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8章 異風の旋律
292 スタンピード⑨ 小細工の真骨頂
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音魔法で鈴の音を響かせる。いつもの合図だ。みんなには伝わるだろう。
音魔法を覚えてから、ずっと小細工ばかりを磨き続けてきた気がしてしまうな。
ちゃんと地道に努力して、地力もつけてる筈なんだけどな。毎回相手が強すぎる。
小細工無しで倒せた強敵って、グリーンドラゴンくらいしかいないんじゃないか……?
小細工ってなんなのか。小細工で何をすべきなのか。
こんなくだらないこと考えてるのは、リンカーズでは俺くらいのもんだろうな。
小細工ってのは基本的にはハッタリだと思う。
実際には効果が薄いけれど、最小限の能力で最大限の結果を狙う、それこそ小細工。
小細工で重要なのは意外性だ。意外な現象を起こし、相手の意表を突く。それこそが俺のやるべきことだと思っている。
相手の想像を超え、相手の意表を突き、相手の迷いを生み出し、盤面をひっくり返すきっかけを作る。あくまできっかけでしかない。小細工は小細工でしかないのだから。
使うことはないかなと思っていたスキルの1つに『魔法付加』というものがある。特定の手順を挟むことで、任意の魔法を物質に込めることが出来るスキル。
取った時には夢が広がるスキルだと思ったんだけど、思ったより気難しいスキルだった。
まず第1に、『特定の手順』と言うのがかなりめんどくさい。
マーサに確認を取ったところ、1回の魔法付加に必要な時間は、夜明けから日没まで、つまり半日も何もできなくなるのだ。
そして第2に、魔法付加を使用する本人が覚えている魔法しか付加できないのだ。
例えばシンのデトネイションを矢に付加して爆裂矢! みたいなことが出来ない。
極めつけの第3に、付加された魔法効果を確認する方法がないという使い辛さだったのだ。
専用の物質に付加するのならいいけど、既製品の装備品に下手な魔法を付加してしまうと、管理が非常に難しい。
いつかSPを稼ぐ必要がなくなったら、チマチマ手を出していこうかな、と思っていた程度のスキルだった。
このスキルが化けたのは『任意発動スキル強化』を取得した時だ。
2つめと3つめのデメリットは解消できなかったのだが、一番の問題であった『特定の手順』が免除されたのだ。
これに気付いた俺は、みんなに気付かれないようにコソコソと、スキルを検証していった。
別にみんなにバレても構わなかったんだけど、なんか職人になるのかって呆れられそうだったから、ついね。
まず分かったのは、魔法付加が可能なのは、対象1つにつき1度だけであるということ。
魔法効果を幾つも重ねて、めちゃくちゃなアイテムを作り出すことは出来なかった。
そして、肉体に作用する支援魔法効果を、防具などに付加することもできなかった。
支援魔法自体は付加できるのだけど、付加できるのはあくまで魔法であって魔法効果ではない。
スキル詳細には魔法の効果って書いてあるのにさー! これって詐欺じゃね?
簡単に言えば、防具に触れた時にジェネレイトが発動してしまい、普通に支援魔法を受け取っただけの状態と変わらなかったってことだ。
しかし、ここに魔法付加の可能性が眠っていて、付加が可能なのは、1度であって1つじゃないのだ。
これが何を意味するかと言えば、1度に付加が可能であるならば、幾つでも魔法を乗せられるということだ。
勿論、魔法の同時発動なんて物は基本的に出来ない。そう、生活魔法を除いては。
まだまだ研究は足りていないところだけど、魔法付加の可能性が一気に爆発した瞬間だった。
だけどここで第3の問題、付加された魔法効果の確認方法がないことが立ち塞がってくる。
あまり付加対象に複雑な魔法効果を乗せると、確認する方法がないので管理が難しい。
付加対象物に変に特徴をつけてしまえば、看破されてしまう可能性が高まってしまう。
しかし、これがまさかの方法で解決できてしまったのだ。そう、ストレージの存在である。
ストレージの中の物は、俺が意識するだけで取り出すことが出来る。
つまり、この魔法効果が付加されているアイテム、と意識すれば、そのアイテムをピンポイントで取り出すことが出来たのだ。
そしてストレージに仕舞っておけば、管理面でも一切問題がない。
俺はみんなの目を盗んでは、コソコソと魔法付加で遊んでいた。
その研究の結果が、とうとうお披露目の機会を得たのだ!
ロングソードを仕舞い、翠緑の風を取り出す。
本当に、ハルと一緒に弓を訓練していて良かったと思う。
まったく、どこでなにが活きてくるか分からないもんだ。
「いくぜランドビカミウリ! 凌げるもんなら凌いでみやがれえええ!!」
俺はランドビカミウリの顔の前にあった、リーンのスネークソードを射抜く。
矢とスネークソードが触れた瞬間、大音量の爆発音と共に眩い閃光が辺りを照らす。
ギュアアア!?
殺傷力皆無の、なんちゃってスタングレネードだ! 音と照明、風と熱と火、更には洗浄までミックスさせた、最悪の小細工効果だ!
まさか自分を狙っていない矢に、こんな効果が付加されてるとは思わないだろう!
「「はああああ!!」」
ギュラアアアア!!
怯んだランドビカミウリの両足を、シンとトルネが同時に斬りつける!
トルネの方は無理だったが、シンの一太刀はランドビカミウリの左足を両断する事に成功する!
これは武器の差か! マーサのファインプレイだ!
さぁ、文字通り一矢報いてやったぜ。
ここでケリをつけてやるぜ、白の竜王!!
音魔法を覚えてから、ずっと小細工ばかりを磨き続けてきた気がしてしまうな。
ちゃんと地道に努力して、地力もつけてる筈なんだけどな。毎回相手が強すぎる。
小細工無しで倒せた強敵って、グリーンドラゴンくらいしかいないんじゃないか……?
小細工ってなんなのか。小細工で何をすべきなのか。
こんなくだらないこと考えてるのは、リンカーズでは俺くらいのもんだろうな。
小細工ってのは基本的にはハッタリだと思う。
実際には効果が薄いけれど、最小限の能力で最大限の結果を狙う、それこそ小細工。
小細工で重要なのは意外性だ。意外な現象を起こし、相手の意表を突く。それこそが俺のやるべきことだと思っている。
相手の想像を超え、相手の意表を突き、相手の迷いを生み出し、盤面をひっくり返すきっかけを作る。あくまできっかけでしかない。小細工は小細工でしかないのだから。
使うことはないかなと思っていたスキルの1つに『魔法付加』というものがある。特定の手順を挟むことで、任意の魔法を物質に込めることが出来るスキル。
取った時には夢が広がるスキルだと思ったんだけど、思ったより気難しいスキルだった。
まず第1に、『特定の手順』と言うのがかなりめんどくさい。
マーサに確認を取ったところ、1回の魔法付加に必要な時間は、夜明けから日没まで、つまり半日も何もできなくなるのだ。
そして第2に、魔法付加を使用する本人が覚えている魔法しか付加できないのだ。
例えばシンのデトネイションを矢に付加して爆裂矢! みたいなことが出来ない。
極めつけの第3に、付加された魔法効果を確認する方法がないという使い辛さだったのだ。
専用の物質に付加するのならいいけど、既製品の装備品に下手な魔法を付加してしまうと、管理が非常に難しい。
いつかSPを稼ぐ必要がなくなったら、チマチマ手を出していこうかな、と思っていた程度のスキルだった。
このスキルが化けたのは『任意発動スキル強化』を取得した時だ。
2つめと3つめのデメリットは解消できなかったのだが、一番の問題であった『特定の手順』が免除されたのだ。
これに気付いた俺は、みんなに気付かれないようにコソコソと、スキルを検証していった。
別にみんなにバレても構わなかったんだけど、なんか職人になるのかって呆れられそうだったから、ついね。
まず分かったのは、魔法付加が可能なのは、対象1つにつき1度だけであるということ。
魔法効果を幾つも重ねて、めちゃくちゃなアイテムを作り出すことは出来なかった。
そして、肉体に作用する支援魔法効果を、防具などに付加することもできなかった。
支援魔法自体は付加できるのだけど、付加できるのはあくまで魔法であって魔法効果ではない。
スキル詳細には魔法の効果って書いてあるのにさー! これって詐欺じゃね?
簡単に言えば、防具に触れた時にジェネレイトが発動してしまい、普通に支援魔法を受け取っただけの状態と変わらなかったってことだ。
しかし、ここに魔法付加の可能性が眠っていて、付加が可能なのは、1度であって1つじゃないのだ。
これが何を意味するかと言えば、1度に付加が可能であるならば、幾つでも魔法を乗せられるということだ。
勿論、魔法の同時発動なんて物は基本的に出来ない。そう、生活魔法を除いては。
まだまだ研究は足りていないところだけど、魔法付加の可能性が一気に爆発した瞬間だった。
だけどここで第3の問題、付加された魔法効果の確認方法がないことが立ち塞がってくる。
あまり付加対象に複雑な魔法効果を乗せると、確認する方法がないので管理が難しい。
付加対象物に変に特徴をつけてしまえば、看破されてしまう可能性が高まってしまう。
しかし、これがまさかの方法で解決できてしまったのだ。そう、ストレージの存在である。
ストレージの中の物は、俺が意識するだけで取り出すことが出来る。
つまり、この魔法効果が付加されているアイテム、と意識すれば、そのアイテムをピンポイントで取り出すことが出来たのだ。
そしてストレージに仕舞っておけば、管理面でも一切問題がない。
俺はみんなの目を盗んでは、コソコソと魔法付加で遊んでいた。
その研究の結果が、とうとうお披露目の機会を得たのだ!
ロングソードを仕舞い、翠緑の風を取り出す。
本当に、ハルと一緒に弓を訓練していて良かったと思う。
まったく、どこでなにが活きてくるか分からないもんだ。
「いくぜランドビカミウリ! 凌げるもんなら凌いでみやがれえええ!!」
俺はランドビカミウリの顔の前にあった、リーンのスネークソードを射抜く。
矢とスネークソードが触れた瞬間、大音量の爆発音と共に眩い閃光が辺りを照らす。
ギュアアア!?
殺傷力皆無の、なんちゃってスタングレネードだ! 音と照明、風と熱と火、更には洗浄までミックスさせた、最悪の小細工効果だ!
まさか自分を狙っていない矢に、こんな効果が付加されてるとは思わないだろう!
「「はああああ!!」」
ギュラアアアア!!
怯んだランドビカミウリの両足を、シンとトルネが同時に斬りつける!
トルネの方は無理だったが、シンの一太刀はランドビカミウリの左足を両断する事に成功する!
これは武器の差か! マーサのファインプレイだ!
さぁ、文字通り一矢報いてやったぜ。
ここでケリをつけてやるぜ、白の竜王!!
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