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2.「あいるん、あいるんるん~♪」

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「あいるん、あいるんるん~!」

私がこの呪文を唱えると、あーら不思議!
首にかけていた白猫の形のペンダントトップのネックレスが光って……。
~なんです。
「魔女っ娘のアイリーハルルンことアイリ―なんです」

三角のとんがり帽子の先には星の形の飾りが一つ。
黒いローブには魔女っ娘の証のブローチが光っているんです。
ブローチの一部の水晶の中身がまだ三日月の形だから、これが満ちると完全な魔女になれるんですよ。

先日、私は何とか『魔女昇格試験』の第一関門を突破しました!
もう本当に緊張して、手汗が半端なかったなんですから……。

「とか言って、いつもの笑顔で何とか乗り切ったんだからアンタは大したもんよ、アイリ―」
「ありがとうなんです、ホワン」
は、私の首に掛かっているネックレスのペンダントが実現した姿の白猫ちゃんなんです。
真っ白な毛並みに、ブルースカイの瞳がとっても綺麗な女の子なんです!
「あら、最大の賛辞をありがとう」
ああ。
ホワンには私の心で思ったことはお見通しなんですね。
さすが、私のお供の猫さん。
「いや……。アイリ―? あなたの心の声は駄々洩れなのよ」
ホワンは呆れ気味に立っています。
その言葉を聞いて、私は思い出します。
小学生の私が、ある日出会った本から登場したホワンに教えられた事。
お供の動物と魔女っ娘は喋らずとも、意思疎通が出来ちゃう事を。
あれ、でもプッティとルンはそんなこと出来ないって喚いていた気が……。
私とホワンが特にこの事に秀でているのは、試験管の魔女様から教えてもらったんだっけ。
「ホワン、次の『魔女昇格試験』の内容は……。あれ、何だったんですっけ?」
ズルっとホワンが器用にコケる真似をした。
「アイリ―……。貴女ボケるのにはまだ早いわよ!」
「別に寝ぼけているつもりはないけれど?」
「ああ、貴女って……ほんっとうにね!」
ホワンが呆れて嘆いている。
天然、ですかー。
何だかクラスの子にも同じこと言われた記憶があるのです。
そんなに私って変かしら?
「アイリ―。次の『魔女昇格試験』は」
そこでホワンが言葉を切る。
ごくり、と私は喉を鳴らした。

!」


それから数日後。
学校から帰った私は人気のない神社の裏手に居た。
ホワンも一緒だ。
「いい? アイリ―。念じるのよ、箒を出した時と一緒よ基本は」
真面目なホワンを見て、私は真面目に頷く。
「さあ、呪文よ!」
私は頭の中でイメージをする。
この手に杖。
杖を出す!

「あいるん、あいるんるん~! 魔法の杖よ出てきてです!」

ふぉん!

「あ、出来た……」
「さっすがアイリ―! 初っ端から出来ちゃったじゃない!」
私の利き手の右手には、しっかりと魔法の杖が握られている。
木の棒の先に綺麗な石が光っている。
「この石は?」
私はホワンを見る。
「ピンクダイヤじゃないかしら。アイリ―らしい色だわ」
うんうんと頷くホワンが何だか誇らしげだ。
とにかく私は胸をなでおろしたのだ。

だが。

練習を重ねるごとに、杖の出現率は悪くなる一方だった。
今日だって。
「おかしいです。ホワン」
私は泣きそうになってホワンを見た。
「そうね……」
ホワンも眉根を寄せて悩んでいる。
「おかしいわね」
「そうですよ、なんでです?」
今日は五回に一回しか出せなかった。
私は項垂れた。
ホワンも項垂れていた。

そんな調子がイマイチなまま、『魔女昇格試験』はやって来てしまった。



「さあ、『魔女昇格試験』第二試験へいらっしゃい皆さん。まずは第一試験合格おめでとう。今日の試験は魔法の杖を出すことです」
魔女の試験官の話を、私は上の空で聞いていた。
昨日は一睡もできなかったのだ。
不安で不安で、仕方なかったのだ。
居並ぶ、魔女っ娘たちが緊張した面持ちでその場に集まっている。
アイリ―の顔色は冴えなかった。
隣でホワンが心配げにこちらを見上げている。
私は弱々しく笑顔を見せた。
最初の子が呼ばれて、無事に杖を呼び出せた姿を見ると余計に不安が増してきた。
アイリ―の番は最後から二番目だった。
次々に成功していく魔女っ娘たち。
中には、
「残念だったね。キラリット、不合格」
杖を呼び出せず、がっくりと肩を落として泣く魔女っ娘も居た。
そんな様子を見て、私は。
「ホワン」
と呼んだ。
「なあに、アイリ―」
優しくホワンが私の名を呼ぶ。
「この試験に合格できなかったら、ごめんなさい」
「……アイリ―」
ホワンが肩に乗ってきた。
猫らしいことが嫌いなホワンに私は驚く。
「駄目だったら、またチャレンジすればいいわ。貴女は大丈夫。出来る魔女っ娘よ。胸の中のピンクダイヤモンドの輝きを信じて」


「次、アイリ―ハルルン」
「はい!」

私は覚悟を決めた。
「あいるん、あいるんるん……魔法の杖よ、出てきてなんです!」

ふぉおん!

不思議な音がして……。

私は思わず目を閉じてゆっくりと開いた。

「杖、……あるわ!」
魔法の杖はしっかりとアイリ―の右手にあった。

「よくやったね。アイリ―ハルルン。合格だよ」
試験管の魔女の言葉に涙が目に浮かぶ。
「やったわ、やったわ! ホワン!」
私はホワンに抱き付いた。
ホワンは優しく、頭をポンポンとしてくれた。


さあ、次も頑張らなきゃなんです。


魔女目指して、


「頑張りますよー!」

私は満月の夜空にホワンと手を伸ばしたのでした。






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