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第2章 アカデミー1年生
過去話 4
しおりを挟むゼルファートが騒乱に気付いた時、全て終わっていた。
なんと父であるライミリウム家当主が、犯罪に手を染めていたという事を屋敷にやってきた騎士団に聞かされた。そしてそのまま捜索した後に父を連れて行ってしまった。
確かに彼は良き領主とは言えなかった。
数年前、無茶な事業に手を出し案の定失敗。なんとか立て直すも今度は女と酒とギャンブルに堕ちる。その金を作るために民の税金を暴動が起こる一歩手前まで上げ、挙句の果てには世界的に禁止されている人身売買に走ってしまった。
そして一部の貴族は知っている事だが、この時立て直したのも、その後執務、社交、経営等をこなしていたのは長男である。母であるライミリウム夫人の助けを借りつつも、幼い少年が全て取り仕切っていたのだ。
そして長男は父親が何をしているか全て知っていた。最初は救おうとした。あんなんでも父親だし、もっと幼い頃には確かに良い人だったのだ...。
でも、もう取り返しのつかない所まできてしまった。ならば。他ならぬ自分が引導を渡してやろうと決意した。
そうして怪しまれぬよう時間をかけて計画を練り、自身の問題も片付いた直後に犯罪の証拠を全て王家に提出した。
王家も確かな証拠もなく高位貴族であるライミリウム家の捜査に踏み込むことが出来ず、口惜しく思っていた。
検挙されたのは当主と一部の使用人。夫人と息子達は関わっていない事が証明された。
当主は生涯幽閉、使用人は強制労働施設に送られた。
そしてその日から、長男であるゼルブルークが姿を消した。
皆が噂した。やはり彼も共犯だったのだと。自身も捕まる事を恐れ逃げたのだと。
ゼルファートは信じなかった。兄はすぐに帰ってくると信じ、公務に励んだ。兄が残した資料を受け取り(資料の作成者は伏せられ、信用できる者としか伝えられなかったが)、それを元になんとか立ち直り始めている。
もちろん容易ではなかった。右も左もわからない、成人もしてない小僧だ。やり遂げたのは、周囲の助けと謎の資料のお陰だ。
そしてしばらくは夫人が当主代行をし、ゼルファートが成人したら跡を継ぐ事が決まった。
そして、婚約も。
「兄上...。」
今日はゼルファートとジェリンナの婚約式。2人とも正装に身を包んでいる。
ゼルファートは現在の功績や普段の成績が認められ、行方不明の兄に代わりジェリンナとの婚約が認められた。
(嬉しいはずなのに。ずっと好きだったシェリーと結婚できるのに。それなのに...。
兄上の事を信じたいのに...。なんで姿を見せてくれないんですか。なんで何も言わずに消えちゃうんですか。世間の噂は事実なんですか...?シェリーと僕が結婚していいんですか...?)
婚約式は恙無く終了し、一行は今王城の一室にいる。沢山の人々に祝福され、喜びに満ち溢れている筈なのに。ゼルファートの表情は曇ったままだった。
「ルファ...。」
愛する少女、ジェリンナがそばに寄ってくる。そして。
「うじうじするのもいい加減になさいっっ!!」
バシィーーンといい音を立ててゼルファートが吹っ飛んだ。ジェリンナに全力で平手打ちされたのだ。
ゼルファートは呆然としていた。鼻血が流れているが拭う余裕がない。今日の式のために仕立てた白を基調とした上等な礼服も、赤く染まるが気にしてられない。
しかし動けないのは彼だけではなかった。この部屋にいるライミリウム夫人、王太子妃、カルウィン、スイン、メイド達。全員ポカーンとして2人をただ眺めていた。
その中で、ジェイドだけが「あちゃー」と言わんばかりに手を額に当てて目を閉じていた。
動けないゼルファートに大股で近づき、その胸ぐらをぐわっと掴む王女。
「何いつまでも落ち込んでいらっしゃるのですか!!そんなに私との結婚はお嫌ですか!?こちとら幼い頃から貴方をお慕いしておりましたのに!!ゼルブルーク様が何故あのような行動をしたのかまだ分かりませんか!?
貴方は兄上を信じてる、と仰ったでしょう。その言葉は偽りですか?本当に信じていらっしゃるなら......とっとと立ち上がりなさい!!!!」
「は、はい!!」
ジェリンナの勢いに押され、背筋を見事に伸ばして立ち上がる。まだ頭は混乱しているが。
「お兄様!!!」
「はい!!」
ジェイドも、あまりの妹の剣幕につい敬語だ。
「お兄様もとっとと吐きなさい!今回の騒動、お兄様と理事長が関わっているのは分かっておりますのよ!!」
「何故!?」
「これですわ!」
ジェリンナがスッと手を前に出すと、彼女の侍女がススッと何かを掌に置いた。
「これは...録音機?」
「全員お聞きなさい。」
ポチッとな。
『あと少しだ。皆、これまで付き合ってくれてありがとう。』
「あ、兄上の声!?」
「静かになさい!」
「あ、はい。」
こいつは尻に敷かれる...。この場の全員の思考がシンクロした(ゼルファートとジェリンナ除く)。
『どういたしまして。ルファ様に隠しているのは辛かったですが...やっと終わりですね。』
「これは貴方ですわね?カルウィン。」
「......その通りで...ございます...。」
「なっ、カル」
ギロリ
「なんでもありません。」
その後あの日ゼルブルークの部屋でのやり取りを全て流された。
「カルウィン、何か言い訳はありまして?」
「ございません。...殿下はどちらにいらしてたんですか...。」
「クローゼットの中よ。そしてお兄様。話に出ていた殿下とは貴方でしょう。オルドー家の名前もございましたね。」
「まいった...。なんてこった。」
「後で全部吐いてもらいますわよ!
そして!ルファ!!!」
「...はい。」
「全て聞いたでしょう。彼は貴方の事を信頼して、こんなにも評価してくださっているのよ。その信頼に応える気があるんならいつまでもグズってんじゃないわよ!!
それに、そうね。お望み通り私ももう猫を被るのはやめね。
さあ立ちなさい!何その情けないツラは!!...落ち着いたらこれで拭いて、バシッとすんのよ。」
ジェリンナはゼルファートの顔にハンカチを投げつけた。ゼルファートは自分の頰が濡れていることに気付く。いつの間にか、恐らく録音を聴き終えた頃から泣いていたのだった。
さらに鼻血も合わさって、せっかくの愛らしい顔が台無しだ。それでも、誰も何も言わなかった。
そのまましばらくの間、ゼルファートは泣き続けた。
やっと泣き止んだ頃には。
「さあ、吐いてもらいましょうか。」
ジェイド、スイン、カルウィン、呼び出されたヘーゼルが絨毯の上に正座していた。
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