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10章 壁外世界
閑話034 後悔と更生の日々 ※アリス視点
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「アリス! 怪我はなかったか?」
「ええだいじょうぶです。ありがとう」
ヴェルトーガを追い出されベイクで冒険者として活動し始めて、今までどれ程自分が甘えていたのかという事を痛感した。
タケルさんのおかげで命だけは助かったけど、それまでまともに運動もしたことがなかった私に、冒険者生活なんて勤まるはずはないだろうと絶望していた。
でもその後にベイクに訪れた異邦人達が冒険者として活動しているのを見て、今まで私はいったい何をしていたんだろうという気持ちにさせられた。
トーマの事は嫌い。嫌いだけど……。私自身を客観的に見ると、なんて愚かで醜い人間だったのだろうと今なら分かる。ディオーヌ様に、タイデリア家に見捨てられるのも無理はない。タケルさんが私を助けてくれたのは、タケルさんの事情によるものでしかないの。
誓約のおかげで『事象復元』は生涯使えなくなったけれど、スキルの取得も魔法の習得にも制限を設けられたわけではないから、やる気さえあれば迷宮探索には支障がなかった。
贅沢に慣れきった体には探索は辛かったけれど、1週間、2週間と過ごしていくうちに、少しずつ慣れることが出来た。
タケルさんには感謝をしている。なのに私はタケルさんの足を引っ張り続けてしまっているのが申し訳ない。
私を引き取らなければ、タケルさんは異風の旋律に参加していたかもしれない。
私がいるせいで、タケルさんにはあまり探索するメリットのない、浅い階層の探索を強いてしまっている。
命を助けてもらったのに、迷惑をかけることしか出来ない自分が情けなくて涙が出てくる。
少し探索にも慣れてきたある日、タケルさんからある提案が持ち込まれた。
大量に転移してきた異邦人達と新しくパーティを組んでみないか、というものだった。
一瞬タケルさんにも見捨てられたのかと背筋が凍りついたが、タケルさんは私と一緒に新しい人とパーティを組んでくれると言ってくれた。
甘ったれた自分が情けないと同時に、タケルさんに見捨てられなかった事を心から安堵した。
なんて弱い人間なのかしらね私って。
新しく100人近い人たちがこの世界に転移してきて、その殆どの人がすぐに迷宮に入る事を選んだらしい。私と彼らの決断力の違いに恥ずかしさを覚える。
私とタケルさんは面識のない人同士で集まった集団に混ぜてもらうことが出来た。そしてその日から宿舎で寝泊りすることを許されたのは嬉しかった。異邦人でも王国人でも面識がない事には変わりはなかったけど、それでも周囲に日本人が多い状況というのは私を安心させてくれた。
新たにパーティを組んだ異邦人達は、流石に戦闘や運動には慣れていない人しか居なくて、少し前の自分を見ているようで微笑ましかった。うん、この人たちと一緒に頑張ろう。
自分でお金を稼ぐようになると、タイデリア家での私の振る舞いが如何に非常識であったのかと痛感させられる。タイデリア家で振舞われた食材1つ、衣装1つを購入するにも、私の1日の稼ぎでは全く足りない。
あの頃の私は何を考えていたんだろう? ディオーヌ様が用意してくれている物は、自然に湧き出ている無尽の資源だとでも思っていたのかしら。そんなわけはないのに。私が贅沢をした分を、他の誰かが負担してくれていたに過ぎないっていうのに。
ある日、スキップオーブという魔導具が出回るようになった。
これは迷宮の階層移動を格段に楽にしてくれる魔導具で、あらゆる冒険者が欲しがった。
でも数に限りがある上に、初心者に渡すと危険すぎるという理由で、6等級冒険者になるまでは使用が許可されなかった。
ベイクでの6等級への昇級条件は、7等級冒険者の条件を満たした上で20階層に到達すること。私たちのパーティは未だ10階層も超えていない。スキップオーブを手にするのは、ずっと先の話になりそうだった。
そんなことを思っていたら、夜のうちにタケルさんがたった1人で20階層まで探索を済ませ、6等級冒険者に上がってしまった。おかげで私たちのパーティは早い段階でスキップオーブの恩恵に与ることができて、探索の効率が上がったパーティのみんなもやる気が漲っていた。
「ようアリス。最近楽しそうにしてるじゃねぇか」
「あ、タケルさん。
はい、おかげさまで、毎日充実してます」
夕食の後に宿舎のエントランスで休んでいると、タケルさんが話しかけてきた。
「パーティを組むのも始めは不安だったけど、今では参加して良かったって思います。
私が今こうしていられるもの、全部タケルさんのおかげです。本当に感謝しています」
「よせよ。俺は大した事はしてねぇ。トーマたちの足を引っ張っただけだ。
思い止まったのもトーマ、宿舎に移る許可もパーティ参加を提案してきたのもトーマ、スキップオーブを流通させたのもトーマだ。俺は何にもしちゃいねぇのさ」
「いえ、タケルさんがどう思おうと、タケルさんが居なければ私が死んでいたことでしょう。
だから私は感謝しますよ。たとえ貴方が私の感謝を受け取ってくれなかったとしても」
「そーかいそーかい。ま、勝手にしてくんな。
ったく、どうしてもう少しだけ早く、そういう考え方が出来なかったのかねぇ」
タケルさんの何気ない言葉が胸に刺さる。
本当にタケルさんの言う通りだ。
黙りこんでしまった私に、タケルさんは言葉を続ける。
「ま、過去の行いを悔やんでる今のお前なら、そのうちみんなに認められることになるさ。許されない事をしたと思うのなら、真面目に頑張って少しずつ取り返していこうぜ。
俺は多分、トーマたちが新しく作ってるって都市の手伝いに行かなきゃなんなくなると思う。アリスは俺と一緒じゃないと殺されちまうから、一緒に来てもらう事になるだろう。
向こうでの仕事次第だけど、パーティのみんなともできるだけ一緒に行けるように説得するがよ。最悪の場合は俺と2人で、新しい都市の方に移動しなきゃいけないってことだけは覚えといてくれ」
「……そう、ですか。分かりました。覚えておきます」
用事が済むとタケルさんは去っていった。
タケルさんの背中を見ながら、みんなと離れなきゃいけない可能性についてぐるぐると考えてしまった。
私には自由なんてないんだから。生かされているだけでもありがたいと思わないと。
……でも、みんなと離れたくないな。
せっかく仲良くなったのに、離れ離れにならなきゃいけないかもしれないなんて。
私はなんて馬鹿だったんだろ。
そのせいで、友達すら自由に作れなくなってしまっているじゃないの……。
その後、タケルさんからは特に移動の話は出なかったが、私はいつみんなと別れなきゃいけないのかと気が気じゃなかった。
みんなとてもいい人で、パーティの雰囲気もとてもいい。だからこそ迷惑をかけたくはないし、だからこそお別れしたくもない……。
「アリスー? 貴女にお客さんが来てるみたいだよ」
そんなある日、宿舎にお客さんが訪れた。その人は私に手紙を渡すとすぐに帰っていった。
手紙には金板が6枚と土地の名前だけが書いてあった。ゲートを使って指定の都市まで来て欲しいと。
かなり怪しい内容ではあったけれど、差出人の名前を見て納得した。彼女の立場なら、こんなに回りくどい事をしなければ人と会うことは出来ないのかもしれないと。
私は商工ギルドに向かい、手紙に記された都市、ミルズレンダへと足を運んだ。
「アリス様! お元気そうで何よりですわ! 以前よりも逞しくなられたように思えます」
「シルヴァール様。ご無沙汰しておりますわ。シルヴァール様もお変わりなく」
ミルズレンダに到着すると、この国の王女で在らせられるシルヴァール王女殿下が、ターミナル広場で出迎えてくれた。
久しぶりの友人との出会いに、私は少し浮かれてしまう。
「ささ、アリス様。このような場所で立ち話を続けるのもなんですし、どうぞ馬車にお乗りください。
食事でもしながら、アリス様のお話を聞かせて頂きたいんですの」
以前は何も考えずに持ち上げられていたけど、今の私にはこの扱いは素直に受け取れない。
私って、以前はどうやってあんな振舞い方が出来ていたんだろう。
それでも比較的親しかったシルヴァール様との会話はそこそこに弾んで、気付くと馬車は目的地に到着していたようだ。
「ささ、アリス様。ここのお店はミルズレンダでも評判の食事処なのです。実は私も入るのは初めてでして、とても楽しみにしていたんですよ」
「それはそれは、ありがとうございますシルヴァール様。そのような機会に招いて頂いたなんて、とても光栄ですわ」
シルヴァール様と店の個室に案内される。
中には1人先客が居るようだった。私は初対面……よね?
「ご紹介致しますわ。彼女は最近知り合った友人ですの。
アリス様ともお話が合うかと思いまして、勝手ながら引き合わさせてもらいましたのよ」
「なるほど、そうなのですね。お初にお目にかかります、私はアリスと申します。
ご縁がありまして、シルヴァール様とは親しくさせて頂いております。どうぞ宜しくお願いします」
シルヴァール様の会話の流れから、私はそのまま自己紹介に移った。
私の挨拶を聞いた先客の少女は、起立しながら私の挨拶を受け取った。
「ご丁寧な挨拶、誠にありがとうございます。
お初にお目にかかります。私はアンジェと申します。私も最近ご縁がありまして、シルヴァール様と知り合うことが出来ました。
アリス様のことは、シルヴァール様によく伺っておりますの。きっと私たち、良い関係を築けると思うんですよ」
アンジェ様ね。かなり若い方みたい。私やシルヴァールよりも明らかに年下。
でも物腰が柔らかくて、人当たりが良さそうな人ね。
新しい友人との出会いに胸を躍らせながら、私は食事の席に着くのだった。
「ええだいじょうぶです。ありがとう」
ヴェルトーガを追い出されベイクで冒険者として活動し始めて、今までどれ程自分が甘えていたのかという事を痛感した。
タケルさんのおかげで命だけは助かったけど、それまでまともに運動もしたことがなかった私に、冒険者生活なんて勤まるはずはないだろうと絶望していた。
でもその後にベイクに訪れた異邦人達が冒険者として活動しているのを見て、今まで私はいったい何をしていたんだろうという気持ちにさせられた。
トーマの事は嫌い。嫌いだけど……。私自身を客観的に見ると、なんて愚かで醜い人間だったのだろうと今なら分かる。ディオーヌ様に、タイデリア家に見捨てられるのも無理はない。タケルさんが私を助けてくれたのは、タケルさんの事情によるものでしかないの。
誓約のおかげで『事象復元』は生涯使えなくなったけれど、スキルの取得も魔法の習得にも制限を設けられたわけではないから、やる気さえあれば迷宮探索には支障がなかった。
贅沢に慣れきった体には探索は辛かったけれど、1週間、2週間と過ごしていくうちに、少しずつ慣れることが出来た。
タケルさんには感謝をしている。なのに私はタケルさんの足を引っ張り続けてしまっているのが申し訳ない。
私を引き取らなければ、タケルさんは異風の旋律に参加していたかもしれない。
私がいるせいで、タケルさんにはあまり探索するメリットのない、浅い階層の探索を強いてしまっている。
命を助けてもらったのに、迷惑をかけることしか出来ない自分が情けなくて涙が出てくる。
少し探索にも慣れてきたある日、タケルさんからある提案が持ち込まれた。
大量に転移してきた異邦人達と新しくパーティを組んでみないか、というものだった。
一瞬タケルさんにも見捨てられたのかと背筋が凍りついたが、タケルさんは私と一緒に新しい人とパーティを組んでくれると言ってくれた。
甘ったれた自分が情けないと同時に、タケルさんに見捨てられなかった事を心から安堵した。
なんて弱い人間なのかしらね私って。
新しく100人近い人たちがこの世界に転移してきて、その殆どの人がすぐに迷宮に入る事を選んだらしい。私と彼らの決断力の違いに恥ずかしさを覚える。
私とタケルさんは面識のない人同士で集まった集団に混ぜてもらうことが出来た。そしてその日から宿舎で寝泊りすることを許されたのは嬉しかった。異邦人でも王国人でも面識がない事には変わりはなかったけど、それでも周囲に日本人が多い状況というのは私を安心させてくれた。
新たにパーティを組んだ異邦人達は、流石に戦闘や運動には慣れていない人しか居なくて、少し前の自分を見ているようで微笑ましかった。うん、この人たちと一緒に頑張ろう。
自分でお金を稼ぐようになると、タイデリア家での私の振る舞いが如何に非常識であったのかと痛感させられる。タイデリア家で振舞われた食材1つ、衣装1つを購入するにも、私の1日の稼ぎでは全く足りない。
あの頃の私は何を考えていたんだろう? ディオーヌ様が用意してくれている物は、自然に湧き出ている無尽の資源だとでも思っていたのかしら。そんなわけはないのに。私が贅沢をした分を、他の誰かが負担してくれていたに過ぎないっていうのに。
ある日、スキップオーブという魔導具が出回るようになった。
これは迷宮の階層移動を格段に楽にしてくれる魔導具で、あらゆる冒険者が欲しがった。
でも数に限りがある上に、初心者に渡すと危険すぎるという理由で、6等級冒険者になるまでは使用が許可されなかった。
ベイクでの6等級への昇級条件は、7等級冒険者の条件を満たした上で20階層に到達すること。私たちのパーティは未だ10階層も超えていない。スキップオーブを手にするのは、ずっと先の話になりそうだった。
そんなことを思っていたら、夜のうちにタケルさんがたった1人で20階層まで探索を済ませ、6等級冒険者に上がってしまった。おかげで私たちのパーティは早い段階でスキップオーブの恩恵に与ることができて、探索の効率が上がったパーティのみんなもやる気が漲っていた。
「ようアリス。最近楽しそうにしてるじゃねぇか」
「あ、タケルさん。
はい、おかげさまで、毎日充実してます」
夕食の後に宿舎のエントランスで休んでいると、タケルさんが話しかけてきた。
「パーティを組むのも始めは不安だったけど、今では参加して良かったって思います。
私が今こうしていられるもの、全部タケルさんのおかげです。本当に感謝しています」
「よせよ。俺は大した事はしてねぇ。トーマたちの足を引っ張っただけだ。
思い止まったのもトーマ、宿舎に移る許可もパーティ参加を提案してきたのもトーマ、スキップオーブを流通させたのもトーマだ。俺は何にもしちゃいねぇのさ」
「いえ、タケルさんがどう思おうと、タケルさんが居なければ私が死んでいたことでしょう。
だから私は感謝しますよ。たとえ貴方が私の感謝を受け取ってくれなかったとしても」
「そーかいそーかい。ま、勝手にしてくんな。
ったく、どうしてもう少しだけ早く、そういう考え方が出来なかったのかねぇ」
タケルさんの何気ない言葉が胸に刺さる。
本当にタケルさんの言う通りだ。
黙りこんでしまった私に、タケルさんは言葉を続ける。
「ま、過去の行いを悔やんでる今のお前なら、そのうちみんなに認められることになるさ。許されない事をしたと思うのなら、真面目に頑張って少しずつ取り返していこうぜ。
俺は多分、トーマたちが新しく作ってるって都市の手伝いに行かなきゃなんなくなると思う。アリスは俺と一緒じゃないと殺されちまうから、一緒に来てもらう事になるだろう。
向こうでの仕事次第だけど、パーティのみんなともできるだけ一緒に行けるように説得するがよ。最悪の場合は俺と2人で、新しい都市の方に移動しなきゃいけないってことだけは覚えといてくれ」
「……そう、ですか。分かりました。覚えておきます」
用事が済むとタケルさんは去っていった。
タケルさんの背中を見ながら、みんなと離れなきゃいけない可能性についてぐるぐると考えてしまった。
私には自由なんてないんだから。生かされているだけでもありがたいと思わないと。
……でも、みんなと離れたくないな。
せっかく仲良くなったのに、離れ離れにならなきゃいけないかもしれないなんて。
私はなんて馬鹿だったんだろ。
そのせいで、友達すら自由に作れなくなってしまっているじゃないの……。
その後、タケルさんからは特に移動の話は出なかったが、私はいつみんなと別れなきゃいけないのかと気が気じゃなかった。
みんなとてもいい人で、パーティの雰囲気もとてもいい。だからこそ迷惑をかけたくはないし、だからこそお別れしたくもない……。
「アリスー? 貴女にお客さんが来てるみたいだよ」
そんなある日、宿舎にお客さんが訪れた。その人は私に手紙を渡すとすぐに帰っていった。
手紙には金板が6枚と土地の名前だけが書いてあった。ゲートを使って指定の都市まで来て欲しいと。
かなり怪しい内容ではあったけれど、差出人の名前を見て納得した。彼女の立場なら、こんなに回りくどい事をしなければ人と会うことは出来ないのかもしれないと。
私は商工ギルドに向かい、手紙に記された都市、ミルズレンダへと足を運んだ。
「アリス様! お元気そうで何よりですわ! 以前よりも逞しくなられたように思えます」
「シルヴァール様。ご無沙汰しておりますわ。シルヴァール様もお変わりなく」
ミルズレンダに到着すると、この国の王女で在らせられるシルヴァール王女殿下が、ターミナル広場で出迎えてくれた。
久しぶりの友人との出会いに、私は少し浮かれてしまう。
「ささ、アリス様。このような場所で立ち話を続けるのもなんですし、どうぞ馬車にお乗りください。
食事でもしながら、アリス様のお話を聞かせて頂きたいんですの」
以前は何も考えずに持ち上げられていたけど、今の私にはこの扱いは素直に受け取れない。
私って、以前はどうやってあんな振舞い方が出来ていたんだろう。
それでも比較的親しかったシルヴァール様との会話はそこそこに弾んで、気付くと馬車は目的地に到着していたようだ。
「ささ、アリス様。ここのお店はミルズレンダでも評判の食事処なのです。実は私も入るのは初めてでして、とても楽しみにしていたんですよ」
「それはそれは、ありがとうございますシルヴァール様。そのような機会に招いて頂いたなんて、とても光栄ですわ」
シルヴァール様と店の個室に案内される。
中には1人先客が居るようだった。私は初対面……よね?
「ご紹介致しますわ。彼女は最近知り合った友人ですの。
アリス様ともお話が合うかと思いまして、勝手ながら引き合わさせてもらいましたのよ」
「なるほど、そうなのですね。お初にお目にかかります、私はアリスと申します。
ご縁がありまして、シルヴァール様とは親しくさせて頂いております。どうぞ宜しくお願いします」
シルヴァール様の会話の流れから、私はそのまま自己紹介に移った。
私の挨拶を聞いた先客の少女は、起立しながら私の挨拶を受け取った。
「ご丁寧な挨拶、誠にありがとうございます。
お初にお目にかかります。私はアンジェと申します。私も最近ご縁がありまして、シルヴァール様と知り合うことが出来ました。
アリス様のことは、シルヴァール様によく伺っておりますの。きっと私たち、良い関係を築けると思うんですよ」
アンジェ様ね。かなり若い方みたい。私やシルヴァールよりも明らかに年下。
でも物腰が柔らかくて、人当たりが良さそうな人ね。
新しい友人との出会いに胸を躍らせながら、私は食事の席に着くのだった。
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