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魔の森と鬼人の縁起
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ステレが住む森は、王国=グラスヘイムの北端にあたる。大陸を東西に横断する白骨山脈の尾根筋が国境線となっており、山脈の北は『皇国』と呼ばれる大国の領土だ。現在のところ王国と皇国との関係は良好であるし、この山脈を越えて軍を送るのは、不可能ではないにしろ困難である。山越えの街道も無いので関も無い。だからこの山脈は国境地帯ではあるが、両国とも地元領主に管理を任せており、戦力の空白地帯、つまりは緩衝地帯となっている。ただ、円形の山に囲まれた魔の森だけは、ある時以降禁足地として王国の管理になった。
この森が魔の森と呼ばれるのは、他の地に比べて流れる魔力の量が桁違いに多いからだった。森に住む魔獣と呼ばれる獣は魔力の影響を受け、通常の野獣より体格が大きく力も強い。高位の魔獣になると、訓練された人間の戦士の如く、自分の身体に強化魔法をかけることもできる。訓練された兵でさえ、1対1では危険な獣である。動物だけでなく、植物さえも一部は魔物のごとく人を襲う。普段は森から出ようとしない魔獣だが、時折多数の魔獣が山脈の切れ目から溢れ出て、近隣の集落を蹂躙することがある。
以前から、魔獣の素材を求め、或いは魔獣の暴走を未然に防ぎ、できれば開拓するために、組織立って兵を送り込むことも行われてきた。しかし、迂闊に軍を送った結果、かえって魔獣の暴走を引き起こすということを繰り返し、結局この森は手付かずの地として残されることとなった。王国は山脈の切れ目に柵と管理の砦を作り、森を封鎖した。
不思議なことに、魔獣がひしめくのは円形に囲まれた森だけで、尾根を越えると他の森も山も普通の山林となんら変わらない。そんな不自然さも魔の森の『魔』たる所以となっている。
そんな森にやって来たステレは、魔獣を狩って暮らすようになった。鬼人一人が狩をして生活する程度では、魔獣の暴走は起きないようだった。当初のステレの生活は、気ままというより自暴自棄に近いものだった。腹が減れば魔獣を喰い、道なき道を適当に歩き回る。魔獣に敗れて食われて死ぬのも良し。食料が尽きて飢え死にするのも良し、過酷な環境で病に倒れ衰弱して死ぬのも良し。
ところが一月近く森を彷徨っても、一向に死ぬ気配が無かった。過去の放浪生活で野営の術は身に着けたが、本来ならその程度では大森林で生き抜けるはずが無かった。可能としたのは鬼人族の身体能力である。鬼人族の身体ときたら、雨が降ろうが岩の上で寝ようが生肉を齧ろうがビクともしない。
木の下で寝て火も焚かずにキャンプするそんな旅を続けて尾根を登っていたら、水の湧き出す僅かな平地を見つけた。絶好の水場に見えるが、地面の具合を見る限りは、魔獣が入り込んでいる様子はない。ここからは大森林を一望に見渡すこともできる。不思議に思いながらもここをキャンプ地に定め、探索しては水場に戻る生活を始めた。歩き回っているうちに崖の岩場で岩塩が層になっているのを見つけた。獣たちの塩舐め場になっているようだ。生き血を飲んで塩分を摂る生活からは脱却できた。
いっそ住む場所を作ろうか。そんなことを考えていたら、キャンプ地に獣人の遍歴商人ドルトン一行が表れた。魔獣が跋扈して閉鎖された大森林を抜けて人がやってくるとは思っていなかった。唖然とするステレにドルトンはぬけぬけと「美しいお嬢様、私は旅の商人ドルトンと申します。何かお要り用のものはありませんか?」と抜かしたのである。ステレは苦笑せざるを得なかった。そして王都を出てからずっとしかめ面をしていた自分に気が付いたのだった。
ステレとドルトンは面識がある。ステレは、現在の王グリフが太子時代に兄であり当時の王だったブレスに追われ3年にも渡る逃避行を行った際に付き従い、グリフを助けた。その後帰国したグリフとブレス王との内戦ではドルトンら獣人が味方につき、ステレと共に戦ったのだ。
顔見知りの遍歴商人が旅の途中で偶然ステレと再会した、、、などと信じるほどステレは暢気ではない。この森に人が住めないのは知れ渡っているし、ステレは居場所を誰にも告げずこの森に来た。商人が見渡す限り人の、、、客の居ない地に来るわけが無い。
「で、誰の差し金?」
「ご想像の通りの方と申し上げておきます。せめて屋根のある場所で寝起きできるようにご支援しろとの仰せでした」
予想通り、<影の宰相>とも渾名される王妃に命じられてステレに接触してきたようだ。ならばもう何を言っても無駄だろう。ステレはドルトンと取引をすることを受け入れた。ドルトンの支援で小屋を建てて定住し、必要な物資を供給してもらう。代わりにステレは魔獣や魔の森の記録を作り報告し、魔の森で得た素材を提供する。明日を考えない生活をしていた自分にとりあえずの目的ができた。そうして森を探索していたステレは、偶然にも魔獣の暴走の引き金を目にすることになった。それは信じられないほど巨大化した魔獣だった。
その時見たのはカニだった。カニ、、確かにカニだった。遠近感がおかしくなったのか?と思った程の。
そのカニは甲羅の高さがステレの身長程もあり、差し渡しは両手を広げたステレの3倍ほどもある巨大カニだった。そんな怪物が、片っ端から森の魔獣を殺戮して回る。そして魔力を食うのである。魔力を食うたびに目に見えて身体が巨大になっていく。魔力を食う巨獣により、魔獣はどんどん追いやられて行く。遠からず暴走が始まると理解したステレは、カニ退治を試み、数日に渡る断続的な戦闘の末にどうにか巨大カニを倒した。程なく追いやられた魔獣は戻り、暴走は未然に防がれた。つまるところ、森の魔獣は殺戮者に怯え、森から飛び出し、全く異なる環境に恐慌状態に陥って暴れていたのだ。
ステレは稀に表れる巨大魔獣を狩ることを自分の役目に追加したのだった。
この森が魔の森と呼ばれるのは、他の地に比べて流れる魔力の量が桁違いに多いからだった。森に住む魔獣と呼ばれる獣は魔力の影響を受け、通常の野獣より体格が大きく力も強い。高位の魔獣になると、訓練された人間の戦士の如く、自分の身体に強化魔法をかけることもできる。訓練された兵でさえ、1対1では危険な獣である。動物だけでなく、植物さえも一部は魔物のごとく人を襲う。普段は森から出ようとしない魔獣だが、時折多数の魔獣が山脈の切れ目から溢れ出て、近隣の集落を蹂躙することがある。
以前から、魔獣の素材を求め、或いは魔獣の暴走を未然に防ぎ、できれば開拓するために、組織立って兵を送り込むことも行われてきた。しかし、迂闊に軍を送った結果、かえって魔獣の暴走を引き起こすということを繰り返し、結局この森は手付かずの地として残されることとなった。王国は山脈の切れ目に柵と管理の砦を作り、森を封鎖した。
不思議なことに、魔獣がひしめくのは円形に囲まれた森だけで、尾根を越えると他の森も山も普通の山林となんら変わらない。そんな不自然さも魔の森の『魔』たる所以となっている。
そんな森にやって来たステレは、魔獣を狩って暮らすようになった。鬼人一人が狩をして生活する程度では、魔獣の暴走は起きないようだった。当初のステレの生活は、気ままというより自暴自棄に近いものだった。腹が減れば魔獣を喰い、道なき道を適当に歩き回る。魔獣に敗れて食われて死ぬのも良し。食料が尽きて飢え死にするのも良し、過酷な環境で病に倒れ衰弱して死ぬのも良し。
ところが一月近く森を彷徨っても、一向に死ぬ気配が無かった。過去の放浪生活で野営の術は身に着けたが、本来ならその程度では大森林で生き抜けるはずが無かった。可能としたのは鬼人族の身体能力である。鬼人族の身体ときたら、雨が降ろうが岩の上で寝ようが生肉を齧ろうがビクともしない。
木の下で寝て火も焚かずにキャンプするそんな旅を続けて尾根を登っていたら、水の湧き出す僅かな平地を見つけた。絶好の水場に見えるが、地面の具合を見る限りは、魔獣が入り込んでいる様子はない。ここからは大森林を一望に見渡すこともできる。不思議に思いながらもここをキャンプ地に定め、探索しては水場に戻る生活を始めた。歩き回っているうちに崖の岩場で岩塩が層になっているのを見つけた。獣たちの塩舐め場になっているようだ。生き血を飲んで塩分を摂る生活からは脱却できた。
いっそ住む場所を作ろうか。そんなことを考えていたら、キャンプ地に獣人の遍歴商人ドルトン一行が表れた。魔獣が跋扈して閉鎖された大森林を抜けて人がやってくるとは思っていなかった。唖然とするステレにドルトンはぬけぬけと「美しいお嬢様、私は旅の商人ドルトンと申します。何かお要り用のものはありませんか?」と抜かしたのである。ステレは苦笑せざるを得なかった。そして王都を出てからずっとしかめ面をしていた自分に気が付いたのだった。
ステレとドルトンは面識がある。ステレは、現在の王グリフが太子時代に兄であり当時の王だったブレスに追われ3年にも渡る逃避行を行った際に付き従い、グリフを助けた。その後帰国したグリフとブレス王との内戦ではドルトンら獣人が味方につき、ステレと共に戦ったのだ。
顔見知りの遍歴商人が旅の途中で偶然ステレと再会した、、、などと信じるほどステレは暢気ではない。この森に人が住めないのは知れ渡っているし、ステレは居場所を誰にも告げずこの森に来た。商人が見渡す限り人の、、、客の居ない地に来るわけが無い。
「で、誰の差し金?」
「ご想像の通りの方と申し上げておきます。せめて屋根のある場所で寝起きできるようにご支援しろとの仰せでした」
予想通り、<影の宰相>とも渾名される王妃に命じられてステレに接触してきたようだ。ならばもう何を言っても無駄だろう。ステレはドルトンと取引をすることを受け入れた。ドルトンの支援で小屋を建てて定住し、必要な物資を供給してもらう。代わりにステレは魔獣や魔の森の記録を作り報告し、魔の森で得た素材を提供する。明日を考えない生活をしていた自分にとりあえずの目的ができた。そうして森を探索していたステレは、偶然にも魔獣の暴走の引き金を目にすることになった。それは信じられないほど巨大化した魔獣だった。
その時見たのはカニだった。カニ、、確かにカニだった。遠近感がおかしくなったのか?と思った程の。
そのカニは甲羅の高さがステレの身長程もあり、差し渡しは両手を広げたステレの3倍ほどもある巨大カニだった。そんな怪物が、片っ端から森の魔獣を殺戮して回る。そして魔力を食うのである。魔力を食うたびに目に見えて身体が巨大になっていく。魔力を食う巨獣により、魔獣はどんどん追いやられて行く。遠からず暴走が始まると理解したステレは、カニ退治を試み、数日に渡る断続的な戦闘の末にどうにか巨大カニを倒した。程なく追いやられた魔獣は戻り、暴走は未然に防がれた。つまるところ、森の魔獣は殺戮者に怯え、森から飛び出し、全く異なる環境に恐慌状態に陥って暴れていたのだ。
ステレは稀に表れる巨大魔獣を狩ることを自分の役目に追加したのだった。
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もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
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今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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