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5章 カルネジア・ハロイツァ

114 奴隷解放

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「それではジーンさんから始めよう。これを手に持ってくれ」


 そう言ってスレイは、ジーンさんに魔法石を渡す。
 そして商工ギルドでも見たような、箱型の魔導具に身分証をセットして、魔導具を稼動させた。


「現在ジーンさんの情報を、身分証に登録しなおしている。
 少しの間そのまま待ってくれ」


 3分くらい待つと、ジーンさんの持つ魔法石が赤く発光する。


「それではジーンさん。
 魔法石を持ったまま、私に奴隷印を向けてくれ」


 言われてジーンさんは、スレイに左手の甲を見せる。


「それではこれより奴隷契約の解消を行う。
 契約の神ラクトシェーダよ。奴隷商人スレイの名において、ジーンの奴隷契約の解消を望む。
 ジーンに絡みし契約の鎖から、彼の魂を解放せよ」


 魔力感知のおかげで、スレイがジーンさんの奴隷印に向けて魔力を放つのが分かった。
 スキル神殿のような、専門の魔法っぽいな。
 魔法陣の代わりは奴隷印が果たしているのか?

 スレイの魔力がジーンさんに伝わり、ジーンさんから感じていた不快感がなくなった。
 ジーンさんが持っている魔法石の光も白く変わっており、奴隷契約が解消されたのが一目で分かる。


「これでジーンさんの奴隷契約は解消された。
 次はリンシアさんに魔法石を渡してくれ」


 魔導具にセットする身分証を入れ替えながら、スレイが続きを促した。
 待ち時間が暇なので、質問でもしてみよう。


「購入の際は魔法契約みたいなことは行わなかったのに、契約解消の時はするんだな?」

「ん?ああ、トーマさんの場合、購入したときは所有者登録だけだったし、トルネさんの場合は国が介入しない、個人間での契約だったからな。のちに解放されることも含まれていたし、略式で済ませたのだ。
 今回の事は例外中の例外で、犯罪奴隷は一生解消されることがない、非常に重い契約だ。なので解消するためにも、それ相応の魔法手続きが必要になるのだよ」


 へぇ~。トルネのときなんか口約束レベルだったのに契約成立したけど、あれは略式契約だったわけか。


「奴隷契約は、奴隷商人が立ち会って始めて成立する魔法契約でな。
 奴隷商人が居ない場所でどれだけ契約を交わしても、本質的な意味での奴隷契約は成立しないのだ」


 リンカーズの奴隷制度は本当に厳しい。

 もうちょっと緩くしてもいいんじゃないかなぁなんて考えていると、4人の犯罪奴隷契約は無事に解消されたようだ。


「それではトーマさん。トルネさんとの奴隷契約を解消しても良いか?」


 スレイが続けて俺に聞いてくる。
 魔力感知のおかげで、スレイから魔力が放出されているのが分かるが、別に俺に向けて魔力が放たれているわけではないようだ。


「良いよ。トルネを解放することを承認する」


 そう宣言すると、トルネの左手から魔力が放出されているのを感じた。
 ふーむ、略式契約でスレイがやってることは、儀式の場を用意してるだけのように見えるなぁ。

 単純に奴隷契約と言っても、色々あるようだ。


「これで5人全員の奴隷契約は無効となった。
 預かっている身分証をお渡ししておく」


 トルネ以外の4名に身分証が返却される。
 
 ちなみにだけど、トルネは元々身分証を持っていない。
 身分証の発行を許されなかった上に、作らなくても特に不便も感じなかったらしい。

 今後俺と一緒にいるなら、冒険者ギルドと商工ギルドには登録してもらわないとな。
 

「これで奴隷解放は滞りなく終了した。
 続きはカルネジア家からの賠償の話になるので、カルマさんに引き継いでもらう。
 私は賠償が行われたことへの証人として、最後まで立ち合わせてもらうことになっている。
 それではカルマさん」

「はい。それでは始めに、カルネジア家が皆様に多大なるご迷惑をお掛けしたことを、謝罪させていただきます。
 金銭で解決できるものではありませんが、当家からのせめてもの償いとして、お受けとりください」


 そう言ってカルマさんは6つの木箱をテーブルの上に置き、全ての箱の蓋を開けた。
 それぞれの箱の中身は同じで、白金貨5枚ずつ入っている。


「間違いなく白金貨5枚だ。各々確認してくれていい。問題が無ければ受け取ってくれ」


 スレイが俺たちを促す。
 ん~、贋金とかあったとしても分からないしなぁ。

 結局普通に受け取る。


「最後にトルネ様へ、当代様から伝言を預かっています。
 『これよりカルネジアは辛い時が続くかもしれないが、トルネは自分の選んだ道の先で幸せになって欲しい』。
 以上でございます」

「そう、ですか……。ありがとうございます」


 トルネはいまいちピンときていないような反応をする。


「トルネ様から当代様へ、なにかお伝えすることはないでしょうか?」


 当代へ何か返事はないかとカルマさんは問う。しかし問われたトルネは、やはりあまりピンと来ないような顔をしている。


「特にありませんね。正直言わせてもらうと、顔も良く覚えておりませんし。
 私の状況を知っておきながら、今まで何もしなかった男が今更何を、としか思いません。
 そうですね……。貴方の娘は死にました、と伝えていただければ充分です」


 トルネから伝えられたのは親への拒絶。
 まぁ無理もない。手を差し伸べれる立場の父親が、今まで何もしてこなかったんだから。


「……左様で御座いますか。
 それでは私は先に失礼させて頂きましょう」


 当代に伝えるとは言わないまま、カルマさんは退出していった。


「うむ、それではこれで全ての用件は終わりだ。あとは解散しても構わない。
 一応、差し出口を挟むことになるが、先に商工ギルドで白金貨を預けることをお勧めしておく。
 不届き者は何処にでもいるものだからな」

「そういうことならまずは商工ギルドに行こうか。
 もうみんな奴隷じゃないんだから、それぞれ口座作ってお金管理してくれよ?
 ジーンさんとリンシアさんも一緒に行こう。護衛くらいなら出来ると思う」

「……そうだな。お願いするとしようか」


 6人+2匹で商工ギルドに移動することになった。

 
 これからまたみんなとの関係性が変わるのだと思うと、ちょっとだけ緊張するな。

 まぁ普通に考えて、奴隷を囲っているより、家族になる方が健全な関係性だろ。

 はぁ……。
 ご両親に話をするのは、やっぱり緊張する。
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