり込む。

 ウルスラは王都に出る前に、シリオンに新しい身体を用意するよう依頼していた。この時点でオリジナルのウルスラを開放し、違う姿に換えるのは既定事項だったからだ。条件は1.今と違う外見。2.戦闘用のパワーはいらない。3.人間にできるだけ近い外見…だった。
 墓参を終えた王にお茶を供して休憩してもらう間、シリオンに「そういや新しい身体できたぜ、見るか?」と言われて(随分早いな)とほいほいついて行ったら、不意打ちで胸から結晶を引っこ抜かれて、有無を言わせず新しい身体に乗せ換えられたのだ。元の身体は換装がしやすいように、隙間だらけの構造にしてたせいだ。有線接続なので、引っこ抜かれてしまうともう抵抗のしようが無くなる。つまりは、自分で身体の換装はできない。というか、新しい身体は肌の違和感を徹底的に隠すために目立たない左脇に開口部になっていて、結構無茶な角度で結晶を押し込んでセットするような構造になっている。自分じゃどうやって開けるかすら判らない。

 なお、男の身体が作れないというのは大嘘である。
 とはいえ、別に男の(ピーー)が作りたく無かったとかいう理由ではない。シリオンに取っては、人間の身体なんぞ男だろうが女だろうが等しく検体でしかない。
 成長後のウルスラを想定した姿に作ったのは、同系統の造形の方が違いが分かりやすいからだ。シリオンが欲しいのは正当な評価だ。機能だけでなく顔の造形でも元の機体を超えるものだと感じて貰えなければ、新型を作る意味がない。この身体なら、どれほど進歩したか一目瞭然だ。それに、ウルスラの望んだ条件は全て満たしてある。『男の身体を作れ』と依頼しなかったウルスラが悪い。疑いもなくそう思っている。
 岩人とは、そういう連中である。



 「ウルスラ~何やってるの?お偉いさんが呼んでるよ」

 応接室の方から、トリスキスが呼びに来た。
 そりゃまぁ、VIPを放置して身体の換装なんかやってたらこうなる。

 「こんなんで王様の前に出られるかよ!」
 「出てやれよ、成長後の姿で接待する特別サービスだぞ。気に入られれば王様の心象が更に良くなるかもしれん」
 「それが嫌なんだっての!」
 「ウルスラ~?」

 とはいえ、さすがに国王を待たす訳にも行かない。進退窮まったウルスラは仕方なくそのまま応接間に行った。



 「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ああああああウルスラ嬢~~~~~~~~!!」
 「やっぱりかーーーーーー。違います、違いますって」
 「やはり、やはり、帰って来てくれたのだな!」
 「だから違うって!。わたしはマキナです」
 「陛下、未婚の女性に抱き着くなど……お前も早く離れぬか!」
 「無理矢理引っぺがしていいです?」
 「止めろ!陛下がお怪我をしたらどうする!!」
 「ウルスラ嬢~~~」
 「だったらどうすりゃいいんだよ」 
 「陛下!お気を確かに!とにかく離れろ!」
 「くっそーーー自爆すんぞゴルァーーーー!」



 「うん、成長後を想像だけで作った姿だから自信無かったが、ガチ勢にここまで喜んでもらえると造形作家冥利に尽きるわぁ」

 カオスな状況を横目に、シリオンは満足そうに頷いた。
 トール亡き今、自分の仕事をどうやって評価してもらうかが悩みの種だった。ウルスラガチ勢の厳しい目に適ったのなら十分だ。仕事が評価されるのは、何時でも何度でも良いものだ。

 「……この地獄絵図見て言うことがそれかよ。鬼かお前は」
 
 顔面一面縦線でそうこぼすオーサイム卿に、トリスキスは珍しく完全に同意したくなっていた。
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