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商会の鬼人2
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「奥様、そろそろお時間です」
モンドが時間を告げにやって来た。会話の切れるタイミングを量っていたのだろう。
わざわざ支配人自らが出向いて来たことで、自称『ただの看板』だろうと、この只人の紳士はチェシャをきちんと『会長夫人』として接していることが判った。
それなら、自分も頑張ってお嬢様(仮)くらいは演じておいた方がいいだろう。とステレは考えた。
「奥様、本日はお招きいただきありがとうございました」
立ち上がったステレは、作法を守った礼をした。ステレはただの蛮族ではない。元貴族で、長いこと王族の側仕えもしたインテリ蛮族なのだ。
だが、チェシャは椅子の背もたれに行儀悪く身体を預けたまま、ひらひらと手を振った。
「ここの中ではチェシャで良いわよ。今更あんたにまで奥方扱いされてもむず痒いだけだわ」
ちらりとモンドを見ると、顔に「諦めました」と書いてある。堅苦しいのが嫌いなステレにもありがたい話なのだが、一方で客人というか、居候のステレとしては最低限の礼は守りたいとも思う。妙なところでこの鬼人は律儀なのだ。
自分は居候の身なので…と言おうとして、ステレは直前で考えを変えた。(この獣人はやっぱり私の同類よねぇ)そう考えたステレは、ちょっといたずら気を出したのだ。記憶の中の貴族を思い出し、気合を入れて表情と、声と、口調を作ってみる。
「御厄介になっている身でそういう訳にはまいりませんよ、奥方様」
思いっきり作った低音ボイスでそう言って、先日モンドがステレにした紳士の礼を真似て見せた。即席だが、中々の貴公子ぶりになっている。
チェシャは唖然とした後で噴き出して大笑いを始めた。モンドは横を向いて肩を震わせている。
(よし、一本取った)なんだかよく判らない理屈で、ステレは心の中でガッツポーズを取っていた。
だが、ひとしきり笑った後で優雅に立ち上がったチェシャは、ステレの前で完璧な淑女の礼を返した。
「わたくし如きに礼を尽くして頂き恐縮ですわ、騎士様」
つと顔を上げて微笑む。ほんの僅か角度をいじっただけで、目もくらむ程の微笑である。声も完全に作って気品すら感じさせる。直前までケタケタ笑っていた姿と同一人物には見えない。さすがに看板を自称するだけのことはあった。礼儀作法や、自分を貴婦人に見せる技は心得ているらしい。
(う、なんという破壊力…)再度、なんだかよく判らない理屈でステレは心の中で防御の型を取る。反撃を予想していなかったら一撃で沈められていた。
いったいなんの勝負だ。
チェシャは、すっと一瞬だけ俯くと次の瞬間にはいつもの調子に戻っていた。
「でもそれ、あたしの前以外でやらない方が良いわよ?、ここの子って女同士も男同士もイケるクチが多いから」
「まぁ察しは付いてましたからやりませんよ。奥様に私がこういうことするヤツだと知って頂きたかっただけです。あぁ念のため、そっちの気はありませんので」
店員の黄色い歓声を思い出して、やれやれ…と肩をすくめた。ステレの方は、思い切り気合を入れて作ったので、口調が完全に戻っていない。
「ま、もう遅いかもね。ほら、獣人って只人より格段に耳が良いから……」
チェシャの言葉にハッとして中庭を囲むテラスを見ると、柱の陰で悶絶している女性店員の姿が見えた。鬼人も五感は只人より鋭い。身もだえしながら「尊い」と呟き続けているのがかすかに聞こえた。
あちゃーという表情のステレに、チェシャはさらに追い打ちをかけた。
「別に「奥様」でいいわよ。あたしはあんたを「お嬢」と呼ぶことにするので。じゃねー」
固まるステレを放っておいて、くすくす笑いながらチェシャは退出して行った。ステレは完全に墓穴を掘ったことに気づいたのだった。
支店でのステレの暮らしの大半は「待つこと」だった。
お嬢様(仮)らしく振る舞おうと頑張ったものの、数日で挫折した。魔の森に比べて平穏過ぎて、時間が止まったかのようだ。そのまま心臓まで止まりそうだ…とステレは埒もないことを考えている。上げ膳据え膳でぼーっとしている以外することが無いのだ。
いっそ、退屈しのぎに街に出てみたいとは思うのだが、鬼人の姿のままでは出られない。ドルトンを見送りに出たときは明け方だったからまだ良いが、日中なにかの拍子で鬼人と判ったら、パニックになりかねない。
そうかと言って、中庭で稽古でも始めようとすると、途端に「ご令嬢のすることではありません」と小言が飛んでる来るのだ。仕方なく夜中にこっそり稽古をしているので、眠くて仕方ない。
「うぅ、今の私はお嬢様じゃないのに」
結局、日中は何もすることが無くて、中庭のテーブルに突っ伏して愚痴る。
「いえいえ、立派なお嬢なのですから、優雅にお茶でもしていてください」
テラスを通りすがりの店員が、笑いながらツッコミを入れて自分の仕事に戻って行った。
チェシャの薫陶か、それとも皆聞き耳を立てていたのか、商会員が揃いも揃って「お嬢」呼びである。
「ん?」
ステレは、ふと不思議な既視感に囚われた。
脳裏に「お嬢、剣の鍛錬は程度にしないと叱られますぞ」という男の声が聞こえた。誰の声だ?ドルトンでも商会の店員の声でも無い。
思い出そうとしていたら、景色が回った。それが眩暈だと気づいた時には、ステレは椅子から崩れ落ちていた。自分が立っているのか寝ているのかも判らない。こみあげてくる吐き気を必死に堪える。
「…ょう!、お嬢!、お嬢!。どうされました?」
地面にへたり込んだまま、上半身を起こされて支えられているのに気が付いた。何人かの店員が心配そうに囲んでみている。誰かに呼ばれたのか、モンドまで駆けつけて来るところだった。
「ん…あ…ちょっと眩暈がして……ゴメン、ありがとう」
店員が持ってきてくれた水を含む。ようやく意識がはっきりとしてきた。まだ少しクラクラするが、どうにか吐き気は収まっている。
「いったいどうされました?」
「よく、、判らないわ。…ここに来てずっと身体が動かせないから、鬱憤溜まってるのかもね」
冗談めかして言ってみたが、結局それが一番正解に近い気もする。
「……今日は部屋でお休みください。近々に街に出られるよう手はずを整えますので」
支配人のモンドにそう言われれば、嫌も応もない。ステレは両側を店員に支えられ、素直に部屋に引き上げた。
寝台に横になり天井を見上げていると、毎日見ていた煤ぼけた山小屋の梁を思い出す。(まさかホームシックかしら)そんなことを考えるステレは、既視感の事はすっかり頭から抜け落ちていた。
数日後、例によって中庭でボケらっとしていたステレに、待望のアイテムが届いた。
瞳を隠すゴーグルである。
通商「奥の間」と呼ばれる応接室に呼ばれたステレに、モンドは変装道具一式を出した。
ここは椅子とテーブルではなく、絨毯を敷いた床に大きなクッションを置いて座るようになっている。放浪することの多い獣人の文化らしい。モンドもステレも靴を脱いで座っていた。只人の貴族からしたら眉をひそめるような部屋だが、ステレときたら、部屋に入ってやわらかそうな絨毯を見るなり、ゴロゴロと二三度寝転がってから、モンドの視線に気づいて気まずそうに起き上がる有様だったのだ。
変装用ゴーグルは濃い色のついたガラスを使って、金色の瞳を誤魔化すようになっている。透過する光が減るので、縦に裂けた瞳孔も開いて多少は丸くなる。砂漠地帯で使う防塵眼鏡を参考にしたそうで、丸いレンズの周りを革製の覆いが取り巻いており、横から見ても瞳が直に見えることは無い。
「やっぱり、ちょっと視界は悪いわね」
試着してみたステレはそう感想を漏らしたが、確かに鏡を見ても鬼人の特徴の金色の瞳は見えなくなっていた。
……ただ………色付き丸眼鏡をかけていると、別な意味で怪しい人物に見えるのだが。
「……胡散臭さ大炸裂ね、これ」
自分の姿に思わず吹き出しそうになってしまう。
ゴーグルの他に、角を隠すための帽子も用意した。更にフード付きのマントまで羽織って姿見を見たら、鬼人の特徴は全て隠れて、只人の男に見える。だが、奇抜さから逆に目立つ結果になっているのも否めない。
「外国人って設定にでもするしかないかしら?」
「そうですね。商会には外国人の出入りもありますから、外国からの風変わりな客人ということにしておきますか」
「後、この体格で女だってのは目立ち過ぎるから、外では男のフリするしか無いわね」
ステレのような身長の只人の女性が居ない訳ではないが、ごく少数だ。奇抜な恰好の大女がうろついていたら恰好の噂のタネになる。目立つことは避けた方が良い。
「きっとモテますよ。変なのをひっかけないように注意してください」
先日の貴公子ぶりを思い出したのか、モンドはくつくつ笑っている。
「それ、だいぶ前にドルトンにも言われた気がするけど、顔隠してるのにどうやったらモテるのよ」
「チラりと見える部分から全体を想像すると、現物より良く見えたりするんですよ。人間、見たいものが見えるように出来ていますのでね」
「それ、商売でも?」
「企業秘密です」
さすがドルトンの部下だ。口もそうとう達者らしい。言い負かすのは諦めた方が良いだろう。
実際のところ、顔の上半分を隠しても、ステレはキリリとしたいい男に見えるのは事実なのだ(多少胡散臭いが)。とは言えモンドも、なんの手当もなくステレを街に放り出すつもりは無かった。
「護衛は不要でしょうが、虫よけと街の案内に店員を一人付けます。……男がいいですか?女がいいですか?」
「………判って言ってない?」
笑顔のモンドに憮然として答える。
女性店員が揃いも揃ってステレに黄色い歓声を送っているのは承知しているが、かといって男装して『虫よけ』に男性とくっついて散策するということは、そっちの趣味というアピールになってしまう。正体を隠しているのだから気にしなければ良いのだろうが、そこはそれ気持ちの問題だ。
それに、ノーマルに見える方が、悪目立ちしないという意味でも良いだろう。
「只人の女性店員を付けます。ごゆっくりデートをお楽しみください」
楽しそうに言うモンドに、盛大な溜息をつくステレだった。
モンドが時間を告げにやって来た。会話の切れるタイミングを量っていたのだろう。
わざわざ支配人自らが出向いて来たことで、自称『ただの看板』だろうと、この只人の紳士はチェシャをきちんと『会長夫人』として接していることが判った。
それなら、自分も頑張ってお嬢様(仮)くらいは演じておいた方がいいだろう。とステレは考えた。
「奥様、本日はお招きいただきありがとうございました」
立ち上がったステレは、作法を守った礼をした。ステレはただの蛮族ではない。元貴族で、長いこと王族の側仕えもしたインテリ蛮族なのだ。
だが、チェシャは椅子の背もたれに行儀悪く身体を預けたまま、ひらひらと手を振った。
「ここの中ではチェシャで良いわよ。今更あんたにまで奥方扱いされてもむず痒いだけだわ」
ちらりとモンドを見ると、顔に「諦めました」と書いてある。堅苦しいのが嫌いなステレにもありがたい話なのだが、一方で客人というか、居候のステレとしては最低限の礼は守りたいとも思う。妙なところでこの鬼人は律儀なのだ。
自分は居候の身なので…と言おうとして、ステレは直前で考えを変えた。(この獣人はやっぱり私の同類よねぇ)そう考えたステレは、ちょっといたずら気を出したのだ。記憶の中の貴族を思い出し、気合を入れて表情と、声と、口調を作ってみる。
「御厄介になっている身でそういう訳にはまいりませんよ、奥方様」
思いっきり作った低音ボイスでそう言って、先日モンドがステレにした紳士の礼を真似て見せた。即席だが、中々の貴公子ぶりになっている。
チェシャは唖然とした後で噴き出して大笑いを始めた。モンドは横を向いて肩を震わせている。
(よし、一本取った)なんだかよく判らない理屈で、ステレは心の中でガッツポーズを取っていた。
だが、ひとしきり笑った後で優雅に立ち上がったチェシャは、ステレの前で完璧な淑女の礼を返した。
「わたくし如きに礼を尽くして頂き恐縮ですわ、騎士様」
つと顔を上げて微笑む。ほんの僅か角度をいじっただけで、目もくらむ程の微笑である。声も完全に作って気品すら感じさせる。直前までケタケタ笑っていた姿と同一人物には見えない。さすがに看板を自称するだけのことはあった。礼儀作法や、自分を貴婦人に見せる技は心得ているらしい。
(う、なんという破壊力…)再度、なんだかよく判らない理屈でステレは心の中で防御の型を取る。反撃を予想していなかったら一撃で沈められていた。
いったいなんの勝負だ。
チェシャは、すっと一瞬だけ俯くと次の瞬間にはいつもの調子に戻っていた。
「でもそれ、あたしの前以外でやらない方が良いわよ?、ここの子って女同士も男同士もイケるクチが多いから」
「まぁ察しは付いてましたからやりませんよ。奥様に私がこういうことするヤツだと知って頂きたかっただけです。あぁ念のため、そっちの気はありませんので」
店員の黄色い歓声を思い出して、やれやれ…と肩をすくめた。ステレの方は、思い切り気合を入れて作ったので、口調が完全に戻っていない。
「ま、もう遅いかもね。ほら、獣人って只人より格段に耳が良いから……」
チェシャの言葉にハッとして中庭を囲むテラスを見ると、柱の陰で悶絶している女性店員の姿が見えた。鬼人も五感は只人より鋭い。身もだえしながら「尊い」と呟き続けているのがかすかに聞こえた。
あちゃーという表情のステレに、チェシャはさらに追い打ちをかけた。
「別に「奥様」でいいわよ。あたしはあんたを「お嬢」と呼ぶことにするので。じゃねー」
固まるステレを放っておいて、くすくす笑いながらチェシャは退出して行った。ステレは完全に墓穴を掘ったことに気づいたのだった。
支店でのステレの暮らしの大半は「待つこと」だった。
お嬢様(仮)らしく振る舞おうと頑張ったものの、数日で挫折した。魔の森に比べて平穏過ぎて、時間が止まったかのようだ。そのまま心臓まで止まりそうだ…とステレは埒もないことを考えている。上げ膳据え膳でぼーっとしている以外することが無いのだ。
いっそ、退屈しのぎに街に出てみたいとは思うのだが、鬼人の姿のままでは出られない。ドルトンを見送りに出たときは明け方だったからまだ良いが、日中なにかの拍子で鬼人と判ったら、パニックになりかねない。
そうかと言って、中庭で稽古でも始めようとすると、途端に「ご令嬢のすることではありません」と小言が飛んでる来るのだ。仕方なく夜中にこっそり稽古をしているので、眠くて仕方ない。
「うぅ、今の私はお嬢様じゃないのに」
結局、日中は何もすることが無くて、中庭のテーブルに突っ伏して愚痴る。
「いえいえ、立派なお嬢なのですから、優雅にお茶でもしていてください」
テラスを通りすがりの店員が、笑いながらツッコミを入れて自分の仕事に戻って行った。
チェシャの薫陶か、それとも皆聞き耳を立てていたのか、商会員が揃いも揃って「お嬢」呼びである。
「ん?」
ステレは、ふと不思議な既視感に囚われた。
脳裏に「お嬢、剣の鍛錬は程度にしないと叱られますぞ」という男の声が聞こえた。誰の声だ?ドルトンでも商会の店員の声でも無い。
思い出そうとしていたら、景色が回った。それが眩暈だと気づいた時には、ステレは椅子から崩れ落ちていた。自分が立っているのか寝ているのかも判らない。こみあげてくる吐き気を必死に堪える。
「…ょう!、お嬢!、お嬢!。どうされました?」
地面にへたり込んだまま、上半身を起こされて支えられているのに気が付いた。何人かの店員が心配そうに囲んでみている。誰かに呼ばれたのか、モンドまで駆けつけて来るところだった。
「ん…あ…ちょっと眩暈がして……ゴメン、ありがとう」
店員が持ってきてくれた水を含む。ようやく意識がはっきりとしてきた。まだ少しクラクラするが、どうにか吐き気は収まっている。
「いったいどうされました?」
「よく、、判らないわ。…ここに来てずっと身体が動かせないから、鬱憤溜まってるのかもね」
冗談めかして言ってみたが、結局それが一番正解に近い気もする。
「……今日は部屋でお休みください。近々に街に出られるよう手はずを整えますので」
支配人のモンドにそう言われれば、嫌も応もない。ステレは両側を店員に支えられ、素直に部屋に引き上げた。
寝台に横になり天井を見上げていると、毎日見ていた煤ぼけた山小屋の梁を思い出す。(まさかホームシックかしら)そんなことを考えるステレは、既視感の事はすっかり頭から抜け落ちていた。
数日後、例によって中庭でボケらっとしていたステレに、待望のアイテムが届いた。
瞳を隠すゴーグルである。
通商「奥の間」と呼ばれる応接室に呼ばれたステレに、モンドは変装道具一式を出した。
ここは椅子とテーブルではなく、絨毯を敷いた床に大きなクッションを置いて座るようになっている。放浪することの多い獣人の文化らしい。モンドもステレも靴を脱いで座っていた。只人の貴族からしたら眉をひそめるような部屋だが、ステレときたら、部屋に入ってやわらかそうな絨毯を見るなり、ゴロゴロと二三度寝転がってから、モンドの視線に気づいて気まずそうに起き上がる有様だったのだ。
変装用ゴーグルは濃い色のついたガラスを使って、金色の瞳を誤魔化すようになっている。透過する光が減るので、縦に裂けた瞳孔も開いて多少は丸くなる。砂漠地帯で使う防塵眼鏡を参考にしたそうで、丸いレンズの周りを革製の覆いが取り巻いており、横から見ても瞳が直に見えることは無い。
「やっぱり、ちょっと視界は悪いわね」
試着してみたステレはそう感想を漏らしたが、確かに鏡を見ても鬼人の特徴の金色の瞳は見えなくなっていた。
……ただ………色付き丸眼鏡をかけていると、別な意味で怪しい人物に見えるのだが。
「……胡散臭さ大炸裂ね、これ」
自分の姿に思わず吹き出しそうになってしまう。
ゴーグルの他に、角を隠すための帽子も用意した。更にフード付きのマントまで羽織って姿見を見たら、鬼人の特徴は全て隠れて、只人の男に見える。だが、奇抜さから逆に目立つ結果になっているのも否めない。
「外国人って設定にでもするしかないかしら?」
「そうですね。商会には外国人の出入りもありますから、外国からの風変わりな客人ということにしておきますか」
「後、この体格で女だってのは目立ち過ぎるから、外では男のフリするしか無いわね」
ステレのような身長の只人の女性が居ない訳ではないが、ごく少数だ。奇抜な恰好の大女がうろついていたら恰好の噂のタネになる。目立つことは避けた方が良い。
「きっとモテますよ。変なのをひっかけないように注意してください」
先日の貴公子ぶりを思い出したのか、モンドはくつくつ笑っている。
「それ、だいぶ前にドルトンにも言われた気がするけど、顔隠してるのにどうやったらモテるのよ」
「チラりと見える部分から全体を想像すると、現物より良く見えたりするんですよ。人間、見たいものが見えるように出来ていますのでね」
「それ、商売でも?」
「企業秘密です」
さすがドルトンの部下だ。口もそうとう達者らしい。言い負かすのは諦めた方が良いだろう。
実際のところ、顔の上半分を隠しても、ステレはキリリとしたいい男に見えるのは事実なのだ(多少胡散臭いが)。とは言えモンドも、なんの手当もなくステレを街に放り出すつもりは無かった。
「護衛は不要でしょうが、虫よけと街の案内に店員を一人付けます。……男がいいですか?女がいいですか?」
「………判って言ってない?」
笑顔のモンドに憮然として答える。
女性店員が揃いも揃ってステレに黄色い歓声を送っているのは承知しているが、かといって男装して『虫よけ』に男性とくっついて散策するということは、そっちの趣味というアピールになってしまう。正体を隠しているのだから気にしなければ良いのだろうが、そこはそれ気持ちの問題だ。
それに、ノーマルに見える方が、悪目立ちしないという意味でも良いだろう。
「只人の女性店員を付けます。ごゆっくりデートをお楽しみください」
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この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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