異世界で目指せハーレム生活! でも仲間のほうがモテモテです

りっち

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8章 異風の旋律

294 夜明け

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 ギュギュー。

 みんなでボーっと目の前の光景を眺めていると、街のほうから馬車を引いたペルがやってきた。


「おーペル! 迎えに来てくれたのか? 助かったよー」


 ペルの大きな顔を抱きしめて、もふもふを堪能する。


「よしじゃあみんな、ボールクローグに戻ろうぜ」


 辺りは少しずつ白んできている。間もなく夜明けだ。
 とりあえず、1回ゆっくり眠りたいわ。

 馬車に乗り込みボールクローグに向かう。ペルは早いなー。
 そして馬車は無人。ペル凄い賢い可愛い。

 今ペルが引いている馬車は、人員輸送を効率的に行うためなのか、屋根も壁もない、殆ど荷車と言っていいものだ。
 おかげで外の様子が良くわかる。
 よくもまぁこんだけ殺しに殺したもんだと感心する。


 ボールクローグに近付くに連れて、なんだか人の声が聞こえてくる。
 ペルも少し速度を緩めて進んでいく。

 その声は、ボールクローグを守り抜いた、勝利の雄叫びだった。
 そして街へと凱旋する俺たちへの、歓迎の声だった。


「あー、あんまりこういうの得意じゃないんだけどなぁ。
 出来ればひっそりと目立たずに生きていきたかったよ……」

「トーマの願いを否定する気はないけど、今回ばっかりはどうしようもないよね。
 僕たちが戦う以外に、ランドビカミウリを退ける方法なんてなかっただろうし」

「ふふ。私もトーマとゆっくり静かに暮らせるなら、それ以上を望むつもりはないんだけどねー。
 トーマはまだまだみんなに必要な人だから、仕方ないのかなって思ってるよー」

「ちょっと前までカルネジア家の屋敷に閉じこもっていた自分が、アホらしくなりますよ……。あの頃の悩みや苦悩なんて、本当にちっぽけなものだったなって今は思いますね」

「うん。私も向こうの人生はあまり楽しめたって言えないけれどさ、ここまでむちゃくちゃな生活を送りたいとは思ってなかったかな?
 むちゃくちゃな分、とっても充実してると思うけどね」

「いやいやいや、毎回毎回余裕無さすぎるだろ、まったくよぉ。
 これなら多少退屈だろうが、平和で穏やかな日常が続いて欲しいわ」

「同感ですね。流石に毎回こんな騒動に巻き込まれては、身が持ちませんよ。今回だって、こうして生きているのが信じられないくらいですからね」

「支援魔法や心核武器、更にはトーマの新技まで駆使してギリギリって感じだったなぁ。
 っていうかトーマ? あの矢はいったいなんなのさ? 僕たちあんなの聞いてないんだけど?」

「あー……。いや、隠してたわけじゃないんだって。
 自分でも実用性が分からない能力だったからさ。まだ検証段階だったってだけで」

「突然私のスネークソードを射抜くんだもん。びっくりしたんだからねー?
 その後の爆発がスカスカだったのはすぐ分かったけどさー」

「うん。最後に放った矢もなんだか違和感があったかな。落ち着いたら洗いざらい説明してよね?」


 なんだか気が抜けて、だらだらと喋ってしまうな。
 みんなとの他愛もない会話がとても楽しい。


「「「ワアアアアアアアアアッッ!!!」」」


 突然歓声が一際強くなった。

 ギュイー?

 ペルが首をかしげながら、馬車の後ろを振り返っている。
 釣られて俺も馬車の後ろを見てみると、地平線の先から太陽が昇ってきているのが見えた。

 夜明けか。なんだか象徴的だな。乗り切ったー! って感じがするわ。


「ふふ。夜明け……、ですね。なんだか新鮮です。
 毎朝、目が覚めたときにはもう空にあって、夜が明けるなんて当たり前のことだと思っていましたけど……。
 たった一夜を乗り越えるのがこんなに大変だったなんて、思ったことなかったですよ」

「うん。そういえば夜明けなんてちゃんと見たことなかったかな。
 ヴェルトーガでの徹夜帰りは、久我に遭遇したせいでバタバタしちゃったし」

「僕も日没は良く眺めていたんだけど、夜明けをじっくり見たことなんて意外となかったかもしれないな。
 目が覚めて夜が明けているのがあまりにも当然過ぎて、夜明けのことなんて気にしたこともなかったかも」

「私も夕日ばかり見ていた気がする。ベイクの街から沈んでいく太陽を見ていて、今日も父さんと母さんは帰ってこなかったなーって、寂しく感じていたのを覚えてるよ」

「俺は迷宮の安らぎ亭を手伝ってたときは夜明け前だったけど、まぁじっくり朝日を拝んだことはなかったかもな。
 徹夜で探索したり早起きしたりは普通にしてるけど、意外と見ないもんだよな、夜明けなんてさ」


 朝日が眩しい。
 陽の暖かさが体に染み渡る。

 万雷の如き歓声を浴びながら、ボールクローグに到着した。


「トーマ……! おかえりなさい……!」

「トーマ!! この恩は一生忘れねぇよ! 本当にありがとう!」


 ペルに礼を言って馬車を降りると、リーネとタケルが出迎えてくれた。


「おうただいま。2人もおつかれさんだったな。
 とりあえずどっかで1回休もうぜ。今さら眠くなってきたよ」

「そうだねー。宿でひと眠りしよっかー。
 マーサってどこにいるのかな? 合流して一緒に休ませたほうがいいよねー?」

「あ、マーサなら城壁の上にいるよ……! 私が連れて行くから、みんなは宿に戻ってて……?」

「そう? まぁ実際疲れたから、お言葉に甘えさせていただくよ。
 タケ、じゃなくてオーサンはこのまま俺たちと行こうぜ」

「ぶふぅっ!」


 シンがまた吹きだしている。完全にツボになってしまったようだ。


「ひと休みしたら被害報告とか確認して、ランドビカミウリの素材もぶん取って、それが終わったらヴェルトーガで、衣装の返却とロンメノの捜査の進捗を聞こう。
 まったく、始めに話を聞いたときは多少は同情したけどよ。流石に落とし前つけてもらわないとな」


 カルネジア家に恋人を奪われた恨みは計り知れないだろう。
 婚約が決まったトルネを横から掻っ攫われた無念も計り知れないだろう。

 でも流石に超えちゃいけないラインってもんがある。
 つうか、冗談抜きでリヴァーブ王国が滅ぶ寸前までいったからな。


 絶対に逃がさねぇぞ。
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