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序章 

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小さい頃の話だ。

私は約束というものの重みを知らなかった。

無知というのは罪だ。

約束の重みを知らなかった私は約束を破った。

約束を破った罪に対し、与えられた罰は己の犯した罪を自覚させるには十分すぎるものだった。

10歳の夏の日。

私は約束を破った罰としてとある魔術師から呪いを受けた。

とても残酷すぎる呪いを――――――








【魔法の森】。

そう呼ばれる森が今の私の家。

この森は魔力が高い人間にしか立ち入る事の出来ない森で、魔力が高い人間以外は森の守り神によってはじき出されてしまう。

私は阻まれたことがないからわからないけれど、見えない壁に阻まれる感じで立ち入れないらしい。

そして、どうして私はそんな変な森で生活しているのかというとそれは何も防犯の為じゃない。

極力、人に迷惑をかけずに生活するためだ。

「ティア―!!」

風に揺られ、踊る木々の葉たちの音が私に癒しを与えてくれてる中、私の名前を呼部声が聞こえた。

振り返るとそこには私の幼馴染のディールの姿があった。

「ティア。お昼を持ってきたから一緒にお昼に使用。」

凛としていて気品溢れる美人な顔で、瞳は綺麗なブルー。

体格はすこし細め。

けれど意外と筋肉はしっかりとある青年。

私の幼馴染のディール、16歳だ。

今軽く説明しただけでもディールはとても容姿端麗なのがお分かりいただけただろう。

勿論、私も心の底からそう思っている。

けれど――――――

「今日も随分と醜い顔ね、ディール。」

にっこりとほほ笑む私の口から出てくるのは本心と裏腹の言葉。

酷い悪口だ。

「ありがとう、ティア。ティア“も”今日も可愛いよ。」

酷い悪口を言った私に対し、ディールはとても素敵な笑顔を返してくる。

けれどこれは決して嫌味なんかじゃない。

そう、幼馴染で付き合いが長いディールの返答は、私のある体質について知っているが故の返答だったのだ。

その体質とは――――――

(あぁぁぁ!もう!!何で私の口からは思ってることと反対の言葉が出てくるのよ!!!)

私の心で叫ばれた通りの体質だ。

いや、正しくは体質ではなく呪いだ。

6年前、10歳だった私はとある魔術師から【口からは人を傷つける言葉しかはけず、そして人々に嫌われながら17歳の誕生日を迎えたその日、私の体は冷たい石に変わり、永遠の命を終えるだろう。】と言われてその呪いを受けた。

つまり私はとある魔法使いに駆けられた呪いによって、思っている言葉と反対の言葉――――というより、口にする言葉すべてが可愛げの欠片もないようなひどい言葉に変わってしまうのだ。

(ごめんね、ディール……。)

口にするとまた可愛げのない言葉が出てきてしまうから私は心の中で謝罪をする。

けれど、ディールはまったく気にしていないという様子で落ち込む私の頭をやさしくなでてくる。

ディールと私は実は同じ歳なのだけど、いつからだっただろう。

ディールは時々まるで兄のように私に接してくる。

幼馴染というかまるで兄弟だ。

(でも、昔はこんな感じじゃなかったのよね……。)

昔はもっといつもおどおどしてた気がする。

どちらかといえば頼りなくて、お転婆な私にいつも振り回されてた苦労性な弟って感じだったのに……。

(知らない間に貴方は一人成長して、いつかは素敵な大人になるのね……でも、私はきっと……。)

私は間違いなく17歳で命を終えるだろう。

(私は私が犯した【罪】のせいで村の人からは恐怖、もしくは忌むべき存在として嫌われている。だからきっと――――)

目を閉じたら鮮明に思い出す。

10歳のある夏の日に私が犯した罪の事を。

その罪が私の生活を変えてしまった。

(あんなことがなければ私はきっと、今も昔みたいに村の人と笑い合えていたんだろうな……。)

私だって最初から村の人と仲が悪いわけじゃなかった。

むしろ、昔はとても仲が良かった。

そう、6年前の春、【貴方】に出会い、6年前の夏に貴方と交わした約束を破るまでは――――――
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