【おまけページ更新中】世良くんの刺激的な日々後日談

雨樋雫

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~世良side~

上書き保存された価値観

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 金に困って始めたアルバイトもトラブル続きで、そのたびに渦中の仁太良がクビになった。だが結局それも女性のアルバイト店員にセクハラをしていた店長を殴ったとか、店に嫌がらせをする客をつまみ出したとか、そんな理由だ。

 とにかく出会った大人が悪すぎた。
 仁太良の大人への不信感はどんどん膨らみ、今すぐにでも破裂しそうな風船のようだった。

 (どうせ大人は皆、俺の話なんかロクに聞きもせず判断する。こいつだってきっと同じだ。だったら最初から期待しない方が全然いい)

 完全に心がねじれてしまった仁太郎は、樹生のこともまったく信用できなかったし、するつもりもなかった。

 ーーそのはずだったのに。
 あの日のことは、今でもよくわからない。
 何故、初対面のはずの樹生の前で弱音を吐き、不安な気持ちをぶつけて、どうしようもないくらい泣いてしまったのか。

 樹生とは、散々ヤるヤらないでモメていた。
 いきなり二人まとめて妙な部屋に飛ばされたかと思えば、何者からか「セックスしないと部屋から出られない」という指令を下され部屋に閉じ込められるという異常な状況。
 そんな中、常に冷静で事務的にサクサクとコトを進めようとする樹生に無性に腹が立ったし、初めて会う相手ーーしかも男とヤらないといけないなんて、ノーマルな上に経験が少ない仁太郎にとって完全にキャパオーバーな状態だった。

 (ーー男とヤるなんて、ぜってー無理だって!!)

 樹生からは男役でも女役でも好きな方を選んで良いと言われたが、そういう問題じゃない。

 さっさとセックスを終わらせて部屋を脱出しようとする樹生に対し、仁太郎は無理だできないと拒否し続けた。
 そして、そんな仁太郎の態度にイライラした樹生がとうとうブチ切れることになる。

「早くしろよ、暇なお前と違って俺はこの後も仕事が立て込んでるんだ!!」

 さっきまで落ち着いた声音で話していた樹生の突然の強い言葉に、思わずビクッと仁太郎の体が強張る。

「お前と一生この部屋で暮らすなんてまっぴらだよ」
 そう言ってため息をつく樹生に、仁太郎の中で反発心が湧いた。

 (俺だって、どうにかしたいとは思ってる…けど、こんな状況でいきなりヤれって言われても、はいわかりましたってなるわけねーじゃん…!!)

 そう言い返したかったけれど。

 (え、嘘……?)

 文句よりも先に出たのは、涙だった。

 (ヤベー、何だコレどうした俺。止まれ止まれ止まれっ!!あーーーーーー!!止まんねぇーーーーーー!!)

 自分でも予想していなかった体の反応に、仁太郎の脳がパニックを起こす。
 今までこんなことーー父親に酷い虐待をされようが、喧嘩で死にそうな目に逢おうが涙なんて流したことなかったのに。

 不安と恐怖が入り混じった中で樹生に叱責されたことが思わぬスイッチとなったのか。
 まるで子どものようにボロボロと涙を零してしまった仁太郎を前にして、樹生もかなり慌てていた。

 樹生は自分が強く怒鳴ってしまったせいで仁太郎が泣いたと思ったようだが、実際は少し違う。気の強い仁太郎は、そんなことで簡単に涙を見せるような男ではない。

 恐らくはーー甘えることができたのだ。生まれて初めて。

 どんなに止まれ止まれと思っても、壊れた蛇口のように制御のきかない涙腺。自分が自分でなくなってしまったようで、恥ずかしさにその場から逃げたくなった。

 意地悪なこの男のことだ。こんな情けない姿を晒した自分を見て絶対馬鹿にするだろう。そう思ったのに、意外にも樹生はベソをかいた仁太良を笑い者にはしなかった。

 それから樹生は仁太郎の気持ちを蔑ろにしたことに真摯に謝罪したあと、仁太郎の肌に優しく触れながら尋ねた。

「……なあ、相手…俺じゃ嫌……?」

 そう耳元で囁かれた時は腰が砕けるかと思った。
 さっきまでとは違う、甘い空気が場に流れる。

「いや…別に…アンタが嫌…とかじゃ…ねー…けど…」

 思わずそう口を滑らせて、自分の発言に自分でビックリした。そこは嫌だと言うところだろう、と。

 けれど仁太郎は、もうその時には樹生の術中に完全にハマってしまっていたのだ。
 それからはあれよあれよと言う間にコトが進み、体を重ねた二人は無事部屋から脱出した。

 ーーそこで、二人の関係は終わりになるはずだった。だがそうはならなかった。

 集団の不良に絡まれていた仁太良の元に駆けつけてくれた樹生の姿は、今でも鮮明に思い出せる。

 家まで車で送るから待っていろと言ったのに、その場から急に姿を消した仁太郎が心配で必死に探したのだろう、樹生の肌にはうっすら汗が滲んでいた。

 こんなことをしても、樹生には何のメリットもないのに。
 自分なんて成り行きで身体を重ねただけの相手なのに、どうしてーー


 その瞬間、仁太郎の中にある大人像がガラッと180度変わったのだった。
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