異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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3章 別れと出会い

閑話001 商家の兄妹 ※リーン視点

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 私はベイクの商家に、猫の亜人として生を受けた。
 3歳年上で犬の亜人のシン兄さんと共に、いつかは両親の手伝いをしようと商人を志した。

 父さんも母さんも私たちの願いをとても喜んでくれて、私たち兄妹が商人としてやっていけるように、読み書き計算を始めとした、様々な教育を受けさせてくれた。
 2人のことは大好きなだけじゃなく、本当に感謝もしているんだ。


 父さん母さんは主に行商を行っていたのだけれど、若い時に蓄えたお金でここベイクに自宅権店舗を構えて、ベイクを拠点として活動するようになったんだって。
 私は若い頃の2人の行商の話を聞くのが大好きなの。

 ただ父さんも母さんも商売人としての才能はあまり無かったんだよと、最近良く聞かされるようになった。


 拠点を構えると、既に商売している商人たちとの競争が起こる。

 うちの強みは、獣人と亜人の身体能力を活かした、素早い都市間移動を売りにした行商であって、拠点を構えてから商売するには商人としての力が足りなかったんだって。

 
 それで商売が上手く行かなくなっても、父さんたちは真面目にお客さんと向き合って、ちゃんとした取引をするように心がけていた。
 私はそんな2人を心から尊敬してる。


 だけど商売っていうものは真面目なだけでは成り立たないんだって。相手から奪い、出し抜く、非情さや狡猾さが時には必要なんだよ、と父さんは疲れた顔で零していた。


 父さんと母さんはいつからか、私と兄さんが商人になって家の手伝いをしたいと言っても、あまり良い顔をしてくれなくなっていった。
 私たちの子供なんだから、きっと2人も商売人として成功するのは難しいのではないかと、逆に商人以外の道を目指すように勧めてくるようになって、商人のために受けさせてくれた教育もやめさせられちゃった。



 私が11歳になった頃、将来について兄さんと話す。

 他のお店で働いて、お給料と商人としての経験を積みたいという希望は、父さんに許されなかった。
 父さんにとって他のお店は、自分を出し抜いた相手なのかもしれない。


「結局はお金がないから、僕たち2人に選べる道が少ないんだ。
 だからまずは別のことでお金を稼いで家にお金を入れられるようになれば、父さんたちも僕たちの話を聞いてくれると思うんだ」
 

 やっぱり兄さんは凄いなっ!父さんと母さんの助けにもなって、私たち2人の話を聞いて貰える方法をもう考えていたなんて!
 

 ここベイクで商売とは別の方法でお金を稼ぐなら、迷宮に挑めばいい。

 父さん母さんは私たちが迷宮に入りたいと言ったら、反対するどころか精一杯応援してくれた。取引先に無理を言って、良い装備品も用意してくれた。
 亜人である私たち兄妹には、商人よりも冒険者の方が向いているかもしれないわね、と母さんは笑っていた。


 そうして迷宮に入るようになったけれど、現実はそんなに甘くなかった。

 ベイクの2階層は初心者や子供でも充分に戦えると聞いていたんだけど、そのせいで魔物の取り合いが起きていた。
 1日に50リーフも稼ぐことが出来ない日ばかりで、家にお金を入れるどころか、用意してもらった装備の代金を返済することも難しそうだった。

 それでも商人を目指して地道に頑張ろうと、兄さんと励ましあって探索を続けていたある日、運悪く魔物に挟み撃ちを受けてしまった!

 体中が痛い……!

 奇襲の一撃をまともに受けた私はすぐに動くことが出来ず、そんな私を庇って、兄さんも追い詰められてしまう。確実に迫る死の予感に、体中の震えが止まらない……!


「助けは要るかっ!?」


 その時、運良く他の冒険者が来てくれた!奇跡のような助けのおかげで、私たち兄妹はこの日、命を落さずに済んだんだ。


 助けてくれた冒険者はトーマという名前で、なんだか色々と変わった人だった。
 父さんよりも年上に見えるのに、私たちよりも冒険者になったのは最近なんだって。1人でずっと1階層の探索を続けていたと聞いた時はすっごく驚いちゃった。
 真面目なのか不真面目なのか分からないけれど、どこか父さんと同じような雰囲気がする。

 私たち兄妹を子供と侮ることも無く、逆に私たちに教えを請う姿勢。それでいて変にこちらに踏み込んでくることもなく、一緒にいてとてもラクな人だった。


 トーマに出会ってからの私たち2人の冒険者生活は、まさしく一変したと言って良いと思う。
 安定しているうえに信じられないほどの金額を稼げるようになった。かといって危険なことをする訳でもない。階層の攻略まで順調に進むし、何より3人での探索はすっごく楽しい!

 トーマがスクロール代と言って払ってくれた銀板3枚で、滞っていた私たちの装備代も全て払い終えることが出来た。


 攻略も順調で、トーマと一緒に居るのが自然になってきていたある日、父さんと母さんが帰ってきた。装備代を完済し、更には家にお金を入れられるだけの稼ぎがあることを伝えると、2人はとても喜んでくれた。


 5階層を攻略した日、家に帰ると父さんたちの予定を聞かされる。またすぐにベイクを離れてしまうらしい。

 でもここで予想外の提案があった。迷宮でそこまで戦えるのであれば、私たち兄妹を護衛として行商に同行させてもいい、そう言われたの。

 やっと父さんたちの手伝いが出来る。そう思ったのに、なぜだか私はあんまり嬉しくなかった。
 一緒に探索している人も居るからすぐには答えられないと、返事を先送りにしてしまった。

 
 その後兄さんと話し合う。私たちは商人になって父さんたちを助けるために冒険者になったのだから、最初の目的を忘れちゃいけない。2人に付いていって手伝った方が良いんじゃないかってことになった。


 次の日兄さんがトーマに、パーティの解散とベイクを発つ事を伝えた。するとトーマはなんでもないような顔をして、出発までの予定を確認してきた。


 トーマが居なかったら私たち兄妹はもう生きていなかったかもしれない。
 父さんたちをあんなに喜ばせることは出来なかったかもしれない。
 父さんたちを手伝うことだって出来なかったかもしれない。

 そんなトーマに私たちは何のお返しもすることが出来ていないのに。

 
 悔しくて申し訳なくて情けなくて、涙が止められなかった。
 そんな私を責めるも宥めるもせず、トーマは私が落ち着くのをただ静かに待ってくれた。


 私たちの都合のせいでトーマは1人で迷宮に潜ることになった。でもトーマは1人になっても、3人で探索している階層を探索しているみたい。

 トーマは人間なのに、亜人の私たちよりもずっと早く強くなっていると思う。
 トーマはまた組もうって言ってくれたけど、私たちの方が足手纏いになっちゃわないか心配。今だって足手纏いになっていないか不安なのになぁ。


 ベイクを離れる日にも、トーマは待っていると言ってくれた。
 いつになるか分からないけれど、ベイクに帰ってきたら必ず会いに行かなきゃ。
 その時は商人として?冒険者として?今の私にはわからない。

 でもきっと今より成長した姿でトーマの前に立ちたいと思った。


 家族での行商の日々は充実していた。ベイクを離れたこと自体が少ない私にとって、行商で見る様々な景色は新鮮だった。父さんたちの行商の手伝いが出来ることも嬉しかった。



 でもそんな日々が突然終わりを告げたんだ。
 
 父さんが販売したものの中に、貴族家から盗まれた盗品が含まれていたとして、私たち家族は全員が牢屋に入れられて、取調べを受けることになった。


 何日経ったのか分からない。取調べの結果、父さんたちは別の商人に騙されて、その商人の身代わりにされてしまったのだと聞かされた。

 父さんたちは主犯ではなかったものの、実際に品物を取引してしまっていたので無罪にはならなくて、5年間の強制労働を言い渡されてしまった。
 本来なら死刑のところをかなり譲歩してくれたと言われたけれど、到底納得なんてできなかった。

 父さんも母さんも真面目に商売していて、悪い人に騙されただけなのに。その悪い人はまだ捕まっていないのに父さん達が罰を受けるなんて、絶対におかしいよ!


 だけど話はこれで終らなかった。盗みの被害にあった貴族家への賠償として、所有する財産に加えて私と兄さんを奴隷として売り払って、そのお金を全てその貴族家に渡すと言うのだ!

 私たちは騙されただけ、言うなれば私たちだって被害者じゃないの!?どうして実際に盗みを働いた人じゃなくて、騙された私たちがそこまでしなきゃいけないの!?

 父さんと母さんは罪人として辛い労働をさせられ、お金もなにもかも全部取られて、私と兄さんは奴隷に落とされ別々の相手に売り払われて、犯罪奴隷として最低の扱いを受ける。

 私たちが一体なにをしたっていうの……?



 処分を言い渡された後、犯罪奴隷にされた私たち兄妹を引き取りに、1人の奴隷商人が現れた。
 この人はスレイと名乗って、君たちの父さん母さんに昔とても世話になったことがあるんだよ、と言った。

 出来れば奴隷商館に匿ってあげたいが、判決の結果、賠償の一環として自分のところに引き渡された奴隷なので、匿うことも売値を変更することも、自分自身が私たちを購入することも、そして私たちの親族に売却することも禁じられていると言って、悔しそうに顔を顰めた。


「今述べたような理由から、こんなことを2人に聞くのは酷なことかも知れないけれど。君たちと血縁関係にない、君たちを助けてくれるかもしれない人に心当たりはないだろうか。
 君たち2人は若く健康で、容姿にも優れている。犯罪奴隷として過酷な環境と劣悪な待遇を受ける可能性も低くない。
 実際に助けて貰えるかは分からないが、君たちが信用できる人物は誰か居ないだろうか?」


 そう言われて思い浮かんだのは……。
 きっと兄さんも同じ顔を思い浮かべたと思う。

 でもあの人には今までも沢山助けてもらったのに、何も返すことが出来ないまま別れてしまった。
 なのにまた迷惑をかけてしまうなんて許されるのかな……。

 奴隷になんてなりたくないし、そのうえ私たちは犯罪奴隷。どんな扱いを受けるか想像するだけで身が竦む。


 私たちは沢山迷惑をかけたのに、それ以上に助けてくれた人。私たちにとって彼は救世主といっても良いくらいなのに、これでは彼にとって私たちは、疫病神以外の何物でもないじゃない……。

 私はどうしても彼の名前を口にすることは出来なかった。



 そんな私を見つめた後、兄さんはなにかを決心したような顔をして静かに口を開いた。


「1人だけ……、心当たりがあります」
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