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10章 壁外世界
405 深遠
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とりあえず、持っている釘を全部足元に打ち込んでしまう。
周囲を刺激しないように、ガントレットは使わずに、身体能力だけで打ち込んでいく。
釘がなくなり手ぶらになったら、サーチシステムを5ヶ所ほど遡ってから、透月で海面に大きめの氷を浮かばせて、シンと2人で水上に上がる。水中だと会話がしにくいからな。音魔法を使って感知されたら嫌だし。
「さてシン。どうするよ? あの先って絶対ザルトワシルドア居るよな?」
「僕も感じるものがあったよ。間違いなくエリアキーパーの気配だよね。
それにしたって、わざわざこんなに距離を取る必要はあったの?」
「ああ、大丈夫だとは思うけど念のためかな。ザルトワシルドアって確か『暗き海の底から人々を監視する』って言われてるんだよな?
だからまぁ、まさかとは思うんだけど、物理的に水面を視認してるんじゃないかと思ったんだよな。
さっきの谷っつうか崖の近くで海面に上がったら、角度的に視認される可能性がどうしても捨てきれなくてさ。要はビビったってだけなんだが」
「――――なるほど、ね。
『遠目』を使ったのに確認できないほどの深さだったけど、エリアキーパーだもんね。そのくらいの身体能力はあってもおかしくは……。って、僕たち、底を覗き込んじゃったけど、捕捉された気配はなかった、よね?」
「ああ、ユリバファルゴアの時の感覚を参考にした場合の話だけどな。多分補足されてないはずだ。条件はわかんねぇけど。
もっとあの崖の範囲に侵入しないとダメなのか、俺たちが小さすぎて見逃されたか……。真相は不明だな」
なんと言っても海エリアだからなぁ。あの上を通る生き物なんてまぁまぁ居るはずだ。
それ全部に反応していたら、この海域は生き物が居なくなってしまうだろう。
今思い返したら、あの付近を泳いでいた生物が居なかったような気はするけども。
「それで、どうするって言うのは、あの底を確認しに行くかって意味だよね? それならまぁ、行ってみるしかないんじゃないかな? 戦うにしろ逃げるにしろ、接触してみないと分からないし」
「だな。とりあえず今回は逃げる方向でいいか? 状況が万全だったら戦ってみてもいいけど、戦ったら多分逃げることは出来ないだろうな」
「そうだね……。逃げる事を前提にして、無理なら戦うしかないか。
逃げる方向はヴェルトーガ方面だよね? 別荘だと範囲外かわからないし」
「だな。ヴェルトーガに向かうしかない。あの島だと、ザルトワシルドアの大きさ次第では島ごと沈められてもおかしくないし」
なにより、ウミガメさんたちに迷惑はかけられない。
「仮に逃げられなかった場合はちょっと厄介だね。ハルの支援魔法を受け取れない状況だし」
「あ、じゃあ一応ジェネレイトとリペアはかけておくわ。」
自分とシンに支援魔法を施す。
「確かに厄介だなぁ。ブーストはまぁ、今回の移動のメインはスクリューになるから良いとしても、プロテクションが貰えないのはちょっと怖いな。
ユリバファルゴア戦の時みたいに、空から落下するような事態は起こらないけどさ」
「とりあえずお互いの魔力は全快まで回復しておこうか。
逃げ切れないと判断した場合はどうしよう? 何か合図を決めておく?」
「そう、だな。照明魔法でも使おうか。出来ればそんな事態は避けたいけどさ。
ったく、水中ってのも厄介なもんだよなぁ。せっかく作った小細工矢も使えねぇしさ」
「確かにね。水のおかげでトーマお得意の小細工は、全て封じられちゃってるわけか。そう考えると僕たちにはかなり不利な戦闘場所になるね。まったく、嫌になるよ」
シンと2人で愚痴りながら細かい方針を予め決めておく。
結局あの先を確認しないわけにはいかないのだ。嫌だろうがなんだろうが、行ってみるしかない。
魔力が回復した事を確認して、改めて先ほどの場所まで戻る。
少しでも魔力を節約したいので、スクリューは使わずに海底を走る。
崖の前まで戻ってきた。
改めて周囲を確認するが、やはり何も泳いでいない。
砂漠エリアってワケでもないのに、魔物すら近寄らない場所か。
シンと顔を合わせて覚悟を決める。
いざ、奈落の底へ。
とりあえず飛び込むのはアホだと思うので、崖伝いに自由落下で落ちていく。
こまめに『遠目』で底を確認しているが、全然底が見えてこない。
ザルトワシルドアも怖いけど、そもそものこの崖の存在が怖くなってくる。
1分落下。何も見えない。見えるのはただ暗い海だけだ。
『暗視』がなければ、『水中視』があっても何も見えないであろう、暗き海の底だ。
5分落下。まだ何も見えない。
嘘だろおい。自由落下で5分って、どれだけの深さなんだよ?
自由落下とは言っても水中だから、厳密な自由落下とは速度が違うかもしれないけど、それにしたって深すぎるだろ。
落ちる。落ちる。落ち続ける。
本当にこの先に底があるのか不安になってくる。
すぐ後ろには壁があるので戻る事はいつでも出来るだろうが、本当にこの穴の先に底はあるのか?
まるで奈落の底に向かっているような、今まで感じたことのない類の恐怖感に苛まれる。
これ以上は不味いか……? 背後に壁があるのだから、道に迷う事はないと思いたいが……。
――――!!
総毛立つ。周囲の魔力が重くなる。
未だ視認は出来ていないが、間違いなく捕捉された。
全力で足裏のスクリューを回転させる。今回は見るだけだ。戦う予定ではない。
くっ……! こんなことなら背中のスクリューも可変型にしてもらうべきだったか?
全力で浮上するのに、2ヶ所しかスクリューが使えないのは失敗だった。
全身が粟立つ。影響していないはずの水が重く感じられる。
不味い。明らかに相手のほうが早い。距離が縮まっているのが肌で分かる。
その時、浮上する俺とシンを嘲笑うかのように、猛スピードの巨大な何かが抜き去っていった。
巨大な何か? ザルトワシルドアに決まってる。
追い抜かれた。逃げられない。
シンに照明魔法を放ちながら上を睨む。
未だ姿は確認出来ていないが、どうやらこのまま戦闘するしかなさそうだ。
周囲を刺激しないように、ガントレットは使わずに、身体能力だけで打ち込んでいく。
釘がなくなり手ぶらになったら、サーチシステムを5ヶ所ほど遡ってから、透月で海面に大きめの氷を浮かばせて、シンと2人で水上に上がる。水中だと会話がしにくいからな。音魔法を使って感知されたら嫌だし。
「さてシン。どうするよ? あの先って絶対ザルトワシルドア居るよな?」
「僕も感じるものがあったよ。間違いなくエリアキーパーの気配だよね。
それにしたって、わざわざこんなに距離を取る必要はあったの?」
「ああ、大丈夫だとは思うけど念のためかな。ザルトワシルドアって確か『暗き海の底から人々を監視する』って言われてるんだよな?
だからまぁ、まさかとは思うんだけど、物理的に水面を視認してるんじゃないかと思ったんだよな。
さっきの谷っつうか崖の近くで海面に上がったら、角度的に視認される可能性がどうしても捨てきれなくてさ。要はビビったってだけなんだが」
「――――なるほど、ね。
『遠目』を使ったのに確認できないほどの深さだったけど、エリアキーパーだもんね。そのくらいの身体能力はあってもおかしくは……。って、僕たち、底を覗き込んじゃったけど、捕捉された気配はなかった、よね?」
「ああ、ユリバファルゴアの時の感覚を参考にした場合の話だけどな。多分補足されてないはずだ。条件はわかんねぇけど。
もっとあの崖の範囲に侵入しないとダメなのか、俺たちが小さすぎて見逃されたか……。真相は不明だな」
なんと言っても海エリアだからなぁ。あの上を通る生き物なんてまぁまぁ居るはずだ。
それ全部に反応していたら、この海域は生き物が居なくなってしまうだろう。
今思い返したら、あの付近を泳いでいた生物が居なかったような気はするけども。
「それで、どうするって言うのは、あの底を確認しに行くかって意味だよね? それならまぁ、行ってみるしかないんじゃないかな? 戦うにしろ逃げるにしろ、接触してみないと分からないし」
「だな。とりあえず今回は逃げる方向でいいか? 状況が万全だったら戦ってみてもいいけど、戦ったら多分逃げることは出来ないだろうな」
「そうだね……。逃げる事を前提にして、無理なら戦うしかないか。
逃げる方向はヴェルトーガ方面だよね? 別荘だと範囲外かわからないし」
「だな。ヴェルトーガに向かうしかない。あの島だと、ザルトワシルドアの大きさ次第では島ごと沈められてもおかしくないし」
なにより、ウミガメさんたちに迷惑はかけられない。
「仮に逃げられなかった場合はちょっと厄介だね。ハルの支援魔法を受け取れない状況だし」
「あ、じゃあ一応ジェネレイトとリペアはかけておくわ。」
自分とシンに支援魔法を施す。
「確かに厄介だなぁ。ブーストはまぁ、今回の移動のメインはスクリューになるから良いとしても、プロテクションが貰えないのはちょっと怖いな。
ユリバファルゴア戦の時みたいに、空から落下するような事態は起こらないけどさ」
「とりあえずお互いの魔力は全快まで回復しておこうか。
逃げ切れないと判断した場合はどうしよう? 何か合図を決めておく?」
「そう、だな。照明魔法でも使おうか。出来ればそんな事態は避けたいけどさ。
ったく、水中ってのも厄介なもんだよなぁ。せっかく作った小細工矢も使えねぇしさ」
「確かにね。水のおかげでトーマお得意の小細工は、全て封じられちゃってるわけか。そう考えると僕たちにはかなり不利な戦闘場所になるね。まったく、嫌になるよ」
シンと2人で愚痴りながら細かい方針を予め決めておく。
結局あの先を確認しないわけにはいかないのだ。嫌だろうがなんだろうが、行ってみるしかない。
魔力が回復した事を確認して、改めて先ほどの場所まで戻る。
少しでも魔力を節約したいので、スクリューは使わずに海底を走る。
崖の前まで戻ってきた。
改めて周囲を確認するが、やはり何も泳いでいない。
砂漠エリアってワケでもないのに、魔物すら近寄らない場所か。
シンと顔を合わせて覚悟を決める。
いざ、奈落の底へ。
とりあえず飛び込むのはアホだと思うので、崖伝いに自由落下で落ちていく。
こまめに『遠目』で底を確認しているが、全然底が見えてこない。
ザルトワシルドアも怖いけど、そもそものこの崖の存在が怖くなってくる。
1分落下。何も見えない。見えるのはただ暗い海だけだ。
『暗視』がなければ、『水中視』があっても何も見えないであろう、暗き海の底だ。
5分落下。まだ何も見えない。
嘘だろおい。自由落下で5分って、どれだけの深さなんだよ?
自由落下とは言っても水中だから、厳密な自由落下とは速度が違うかもしれないけど、それにしたって深すぎるだろ。
落ちる。落ちる。落ち続ける。
本当にこの先に底があるのか不安になってくる。
すぐ後ろには壁があるので戻る事はいつでも出来るだろうが、本当にこの穴の先に底はあるのか?
まるで奈落の底に向かっているような、今まで感じたことのない類の恐怖感に苛まれる。
これ以上は不味いか……? 背後に壁があるのだから、道に迷う事はないと思いたいが……。
――――!!
総毛立つ。周囲の魔力が重くなる。
未だ視認は出来ていないが、間違いなく捕捉された。
全力で足裏のスクリューを回転させる。今回は見るだけだ。戦う予定ではない。
くっ……! こんなことなら背中のスクリューも可変型にしてもらうべきだったか?
全力で浮上するのに、2ヶ所しかスクリューが使えないのは失敗だった。
全身が粟立つ。影響していないはずの水が重く感じられる。
不味い。明らかに相手のほうが早い。距離が縮まっているのが肌で分かる。
その時、浮上する俺とシンを嘲笑うかのように、猛スピードの巨大な何かが抜き去っていった。
巨大な何か? ザルトワシルドアに決まってる。
追い抜かれた。逃げられない。
シンに照明魔法を放ちながら上を睨む。
未だ姿は確認出来ていないが、どうやらこのまま戦闘するしかなさそうだ。
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