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5章 カルネジア・ハロイツァ

095 vsパーティメンバー

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「トーマよぉ。マジであの時の18人も参加するみてぇなんだが……?」

「銀貨2枚で何人でも受けられる、って言ったのはオーサンだろ。諦めて頑張って?」

「詐欺師みてぇなこと言ってんじゃねぇよ……。
 まぁ全員走り込みからだな。トーマは俺の手伝いしやがれよ?」



 牧羊犬の気分で、以前ポーターで雇った子達を追いかける。
 リーンより小さい子もいるから、加減には気をつけないとね。

 走りながらオーサンに話しかける。


「なぁなぁオーサン。今日の模擬戦は、ちょっと本気で相手してくんないかな。
 こっちの事情知ってるだろ?今の力量を把握しておきたいんだ。
 装備や使用スキル制限とか、命の危険がないように、ルールはオーサンが決めてくれていいからさ」

「……そう、だな。相手は3等級だったか。俺でも勝てない相手だ。
 あくまで訓練の範囲でいいなら、相手してやるよ。
 準備のほうは俺がしておこう」


 恐らくとか多分とかなしに、勝てないと断言しちゃうか。
 あーハロイツァくんさぁ、リーンを諦めてくれると、おじさん嬉しいんですけどねー。


 18体の生きる屍リビングデッドが完成。流石にうちの3人は余裕があるな。


「よーし、ガキ共は素振りを始めるぞ!疲れている時に如何に動くかが生死を分けるんだ。冒険者として成長したいならサボるんじゃねぇぞ!
 トーマたちは素振りの必要は無い。体力に余裕もありそうだし、4人で模擬戦でもやっててくれ。木剣が必要だったら、向こうにあるの使っていいから」


 オーサンのセリフを聞いた3人は、こちらの方をにやりと一瞥すると、大急ぎで木剣を取りに行った。
 あー、なんかめんどくさそうな予感がぷんぷんするぜぇ~?


「そんじゃ魔装術と魔法は無しで。っていうかなんで俺対3人なんだよ。
 常に2人サボってんじゃん!」

「まぁまぁ。せっかくの機会だし、トーマと手合わせしたいんだよ。
 じゃあ僕から行くね」


 初戦はシンか。


「ふっ!」


 シンが真っ直ぐに切り込んでくる。
 いつも一緒に探索しているから、すっかり見慣れた剣だ。

 俺も木剣を両手で持って、ロングソードを想定して打ち合うことにする。

 カンカンと木剣同士がぶつかる音が楽しい。

 しっかしシンも腕を上げたよなぁ。
 初めて会った時って、2階層のネズミに殺されかけてたってのに。

 手合わせした感じ、少なくとも例の6等級冒険者よりも、剣の腕は上だろう。
 あの時はまだ、魔装術を覚えてなかったから下げさせただけで、同じ条件下なら負ける要素が見当たらない。

 きっと俺と別れた後も、毎日剣を振っていたんだろうな。
 真面目なシンらしい、真っ直ぐな剣だ。


 シンが振り下ろした剣に合わせる様に、少しだけ角度を変えた振り下ろし。
 いわゆる、切り落としと呼ばれる技を試してみる。


「あっ!?」


 カン!と大きな音と共にシンの体勢が大きく崩れる。
 そこを逃さずシンの首元に木剣を突きつけて、まずは一勝。


「参った。僕の負けだよ」

「もう2階層どころか、6等級相手でも遅れを取る心配はなさそうだな」


 もっとお互いの手合わせの機会を増やしても良い気がするな。
 ソロじゃなくなってから、日課だった訓練場での修練もやってないしなぁ。


「次は私!ぎったんぎったんにしてあげるんだからねー!」


 リーンセンパイ。お手柔らかにお願いしますマジで。


「やあああ!」


 使っている武器の違いか、それともリーンのセンスなのか。
 リーンのほうが、シンよりも明らかに動きが速い。

 一撃の軽さも、亜人の身体能力と、スキルの身体能力強化を得たことで、かなり改善されている。
 ロングソードでリーンのナイフを捌くのは、結構きついな。
 だからこそ訓練になると考えよう。

 ロングソードでは打ち合いの手数を相殺できないので、回避も織り交ぜていなしていく。

 最短距離で急所を狙うかと思いきや、突然狙いを変更して四肢を狙ってきたりと、色々工夫が見られる。
 一撃の威力が足りない自覚があったリーンは、長期戦も視野に入れた立ち回りが上手いようだ。

 しかし、体も小さく武器の射程も短いためか、相手に接近しすぎるきらいがあるな。
 ここは1つ、接近戦の怖さを味わってもらおうかな。

 リーンの横薙ぎの一閃に合わせて、逆に踏み込む。
 そして武器ではなく、武器を握っているリーンの手を片手で掴んで、強引に攻撃を止めてしまう。
 空いた手で、リーンに武器を突きつける。
 

「うー!私の負けー!もー!」

「リーンは速いし、魔装術も覚えたからあまり意識した事はないだろうけれど、両手を使った立ち回りってのは無限にあるもんだ。武器だけに注目してると、こういうこともあり得るぞ」


 リーンはスピードが命だからこそ、スピードで負けると脆い気がするな。
 その辺をどう補っていくかが、今後の課題か。


「同じ条件なら、私にも勝算ありです。行きます!」


 確かにトルネは速かったなぁ。
 あの時はロングソードでの対応を諦めたけど、今回は訓練なのでロングソードで対応しよう。


「はぁっ!」


 やっぱリーンより速いな。
 それに貴族家の教育なのか、技術の下地が俺たちと違う。

 トルネの速さに対応するために、自分の動きをしっかり制御しつつ、相手を良く見て先を予測する。
 反射神経で負けても先読みで上回ればいいってのは、誰の言葉だったかな。


「おかしいでしょ!?なんで両手剣で私の攻撃捌ける様になってるんですか!!!」

「いつの話してんだよ。そんな昔のことはもう覚えてないわ」

「2、3日しか経ってないでしょ!その間もずっと一緒にいたのになんでこんな!」


 まぁ論理的に解説するなら要因は2つか。

 まず、俺が前回持ってなかった身体能力強化を獲得していて、トルネは獲得できなかったことが1つ。
 最近瞬間加速の練習をしていて、加速領域に意識が引っ張られてきたってことが2つ。

 それに技術と速さはトルネのほうが上だが、身体強化を持っているリーンと比べて、一撃が軽い。

 トルネは同じ条件と言っていたけど、実は始めから同じ条件ではなかっただけだ。

 真正面から木剣をぶつけてやると、威力の差でトルネは堪えきれず後ろに下がる。
 そこを下がられるよりも速い速度で追いすがって、コンっと軽く一撃を入れて終了だ。


「私の負けです……。もう何なのこの人ぉ~」


 ふむ。俺もちゃんと強くなってるようで、少し安心した。

 リンカーズはスキルだけでお手軽に強くなる世界ではないが、スキルを得ることで、より高みを目指すことが出来るようになる、って感じかな。

 地道な努力は必須だけど、努力だけでも強くなれないってことか。

 努力以外の要素が、スキルという誰でも得られる要素なのは、才能のない俺にとっては救いがあると言えそうだ。
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