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第4話 いざ婚約パーティーへ
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「とまれ」
橋の前で衛兵に馬車を止められる。
身分のチェックだ。
王宮は深い堀に覆われており、その外と内側をぐるっと囲むように高い塀が2重に築かれていた。馬車を止められたのは第一門で、橋を渡った第二門でも同じようにチェックが行われる。
王家が暮らす場所だけあってその警戒は厳重だ。特にパーティーなどでは業者だけではなく、招待客の中にも暗殺者が混ざる事がある為。こういう催しの場でのチェックは普段よりも厳重に行われる。
「お待たせしました」
執事のセバスチャンが馬車から降り、招待状を提示する。 それは入念にチェックされ。 正規の品だと判断されたので、私達は門を通され橋を渡る。
「確認をお願いします」
同じような流れで、橋を渡った先で再び招待状をチェックされる。 勿論本物なので問題なく私達は城内へと通された。
「豪勢ね」
城内に入り、その広大さと、居並ぶ豪華な宮殿群に思わずつぶやいた。
この世界には重機など存在していない。宮殿一つ立てるのにも、相当な費用と期間を必要とするだろう。そんな建物がゴロゴロと居並んでいる姿を見て、なんて無駄遣いなのだろうかと思わずにはいられなかった。
権勢を示すという意味で巨大建造物は必要な物なのだろうが、前世が日本人だったためか、活用されて無さそうな建造物を見るとどうしても無駄に感じてしまう。いや、権勢を誇った結果生まれたのがあの傲慢王子だと考えると、もはや害悪にすら感じる。
パーティーの行われる建物に着いた俺は馬車からおり、招待客用の個室へと通される。招待されている貴族の数はそうとうな数だが、それ用の個室を容易く用意できる程会場の建物は大きい。全容を見たわけではないが、恐らく有名コンサート会場より広いだろう。
パーティーまで時間がある為暫くくつろいでいると、ドアがノックされる。誰か付き合いのある貴族だろうかと思い、どうぞと答えると。あり得ない人物が姿を現す。
「やあ、元気にしていたかい?」
そうフランクに言うと、ガリア王子がニコニコと室内に入って来る。まさか自分の部屋に王子が来るとは夢にも思わなかった俺は、固まってしまう。
「久しぶりだね。カレン・デューク伯爵令嬢。いや、今はデューク男爵代行殿と言った方がいいかな」
抜け抜けとほざきやがる。
今すぐ呪歌を掛けてやりたいところだが、この狭い、1対1に近い場所でそれをすれば犯人の疑われてしまうのは目に見えている。俺は怒りをぐっと堪え、奴にお辞儀する。
「御婚約おめでとうございます。ガリア王子」
「ああ、前の婚約者は酷かったからね。今度の婚約者は美しい女性で良かったよ」
こいつは本当にどんな教育を受けて育ってきたのだろうか?
ここまであれだと怒りを通り越して呆れ果ててしまう。
「美男美女で羨ましい限りですわ」
まあ一々相手するのはあれなので、サラリと流す。どうせ明日以降、お前には地獄の日々が待っているんだ。今ぐらい好きにやらせてやるさ。
「ははは、そうだな」
只のお世辞を鷹揚に受け取る。彼の辞書に謙遜という言葉はないらしい。
こいつ鏡を見た事がないのだろうか?
コーウェン家の令嬢は知らんが、お前の顔は完全に並み以下だぞ。
「しかし一つ問題があってな」
「どうかなされたのですか?」
死ぬ程どうでもよかったが、一応訪ねておく。事をすました後に疑われない様、出来るだけ敵意は隠して行動しなければならない。ドアの外には、王子の護衛が聞き耳を立てているだろうしな。
「実は歌がね……今一つで」
そういやこの馬鹿王子。
歌だけで俺と強引に婚約したんだったな。
そんなに歌が好きなのか?
「そこさえなければ完璧な女性なんだがなね」
王子はやれやれと被りを振って、溜息を吐いた。
意味が分からん。
こいつは妻になる女に一体何を求めているのやら。
歌を聞くだけなら別に嫁である必要は無いだろうに。オーケストラでも何でも呼べばいいだけの事だ。王族ならそれ位容易いだろう。
「そう言えば、元婚約者殿は歌声だけは素晴らしかった」
王子が俺に近寄り、人の肩に気安く手を置く。
マジキモイんだが。
「家を伯爵家に戻したいとは思わないかい?」
「どういう意味……でしょうか」
ガリア王子は意味深に微笑む。その意図が分からない為、俺は聞き返した。
「君さえよければ、第二夫人として君を引き取ってやってもいい」
ムカッとして思わず拳を握りしめる。此処でこいつをぶん殴れたらどれだけ気分爽快な事だろうか。
「僕の為だけに朝晩2度、歌うだけでいい。それだけで僕の第2夫人の座が得られるんだ。しかも爵位の回復も見込める。悪い話じゃないだろう?」
どうやら余程俺の歌に御執心の様だ。
誘いを受ければ家名は回復し、朝晩歌うだけであとは完全に自由の身――多少の制限はあるだろうが。破格の条件であるのは認める。それは間違いないだろう。
「お誘いは大変有難いのですが。私は家を継がなければならない身ですので、どうぞ他を御当たり下さい」
だが断る。
やりたい放題やって父をあれだけ追い込んだ奴に、復讐せずに済ませる程俺は人間出来てはいない。手間はかかるだろうが、聖歌や呪歌で復讐した上で家名は挽回させて貰う。
「……」
正気かと言わんばかりの驚愕の表情で、王子は俺を見つめる。断られるとは夢にも思わなかったのだろう。アホ面で口をパクパクさせていた。
「正気か?どうやら悪いのは顔だけではなく、頭の方もらしいな。後悔する事になるぞ」
そう言い放つと、王子は部屋から出て行く。
馬鹿が後悔するのはそっちだ。楽しみにしてろ。
俺は奴が消えた扉に向かって中指を立てた。
橋の前で衛兵に馬車を止められる。
身分のチェックだ。
王宮は深い堀に覆われており、その外と内側をぐるっと囲むように高い塀が2重に築かれていた。馬車を止められたのは第一門で、橋を渡った第二門でも同じようにチェックが行われる。
王家が暮らす場所だけあってその警戒は厳重だ。特にパーティーなどでは業者だけではなく、招待客の中にも暗殺者が混ざる事がある為。こういう催しの場でのチェックは普段よりも厳重に行われる。
「お待たせしました」
執事のセバスチャンが馬車から降り、招待状を提示する。 それは入念にチェックされ。 正規の品だと判断されたので、私達は門を通され橋を渡る。
「確認をお願いします」
同じような流れで、橋を渡った先で再び招待状をチェックされる。 勿論本物なので問題なく私達は城内へと通された。
「豪勢ね」
城内に入り、その広大さと、居並ぶ豪華な宮殿群に思わずつぶやいた。
この世界には重機など存在していない。宮殿一つ立てるのにも、相当な費用と期間を必要とするだろう。そんな建物がゴロゴロと居並んでいる姿を見て、なんて無駄遣いなのだろうかと思わずにはいられなかった。
権勢を示すという意味で巨大建造物は必要な物なのだろうが、前世が日本人だったためか、活用されて無さそうな建造物を見るとどうしても無駄に感じてしまう。いや、権勢を誇った結果生まれたのがあの傲慢王子だと考えると、もはや害悪にすら感じる。
パーティーの行われる建物に着いた俺は馬車からおり、招待客用の個室へと通される。招待されている貴族の数はそうとうな数だが、それ用の個室を容易く用意できる程会場の建物は大きい。全容を見たわけではないが、恐らく有名コンサート会場より広いだろう。
パーティーまで時間がある為暫くくつろいでいると、ドアがノックされる。誰か付き合いのある貴族だろうかと思い、どうぞと答えると。あり得ない人物が姿を現す。
「やあ、元気にしていたかい?」
そうフランクに言うと、ガリア王子がニコニコと室内に入って来る。まさか自分の部屋に王子が来るとは夢にも思わなかった俺は、固まってしまう。
「久しぶりだね。カレン・デューク伯爵令嬢。いや、今はデューク男爵代行殿と言った方がいいかな」
抜け抜けとほざきやがる。
今すぐ呪歌を掛けてやりたいところだが、この狭い、1対1に近い場所でそれをすれば犯人の疑われてしまうのは目に見えている。俺は怒りをぐっと堪え、奴にお辞儀する。
「御婚約おめでとうございます。ガリア王子」
「ああ、前の婚約者は酷かったからね。今度の婚約者は美しい女性で良かったよ」
こいつは本当にどんな教育を受けて育ってきたのだろうか?
ここまであれだと怒りを通り越して呆れ果ててしまう。
「美男美女で羨ましい限りですわ」
まあ一々相手するのはあれなので、サラリと流す。どうせ明日以降、お前には地獄の日々が待っているんだ。今ぐらい好きにやらせてやるさ。
「ははは、そうだな」
只のお世辞を鷹揚に受け取る。彼の辞書に謙遜という言葉はないらしい。
こいつ鏡を見た事がないのだろうか?
コーウェン家の令嬢は知らんが、お前の顔は完全に並み以下だぞ。
「しかし一つ問題があってな」
「どうかなされたのですか?」
死ぬ程どうでもよかったが、一応訪ねておく。事をすました後に疑われない様、出来るだけ敵意は隠して行動しなければならない。ドアの外には、王子の護衛が聞き耳を立てているだろうしな。
「実は歌がね……今一つで」
そういやこの馬鹿王子。
歌だけで俺と強引に婚約したんだったな。
そんなに歌が好きなのか?
「そこさえなければ完璧な女性なんだがなね」
王子はやれやれと被りを振って、溜息を吐いた。
意味が分からん。
こいつは妻になる女に一体何を求めているのやら。
歌を聞くだけなら別に嫁である必要は無いだろうに。オーケストラでも何でも呼べばいいだけの事だ。王族ならそれ位容易いだろう。
「そう言えば、元婚約者殿は歌声だけは素晴らしかった」
王子が俺に近寄り、人の肩に気安く手を置く。
マジキモイんだが。
「家を伯爵家に戻したいとは思わないかい?」
「どういう意味……でしょうか」
ガリア王子は意味深に微笑む。その意図が分からない為、俺は聞き返した。
「君さえよければ、第二夫人として君を引き取ってやってもいい」
ムカッとして思わず拳を握りしめる。此処でこいつをぶん殴れたらどれだけ気分爽快な事だろうか。
「僕の為だけに朝晩2度、歌うだけでいい。それだけで僕の第2夫人の座が得られるんだ。しかも爵位の回復も見込める。悪い話じゃないだろう?」
どうやら余程俺の歌に御執心の様だ。
誘いを受ければ家名は回復し、朝晩歌うだけであとは完全に自由の身――多少の制限はあるだろうが。破格の条件であるのは認める。それは間違いないだろう。
「お誘いは大変有難いのですが。私は家を継がなければならない身ですので、どうぞ他を御当たり下さい」
だが断る。
やりたい放題やって父をあれだけ追い込んだ奴に、復讐せずに済ませる程俺は人間出来てはいない。手間はかかるだろうが、聖歌や呪歌で復讐した上で家名は挽回させて貰う。
「……」
正気かと言わんばかりの驚愕の表情で、王子は俺を見つめる。断られるとは夢にも思わなかったのだろう。アホ面で口をパクパクさせていた。
「正気か?どうやら悪いのは顔だけではなく、頭の方もらしいな。後悔する事になるぞ」
そう言い放つと、王子は部屋から出て行く。
馬鹿が後悔するのはそっちだ。楽しみにしてろ。
俺は奴が消えた扉に向かって中指を立てた。
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