聖歌使いの不細工令嬢はムカつく相手に呪いをかける。人の歌に勝手に惚れておいて、顔を見て散々罵って婚約破棄とか死ね

manji

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第2話 ふざけるな

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 王子から一方的な婚約破棄を言い渡され、あれから1月。父はその責任を取らされ、伯爵から男爵にまで降格させられていた。その際に、広かった領地とその資産の3分の2が没収されている。

 更にはガリア王子は俺の事を周囲に吹聴し。
 俺の醜い顔は王都でちょっとした噂になっている。

「お父様、お加減は如何ですか?」

 心労で倒れた父を、聖歌で癒す。恐らく俺の力が無ければ、父は衰弱死していただろう。正直、王子がここ迄やってくるとは夢にも思わなかった。

 ……ふざけやがって。

「カレン……わしが不甲斐ないばかりに……お前には辛い思いばかりを……すまん……」

 父は目元を押さえ、すすり泣く。

「お父様のせいではありませんわ」

 そうだ。父は何も悪い事などしていない。全てはあの色呆け王子のせいだ。

「それに、私は噂の事など一切気にしていませんから……どうか心穏やかに……」

「すまない……すまない……」

 父はそれでも泣いて謝り続ける。
 この人が何をした?
 どうしてこんな酷い目に合わなければならない?

 腹の中で怒りと憎しみが混ざり合い、今にも爆発しそうだ。だが俺はそんな感情をぐっとこらえ、慈愛と友愛を籠めて歌を口ずさむ。

「さあ眠りなさい。貴方の悲しみは夢がきっと癒してくれるはず」

 聖歌が効果を表し、安らかな寝息を立て始める。今の父は情緒不安定だ。暫くは聖歌での精神安定を続ける必要があるだろう。

「なんとかしないと」

 瞬間的な癒しを行う事は出来ても、状況が改善されなければ堂々巡りだ。父には暫く養生してもらう必要がある。

「セバスチャン、手続きの用意を」

「どのような手続きで御座いましょうか。お嬢様」

 執事のセバスチャンは恭しく頭を下げる。他の使用人達は俺を避けて余所余所しく振る舞う――不細工が移るとでも思っているのだろうか?――中、彼は普通に接してくれる数少ない人物だ。

「男爵家当主代理の手続きです。父には暫く療養が必要ですから、その間は私が女男爵として政務に着きます」

 元伯爵家と高位の貴族ではあったが、兄弟は一切おらず。親戚筋も少し前に会った戦争で亡くなっている。その為、父の後を継ぐ――代理を務められる血縁は私しかいなかった。

「は、畏まりました」

 俺が代理となって、父の心労の元を断つ事にする。
 その大きな目的は3つ。

 一つは、馬鹿王子を地獄に叩き落す事だ。

 最初は少し痛い目に遇わせられれば良いか位に思っていたが、ここ迄やられている以上、軽いお仕置きで済ませる気はない。地獄を見せてやる。

 二つ目は噂の鎮静だ。

 実は聖歌を使えば、一時的に顔を美しく整える事は出来る。王子を排除し、その上でヴェールをはがして顔を晒す。醜くくはないと周りにアピールする事で、余計な噂は収まるだろう。

 3つ目は爵位の挽回。

 本来、降格される謂れ等ないのだ。最悪国王を歌で洗脳する事も視野に入れる。王のバカ息子のせいで、此方は酷い目に遇っているのだ。 洗脳されても文句は言えまい。

「見ていろよ」

 思わず地が出てしまい。メイドが驚いた様に此方を見つめる。だが特には気にしない。どうせ普段から俺の悪口を言っているのだ。そこに少しぐらい+αが増えた所で大した事は無いだろう。

 俺は父の寝室を後にし、執務室へと向かう。
 セバスチャンはそこで書類の用意を行なっているだろうから。
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