魔の森の鬼人の非日常

暁丸

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彼と彼女が出会うとき

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 巨大魔獣の出現は稀で、普段のステレはその気配を探しながら森を探索し、記録を付け、自分が食うための獲物を獲っている。魔獣と一口に言っても、通常の森と変わらず、鹿や猪に似た魔獣も居る、そう言った草食や雑食の獣が主に彼女の糧となった。
 山脈に囲まれた森をほぼ歩き尽くした後は、山々を歩き回るようになった。そうこうしていたら、結晶化した植物群の先に、神殿のような建物があるのを発見した。奇妙な気配を感じたステレは自らの気配を消して近づき岩の隙間から覗き込み、、、息をのんだ。
 神殿のような廃墟の前、岩に囲まれた広場の中心で、黒衣の人影が何かしらの体術の型を行っていた。今まで森も山も探索してきたが、人もその痕跡も見たことが無い。この神殿にしても生活の痕跡は全くなく、廃墟にしか見えない。とてもここで暮らしているとは思えなかった。そして、黒衣の人物は、、、動きを見ただけで相当な使い手だと判る。貴人の護衛としての訓練を受けたステレは、格闘の心得もある。しかし、彼?と組討ちをしても勝ち筋が見えない、それほどの動きだった。

 一通りの型を終えたらしく、黒衣は自然体に戻った。そしていきなりステレが隠れる岩場を見ると

 「そこの君、俺と立合いとかどうかな?武器は何でも良いよ。三日後の正午にここでどう?」

 と、何事もなく勝負を申し込んで来た。
 ステレはどうにか驚きを隠した。森で狩りをする必要上、隠形にはそれなりに自信がある。この距離で看破されるとは思っていなかった。逡巡していると。重ねて声をかけてきた。

 「カマかけてるように見えたかな?ちゃんと判ってるよ。そこの君は、鬼人族の女性だよね?」

 姿を見せても居ないのに、種族や性別まで見破られているなら、隠れても無駄だろう。

 「闘う理由が無いわ」

 ステレは一旦は拒絶して反応を見ることにした。相手の意図が全然読めない。用心のため姿は見せないまま答える。

 「出会ってしまったから。じゃダメかな?」

 さっきから街で女の子に声をかけているような態度を崩さない相手の物言いに、ステレはうっかり噴き出しそうになった。相手のぺースになるのを警戒しつつ、乗ってみる。

 「口説いてるような口ぶりね」
 「口説いてるんだよ」

 間髪入れずに大真面目に答えて来る。殺し合いをしようと口説くというのはいかがなものだろうか。

 「どれくらいだか忘れるくらい長い事一人で退屈しててね。もうここに人が来ることも無いのかと諦めかけていたら、突然人の気配が現れた。しかも結構使うらしい!。しかもしかも鬼人の女の子だ!!。そうしたら口説いてお付き合いしようとするでしょうよ?」

 (お付き合いというかド突き合いというか、、、、)
 呆れ気味に呟いたら

 「似たようなもんだろ」
 即座に突っ込みが入った。
 (お付き合いとド突き合いは別物だろう、、、。いや、そこじゃなくて、どういう聴力をしてるんだろう、迂闊に独り言も呟けないな)こめかみに指を当て、自分の考えを補正する。会話が非常識過ぎて、自分の思考まで非常識になりそうだ。
 正体不明ではあるが、只ならぬ男であることは明らかだ。目的もさっぱり判らない。こんな勝負を受ける意味があるのか?

 「残念だけど、女の子って歳でも無いわ。お付合いする相手は選びたいんだけど、お誘いをお断りするとどうなるのかしら?」

 重ねて拒絶を匂わせてみた。

 「え、えー?、鬼人(オーガ)って水より呼吸より性交より闘いを欲するって聞いていたのに、、、」
 「、、、どこの世界の鬼人よ」
 「違うの?」

 何か、予想してたのと全く違った反応が帰ってきた。なんでそこに驚かれるのだろう?頭痛がしそうになる。
 こちらを戦闘狂の鬼人と思って勝負を挑んで来たのなら、戦いを望まないと知れば引いてくれるだろうか?

 「いやまぁ、あなたの周りの鬼人はそうなのかもしれないけど、私はばったり出会って即殺し合いみたいな非常識じゃないわよ」
 「なるほど。じゃあ、まずは俺の気持ちをもっと知ってもらおうかな。君の寝所を確かめた上で、了承が得られるまで毎晩窓の下で俺の気持ちを囁いて、、、、」
 「判ったわ、三日後の正午ね」

 慌てて勝負を了承する。
 -コイツは絶対に言った通りのことをやる-そう直感したのだ。

 「ご快諾いただけてとてもうれしいよ」

 彼は心底嬉しそうに遺跡の中に戻っていき、それっきり気配も感じなくなった。
 大きく深呼吸したステレはべったりと冷や汗をかいているのにようやく気付いた。岩場から顔を出し、気配が無いのを確認して広場に降りた。そのまま遺跡の中を確認しようとして、、、諦める。身体が拒否していると感じた。こういう時の感覚に逆らって良いことは無い。
 (なんだったんだろう、アレは?)言葉は軽妙だが、強いのは間違いない。所々に目印になるものを見つけながら道を記録し小屋に向かって歩きはじめる。

 「さて、、、勝負を受けたはいいけど、、、」

 あの演武を見る限りは拳闘士、、、と思って良いか?見たことも無い体の流れだった、この国でも近隣国でも見ない。相当の手練れのようだが、どうやって戦う?。考えながら家路を辿る途中で、ふと思い出した。

「あ、あいつが何者だか聞くのを忘れてた、、、、」
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