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逓信ギルドの特急運搬人
運搬人?と森人と岩人と聖女と勇者 1
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シンダイを出た謎の女は、内陸部を目指して街道を黙々と歩き続ける。通りすがった荷馬車の御者のナンパだか親切心だかをあしらい、足を押さえて蹲る仲間に困っていた女性3人組に手持ちの包帯を渡し、黙々と黙々と
……一切休憩もせずに歩き続ける。
いや、休憩どころではない。街にも入らず、日が暮れても歩き続けている。しかも夜になるととうとう走り出した。真っ暗な街道を、女性が大きな背嚢を背負ったまま走り続ける姿は、一種異様な光景だった。下手に目撃されたら、『なんちゃらの亡霊』のような噂が広まっていたかもしれないが、幸いにというべきか夜に街を出るような物好きは一人も居なかった。
やがて、緑豊かな丘陵地帯が終わると、周囲は次第に岩の転がる荒れ地となっていく。更にその先は、砂と石ころの吹き溜まる砂漠に近い。人の気配がどんどん薄くなっていくのに、女は脇目もふらずに真っすぐ進んでいく。
そんな荒れ地をどんどん進んでいくと、再び植物の姿が現れ始めた。ただ、豊かな植生…とは少し異なる。ただ一種類、蔓性の草が一面地面を覆っていた。見渡す限りの蔓草の平原だが、季節柄蔓草は半ば以上枯れている。そしてその向こうには奇妙な台地が飛び出していた。それは周りが急斜面…というかほとんど崖の独立丘陵…荒れ地の平原にぴょこんと飛び出した、台地のような奇妙な丘だった。
蔓草だらけ岩だらけで歩きづらい道なき道を、女はひょいひょいと飛び越えながら進む。枯れているからどうにか歩けるが、真夏だったらとても越える事ができなかったかもしれない。丘の麓に着くと、周囲は明らかに人の手が入っているのが判った。小さな池や囲いが作られているし、このあたりはの土壌は砂と砂利ばかりではなく、一部は黒い土になっていた。麓に沿って進むと、崖にへばりつくように階段が付いて居た。女は何度もつづれ折りを繰り返しながら階段を登っていった。
丘の上は意外と広く、手入れされた畑と屋敷があった。天水以外に水源があるとも思えないのに、不思議と水が豊富だ。畑で作業中らしき人影を見つけた女はそちらに向かって行く。
畑に居たのは、金髪に緑の瞳の美形の森人と、黒髪黒目の只人の少女だった。野良仕事用に髪を括った森人の額に見える三つに割れた紋章は<堕ちた森人>の証だ。二人とも丈夫そうな野良着を着て、畑の世話と取り入れをしている所だった。
丘に上って来た見知らぬ女に気付いた黒髪の少女は身構えた。だが、森人の顔は『ぱぁっ』と明るくなる。
「あ~~っ、マキナお帰り。顔どうしたの?珍しいね」
「え?誰かと思ったらおっちゃんなの?」
森人は女を一目見るなり「マキナ」と呼んだ。黒髪の少女も、見慣れない女の正体が知り合いだと判ると、肩の力を抜いて安堵の息を吐く。
「ただいま。フューリーはこの顔見るの初めてだっけ?」
女(?)はそう言って背嚢を降ろすと、脱いだ外套を畳んで荷物の上に乗せた。声は男性のものになっているうえ、よく見ると口の動きと言葉が微妙に合っていない。
「シンダイで仕事してたら、運悪く魔獣の毒をどっぷり食らっても平気な所を岩人に見られてね。粘着されそうだったんで、変装して逃げて来た。うっかり居場所バレたら、周囲の迷惑お構いなしに突貫して来かねないからね」
「そりゃお気の毒。……岩人なら『キチ〇イ』の名前を出したらよかったんじゃないの?。アレの手付きと知ったら絡まれないと思うけど」
「それ、絡まれないんじゃなくてドン引きされてるだけだから良し悪しなんだよねぇ。身バレしたくないから仕事でも素性を隠してるんだし、最後の手段かなぁ」
「そりゃそうか」
そう言って森人はくすりと笑った。
「少しはゆっくりできるの?」
そう言いながら森人はマキナ=もちろん中身はボッカである=の隣に来ると、自然な仕草で腰に手をまわして身体を寄せた。
「あと5日のうちにリンコーに帰りゃいいから、3日だね」
「あんまり長居できないんだね…じゃ、その間はマキナ成分補給させて」
森人は芝居がかった溜息をついて見せると、マキナに後ろから抱き着いた。
甲殻ごしだから感触は判らないが、抱きしめられているのに前に押されているのは判る。
「もしもーし、背中に当たってますよ?」
「当ててるんだもん」
「中身が男でも、見た目は美女なんだからそういうのはやめなって。…てか……待て、下も当たってないか?」
「あ、ごめん。久しぶりだったから抑えきれないみたい…」
言葉と裏腹に、全然悪いとは思っていないらしい。笑いながら脚までからめて更に身体を密着させようとする。
だが、殺気を感じてふと顔を上げると、フューリーと呼ばれた黒髪の少女が怒りの目で二人をにらみつけていた。
「イチャ付くのは結構だけどさ、女子の目の前で堂々と下ネタしてるんじゃねーっ!」
怒鳴られたマキナは慌てて森人を押しのけると、背嚢をを拾い上げて逃げるように屋敷に向かって走って行く。
「爺さんに挨拶してくるわ。フューリーに手ぇ出したりすんなよ、インテグラ」
「マキナ以外に手を出したりしないよ」
いいながら手を振ると、そのままの笑顔でフューリーを振り返った。
「手を出したら私が死ぬし」
「ど・う・い・う意味っ?!」
「そのまんま」
フューリーは森人を睨み付けるが、僅かに微笑を浮かべたインテグラの表情は動かない。
「あなたの力で打たれたら、私だって死ぬよ」
静かな声でそう言われても、しばらくインテグラを睨み付けたままだったフューリーは、やがて悔しそうに視線を逸らした。
「私の力じゃない。私にできるのはアレを呼び出す事だけ。それ以外はただの人間よ、森人みたいな生きるチートと一緒にしないでよ。私はもうアレを使わない。普通に生きて普通に死ぬ事にしたの」
怒りながら、フューリーは周りの農具をまとめて抱えると屋敷に戻って行く。
その姿を見送るインテグラの微笑みに影が落ちた。
「普通…か…」
森人のインテグラは、只人を遥かに上回る身体能力・魔力を持っている。それでも、かつて<聖女>と呼ばれたフューリーの一撃を受ければ、インテグラとて只では済まない。それはまぎれもない事実だ。彼女は<勇者>の同類、人の理から外れたもの。その力を得てしまった以上、彼女は既に寿命すら只人とは違うものになっている。もう只人として普通に生きて死ぬのは無理なのだ。
「ほんと、理不尽だよねぇ…」
インテグラは首を振ると、芋で満杯の籠を抱えてフューリーの後を追った。
屋敷に入ったマキナが自分が使っていた部屋に向かうと、途中のドアが開いて眠そうな顔をした小さな男の子が出て来た。…いや、髪がミントグリーンをしている、岩人だ。
「お、シリオン。丁度いい所に」
「んあ~?マキナじゃねぇか、戻ってたのか…」
「さっきな。今、爺さんに挨拶してきた。って、今起きたのかよ、もう夕方だぞ?」
「昨日徹夜でな。思いついたらすぐ試さないと忘れるんだよ、昼夜関係ねぇ。で、なんか用事か?」
「顔を元に戻すの手伝ってくれ。あと、腹に穴空いちゃったから塞ぎたい。報酬は例によってここ最近の俺の活動日誌でどう?穴の開いた理由も書いてある」
「わかった、晩飯終わったら処置室に来な」
そう言いながら、岩人は水場に向かってよろよろ歩いて行く。
入れ替わりにフューリーが廊下の端から顔を出した。
「おっちゃんは食事には顔出す?」
「一応同席するよ、皆と話がしたいし」
「りょーかーい」
顔が引っ込むと、ガチャガチャ食器を用意する音が聞こえて来た。
インテグラとシリオンが魔法の明かりを大盤振る舞いした食堂で、フューリーが作った夕食をテーブルに並べ始める。フューリーが担当した今日の食事は、この国の標準的な食事とかけ離れていた。
メニューは、白米のご飯、豆腐の味噌汁、厚揚げのステーキ、納豆……である。
特異なメニューにも関わらず、全員何も言わず当たり前のように口にしている。
「相変わらず肉が無いなぁ…」
「文句言わない、厚揚げは畑の肉だ」
「仕方ないよ。おっちゃん以外は外に行けないんだし」
「ごめん、この顔だと大荷物背負う訳に行かなかった。次はちゃんと買い出ししてくるよ」
「肉だ、肉を頼む……」
「あ、そろそろにがりが無くなっちゃうからそれも要る。せめて厚揚げが無いとさすがに寂しい」
「そういや、下の蔓を齧りに来てる動物いるよね?食べられるかな?試しに狩ってみる?」
「下っていや、緑化はどう?そろそろ大豆畑にできそう?」
「まだ『いい土』には程遠いかなぁ」
「腐葉土大量に要るよねぇ、乾燥に強くて葉が大量に落ちる木を探して植える所からか…」
「なんとか畑を広げないと、お豆とお芋がここの生命線だもんねぇ…」
「そうなったら、害獣対策をもっと本格的にやらないと」
どこぞの開拓をしているアイドルグループよろしく、荒れ地の開墾をプランを話し合いながらわいわいと騒がしい食事が続く。
マキナは話をしながら箸で納豆を一粒ずつ摘まんでは持ち上げていた。
「そこっ、食べ物をオモチャにしちゃいけません!」
「はぁい」
フューリーに指摘され、マキナは箸を揃えて箸置きに置いて首をすくめる。
「な、なんか…女の子の顔でしょんぼりされると、自分が怖い大人になった気分になるわ…。くっそお、中身おっちゃんなのに」
「あた~したちの人気は~♪ 見た~目が9割だ~から~♪」
「妙な歌はやめぃっ!」
「……いや実際さ、いつもの顔だと毎度毎度女性にドン引きされるのに、こっちの顔だと誰も逃げない。見た目が9割ってのは、アレ本当だって実感するよ」
つい最近もそういう目にあった事をしみじみと言うマキナだが、『だがそれがいい』という傾奇者はすぐ隣にいた。
「いつもの顔のマキナは私が愛してあげるからいいの」
「……前から思ってたけど、インテグラって普段はちゃんと男なのに、おっちゃんの前だと態度違いすぎない?」
「マキナの前だけだよ、私が女になるのは。さっきだって、只人の顔だったから我慢できたけど、甲殻人の顔だったらあそこで押し倒して……」
「だから女子の前で特殊性癖の話すんな、このエロフは!!」
「……あれ?、マキナから『ホモが嫌いな女子なんていません』って聞いてたのに」
「信じるなって、少しは疑えよ!。それからおっちゃんはトンデモ説を一般化して話すなっ!。てか、あんたたちは属性テンコ盛り過ぎて胸焼けすんのよ!好き嫌い以前の話だわ」
食事中だろうと構わずキレまくるフューリーに、マキナは(家に帰って来たんだなぁ)という想いを噛みしめていた。
ちなみにシリオンは「肉~肉~」と呟いていたが、話の途中からテーブルに突っ伏して寝落ちしていた。デリカシー皆無の彼が起きていると、この程度の騒ぎでは済まなくなる。
……一切休憩もせずに歩き続ける。
いや、休憩どころではない。街にも入らず、日が暮れても歩き続けている。しかも夜になるととうとう走り出した。真っ暗な街道を、女性が大きな背嚢を背負ったまま走り続ける姿は、一種異様な光景だった。下手に目撃されたら、『なんちゃらの亡霊』のような噂が広まっていたかもしれないが、幸いにというべきか夜に街を出るような物好きは一人も居なかった。
やがて、緑豊かな丘陵地帯が終わると、周囲は次第に岩の転がる荒れ地となっていく。更にその先は、砂と石ころの吹き溜まる砂漠に近い。人の気配がどんどん薄くなっていくのに、女は脇目もふらずに真っすぐ進んでいく。
そんな荒れ地をどんどん進んでいくと、再び植物の姿が現れ始めた。ただ、豊かな植生…とは少し異なる。ただ一種類、蔓性の草が一面地面を覆っていた。見渡す限りの蔓草の平原だが、季節柄蔓草は半ば以上枯れている。そしてその向こうには奇妙な台地が飛び出していた。それは周りが急斜面…というかほとんど崖の独立丘陵…荒れ地の平原にぴょこんと飛び出した、台地のような奇妙な丘だった。
蔓草だらけ岩だらけで歩きづらい道なき道を、女はひょいひょいと飛び越えながら進む。枯れているからどうにか歩けるが、真夏だったらとても越える事ができなかったかもしれない。丘の麓に着くと、周囲は明らかに人の手が入っているのが判った。小さな池や囲いが作られているし、このあたりはの土壌は砂と砂利ばかりではなく、一部は黒い土になっていた。麓に沿って進むと、崖にへばりつくように階段が付いて居た。女は何度もつづれ折りを繰り返しながら階段を登っていった。
丘の上は意外と広く、手入れされた畑と屋敷があった。天水以外に水源があるとも思えないのに、不思議と水が豊富だ。畑で作業中らしき人影を見つけた女はそちらに向かって行く。
畑に居たのは、金髪に緑の瞳の美形の森人と、黒髪黒目の只人の少女だった。野良仕事用に髪を括った森人の額に見える三つに割れた紋章は<堕ちた森人>の証だ。二人とも丈夫そうな野良着を着て、畑の世話と取り入れをしている所だった。
丘に上って来た見知らぬ女に気付いた黒髪の少女は身構えた。だが、森人の顔は『ぱぁっ』と明るくなる。
「あ~~っ、マキナお帰り。顔どうしたの?珍しいね」
「え?誰かと思ったらおっちゃんなの?」
森人は女を一目見るなり「マキナ」と呼んだ。黒髪の少女も、見慣れない女の正体が知り合いだと判ると、肩の力を抜いて安堵の息を吐く。
「ただいま。フューリーはこの顔見るの初めてだっけ?」
女(?)はそう言って背嚢を降ろすと、脱いだ外套を畳んで荷物の上に乗せた。声は男性のものになっているうえ、よく見ると口の動きと言葉が微妙に合っていない。
「シンダイで仕事してたら、運悪く魔獣の毒をどっぷり食らっても平気な所を岩人に見られてね。粘着されそうだったんで、変装して逃げて来た。うっかり居場所バレたら、周囲の迷惑お構いなしに突貫して来かねないからね」
「そりゃお気の毒。……岩人なら『キチ〇イ』の名前を出したらよかったんじゃないの?。アレの手付きと知ったら絡まれないと思うけど」
「それ、絡まれないんじゃなくてドン引きされてるだけだから良し悪しなんだよねぇ。身バレしたくないから仕事でも素性を隠してるんだし、最後の手段かなぁ」
「そりゃそうか」
そう言って森人はくすりと笑った。
「少しはゆっくりできるの?」
そう言いながら森人はマキナ=もちろん中身はボッカである=の隣に来ると、自然な仕草で腰に手をまわして身体を寄せた。
「あと5日のうちにリンコーに帰りゃいいから、3日だね」
「あんまり長居できないんだね…じゃ、その間はマキナ成分補給させて」
森人は芝居がかった溜息をついて見せると、マキナに後ろから抱き着いた。
甲殻ごしだから感触は判らないが、抱きしめられているのに前に押されているのは判る。
「もしもーし、背中に当たってますよ?」
「当ててるんだもん」
「中身が男でも、見た目は美女なんだからそういうのはやめなって。…てか……待て、下も当たってないか?」
「あ、ごめん。久しぶりだったから抑えきれないみたい…」
言葉と裏腹に、全然悪いとは思っていないらしい。笑いながら脚までからめて更に身体を密着させようとする。
だが、殺気を感じてふと顔を上げると、フューリーと呼ばれた黒髪の少女が怒りの目で二人をにらみつけていた。
「イチャ付くのは結構だけどさ、女子の目の前で堂々と下ネタしてるんじゃねーっ!」
怒鳴られたマキナは慌てて森人を押しのけると、背嚢をを拾い上げて逃げるように屋敷に向かって走って行く。
「爺さんに挨拶してくるわ。フューリーに手ぇ出したりすんなよ、インテグラ」
「マキナ以外に手を出したりしないよ」
いいながら手を振ると、そのままの笑顔でフューリーを振り返った。
「手を出したら私が死ぬし」
「ど・う・い・う意味っ?!」
「そのまんま」
フューリーは森人を睨み付けるが、僅かに微笑を浮かべたインテグラの表情は動かない。
「あなたの力で打たれたら、私だって死ぬよ」
静かな声でそう言われても、しばらくインテグラを睨み付けたままだったフューリーは、やがて悔しそうに視線を逸らした。
「私の力じゃない。私にできるのはアレを呼び出す事だけ。それ以外はただの人間よ、森人みたいな生きるチートと一緒にしないでよ。私はもうアレを使わない。普通に生きて普通に死ぬ事にしたの」
怒りながら、フューリーは周りの農具をまとめて抱えると屋敷に戻って行く。
その姿を見送るインテグラの微笑みに影が落ちた。
「普通…か…」
森人のインテグラは、只人を遥かに上回る身体能力・魔力を持っている。それでも、かつて<聖女>と呼ばれたフューリーの一撃を受ければ、インテグラとて只では済まない。それはまぎれもない事実だ。彼女は<勇者>の同類、人の理から外れたもの。その力を得てしまった以上、彼女は既に寿命すら只人とは違うものになっている。もう只人として普通に生きて死ぬのは無理なのだ。
「ほんと、理不尽だよねぇ…」
インテグラは首を振ると、芋で満杯の籠を抱えてフューリーの後を追った。
屋敷に入ったマキナが自分が使っていた部屋に向かうと、途中のドアが開いて眠そうな顔をした小さな男の子が出て来た。…いや、髪がミントグリーンをしている、岩人だ。
「お、シリオン。丁度いい所に」
「んあ~?マキナじゃねぇか、戻ってたのか…」
「さっきな。今、爺さんに挨拶してきた。って、今起きたのかよ、もう夕方だぞ?」
「昨日徹夜でな。思いついたらすぐ試さないと忘れるんだよ、昼夜関係ねぇ。で、なんか用事か?」
「顔を元に戻すの手伝ってくれ。あと、腹に穴空いちゃったから塞ぎたい。報酬は例によってここ最近の俺の活動日誌でどう?穴の開いた理由も書いてある」
「わかった、晩飯終わったら処置室に来な」
そう言いながら、岩人は水場に向かってよろよろ歩いて行く。
入れ替わりにフューリーが廊下の端から顔を出した。
「おっちゃんは食事には顔出す?」
「一応同席するよ、皆と話がしたいし」
「りょーかーい」
顔が引っ込むと、ガチャガチャ食器を用意する音が聞こえて来た。
インテグラとシリオンが魔法の明かりを大盤振る舞いした食堂で、フューリーが作った夕食をテーブルに並べ始める。フューリーが担当した今日の食事は、この国の標準的な食事とかけ離れていた。
メニューは、白米のご飯、豆腐の味噌汁、厚揚げのステーキ、納豆……である。
特異なメニューにも関わらず、全員何も言わず当たり前のように口にしている。
「相変わらず肉が無いなぁ…」
「文句言わない、厚揚げは畑の肉だ」
「仕方ないよ。おっちゃん以外は外に行けないんだし」
「ごめん、この顔だと大荷物背負う訳に行かなかった。次はちゃんと買い出ししてくるよ」
「肉だ、肉を頼む……」
「あ、そろそろにがりが無くなっちゃうからそれも要る。せめて厚揚げが無いとさすがに寂しい」
「そういや、下の蔓を齧りに来てる動物いるよね?食べられるかな?試しに狩ってみる?」
「下っていや、緑化はどう?そろそろ大豆畑にできそう?」
「まだ『いい土』には程遠いかなぁ」
「腐葉土大量に要るよねぇ、乾燥に強くて葉が大量に落ちる木を探して植える所からか…」
「なんとか畑を広げないと、お豆とお芋がここの生命線だもんねぇ…」
「そうなったら、害獣対策をもっと本格的にやらないと」
どこぞの開拓をしているアイドルグループよろしく、荒れ地の開墾をプランを話し合いながらわいわいと騒がしい食事が続く。
マキナは話をしながら箸で納豆を一粒ずつ摘まんでは持ち上げていた。
「そこっ、食べ物をオモチャにしちゃいけません!」
「はぁい」
フューリーに指摘され、マキナは箸を揃えて箸置きに置いて首をすくめる。
「な、なんか…女の子の顔でしょんぼりされると、自分が怖い大人になった気分になるわ…。くっそお、中身おっちゃんなのに」
「あた~したちの人気は~♪ 見た~目が9割だ~から~♪」
「妙な歌はやめぃっ!」
「……いや実際さ、いつもの顔だと毎度毎度女性にドン引きされるのに、こっちの顔だと誰も逃げない。見た目が9割ってのは、アレ本当だって実感するよ」
つい最近もそういう目にあった事をしみじみと言うマキナだが、『だがそれがいい』という傾奇者はすぐ隣にいた。
「いつもの顔のマキナは私が愛してあげるからいいの」
「……前から思ってたけど、インテグラって普段はちゃんと男なのに、おっちゃんの前だと態度違いすぎない?」
「マキナの前だけだよ、私が女になるのは。さっきだって、只人の顔だったから我慢できたけど、甲殻人の顔だったらあそこで押し倒して……」
「だから女子の前で特殊性癖の話すんな、このエロフは!!」
「……あれ?、マキナから『ホモが嫌いな女子なんていません』って聞いてたのに」
「信じるなって、少しは疑えよ!。それからおっちゃんはトンデモ説を一般化して話すなっ!。てか、あんたたちは属性テンコ盛り過ぎて胸焼けすんのよ!好き嫌い以前の話だわ」
食事中だろうと構わずキレまくるフューリーに、マキナは(家に帰って来たんだなぁ)という想いを噛みしめていた。
ちなみにシリオンは「肉~肉~」と呟いていたが、話の途中からテーブルに突っ伏して寝落ちしていた。デリカシー皆無の彼が起きていると、この程度の騒ぎでは済まなくなる。
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