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遺されたもの
ジョブチェンジ2
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「取り乱してすまなかった」
「あ、あの…いえ……はい…」
正気を取り戻した王が、応接用のソファで小さくなって頭を下げた。
対面のソファにはウルスラとシリオン。双方の後方にイクスとトリスキスがそれぞれ控えている。オーサイム卿は「これ以上ヤバいもん見たくない」と言って、廊下に出てしまっていた。
(俺悪くないのに、無茶苦茶気まずいわ…)
なにかフォローしようかと思ったウルスラだが、普段の威風堂々ぶりが欠片も無いほどしょんぼりと恥じ入っている王を見たら言葉が続かなかった。
「あまりに…人間らしく見えたものでな、我を忘れた…」
王が消え入りそうな声で言うと、隣に座っておとなしくしていたシリオンの目が輝いた。
「えぇ、そうでしょうとも!。新型の身体はそれが目標だったので、そこまでお気に召していただけたら製作者として歓喜の極み。先ほどの抱擁でお気づきでしょうが、この身体は見た目だけではありません。金属筋肉を減らす代わりに疑似皮下脂肪を入れ、更に冷却水を循環させることで抱き心地も体温も人間同様です。仮にあのまま押し倒していたとしても何の問題も無…きゅう」
「ありすぎだわ!」
渾身の作品を誉められたせいで、いい気になって作品自慢をするシリオンの首を、ウルスラがチョークスリーパーで完全にキめていた。
「というわけで、悪いのは全部コイツなんでお気になさらずに…」
「あ、あぁ……その、大丈夫か?白目を剥いているが」
「コイツは妙なクスリで身体強化してるんで、殺したくらいでは死にません」
「そ、そうか……」
(いや、殺したら死ぬだろう…?)と思ったものの、(ここに住んでるような岩人ならそんな事もあるのかも)と思い直した。実家に戻ったせいかウルスラはだいぶ素に戻っている。雰囲気の違いに戸惑っているという面も否めない。
「だが、確かにその身体は見事だ…と思う、本当に人間と見分けがつかない。その身体でも…ウルスラ嬢はダメなのだろうか…」
「そうですね。人間に近いというのは、あくまで外見…外から見たときの話しです。中から見れば、身体の感覚が無いのも眠る事もできないのも前の身体と同じですから」
「あっ。あぁ、確かにそうだな…」
「ただ……第三者の視点で見れば、こうだったかもしれない成長後の自分の姿は、少し嬉しいみたいですよ。……平坦だったせいで、こんなドレスも着た事無いそうな……ごめん、デリカシー無かった…ごめんって、謝るから…」
言われてみれば当たり前の事を聞いたと気づいて恥じ入ってしまった王を見て、ウルスラはわざわざ脳内会話を声に出した。傍から見れば一人芝居のようなウルスラの脳内会話を見て、王は少し頬を緩める。
「ん?ええ!いや無理だって。いや…そりゃ確かに孫のお願いは聞くって言ったけどさ…」
「??」
オリジナルウルスラに脳内お願いされたウルスラは、諦めると侍女のように部屋の端に立ってたトリスキスを呼んだ。
「ねぇトリスキス」
「何?」
「………」
「できるよ。ちょっと待ってて」
ウルスラは小声で何事か相談すると、トリスキスは部屋を出て行った。
ウルスラは「はぁ…」とため息を付いてから立ち上がると、王の前で淑女の礼をする。
「陛下、不躾で申し訳ございません。私と一曲踊っていただけないでしょうか?」
突然の申し出に、王は目を白黒させる。これは…どちらだ?ウルスラか?マキナか?ウルスラ嬢はこの身体を動かすことを拒否していると言った。だが、マキナは自分と踊るような事は考えもしないだろう。
「あ、いや…ウルスラ嬢はその身体を動かす事ができない…と」
「はい、ウルスラは身体を動かせないので、ウルスラの指示でわたしが動かします。代理で申し訳ございません…わたしは踊れないんで、あまり期待しないでくださいね」
王はハッと思い至った。
(そうか…そうなのだな……)
トリスキスが、リュートのようなマンドリンのような五弦の弦楽器を抱えて部屋に戻ると、椅子に腰かけて弦を弾き調律を確かめる。
「只人のダンスの曲知らないけど、テンポが同じならいいかな?」
「あぁ、構わない」
ダンスの曲など判らないウルスラが王に視線を向けると、王はウルスラにではなくトリスキスに直接答えた。
王は立ち上がると、周りを見渡して踊れるだけの広さがある場所に移動した。後に続こうとしたウルスラを、蘇生したシリオンが呼び止めた。
「…おい、ちょっと待ってろ……」
そう言って首を抑えながら隣室に向かうと、「これが要るだろ」と言って長手袋をウルスラに投げ渡した。それから、魔銀の板を壁際のチェストの天板に置くと、録に術式も組まずに『創造の理』を発動させた。頑丈な魔銀の板は見る間に加工されて、あっという間に繊細な透かし彫りのティアラになった。
「王様と踊るなら格好ぐらい付けないとな」
そう言って、こちらも無造作に投げ渡す。慌てて受け取ったウルスラは不器用に自分の頭に乗せたが、何しろ元が爺さんだから髪に上手く留まらない。
「えぇい、貸せ。自分で申し込んでおきながら、陛下を待たせる奴が居るか」
小言を言いながらもイクスがウルスラを座らせると、手早く髪をまとめてティアラをセットした。
「あ、ありがとう…ございます……」
ウルスラは立ち上がって衣服の乱れが無い事を確認すると、王の前で恭しく礼をする。
二人が手を取って踊り始めると、トリスキスは独特な調子の曲を弾き始めた。
踊った事など無いウルスラは、オリジナルウルスラの助言で王のリードに任せる事にした。曲なんかほとんど耳に入って来ない。そうしてオリジナルウルスラの出す指示に遅れまいと、必死にステップを踏む。
(D〇Rやってる気分だわ…アレ苦手なんだよ俺)
ぎくしゃくしながらもどうにかターンを決める。二人で協力して踊りながら、ウルスラは必死に笑顔を作った。踊りながら表情を作るのは一苦労だが、ダンスなんて笑顔あってなんぼのものだ。……特に、このダンスはそうで無くてはいけない。
(可愛い孫のためだ、この程度の苦労は…)
どうにか格好になるダンスを続けていたが、突如ウルスラの動きが止まり二人の指が離れた。ウルスラは茫然とした表情で自分の手を見ている。
王は離れた手を取ろうと伸ばしかけた腕を降ろした。
「ウルスラ嬢は………消えたのだな」
「はい………」
ウルスラの中からオリジナルウルスラの意識を感じなくなった。
王も覚悟はしていた。ウルスラが「王と踊りたい」と言った時に、この部屋の皆がそれを察していた。
「ウルスラ嬢は、最期になにか言い残しただろうか?」
「……ただ感謝だけでした」
ウルスラは一人ずつに彼女の最後の言葉を伝えた。
「シリオン様、成長した身体を作っていただきありがとうございます。トリスキス様、祖父を支え続けて下さりありがとうございます。イクス様、長きに渡り陛下を守り続けてくださりありがとうございます。そして陛下、このような身体のわたしを人間だと認めてくださり、感謝の言葉もございません」
「……そうか」
トリスキスとイクスは、手巾で目元を押さえていた。へそ曲がりのシリオンは、傍目には憮然とした表情で天井を見ているだけだ。
王はもう涙を流さない。全ての涙を城で流して来たから。
四人がそれぞれ消えたウルスラへの想い噛みしめていたその瞬間、異様な気配が勇者屋敷を…いや、応接の間を包んだ。
それれはある種『異常な力』だった。これほどの力なのに、廊下で警備するオーサイム卿は一切気づいていない。
「な!?」
「これは?」
「神気か!」
そして突如光り輝く人影が応接の間に現れた。輝く人影はウルスラにしか聞こえない声で言葉を交わすと、現れた時と同じく唐突に去って行った。
皆が、呼吸を忘れていたかのように息を吐いた。
「今のは……まさか……」
四人は、奇跡を目の当たりにした感動、驚き、それらが入交じっていた。王の声も震えているのに、ウルスラだけ妙に投げやりな声だった。
「この世界の管理する女神。……シャリウ神ですね」
「な、何故主の御名を知っている?」
王は更に驚く事になった。この世界の神殿も、しょうもない権威主義は元の世界と変わらず、女神の真名は隠していた。知るのは高位の神官と王族程度でしかない。
「あれ?秘密でした?すいません…いやまぁ、この世界に呼ばれたときに今の女神に会って状況の説明を受けていますので、顔見知りなんです」
「っ…あなたは勇者なのか?」
今度の驚きは極めつけだった。
確かに、〈勇者〉トールへの恩寵で、『もう一人』が元のウルスラに混ぜられたのでは…という話はしていた。だが、女神自身が選び、目的を持ってこの世界に送り出したのなら、それは〈勇者〉ではないのか。
「いえ、違いますよ。というか、同じ手順で呼んだけど勇者では無いと女神が言ってました。いろいろ問題が起きたので、当分勇者は呼ばないそうです」
「ではいったい主はなんのために……」
「ウルスラを助けて〈勇者〉を昇天させるのがわたしの役目でした。役目を終えたウルスラはわたしに溶け込んで消えるはずでしたが、一人の魂として転生の輪に戻れるそうです。それを告げるために降臨したみたいです」
「なんと……。あぁ…主よ感謝いたします……」
ただ消えるのではない…
それはこの世界の人間にとっては希望であるらしい。女神を敬う気が欠片も無いウルスラと、今見た光景を脳内で分析しようと必死になっているシリオンを除き、皆が跪くと感謝の祈りを捧げた。
短い祈りの言葉を唱えると、王は一つ思いついた事があって立ち上がった。
「勇者では無いにしろあなたが女神様見知りの者ならば、あなたの爆発を止めるよう願う事はできないのだろうか?」
ウルスラは苦笑いして首を振る。
「いやまぁ、わたしもそう思って今ダメ元で願ってみたんですけどね…『自業自得よ、ザマァ』だそうです……」
「……………はい?」
何か、崇敬すべき〈女神〉と相反するようなセリフが聞こえた気がして、王は困惑した。
「わたし、こっちに呼ばれたときに、あのポンコツ女神と喧嘩別れしてるんですよ。助けを期待するのは無理っぽいですね」
「ポ……ポン……喧…嘩」
主神をポンコツ扱いされ、王は眩暈を感じてその場にへたり込んだ。
「あ、あの…いえ……はい…」
正気を取り戻した王が、応接用のソファで小さくなって頭を下げた。
対面のソファにはウルスラとシリオン。双方の後方にイクスとトリスキスがそれぞれ控えている。オーサイム卿は「これ以上ヤバいもん見たくない」と言って、廊下に出てしまっていた。
(俺悪くないのに、無茶苦茶気まずいわ…)
なにかフォローしようかと思ったウルスラだが、普段の威風堂々ぶりが欠片も無いほどしょんぼりと恥じ入っている王を見たら言葉が続かなかった。
「あまりに…人間らしく見えたものでな、我を忘れた…」
王が消え入りそうな声で言うと、隣に座っておとなしくしていたシリオンの目が輝いた。
「えぇ、そうでしょうとも!。新型の身体はそれが目標だったので、そこまでお気に召していただけたら製作者として歓喜の極み。先ほどの抱擁でお気づきでしょうが、この身体は見た目だけではありません。金属筋肉を減らす代わりに疑似皮下脂肪を入れ、更に冷却水を循環させることで抱き心地も体温も人間同様です。仮にあのまま押し倒していたとしても何の問題も無…きゅう」
「ありすぎだわ!」
渾身の作品を誉められたせいで、いい気になって作品自慢をするシリオンの首を、ウルスラがチョークスリーパーで完全にキめていた。
「というわけで、悪いのは全部コイツなんでお気になさらずに…」
「あ、あぁ……その、大丈夫か?白目を剥いているが」
「コイツは妙なクスリで身体強化してるんで、殺したくらいでは死にません」
「そ、そうか……」
(いや、殺したら死ぬだろう…?)と思ったものの、(ここに住んでるような岩人ならそんな事もあるのかも)と思い直した。実家に戻ったせいかウルスラはだいぶ素に戻っている。雰囲気の違いに戸惑っているという面も否めない。
「だが、確かにその身体は見事だ…と思う、本当に人間と見分けがつかない。その身体でも…ウルスラ嬢はダメなのだろうか…」
「そうですね。人間に近いというのは、あくまで外見…外から見たときの話しです。中から見れば、身体の感覚が無いのも眠る事もできないのも前の身体と同じですから」
「あっ。あぁ、確かにそうだな…」
「ただ……第三者の視点で見れば、こうだったかもしれない成長後の自分の姿は、少し嬉しいみたいですよ。……平坦だったせいで、こんなドレスも着た事無いそうな……ごめん、デリカシー無かった…ごめんって、謝るから…」
言われてみれば当たり前の事を聞いたと気づいて恥じ入ってしまった王を見て、ウルスラはわざわざ脳内会話を声に出した。傍から見れば一人芝居のようなウルスラの脳内会話を見て、王は少し頬を緩める。
「ん?ええ!いや無理だって。いや…そりゃ確かに孫のお願いは聞くって言ったけどさ…」
「??」
オリジナルウルスラに脳内お願いされたウルスラは、諦めると侍女のように部屋の端に立ってたトリスキスを呼んだ。
「ねぇトリスキス」
「何?」
「………」
「できるよ。ちょっと待ってて」
ウルスラは小声で何事か相談すると、トリスキスは部屋を出て行った。
ウルスラは「はぁ…」とため息を付いてから立ち上がると、王の前で淑女の礼をする。
「陛下、不躾で申し訳ございません。私と一曲踊っていただけないでしょうか?」
突然の申し出に、王は目を白黒させる。これは…どちらだ?ウルスラか?マキナか?ウルスラ嬢はこの身体を動かすことを拒否していると言った。だが、マキナは自分と踊るような事は考えもしないだろう。
「あ、いや…ウルスラ嬢はその身体を動かす事ができない…と」
「はい、ウルスラは身体を動かせないので、ウルスラの指示でわたしが動かします。代理で申し訳ございません…わたしは踊れないんで、あまり期待しないでくださいね」
王はハッと思い至った。
(そうか…そうなのだな……)
トリスキスが、リュートのようなマンドリンのような五弦の弦楽器を抱えて部屋に戻ると、椅子に腰かけて弦を弾き調律を確かめる。
「只人のダンスの曲知らないけど、テンポが同じならいいかな?」
「あぁ、構わない」
ダンスの曲など判らないウルスラが王に視線を向けると、王はウルスラにではなくトリスキスに直接答えた。
王は立ち上がると、周りを見渡して踊れるだけの広さがある場所に移動した。後に続こうとしたウルスラを、蘇生したシリオンが呼び止めた。
「…おい、ちょっと待ってろ……」
そう言って首を抑えながら隣室に向かうと、「これが要るだろ」と言って長手袋をウルスラに投げ渡した。それから、魔銀の板を壁際のチェストの天板に置くと、録に術式も組まずに『創造の理』を発動させた。頑丈な魔銀の板は見る間に加工されて、あっという間に繊細な透かし彫りのティアラになった。
「王様と踊るなら格好ぐらい付けないとな」
そう言って、こちらも無造作に投げ渡す。慌てて受け取ったウルスラは不器用に自分の頭に乗せたが、何しろ元が爺さんだから髪に上手く留まらない。
「えぇい、貸せ。自分で申し込んでおきながら、陛下を待たせる奴が居るか」
小言を言いながらもイクスがウルスラを座らせると、手早く髪をまとめてティアラをセットした。
「あ、ありがとう…ございます……」
ウルスラは立ち上がって衣服の乱れが無い事を確認すると、王の前で恭しく礼をする。
二人が手を取って踊り始めると、トリスキスは独特な調子の曲を弾き始めた。
踊った事など無いウルスラは、オリジナルウルスラの助言で王のリードに任せる事にした。曲なんかほとんど耳に入って来ない。そうしてオリジナルウルスラの出す指示に遅れまいと、必死にステップを踏む。
(D〇Rやってる気分だわ…アレ苦手なんだよ俺)
ぎくしゃくしながらもどうにかターンを決める。二人で協力して踊りながら、ウルスラは必死に笑顔を作った。踊りながら表情を作るのは一苦労だが、ダンスなんて笑顔あってなんぼのものだ。……特に、このダンスはそうで無くてはいけない。
(可愛い孫のためだ、この程度の苦労は…)
どうにか格好になるダンスを続けていたが、突如ウルスラの動きが止まり二人の指が離れた。ウルスラは茫然とした表情で自分の手を見ている。
王は離れた手を取ろうと伸ばしかけた腕を降ろした。
「ウルスラ嬢は………消えたのだな」
「はい………」
ウルスラの中からオリジナルウルスラの意識を感じなくなった。
王も覚悟はしていた。ウルスラが「王と踊りたい」と言った時に、この部屋の皆がそれを察していた。
「ウルスラ嬢は、最期になにか言い残しただろうか?」
「……ただ感謝だけでした」
ウルスラは一人ずつに彼女の最後の言葉を伝えた。
「シリオン様、成長した身体を作っていただきありがとうございます。トリスキス様、祖父を支え続けて下さりありがとうございます。イクス様、長きに渡り陛下を守り続けてくださりありがとうございます。そして陛下、このような身体のわたしを人間だと認めてくださり、感謝の言葉もございません」
「……そうか」
トリスキスとイクスは、手巾で目元を押さえていた。へそ曲がりのシリオンは、傍目には憮然とした表情で天井を見ているだけだ。
王はもう涙を流さない。全ての涙を城で流して来たから。
四人がそれぞれ消えたウルスラへの想い噛みしめていたその瞬間、異様な気配が勇者屋敷を…いや、応接の間を包んだ。
それれはある種『異常な力』だった。これほどの力なのに、廊下で警備するオーサイム卿は一切気づいていない。
「な!?」
「これは?」
「神気か!」
そして突如光り輝く人影が応接の間に現れた。輝く人影はウルスラにしか聞こえない声で言葉を交わすと、現れた時と同じく唐突に去って行った。
皆が、呼吸を忘れていたかのように息を吐いた。
「今のは……まさか……」
四人は、奇跡を目の当たりにした感動、驚き、それらが入交じっていた。王の声も震えているのに、ウルスラだけ妙に投げやりな声だった。
「この世界の管理する女神。……シャリウ神ですね」
「な、何故主の御名を知っている?」
王は更に驚く事になった。この世界の神殿も、しょうもない権威主義は元の世界と変わらず、女神の真名は隠していた。知るのは高位の神官と王族程度でしかない。
「あれ?秘密でした?すいません…いやまぁ、この世界に呼ばれたときに今の女神に会って状況の説明を受けていますので、顔見知りなんです」
「っ…あなたは勇者なのか?」
今度の驚きは極めつけだった。
確かに、〈勇者〉トールへの恩寵で、『もう一人』が元のウルスラに混ぜられたのでは…という話はしていた。だが、女神自身が選び、目的を持ってこの世界に送り出したのなら、それは〈勇者〉ではないのか。
「いえ、違いますよ。というか、同じ手順で呼んだけど勇者では無いと女神が言ってました。いろいろ問題が起きたので、当分勇者は呼ばないそうです」
「ではいったい主はなんのために……」
「ウルスラを助けて〈勇者〉を昇天させるのがわたしの役目でした。役目を終えたウルスラはわたしに溶け込んで消えるはずでしたが、一人の魂として転生の輪に戻れるそうです。それを告げるために降臨したみたいです」
「なんと……。あぁ…主よ感謝いたします……」
ただ消えるのではない…
それはこの世界の人間にとっては希望であるらしい。女神を敬う気が欠片も無いウルスラと、今見た光景を脳内で分析しようと必死になっているシリオンを除き、皆が跪くと感謝の祈りを捧げた。
短い祈りの言葉を唱えると、王は一つ思いついた事があって立ち上がった。
「勇者では無いにしろあなたが女神様見知りの者ならば、あなたの爆発を止めるよう願う事はできないのだろうか?」
ウルスラは苦笑いして首を振る。
「いやまぁ、わたしもそう思って今ダメ元で願ってみたんですけどね…『自業自得よ、ザマァ』だそうです……」
「……………はい?」
何か、崇敬すべき〈女神〉と相反するようなセリフが聞こえた気がして、王は困惑した。
「わたし、こっちに呼ばれたときに、あのポンコツ女神と喧嘩別れしてるんですよ。助けを期待するのは無理っぽいですね」
「ポ……ポン……喧…嘩」
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