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752 ※閑話 家庭訪問
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「ほほっ、本日はようこそいらっしゃいましたっ……! いいいつも夫のワンダがお世話になっておりますぅ……!」
「いやいや、緊張しすぎだぞピレーネ……。ダン相手に気なんか遣う必要はねーって」
「……シーズの言う通りなんだけど、もう少し別の言い方をして欲しかったかなぁ」
ダンを前にしてガチガチに緊張しているピレーネに声をかけると、ダンが苦笑しながら俺の頭をぽんぽんと軽く叩いてくる。
止めろ馬鹿ダン! そんな困ったような笑顔を向けられたら、俺まで緊張してくるじゃねーかっ。
あっ! 笑ってんじゃねーよ、このバカチャール!
今日はダンとチャール、そしてシスタームーリと一緒にピレーネの家を訪問している。
厳密に言えばピレーネを訪ねたわけじゃなくて、ワンダとコットンに会いに来たんだけどな。
トライラムフォロワーの稼ぎ頭である幸福の先端のワンダと、その妻であり一切魔物狩りを行わないコットンの存在は、まだ教会で世話になってるみんなが目指す場所でもある。
だからダンとシスタームーリは2人に話を聞いて、これから成長していくチビ共に道を示してやりたいんだと思う。
「随分立派な家を構えたんだな? 流石にうちよりは小さいけど、10人くらいは普通に暮らせそうだ」
「うん……。将来的には家族も増えると思うけど、今はちょっと持て余し気味かな? お掃除が大変でさ」
かつては男性恐怖症だったっていうコットンも、ダンと普通に接している。
感謝している相手を拒絶してしまうことにかなり悩んでたみたいだからな。解決して良かったぜ。
「コットン。手が足りないなら積極的に人を頼るんですよ? 私達がダンさんから頂いた仕事でどれだけ助かったかを忘れないで」
「うん。賃金も沢山貰ってるし、お手伝いの依頼は考えてるんだ。でも相場とか分からなくて……。だからシスター、後で相談してもいい?」
「勿論構いませんよ。なんだって聞いてくださいねっ」
マグエルでシスタームーリにお世話になってたコットンが、あのねあのねとシスタームーリに捲し立てる。
コットンってあまり喋るタイプじゃないって思ってたけど、シスタームーリに対してはこんな感じなんだなー。
コットンがシスタームーリと話し始め、ピレーネがまだ緊張しているのを見たダンは、ピレーネとコットンの間に座っているワンダに話しかけている。
「つうかお前らが教会を出るのってまだ先の話だと思ってたよ。家構えるの早くない?」
「それがさー。孤児院を建ててくれた大工連中がいるだろ? あの人達が稼がせて貰った礼とか言ってプレゼントしてくれたんだっ」
「大工さんが家を無償で提供してどうすんだよ……。商売上がったりってレベルじゃないんだけどソレ……」
「孤児院を4つも建てたり、即位式の前後でもなんだかんだ頼んだんだろ? おかげで大工の人たち、滅茶苦茶恐縮してたぞ。このくらいしないと罰が当たるとか言ってたぜー?」
「だいたい俺のせいだった!?」
大工の人たちも職業浸透を進めつつあるから、体力を持て余し気味なんだろうな。
即位式では料理教室やファッションショーの会場設営なんかも手伝ったらしいし、ダンがいくら報酬を支払ったんだか聞くのが恐ろしいぜ……。
「俺達の家とは別に、コテンたちが寝泊りできる幸福の先端メンバー用の家まで用意してもらったんだぜ? 逆にこっちの方が恐縮しちゃったよ。お金を払おうにも頑として受け取ってくれないしさぁ……」
「あ、あ~ピレーネっ……! マグエルでの暮らしはどうっ? 孤児院でも何か困ったこととか起こってないっ?」
「いっいえっ……! 困るどころか本当によくしていただいてますっ……!?」
ダンが強引に話題を変えたせいで、ピレーネがビックリして飛び上がっちまったじゃねーか。
まだダンに恐縮しっぱなしのピレーネに助けを求めてんじゃねーよ、この馬鹿ダンっ。
「コットンと一緒に働けるのも心強いですし、マグエルの皆さんは本当に良くしてくださいますし……。あっ、あと最近お手伝いをしてくれるシスター達が本当に働き者で……!」
「うんうん。楽しく働けているようで良かった」
けれどダンの気安い雰囲気に少し慣れたのか、多少は硬いながらもしっかりと受け答えをするピレーネ。
元々しっかり者だったし、落ち着けば粗相なんてしないだろ。
「でもピレーネもコットンも妊娠したそうだし無理はしないでね。2人が望むなら出産後も働けるような仕組みも作りたいから、その時は相談に乗ってくれる?」
「ここっ、子供が生まれたあとでも働いていいんですかっ!? 今みたいに連日働いたりするのは難しくなっちゃうと思うんですけど……!」
「ピレーネたちの場合はピレーネとコットンが交替で家を守るって手もあるし、ワンダのことだって頼っていいと思うよ。ある程度大きくなれば孤児院で他の子たちと一緒に面倒も見れるしさ。まだ先の話だけど、3人で話し合ってもらえるとありがたいな」
孤児である俺達には、出産した後の生活を想像するのが難しい。
ダンがそれを知っていたかどうかは分からないけど、出産を控えていたピレーネにとって、出産後の話もある程度具体的に進められて少し安心できたみたいだ。
シスターたちも含めて、俺達トライラム教会の人間って先の話をするのが苦手なんだよなー。
だから先の話ばかりしたがるダンの言葉についつい心擽られちまうのが困りもんだぜ。
「行くよダン! 今までの私達だと思わないでっ!」
「お前ら相手に油断なんてする訳ないだろ。でもコテン、俺だって簡単には負けてやれないよ?」
雑談なのか業務連絡なのか分からない話が終わった後は、幸福の先端メンバー全員でダンに稽古をつけてもらうようだ。
俺達残りのメンバーはその訓練の様子を見ながら、女5人で雑談を継続中だ。
「わ~……。みんなもうアウターの最深部でも戦えているのに、剣1本であしらわれちゃってるね……。しかもワンダ達、誰も怪我してないみたい?」
「コットンはダンさんとワンダ達の訓練を見たのは初めてでしたっけ? ダンさんがあの子たちを傷つけるわけがありませんから、コットンも安心して応援してあげてくださいねっ」
今までダンに苦手意識を持っていたコットンは、ワンダ達とダンの手合わせを見たことが無かったようだ。
高速で打ち合うみんなに目を回すコットンに、シスタームーリが嬉しそうに解説を入れている。
シスタームーリの解説の中、ピレーネが俺とチャールにこっそり耳打ちしてくる。
「……ダンさんって人間族で間違いないよね? コテンちゃんやサウザー君の攻撃を普通に正面から受け止めてるけど……」
「ダンは人間族なのに、竜人族のフラッタやラトリアさんの剣でさえまともに受けちゃうから。あまり深く考えちゃダメだよピレ姉」
「フラッタさんとラトリアさん……ってあの物凄く綺麗な人たちだっけ? 大人の竜人族の1撃を人間族のダンさんが正面から受け止めちゃうの……?」
「ダンはちょっと規格外すぎて常識じゃ語れねーよ。6人の攻撃をロングソード1本で凌いでるけど、本来ダンは双剣使いなんだぜ? スピードもパワーもマジで桁違いなんだ」
「す、凄いなぁ……。私には幸福の先端ですら物語の英雄様みたいに思えるのに……」
まるで遥か遠くを仰ぎ見るように、目を細めて訓練風景を見詰めるピレーネ。
だけどその視線の先にはいつも、ムキになってダンに突っかかっているワンダが映っているみたいだ。
以前少しギクシャクしていたみたいだったけど、無事にワンダにゾッコンみてーだなっ。
「コテンは視野が広くなって、他のメンバーの動きに合わせられる様になってきてるね。サウザーは背も伸びてきてるしどんどん力強くなってる。単純な槍じゃなくて、長柄の戦斧みたいな物を使ってもいいかもしれない」
「ぐぬぬーっ! 早くないのに! 動きは早くないはずなに全然当たらないんだけどっ!? ダン、アンタなんかズルしてるんじゃないのーっ!?」
「ははっ。ズルしていると言えばしてるかもね? なんたって俺の剣の師匠は双竜姫ラトリアと、その娘グラン・フラッタなんだから」
動きの無駄を排除し最短距離を動作する技術と、全体の動きを先読みして全ての動作を関連付ける技術で、職業補正に頼らず戦うダンの剣。
こんな剣を見せられて、だけどこの剣を目指すなと言われたカレン陛下は大変だなぁ……。
「あ、そうだピレ姉。コットン。1つ聞いていい?」
「ん? なぁにチャール」
会話が途切れたタイミングで、チャールが態々シスタームーリの解説を遮ってまでピレーネとコットンに声をかける。
……何を聞く気だ? コイツ、空気もタイミングも読めねーから不安になるんだよな。
「ピネ姉、コットン。ワンダとの夫婦生活はどんな感じ? 2人とも満足出来てる?」
「「えっ……!?」」
「おやおやぁ? 随分興味深そうなお話ですねっ。チャール、詳しく話してっ」
「……シスタームーリ。そこは食いつくんじゃなくて馬鹿チャールを嗜めて欲しかったよ……」
相変わらず何の遠慮もなくズケズケとプライバシーに踏み込む馬鹿チャール。
そして突然の質問に固まるピレーネとコットンに対して、夫婦生活において如何に性生活が重要なのかを理路整然と捲し立てているシスタームーリ。
シスタームーリって、えっちのことになると目の色を変えすぎなんだよなぁ……。
シスタームーリを信用しているコットンはシスタームーリの言葉を鵜呑みにしてしまい、ピレーネも以前俺達に相談済みであることから観念したらしく、最近の夫婦生活について語り始める。
しかしコットンもピレーネも、夜の夫婦生活にはなんの不満も抱いていないようだった。
「以前はこう……勢い任せって言うか、今と比べると少し乱暴に感じることも多かったかな? でも最近は凄く時間をかけて優しく準備してくれるんだ」
「その間にワンダ自身も休めるみたいで、ひと晩で考えたら前よりも長く愛し合えるようになったんですっ。ワンダの負担も減ったって、家に居る時は殆ど毎日応じてくれるようになりましたしっ」
「ふふっ、コットンもピレーネも満足しているようで何よりですっ。ワンダも家庭を支えつつもしっかり楽しんでいるみたいなので、これならなんの心配も要りませんねっ」
ダンは本当にワンダにもコットンたちにも好色家を浸透させることなく、夜の性生活の問題を解消してみせたようだった。
それにしても、好色家無しだと夜ぐっすり眠れる時間が確保できるのかぁ……。
「シスターの方こそ不満は無いの? ダンったらニーナもシスターも居るのにどんどんお嫁さん増やしてるじゃないっ」
「あははー。私達の心配は無用ですよコットン。私達の身が持たないくらいですからねーっ」
「えぇ……!? チャールとシーズもお嫁に貰ったんでしょ? もう10人以上お嫁さんが居るのに、それでも身が持たないって……えぇ~?」
「それどころかダンさんって、奥さんが増えれば増えるほど私のことも可愛がってくださいますからねーっ。おかげで新しい女性を迎えるのが楽しくて楽しくてっ」
「私とシーズなんか毎晩気を失うまで愛されちゃってるもんねー……。お嫁さんを増やしたがるニーナやシスタームーリの気持ちがよく分かるよぉ……」
お前と一緒にすんな馬鹿チャール。俺はダンにならいくらされても構わねーんだよっ。
壊れるくらいに、溺れるくらいに愛して欲しいのに、ダンとニーナがそれを許しちゃくれないんだよなぁ、くそぉ……。
「ワンダはパーティバランスを考えて戦闘職が少ないせいで、敏捷性補正が少し足りないかな?」
「戦闘職かぁ……! 了解っ、次の転職先は少し考えてみるよ!」
「逆にコテンは敏捷性補正を持て余し気味だから、少し生産職の浸透を進めてもいいかもね」
「手合わせしながら普通にアドバイスしてくるんじゃないわよーっ! んもーっ! 絶対1本取ってやるんだからーっ!」
「望む所だコテン。いつでも挑戦しに来い。お前に負ける日を楽しみにしてるからな」
「きーっ! 馬鹿にしてーっ!」
ムキになりながらも巧みなダガー捌きでダンに襲い掛かるコテンと、そのダガーを1撃1撃丁寧に受け止めるダン。
コテンがムキになってるのはマジなんだろうけど、仲良くじゃれあってるようにしか見えねーなぁ。
「もう絶対に泣かすっ! ニーナに言いつけて泣かせてやるんだからーっ!」
「盤外戦術は反則でーす。リオンとビリーもちゃんと剣の腕も磨いてるようで感心だよ。最近は野生動物を相手にする機会も多かったから、魔法に頼るとやっぱ脆いなって思ってたんだ」
「……ダンっていったいどんな戦場を潜り抜けてきてるの? 野生動物なんてそうそう目にする機会も無いと思うんだけど」
「ドレッドは言うこと無いけど、あえて荷運び人まで進めて重量軽減スキルを極めるのもありかもね。そうすれば盾とメイスの重量を気にせずに獣人のスピードを活かせるかもしれないよ」
「……面白いねソレ。ちょっと考えてみる」
金属が打ち合う音を響かせながら、雑談のような口調で言葉を交わすダンと幸福の先端メンバー。
手合わせするのが自然に感じられるくらいにダンに稽古をつけてもらったんだろうなぁ。
……そう言えば俺、ダンに稽古をつけてもらったこと無いかも?
「おーいダン! ワンダ達のあとでいいから俺のことも相手してくれよ! 俺、ダンと剣を合わせてみたいんだ!」
「寝室の外でも相手して欲しいなんて、シーズは欲しがりさんだなぁ。でもワンダ達の後じゃなくていいよ。今すぐおいで。他のパーティと連携を取る練習にもなるでしょ」
「はっ! その言葉、後悔すんじゃねーぞ!? 行くぜチャール! ダンにひと泡吹かせてやるんだっ!」
「あっえっ!? いっいきなりすぎるよ!? 待って、待ってってばシーズー!?」
悪いが待たねぇよチャール。
お前とはいつも一緒で1番の親友だと思ってるけど、ダンに相手してもらうのに順番なんて待ってられねーんだ!
その後チャールと一緒にヘトヘトになるまでダンに相手してもらった俺は、シスタームーリと共に夢の一夜亭に連れ込まれて、汗だくの体を全身くまなく舐め回される羽目になっちまった。
ピレーネたちもこんなことしてるのかな……。
いや、こんな変態みたいなことするのは絶対ダンだけだ!
やっやめ……! 嗅ぐなっ! 脇に顔を埋めながら出してんじゃねぇ、この変態ヤロー!
「いやいや、緊張しすぎだぞピレーネ……。ダン相手に気なんか遣う必要はねーって」
「……シーズの言う通りなんだけど、もう少し別の言い方をして欲しかったかなぁ」
ダンを前にしてガチガチに緊張しているピレーネに声をかけると、ダンが苦笑しながら俺の頭をぽんぽんと軽く叩いてくる。
止めろ馬鹿ダン! そんな困ったような笑顔を向けられたら、俺まで緊張してくるじゃねーかっ。
あっ! 笑ってんじゃねーよ、このバカチャール!
今日はダンとチャール、そしてシスタームーリと一緒にピレーネの家を訪問している。
厳密に言えばピレーネを訪ねたわけじゃなくて、ワンダとコットンに会いに来たんだけどな。
トライラムフォロワーの稼ぎ頭である幸福の先端のワンダと、その妻であり一切魔物狩りを行わないコットンの存在は、まだ教会で世話になってるみんなが目指す場所でもある。
だからダンとシスタームーリは2人に話を聞いて、これから成長していくチビ共に道を示してやりたいんだと思う。
「随分立派な家を構えたんだな? 流石にうちよりは小さいけど、10人くらいは普通に暮らせそうだ」
「うん……。将来的には家族も増えると思うけど、今はちょっと持て余し気味かな? お掃除が大変でさ」
かつては男性恐怖症だったっていうコットンも、ダンと普通に接している。
感謝している相手を拒絶してしまうことにかなり悩んでたみたいだからな。解決して良かったぜ。
「コットン。手が足りないなら積極的に人を頼るんですよ? 私達がダンさんから頂いた仕事でどれだけ助かったかを忘れないで」
「うん。賃金も沢山貰ってるし、お手伝いの依頼は考えてるんだ。でも相場とか分からなくて……。だからシスター、後で相談してもいい?」
「勿論構いませんよ。なんだって聞いてくださいねっ」
マグエルでシスタームーリにお世話になってたコットンが、あのねあのねとシスタームーリに捲し立てる。
コットンってあまり喋るタイプじゃないって思ってたけど、シスタームーリに対してはこんな感じなんだなー。
コットンがシスタームーリと話し始め、ピレーネがまだ緊張しているのを見たダンは、ピレーネとコットンの間に座っているワンダに話しかけている。
「つうかお前らが教会を出るのってまだ先の話だと思ってたよ。家構えるの早くない?」
「それがさー。孤児院を建ててくれた大工連中がいるだろ? あの人達が稼がせて貰った礼とか言ってプレゼントしてくれたんだっ」
「大工さんが家を無償で提供してどうすんだよ……。商売上がったりってレベルじゃないんだけどソレ……」
「孤児院を4つも建てたり、即位式の前後でもなんだかんだ頼んだんだろ? おかげで大工の人たち、滅茶苦茶恐縮してたぞ。このくらいしないと罰が当たるとか言ってたぜー?」
「だいたい俺のせいだった!?」
大工の人たちも職業浸透を進めつつあるから、体力を持て余し気味なんだろうな。
即位式では料理教室やファッションショーの会場設営なんかも手伝ったらしいし、ダンがいくら報酬を支払ったんだか聞くのが恐ろしいぜ……。
「俺達の家とは別に、コテンたちが寝泊りできる幸福の先端メンバー用の家まで用意してもらったんだぜ? 逆にこっちの方が恐縮しちゃったよ。お金を払おうにも頑として受け取ってくれないしさぁ……」
「あ、あ~ピレーネっ……! マグエルでの暮らしはどうっ? 孤児院でも何か困ったこととか起こってないっ?」
「いっいえっ……! 困るどころか本当によくしていただいてますっ……!?」
ダンが強引に話題を変えたせいで、ピレーネがビックリして飛び上がっちまったじゃねーか。
まだダンに恐縮しっぱなしのピレーネに助けを求めてんじゃねーよ、この馬鹿ダンっ。
「コットンと一緒に働けるのも心強いですし、マグエルの皆さんは本当に良くしてくださいますし……。あっ、あと最近お手伝いをしてくれるシスター達が本当に働き者で……!」
「うんうん。楽しく働けているようで良かった」
けれどダンの気安い雰囲気に少し慣れたのか、多少は硬いながらもしっかりと受け答えをするピレーネ。
元々しっかり者だったし、落ち着けば粗相なんてしないだろ。
「でもピレーネもコットンも妊娠したそうだし無理はしないでね。2人が望むなら出産後も働けるような仕組みも作りたいから、その時は相談に乗ってくれる?」
「ここっ、子供が生まれたあとでも働いていいんですかっ!? 今みたいに連日働いたりするのは難しくなっちゃうと思うんですけど……!」
「ピレーネたちの場合はピレーネとコットンが交替で家を守るって手もあるし、ワンダのことだって頼っていいと思うよ。ある程度大きくなれば孤児院で他の子たちと一緒に面倒も見れるしさ。まだ先の話だけど、3人で話し合ってもらえるとありがたいな」
孤児である俺達には、出産した後の生活を想像するのが難しい。
ダンがそれを知っていたかどうかは分からないけど、出産を控えていたピレーネにとって、出産後の話もある程度具体的に進められて少し安心できたみたいだ。
シスターたちも含めて、俺達トライラム教会の人間って先の話をするのが苦手なんだよなー。
だから先の話ばかりしたがるダンの言葉についつい心擽られちまうのが困りもんだぜ。
「行くよダン! 今までの私達だと思わないでっ!」
「お前ら相手に油断なんてする訳ないだろ。でもコテン、俺だって簡単には負けてやれないよ?」
雑談なのか業務連絡なのか分からない話が終わった後は、幸福の先端メンバー全員でダンに稽古をつけてもらうようだ。
俺達残りのメンバーはその訓練の様子を見ながら、女5人で雑談を継続中だ。
「わ~……。みんなもうアウターの最深部でも戦えているのに、剣1本であしらわれちゃってるね……。しかもワンダ達、誰も怪我してないみたい?」
「コットンはダンさんとワンダ達の訓練を見たのは初めてでしたっけ? ダンさんがあの子たちを傷つけるわけがありませんから、コットンも安心して応援してあげてくださいねっ」
今までダンに苦手意識を持っていたコットンは、ワンダ達とダンの手合わせを見たことが無かったようだ。
高速で打ち合うみんなに目を回すコットンに、シスタームーリが嬉しそうに解説を入れている。
シスタームーリの解説の中、ピレーネが俺とチャールにこっそり耳打ちしてくる。
「……ダンさんって人間族で間違いないよね? コテンちゃんやサウザー君の攻撃を普通に正面から受け止めてるけど……」
「ダンは人間族なのに、竜人族のフラッタやラトリアさんの剣でさえまともに受けちゃうから。あまり深く考えちゃダメだよピレ姉」
「フラッタさんとラトリアさん……ってあの物凄く綺麗な人たちだっけ? 大人の竜人族の1撃を人間族のダンさんが正面から受け止めちゃうの……?」
「ダンはちょっと規格外すぎて常識じゃ語れねーよ。6人の攻撃をロングソード1本で凌いでるけど、本来ダンは双剣使いなんだぜ? スピードもパワーもマジで桁違いなんだ」
「す、凄いなぁ……。私には幸福の先端ですら物語の英雄様みたいに思えるのに……」
まるで遥か遠くを仰ぎ見るように、目を細めて訓練風景を見詰めるピレーネ。
だけどその視線の先にはいつも、ムキになってダンに突っかかっているワンダが映っているみたいだ。
以前少しギクシャクしていたみたいだったけど、無事にワンダにゾッコンみてーだなっ。
「コテンは視野が広くなって、他のメンバーの動きに合わせられる様になってきてるね。サウザーは背も伸びてきてるしどんどん力強くなってる。単純な槍じゃなくて、長柄の戦斧みたいな物を使ってもいいかもしれない」
「ぐぬぬーっ! 早くないのに! 動きは早くないはずなに全然当たらないんだけどっ!? ダン、アンタなんかズルしてるんじゃないのーっ!?」
「ははっ。ズルしていると言えばしてるかもね? なんたって俺の剣の師匠は双竜姫ラトリアと、その娘グラン・フラッタなんだから」
動きの無駄を排除し最短距離を動作する技術と、全体の動きを先読みして全ての動作を関連付ける技術で、職業補正に頼らず戦うダンの剣。
こんな剣を見せられて、だけどこの剣を目指すなと言われたカレン陛下は大変だなぁ……。
「あ、そうだピレ姉。コットン。1つ聞いていい?」
「ん? なぁにチャール」
会話が途切れたタイミングで、チャールが態々シスタームーリの解説を遮ってまでピレーネとコットンに声をかける。
……何を聞く気だ? コイツ、空気もタイミングも読めねーから不安になるんだよな。
「ピネ姉、コットン。ワンダとの夫婦生活はどんな感じ? 2人とも満足出来てる?」
「「えっ……!?」」
「おやおやぁ? 随分興味深そうなお話ですねっ。チャール、詳しく話してっ」
「……シスタームーリ。そこは食いつくんじゃなくて馬鹿チャールを嗜めて欲しかったよ……」
相変わらず何の遠慮もなくズケズケとプライバシーに踏み込む馬鹿チャール。
そして突然の質問に固まるピレーネとコットンに対して、夫婦生活において如何に性生活が重要なのかを理路整然と捲し立てているシスタームーリ。
シスタームーリって、えっちのことになると目の色を変えすぎなんだよなぁ……。
シスタームーリを信用しているコットンはシスタームーリの言葉を鵜呑みにしてしまい、ピレーネも以前俺達に相談済みであることから観念したらしく、最近の夫婦生活について語り始める。
しかしコットンもピレーネも、夜の夫婦生活にはなんの不満も抱いていないようだった。
「以前はこう……勢い任せって言うか、今と比べると少し乱暴に感じることも多かったかな? でも最近は凄く時間をかけて優しく準備してくれるんだ」
「その間にワンダ自身も休めるみたいで、ひと晩で考えたら前よりも長く愛し合えるようになったんですっ。ワンダの負担も減ったって、家に居る時は殆ど毎日応じてくれるようになりましたしっ」
「ふふっ、コットンもピレーネも満足しているようで何よりですっ。ワンダも家庭を支えつつもしっかり楽しんでいるみたいなので、これならなんの心配も要りませんねっ」
ダンは本当にワンダにもコットンたちにも好色家を浸透させることなく、夜の性生活の問題を解消してみせたようだった。
それにしても、好色家無しだと夜ぐっすり眠れる時間が確保できるのかぁ……。
「シスターの方こそ不満は無いの? ダンったらニーナもシスターも居るのにどんどんお嫁さん増やしてるじゃないっ」
「あははー。私達の心配は無用ですよコットン。私達の身が持たないくらいですからねーっ」
「えぇ……!? チャールとシーズもお嫁に貰ったんでしょ? もう10人以上お嫁さんが居るのに、それでも身が持たないって……えぇ~?」
「それどころかダンさんって、奥さんが増えれば増えるほど私のことも可愛がってくださいますからねーっ。おかげで新しい女性を迎えるのが楽しくて楽しくてっ」
「私とシーズなんか毎晩気を失うまで愛されちゃってるもんねー……。お嫁さんを増やしたがるニーナやシスタームーリの気持ちがよく分かるよぉ……」
お前と一緒にすんな馬鹿チャール。俺はダンにならいくらされても構わねーんだよっ。
壊れるくらいに、溺れるくらいに愛して欲しいのに、ダンとニーナがそれを許しちゃくれないんだよなぁ、くそぉ……。
「ワンダはパーティバランスを考えて戦闘職が少ないせいで、敏捷性補正が少し足りないかな?」
「戦闘職かぁ……! 了解っ、次の転職先は少し考えてみるよ!」
「逆にコテンは敏捷性補正を持て余し気味だから、少し生産職の浸透を進めてもいいかもね」
「手合わせしながら普通にアドバイスしてくるんじゃないわよーっ! んもーっ! 絶対1本取ってやるんだからーっ!」
「望む所だコテン。いつでも挑戦しに来い。お前に負ける日を楽しみにしてるからな」
「きーっ! 馬鹿にしてーっ!」
ムキになりながらも巧みなダガー捌きでダンに襲い掛かるコテンと、そのダガーを1撃1撃丁寧に受け止めるダン。
コテンがムキになってるのはマジなんだろうけど、仲良くじゃれあってるようにしか見えねーなぁ。
「もう絶対に泣かすっ! ニーナに言いつけて泣かせてやるんだからーっ!」
「盤外戦術は反則でーす。リオンとビリーもちゃんと剣の腕も磨いてるようで感心だよ。最近は野生動物を相手にする機会も多かったから、魔法に頼るとやっぱ脆いなって思ってたんだ」
「……ダンっていったいどんな戦場を潜り抜けてきてるの? 野生動物なんてそうそう目にする機会も無いと思うんだけど」
「ドレッドは言うこと無いけど、あえて荷運び人まで進めて重量軽減スキルを極めるのもありかもね。そうすれば盾とメイスの重量を気にせずに獣人のスピードを活かせるかもしれないよ」
「……面白いねソレ。ちょっと考えてみる」
金属が打ち合う音を響かせながら、雑談のような口調で言葉を交わすダンと幸福の先端メンバー。
手合わせするのが自然に感じられるくらいにダンに稽古をつけてもらったんだろうなぁ。
……そう言えば俺、ダンに稽古をつけてもらったこと無いかも?
「おーいダン! ワンダ達のあとでいいから俺のことも相手してくれよ! 俺、ダンと剣を合わせてみたいんだ!」
「寝室の外でも相手して欲しいなんて、シーズは欲しがりさんだなぁ。でもワンダ達の後じゃなくていいよ。今すぐおいで。他のパーティと連携を取る練習にもなるでしょ」
「はっ! その言葉、後悔すんじゃねーぞ!? 行くぜチャール! ダンにひと泡吹かせてやるんだっ!」
「あっえっ!? いっいきなりすぎるよ!? 待って、待ってってばシーズー!?」
悪いが待たねぇよチャール。
お前とはいつも一緒で1番の親友だと思ってるけど、ダンに相手してもらうのに順番なんて待ってられねーんだ!
その後チャールと一緒にヘトヘトになるまでダンに相手してもらった俺は、シスタームーリと共に夢の一夜亭に連れ込まれて、汗だくの体を全身くまなく舐め回される羽目になっちまった。
ピレーネたちもこんなことしてるのかな……。
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十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
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