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12章 俺が望んだ異世界生活
526 ハイグライダー
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マーサは夜になっても工房から戻ってこなかった。徹夜する気か?
でも流石に息子の授乳の為に、何度か休憩を挟んだみたいだけど。
リヴァーブ王国では乳兄弟に対する偏見は特にない。というよりも今までは、両親の死亡率と孤児の数が多すぎたこと、更にはこの世界にミルクの代替品が見つかっていないので乳兄弟なんて気にしてる余裕もなく、乳幼児には母乳を提供できる女性達が協力しておっぱいを飲ませていたらしい。
リヴァーブ王国の出産年齢があまりにも若すぎるのは、単純に乳母の数を確保する為ってのもあったのかもしれない。
満足に食事ができずに健康状態の悪い乳母達では母乳の出も良くないのだろうが、『免疫力強化:小』のおかげで赤子たちの命は救われていたのかもしれない。
ということで、うちの家族はそれぞれ乳母となったり乳兄弟となっても構わないというスタンスではあるけれど、特に問題がなければ自分の子供は自分の母乳で育てて行く方針にしているようだ。
この辺の話には俺とシンは全く関わっておらず、女性陣だけで話し合って決めてしまった。
うん。乳母とか乳兄弟とかの相談を男にされても困るっちゃ困る。
結局マーサが戻ってきたのは、俺たちが朝食を終えてまったりしはじめた頃だった。
「完成したぜトーマ! 魔法グライダー改だ!」
マーサが完成した魔法グライダーを押し付けてくる。
受け取って確認してみるけど、見た目には特に変化がない。
「いやぁ助かったぜリーネ。お前が居なかったら気付けなかったよ。
そもそも装備品に術式を組み込むことってそんなにねぇからさ、術式付与なんざ完璧に頭から抜けちまってたわ」
「おつかれさん。っていうか夜通しかかったのか? 確か術式付与って専用のインクを使って付与対象に魔法印を描かなきゃダメだったと記憶してるけど、マーサの術式付与ってめちゃくちゃ早くなかったか?」
主にスキップオーブの時とかに、マーサの術式付与はよく見せられたんだよな。
俺は未だに術式の魔法印を描くのが苦手だ。練習もしてないし。
「そりゃ魔法印を描くのは苦労しなかったけどよ。術式を有効化するために最後に『魔力付与』を使わなきゃなんねぇだろ? あれって素材によって使う魔力が変わってくんだよ。
魔法グライダーに使用されてる素材はエリアキーパーのモンだ。その上で更に複数の術式付与だからな。めちゃくちゃ苦戦したんだよ」
あ~……。エリアキーパーの素材なんて、この世界の最高級品に間違いないからなぁ。
『任意発動スキル強化』がなかったら、『魔力付与』が通らなかった可能性も高そうだ。
「色々な術式を付与してみてぇところだったけどよ。変なモンを追加して、本来の飛行能力に支障が出たらバカらしいから我慢したんだ。予定通りセイブとエフィシェントとマルチプルの3つの術式を組み込んでおいたぜ。
今までよりも少ない魔力で使用可能で、今まで以上に細かい動作の調整が可能になってて、何よりも魔法効果の上限が跳ね上がってるはずだ。さっさと試して結果を報告してもらいてぇ!」
マーサは早く性能を確かめたくて仕方が無いといったテンションだ。
まぁ性能を確かめたいのは俺だって一緒だ。早速試してみようじゃないですか。
魔法グライダー改を装着しながら家の外に出た。
「それじゃ魔法グライダー改の性能調査を始めようか。
魔力を通すから、一応なにがあっても大丈夫な程度には距離取ってくれ」
万が一制御出来なくて家を破壊してしまったり……、なんて可能性もゼロではないので、女性陣はみんな自分の子供を抱いている。
うちのメンバーに限って言えば、母親の腕の中より安全な場所など無いからな。マーサのフォローは他のメンバーがしてくれるだろうし。
手持ち無沙汰になったシンがふわわとつららを抱いているのがちょっと面白い。
みんなが充分に距離を取った事を確認して、魔法グライダー改に魔力を通して翼を展開する。
もうこの時点で、以前の魔法グライダーとはなにもかもが違っていると感じられる。
元々少なかった消費魔力が更に減っている。これマジで海エリアの探索にも使えんじゃねぇか……?
そしてエフィシェントの術式効果なのか、とにかく翼の感度が良くなっている。まるで自分の体の延長のよう、魔導具にまで俺の神経が通っているかのような錯覚を覚える。
はは。これは制御不能なんて起こるわけがないな。
更に魔力を込めていき、魔法グライダー改が飛行の魔法効果を発生させていく。
少しずつ浮上していくけれど、1番魔力を消費するホバリングですら大した魔力消費じゃなくなっている。
「それじゃちょっと、空の旅を楽しんでくるよ」
魔法グライダー改に魔力を込めて、浮遊から飛行に意識を切り替える。
飛び上がれ、と思ったときには、既に自宅はもう殆ど見えない高さにまで到達していた。
「……は?」
意味が分からない。
いや、分からなくはない。魔法グライダー改の操作性と制御性は大きく向上し、発生させている飛行の魔法効果は手に取るように把握できているのだから。
把握できているけれど、あまりの速度に一瞬思考がついていかなかった。
これは……、ザルトワシルドア戦で使った撃鉄並みのスピードが出てる、か?
更に砂漠の上空を飛び回って性能チェックする。
体感ではあるけど、グリフォンの牽引飛行よりスピード出てる気がする。
それでいて魔力の消費も問題なさそうだ。多分1日中空中戦をしていられるくらいには。
というかこれ、元の魔法グライダーとは別物過ぎねぇ?
魔法グライダー改、つまりより高性能な魔法グライダー、ハイグライダーとでも名付けようかな?
でも流石に息子の授乳の為に、何度か休憩を挟んだみたいだけど。
リヴァーブ王国では乳兄弟に対する偏見は特にない。というよりも今までは、両親の死亡率と孤児の数が多すぎたこと、更にはこの世界にミルクの代替品が見つかっていないので乳兄弟なんて気にしてる余裕もなく、乳幼児には母乳を提供できる女性達が協力しておっぱいを飲ませていたらしい。
リヴァーブ王国の出産年齢があまりにも若すぎるのは、単純に乳母の数を確保する為ってのもあったのかもしれない。
満足に食事ができずに健康状態の悪い乳母達では母乳の出も良くないのだろうが、『免疫力強化:小』のおかげで赤子たちの命は救われていたのかもしれない。
ということで、うちの家族はそれぞれ乳母となったり乳兄弟となっても構わないというスタンスではあるけれど、特に問題がなければ自分の子供は自分の母乳で育てて行く方針にしているようだ。
この辺の話には俺とシンは全く関わっておらず、女性陣だけで話し合って決めてしまった。
うん。乳母とか乳兄弟とかの相談を男にされても困るっちゃ困る。
結局マーサが戻ってきたのは、俺たちが朝食を終えてまったりしはじめた頃だった。
「完成したぜトーマ! 魔法グライダー改だ!」
マーサが完成した魔法グライダーを押し付けてくる。
受け取って確認してみるけど、見た目には特に変化がない。
「いやぁ助かったぜリーネ。お前が居なかったら気付けなかったよ。
そもそも装備品に術式を組み込むことってそんなにねぇからさ、術式付与なんざ完璧に頭から抜けちまってたわ」
「おつかれさん。っていうか夜通しかかったのか? 確か術式付与って専用のインクを使って付与対象に魔法印を描かなきゃダメだったと記憶してるけど、マーサの術式付与ってめちゃくちゃ早くなかったか?」
主にスキップオーブの時とかに、マーサの術式付与はよく見せられたんだよな。
俺は未だに術式の魔法印を描くのが苦手だ。練習もしてないし。
「そりゃ魔法印を描くのは苦労しなかったけどよ。術式を有効化するために最後に『魔力付与』を使わなきゃなんねぇだろ? あれって素材によって使う魔力が変わってくんだよ。
魔法グライダーに使用されてる素材はエリアキーパーのモンだ。その上で更に複数の術式付与だからな。めちゃくちゃ苦戦したんだよ」
あ~……。エリアキーパーの素材なんて、この世界の最高級品に間違いないからなぁ。
『任意発動スキル強化』がなかったら、『魔力付与』が通らなかった可能性も高そうだ。
「色々な術式を付与してみてぇところだったけどよ。変なモンを追加して、本来の飛行能力に支障が出たらバカらしいから我慢したんだ。予定通りセイブとエフィシェントとマルチプルの3つの術式を組み込んでおいたぜ。
今までよりも少ない魔力で使用可能で、今まで以上に細かい動作の調整が可能になってて、何よりも魔法効果の上限が跳ね上がってるはずだ。さっさと試して結果を報告してもらいてぇ!」
マーサは早く性能を確かめたくて仕方が無いといったテンションだ。
まぁ性能を確かめたいのは俺だって一緒だ。早速試してみようじゃないですか。
魔法グライダー改を装着しながら家の外に出た。
「それじゃ魔法グライダー改の性能調査を始めようか。
魔力を通すから、一応なにがあっても大丈夫な程度には距離取ってくれ」
万が一制御出来なくて家を破壊してしまったり……、なんて可能性もゼロではないので、女性陣はみんな自分の子供を抱いている。
うちのメンバーに限って言えば、母親の腕の中より安全な場所など無いからな。マーサのフォローは他のメンバーがしてくれるだろうし。
手持ち無沙汰になったシンがふわわとつららを抱いているのがちょっと面白い。
みんなが充分に距離を取った事を確認して、魔法グライダー改に魔力を通して翼を展開する。
もうこの時点で、以前の魔法グライダーとはなにもかもが違っていると感じられる。
元々少なかった消費魔力が更に減っている。これマジで海エリアの探索にも使えんじゃねぇか……?
そしてエフィシェントの術式効果なのか、とにかく翼の感度が良くなっている。まるで自分の体の延長のよう、魔導具にまで俺の神経が通っているかのような錯覚を覚える。
はは。これは制御不能なんて起こるわけがないな。
更に魔力を込めていき、魔法グライダー改が飛行の魔法効果を発生させていく。
少しずつ浮上していくけれど、1番魔力を消費するホバリングですら大した魔力消費じゃなくなっている。
「それじゃちょっと、空の旅を楽しんでくるよ」
魔法グライダー改に魔力を込めて、浮遊から飛行に意識を切り替える。
飛び上がれ、と思ったときには、既に自宅はもう殆ど見えない高さにまで到達していた。
「……は?」
意味が分からない。
いや、分からなくはない。魔法グライダー改の操作性と制御性は大きく向上し、発生させている飛行の魔法効果は手に取るように把握できているのだから。
把握できているけれど、あまりの速度に一瞬思考がついていかなかった。
これは……、ザルトワシルドア戦で使った撃鉄並みのスピードが出てる、か?
更に砂漠の上空を飛び回って性能チェックする。
体感ではあるけど、グリフォンの牽引飛行よりスピード出てる気がする。
それでいて魔力の消費も問題なさそうだ。多分1日中空中戦をしていられるくらいには。
というかこれ、元の魔法グライダーとは別物過ぎねぇ?
魔法グライダー改、つまりより高性能な魔法グライダー、ハイグライダーとでも名付けようかな?
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