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血塗れデート2
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「つっ!」
呆然としたまま、しばし大の字で寝転がる。素手とは思えない恐るべき威力。鎧で受けて斬るという、ステレの思惑を嘲笑うがごとく、身体の芯に衝撃が叩きこまれたのが判る。柄で受けなかったら一撃で戦闘不能に追い込まれたかもしれない。よろよろと起き上がる。体は動く。骨も異常無い。武器を見れば、かろうじて命を救った堅木の柄は、真ん中で粉砕されていた。受けた刃を止めるために柄の側面に打ち付けられた鉄の板が、グニャグニャに曲がっている。
肘を入れた後、即座に追撃の構えを取っていた<夜明けの雲>は、かろうじて起き上がるステレの様子を見て構えを解いた。
「期待外れだなぁ、そんな雑に振り回すなんて。余裕で肘が入ったよ。でもまぁ、あそこから受けたのは評価できるかな」
がっかりしたような<夜明けの雲>の声を聴き、ステレは赤面しそうになった。無言のまま壊れた武器を捨てて腰の短剣を抜く。怒りでも恐怖でも無い。「期待外れ」と言われたのを恥辱に感じた。武器を失おうが最後まで戦う。そう決意して構えたら、<夜明けの雲>は慌ててステレを止めた。
「待った待った。武器が壊れちゃったなら仕切り直し。手持ちが無いなら、その辺にあるので使えそうなのを勝手に使っていいから」
ステレは呆気に取られて一瞬固まった。
「待ってくれるの?」
「いいよ。素手じゃ勝負にならないでしょ?」
素手では無いのだが、、、悔しいがその通りだ。短剣を腰に戻し周りを見ると、広場の縁に沿って、ガラクタのようなものが散乱している。近づいてみると、それはボロボロになった武具だった。
彼?彼ら?に敗れた敗者の残して行ったものだろうか。そのほとんどは年月に耐えきれず、革や木の部分のみならず、金属製のものも原型を留めないほどに腐食していた。
(使えそうなものと言っても、、、、)錆びた武具の山をかき分けて見ると、原型を留めている剣が数振り見つかった。いや、原型を留めるどころではない。こびりついた土埃を拭ってみれば、錆一つ無く刃は今研ぎ上げたばかりのように鋭利である。
「これは、、、魔銀(ミスリル)?こっちは緋鋼(ヒヒイロカネ)か、、、初めて見た」
驚き、思わず声に出てしまった。鈍い灰色や、紅く輝く金属など他に無い。どちらも只人以外の種族の鍛冶技術により生み出される金属で、只人至上主義のこの国では貴重な品である。ステレはそれぞれ二三度振って感触を確かると、魔銀の長剣を手にした。見つけた中では一番長いものだ。元々のステレの剣技は細剣と短剣を持つスタイルだったが、実際の戦闘では両手持ちの武器を振り回している方が長い。
選んだ剣は片手剣よりは長いが、両手剣ほどでもない。バルディッシュよりは各段に短い。彼の速度に対抗するには、長すぎる武器は不要だし、軽い方が良い。この剣は軽いが振ってみても撓りもおかしなブレもない。片目でいろいろな方向から刃を見ても、曲がりも歪みも無い。見事な鍛え、見事な研ぎだ。
(これほどの武器を持つ者でも敗れるか、、、、)改めて戦慄する。武器で勝敗が決まる訳では無いが、この場に残された武具は、いずれも相当な武人でなければ所持を許されないものばかりだ。おそらくはステレ以上の。
剣を選ぶと、ステレは籠手を外し胴鎧を脱ぎ捨てた。その下に来ていたホーバークも脱ぐ。あの打撃は防御を貫通する、鎧など無意味だ。長剣の柄に巻かれていたであろう滑り止めは既に朽ち果てていた。ポメル(柄頭の錘)は小さく、代わりに柄を長めにしてバランスを取っている。ここぞというときは、盾を捨て両手で斬り込むのだろう。ステレは荷物から包帯を取り出し、一端を鍔に縛り付けると、食事を入れた籠から出した蜂蜜を柄に塗り付けた。その上に包帯を端からきっちり巻き付け、残った端をポメルに縛り付け、緩まないか確認する。適当な滑り止めだが、どうせ勝負は一瞬。その一瞬、汗で滑らなければ良い。
柄の感触を確かめると、目を閉じかつて受けた剣の教練を思い出す。短剣から両手剣、ポールウェポンまで、一通りの手ほどきを受けたが、騎士では無く護衛になるしかなかったステレが主に学んだのは、短剣、細剣、片手剣までで、両手剣はほんの基礎止まりだ。記憶をたどり、基礎の基礎を思い出す。教官は身長程もある剣を、柄を握り、時には刀身を握り、長短自在、剣としてだけでなくポールウェポンの如く変幻自在に使うと言っていた。
(そうでない構えの剣士も居た)
両手剣の記憶をさらに思い出す、、、苦い記憶も、、、
(彼は、、、<首取ガランド>はどうだった?)
かつて戦った強敵、ステレに致命傷を与えた両手剣の名手の姿を思い浮かべる。
目を開けたステレは<夜明けの雲>に向き直った。
「待たせたかしら?」
「いいや。君を観察してたから、退屈しなかった」
「見てて楽しいもの?」
「会いに来てくれた女性が、目の前で脱ぎはじめて喜ばない男はいないと思うよ?」
「あら、あなたは着たままする方が好みなのかと思ったけど」
「なんで知ってるのさ」
軽口を叩き合いながら、距離を置いて対峙する。
ステレは剣を両手で握り、ゆっくり垂直に立て額の高さまで上げると僅かに右横にずらし、こめかみの位置で構えた。ステレの思い出した両手武器の神髄は、片手剣より間合いの長い武器を、片手剣以上の速さで振るうこと。さっきのステレの一撃は、群がる雑兵を一掃する力任せの振るい方だった。達人の域にある<夜明けの雲>に通用する訳がない。まさに雑な振り回しだった。
<夜明けの雲>は動かず、ステレの構えをじっと見つめる。
「いいね、、、」
満足そうにそうつぶやくと、途端に全身に闘気をみなぎらせた。
「さっきよりずっといい」
呆然としたまま、しばし大の字で寝転がる。素手とは思えない恐るべき威力。鎧で受けて斬るという、ステレの思惑を嘲笑うがごとく、身体の芯に衝撃が叩きこまれたのが判る。柄で受けなかったら一撃で戦闘不能に追い込まれたかもしれない。よろよろと起き上がる。体は動く。骨も異常無い。武器を見れば、かろうじて命を救った堅木の柄は、真ん中で粉砕されていた。受けた刃を止めるために柄の側面に打ち付けられた鉄の板が、グニャグニャに曲がっている。
肘を入れた後、即座に追撃の構えを取っていた<夜明けの雲>は、かろうじて起き上がるステレの様子を見て構えを解いた。
「期待外れだなぁ、そんな雑に振り回すなんて。余裕で肘が入ったよ。でもまぁ、あそこから受けたのは評価できるかな」
がっかりしたような<夜明けの雲>の声を聴き、ステレは赤面しそうになった。無言のまま壊れた武器を捨てて腰の短剣を抜く。怒りでも恐怖でも無い。「期待外れ」と言われたのを恥辱に感じた。武器を失おうが最後まで戦う。そう決意して構えたら、<夜明けの雲>は慌ててステレを止めた。
「待った待った。武器が壊れちゃったなら仕切り直し。手持ちが無いなら、その辺にあるので使えそうなのを勝手に使っていいから」
ステレは呆気に取られて一瞬固まった。
「待ってくれるの?」
「いいよ。素手じゃ勝負にならないでしょ?」
素手では無いのだが、、、悔しいがその通りだ。短剣を腰に戻し周りを見ると、広場の縁に沿って、ガラクタのようなものが散乱している。近づいてみると、それはボロボロになった武具だった。
彼?彼ら?に敗れた敗者の残して行ったものだろうか。そのほとんどは年月に耐えきれず、革や木の部分のみならず、金属製のものも原型を留めないほどに腐食していた。
(使えそうなものと言っても、、、、)錆びた武具の山をかき分けて見ると、原型を留めている剣が数振り見つかった。いや、原型を留めるどころではない。こびりついた土埃を拭ってみれば、錆一つ無く刃は今研ぎ上げたばかりのように鋭利である。
「これは、、、魔銀(ミスリル)?こっちは緋鋼(ヒヒイロカネ)か、、、初めて見た」
驚き、思わず声に出てしまった。鈍い灰色や、紅く輝く金属など他に無い。どちらも只人以外の種族の鍛冶技術により生み出される金属で、只人至上主義のこの国では貴重な品である。ステレはそれぞれ二三度振って感触を確かると、魔銀の長剣を手にした。見つけた中では一番長いものだ。元々のステレの剣技は細剣と短剣を持つスタイルだったが、実際の戦闘では両手持ちの武器を振り回している方が長い。
選んだ剣は片手剣よりは長いが、両手剣ほどでもない。バルディッシュよりは各段に短い。彼の速度に対抗するには、長すぎる武器は不要だし、軽い方が良い。この剣は軽いが振ってみても撓りもおかしなブレもない。片目でいろいろな方向から刃を見ても、曲がりも歪みも無い。見事な鍛え、見事な研ぎだ。
(これほどの武器を持つ者でも敗れるか、、、、)改めて戦慄する。武器で勝敗が決まる訳では無いが、この場に残された武具は、いずれも相当な武人でなければ所持を許されないものばかりだ。おそらくはステレ以上の。
剣を選ぶと、ステレは籠手を外し胴鎧を脱ぎ捨てた。その下に来ていたホーバークも脱ぐ。あの打撃は防御を貫通する、鎧など無意味だ。長剣の柄に巻かれていたであろう滑り止めは既に朽ち果てていた。ポメル(柄頭の錘)は小さく、代わりに柄を長めにしてバランスを取っている。ここぞというときは、盾を捨て両手で斬り込むのだろう。ステレは荷物から包帯を取り出し、一端を鍔に縛り付けると、食事を入れた籠から出した蜂蜜を柄に塗り付けた。その上に包帯を端からきっちり巻き付け、残った端をポメルに縛り付け、緩まないか確認する。適当な滑り止めだが、どうせ勝負は一瞬。その一瞬、汗で滑らなければ良い。
柄の感触を確かめると、目を閉じかつて受けた剣の教練を思い出す。短剣から両手剣、ポールウェポンまで、一通りの手ほどきを受けたが、騎士では無く護衛になるしかなかったステレが主に学んだのは、短剣、細剣、片手剣までで、両手剣はほんの基礎止まりだ。記憶をたどり、基礎の基礎を思い出す。教官は身長程もある剣を、柄を握り、時には刀身を握り、長短自在、剣としてだけでなくポールウェポンの如く変幻自在に使うと言っていた。
(そうでない構えの剣士も居た)
両手剣の記憶をさらに思い出す、、、苦い記憶も、、、
(彼は、、、<首取ガランド>はどうだった?)
かつて戦った強敵、ステレに致命傷を与えた両手剣の名手の姿を思い浮かべる。
目を開けたステレは<夜明けの雲>に向き直った。
「待たせたかしら?」
「いいや。君を観察してたから、退屈しなかった」
「見てて楽しいもの?」
「会いに来てくれた女性が、目の前で脱ぎはじめて喜ばない男はいないと思うよ?」
「あら、あなたは着たままする方が好みなのかと思ったけど」
「なんで知ってるのさ」
軽口を叩き合いながら、距離を置いて対峙する。
ステレは剣を両手で握り、ゆっくり垂直に立て額の高さまで上げると僅かに右横にずらし、こめかみの位置で構えた。ステレの思い出した両手武器の神髄は、片手剣より間合いの長い武器を、片手剣以上の速さで振るうこと。さっきのステレの一撃は、群がる雑兵を一掃する力任せの振るい方だった。達人の域にある<夜明けの雲>に通用する訳がない。まさに雑な振り回しだった。
<夜明けの雲>は動かず、ステレの構えをじっと見つめる。
「いいね、、、」
満足そうにそうつぶやくと、途端に全身に闘気をみなぎらせた。
「さっきよりずっといい」
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今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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