不死身のボッカ

暁丸

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勇者の孫にTS転生した。今更やり直しを要求してももう遅い

*いしのなかにいる*

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 「っと…大丈夫?」
 「……なんとかな」

 超人同士の戦いで全く出番の無かったウルスラが、ふらつくシリオンを後ろから支えた。

 「アレが『知の追求』?」
 「……そうだよ。俺のこの世界への理解は、異界からの智慧を得る事で大きく進んだ」

 シリオンはウルスラの揶揄も平然と受け流す。魂を対価にしたことも後悔はしていない。ただ、新たな異界の知識(ウルスラ)を得た事で、もうそうそう呼び出す事も無いと思っていた。よもや身を守るために呼ぶとは思わなかったが。

 「…ちょっとそのまま支えてろ」

 そう言うとシリオンは真言を唱える。魔力の竪炉が出現し、高熱がアイマスナーの亡骸を荼毘に付す。
 このまま放置しても、遺体は迷宮に飲まれる。わざわざ魔法で送るのは、天敵に対するシリオンなりの礼儀だった。
 (あんたがもう少し弱いか、俺がもう少し強ければ『生きる理不尽』に殺される事もなかったろうに…)
 
 息を吐きだすと、ほぼスッカラカンに魔力を使い切ったシリオンの身体から力が抜けた。

 「……抱き上げるなよ?。俺は真っ二つになりたかねぇ」
 「う……はい」

 身長差のせいで肩を貸す訳にもいかないので、「抱っこしようか?」と言おうと思ったら寸前に拒否された。
 そして『真っ二つ』という言葉が、ウルスラの神経を刺激する。
 ウルスラは、人間が真っ二つになって臓物をまき散らす様を初めて見た。少なくとも、日本人でそんな姿を恒常的に見てる人間は少ないだろう。幸いというべきか、消化器が無いし嗅覚も無いので吐瀉するような真似は晒さずに済んだが、目を逸らしてなるべく見ないようにしている。そしてそれはおそらく正解だ。改めて『真っ二つ』と聞いただけで、生前の不快な胃液の感覚を思い出してしまったのだから。
 その「真っ二つ」にした張本人は、葬送の炉には目もくれず「ったく、岩人にはヤベぇのしかいないのか?」などと愚痴っている。思わず顔を見合わせたシリオンとウルスラは揃って(お前が言うな!)と思った。『空間を切る魔法を防御する障壁をあっさり切り裂くただの鋼の剣』ってなんだ一体。

 ウルスラは、前世、今世を通じて人を殺した事は無い。トールもシリオンもトリスキスも命を奪う事に躊躇なくは無かった。命をかけた勝負を吹っ掛けられて、おとなしく死ぬようなタマは居ないということだ。ウルスラは(肝に銘じておこう)と、改めて考える。もし自分がそういう目にあったら、相手を殺すつもりで戦わなければならない。攻撃して当たるかとか殺してしまったらどうするかなど問題ではない、心構えの問題だ。ここは元の世界とは全く異なる、そして自分はもうその世界の住人なのだ。



 「で、これからどうするよ?俺ぁ正直、もうしんどくて無理だぞ」
 「まぁ、お前ぇが戦えなくてもどうにかなるっちゃなるが…」

 確かに、トリスキスは一方的に勝利したがシリオンはギリギリの勝利だった。これ以上の戦闘は難しいだろう。
 だが、初回はシリオンも地図描きしかしておらず、トールとトリスキスの二人で突破したようなものだ。シリオンが戦力外でも進めない訳ではない。
 トールはずっとブツブツ言ってるトリスキスの方を見た。アダミスを倒した後、シリオンとアイマスナーの戦いには目もくれず抜き身の『氷室』にずっと何か語り掛けている。

 「こっちもなぁ…おーい、トリスキス?」

 答えは無い。
 剣に話しかけるトリスキスは、どうもなにか謝罪をしているらしい。そのうち涙をぽろぽろとこぼし始めた。

 「ごめん、ごめんね!」

 トリスキスが突然そう叫ぶと、青白い刀身の魔剣を自分の首に当てようとした。

 「ちょ、何やってんの!」

 大慌てのウルスラが、シリオンを放り出すとトリスキスの右手を必死で押さえつけた。トールは(あちゃー)という顔で額に手をやっている。

 「離せーっ!、ボクもトリカムナの所に行くのーーーーーっ!」

 泣きながら大暴れするトリスキスを、ウルスラはこちらも本気のパワーでどうにか押さえつける。

 「なにこれ?どうなってんの??」
 「いやまぁ…あの剣使うとな、しばらく不安定になるんだよ、こいつは。勝ち負け自体の心配はいらねぇんだが、そのあとのコレがなぁ…」

 呑気に言うトールだが、実際に対処しているウルスラはそれどころではない。

 「ど、どーすりゃいいの?」
 「もう少ししたら落ち着くから、そうしたら話し相手になってやれ。面倒なら気絶させるが…」
 「判った、判ったからそっちは無しで」

 <勇者>の脳筋対応は採用する気になれず、ウルスラはトリスキスが落ち着くまで付き合う事にした。となると、動けるのはトールのみである。

 「ダメだなこりゃ。引き上げるか?」
 「だけど、途中で上がったら組合に事情聴かれるだろ。…報告すんのか、コレ?」

 組合からの依頼は、最下層の魔導兵の戦利品の確認だ。その成果がない説明をしなければならない。謎の刺客に襲われたから返り討ちにした…と説明しても、戦って殺した相手は<紋章付き>の森人と岩人の貴族階級だ、祖国が行方不明者の捜索を始めたら、ここにたどり着く可能性がある。面倒の気配しかしない。

 「それも面倒臭ぇな…こいつらは放っておけば迷宮に飲まれるからいいとして、組合の方は…俺がひとっ走り最下層まで行って魔導兵狩って…」
 「待て、なんだこの音……」

 『ズンズン……』
 一人で最下層の主を倒してくるとか、普通の探索者からしたら非常識な相談をしていたら、迷宮の奥から重い足音が近づいて来た。

 暗がりから現れたのは、5体の魔導兵だった。

 「なんだぁこいつら、前は居なかったよな?」
 「あーー…これはアレじゃないかな、迷宮の防衛機構ってやつ」
 「なんだそりゃ?」
 「迷宮の存在が怪しくなるような脅威が現れた時に、迷宮がそいつらを追い出すために、通常には無い動きをする事があるんだとよ」
 「脅威ねぇ…強力な魔剣使ったり、空間切断の魔法だの核融合魔法使だの、非常識な魔法使ったせいか」

 思わず顔を見合わせたウルスラとシリオンは、(非常識はお前もだよ)と思ったがもちろん口にしない。
 それにウルスラには、シリオンの言い方が引っかかった。

 「……迷宮の管理者とかが居るんじゃなくて?その言い方だと、迷宮自体に意思があるみたいだけど」
 「迷宮を隅から隅まで調べても、誰かが住んでるような形跡は見つかった事が無いんだってさ。まぁ。迷宮そのものか、迷宮の管理者か知らんが、なんらかの意思が介在してるのは間違いねぇが」
 「ふうん」(よくある『ダンジョンコア』がある訳じゃないんだ)
 「どうするよ、これ」
 「どうもこうも…」

 シリオンの言う通りなら、この魔導兵達はトール達を始末しに来たという事だ。ならばやる事はただ一つ。トールは動けない三人の前に出た。
 前に出て来たトールを標的と定めたか、魔導兵が一斉に掴みかかってきた。

 さすがに五体で取り囲む事はできなかった。トールは、三体並んで前進してきた右端の魔導兵の腕に、抜き打ちで斬りつける。「キン」という音と共に、魔導兵の右腕が半ばから切断された。トールは魔導兵の間に踏み込むと、そこから諸手で剣を切り上げる。腹の右から脇の下まで斜めに斬られた右端の魔導兵は動かなくなった。
 トールはそのまま魔導兵の包囲の輪を抜け、まだ背中を向けたままの真ん中の魔導兵の膝の後ろに斬りつけた。ガクンと膝を着く魔導兵の背中を蹴り飛ばす。ようやく左端の魔導兵が振り向いた時には、その首は胴から飛んでいた。トールは悠々と真ん中の魔導兵の背中に長剣を突き立てた。
 後方の二体は、何もできずに崩れ落ちていた。トールは三体の包囲を抜けた時点で魔法を唱えていたのだ。二体とも頭が破壊されている。
 魔導兵はいずれも最下層にいた縞鋼製だ。並みの武器では歯が立たない防御力・耐久力を誇っているが、前回の探索でトールはそれを一撃で斬り捨てている。だから迷宮は一度に五体をけしかけて来たのだろうが、防御力をほとんど無視するトールには、ノロマな的でしか無かった。

 「なぁなぁ、これで最下層に行った代わりになんねぇかな?」

 ボス5体の一斉攻撃を流れるように撃退したトールが、剣を納めると嬉しそうに言う。

 「……やってる事が、盗賊退治んときに<勇者>と知らずにつっかかって来た山賊斬ったのと同じだ。現地まで行かなきゃ潰した山賊が依頼の連中か判らんだろよ」

 シリオンが呆れ気味に呟く。通常なら打撃を通すのも一苦労の縞鋼製魔導兵も、トールには山賊を斬るのと大差ないらしい。

 「まぁ……爺ちゃんには敵の強さや数の違いが『誤差』みたいなもんらしいし…」
 「なら、地下二階の魔導兵も最下層の魔導兵も誤差みたいなもんか。……いや、そうはならんやろ」

 シリオンがツッコミに回らざるを得ない時点で、トールの大概さが判ろうというものである。

 「お、やっぱり出るのは鋳塊だぞ。これで報告していいんじゃねぇかな」

 トールがうっきうきに声を上げた。面倒な事がとことん嫌いなのだ。そのくせ、依頼自体を破棄しようとは思わないあたり、まだかろうじて人の心が残っているといえる。

 「ま、それでいいんじゃねの?…縞鋼5個も納めたら、細かい事は言わ……」

 言いかけたシリオンが異変に気付いた。奇妙な魔力が渦巻き始めている。「うーうー」泣きながら暴れていたトリスキスも、ピタりと動きを止めて周りを見渡した。

 「なんだこりゃ」
 「え、え、え?」

 トール、シリオン、トリスキスの身体がふわりと宙に浮いた。
 それより遅れてウルスラの身体も浮き上がる。

 「こりゃ転移かっ!」

 シリオンが驚愕する。転移は<勇者>トールですら使えない特殊な魔法。迷宮は、徘徊者や財宝をどこからか呼び寄せていると言われている。そのための手段が転移の魔法だとも。
 最強戦力をもってしても脅威を排除できなかった迷宮が、強硬手段に訴えたのだろうか。

 「魔法を斬るか?」
 「もう遅い!、今術を破壊したらどこに吹っ飛ばされるか判らん、魔法に乗った方がまだマシだ」

 剣を抜こうとしたトールをシリオンが止める。
 その瞬間、周囲の景色がぐりんと回った。




 ウルスラは途方に暮れていた。
 周りは真っ暗、指一本動かせない。

 (みんな無事だよねぇ…)

 転移直後、真っ暗闇に閉じ込められてパニックに陥ったウルスラだが、結局何もできずに諦めて状況整理を始めた。その結果が、自分はたぶん地面の中に転移した事、他の三人は無事なんじゃなかろうか…という予測…ほとんど願望である。
 *おおっと*テレポーターで<勇者>死亡ではなく、マピ◇・マハマ・ディ◇マトで地上に強制送還されたのではないか?。そう期待する根拠は、この世界には管理神がいるという事実である。<勇者>を石の中にテレポートさせてハイお終いなら、あんなに何度もやり直す必要は無かった。そこまで気を使っていた彼女が、勇者殺しの迷宮を放置するはずがない。
 ……まぁあのポンコツぶりだと見落としていた可能性もあるが、迷宮についての話を聞く限り迷宮はきちんと攻略可能なバランスを取っているように思える。悪意の塊のような存在なのに、理不尽な行動は取らないのだ。おそらくは。問答無用の即死ギミックは無いはずだ、たぶん。

 そうなると、なんで自分は地中に飛ばされたか判らないのだが、今はそれより重要な事がある。

 (…人の心配してる場合じゃないぞ、俺)

 土砂崩れで生き埋めになれば人は死ぬ。ゲームの中でも石の中にテレポートしたら即死である。なのに自分は死んでいない。
 短期的に見れば【朗報】である。どうにか居場所を見つけてもらえれば、掘り出してくれるだろう。
 だが長期的に見たら【悲報】でしかない。その場合ウルスラは、死んでいないのではなくという事になる。もしここが、地下数100mとかの深部だったら?。誰も居場所を探す事ができなかったら?。予測(願望)が外れて勇者も石の中で、管理神が「それでもいいや」と割り切ったら?
 真っ暗闇で指一本動かせず、それでも呼吸も食事も排泄も必要無い身体は死ぬこともできない。ついでに眠る事もできない。つまりは、意識があるまま永久にこの状態である。まだ誰も殺していないのに「永遠に供養しろ!ウルスラ」と言われても困る。

 まぁ、勇者が無事なら、見つけてもらえなくても遠からず出られるかもしれない。キレたトールの勇者ボカンでマントル層に達する大穴が開いて。
 その場合は自分もバラバラになって、結局ミッション失敗であるが。

 (……まずいよなこれ、冗談抜きで。ていうか、俺どれくらい正気で居られるだろ)

 身体は頑強でも精神はそうではない。どうに助かったけど精神が壊れてましたじゃ意味が無い。
 そうは言ってもできる事は一つ。祈る事だけだ。「どうかあの三人が無事で、早いとここちらを見つけて掘り出してくれますように」…と。
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