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7日目 そして1人がいなくなる Ⅰ
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目が覚めたときに想い出したのは、いつもの朝。
いつも、といっても大人になってからの話じゃなくて、子どもの頃のいつもの朝。
今日何をするんだっけ、明日何をしなきゃいけないんだったけ。
そんなことも忘れた、何もない朝。
聞こえるのは小さなの寝息と、少し遠くの海の音。
かもめの音、波の音。
不思議と頭はぼーっとしてる。
ぼーっとしたまま、そっと布団を這い出してカバンからカメラを撮りだした。
そのまま、窓を開けてふっと息を吸うと、ここちいい風が波の音に紛れてやってくる。
連射モードを切って一枚だけ、山の向こうからの朝焼けと、それを反射する海を撮った。
これでもう、朝の写真を撮ることは、二度とない。
私の人生は今日、終着点なのだから。
夜、眠りに落ちることも、二度とない。
朝、目を覚ますことも、二度とない。
今日が最期の日。
何枚も撮りたくはなかった、一枚で十分。
それより今は、窓辺に座ってただこの音を聴いていたい。
きっともう、こんな気分で音を聴くことも二度とないから。
波のさざめきがする。
鳥の声がする。
風の音がする。
部屋の中からもぞもぞと布団のこすれる音がする。
「……ふぁ……、まゆさん。おはよー、ございます」
少し寝ぼけた私の最期の見届け人は、お気楽に朝の挨拶を口にする。
私も少し微笑んで、窓辺から離れてゆなのほうに歩いて行った。
途中で、ついでに寝ぼけた君の写真を一枚。
こんな姿も今日で最後。
「おはよ、ゆな」
こんな些細なやり取りでさえ、もう今日で、最後だ。
※
「まゆさん、まゆさん。何してるのブログの更新? いいね!! どうせだから、目一杯時間かけて編集しよ! あ、でも。うわー、恥ずかし。いや私のことは見えてないんだけど、私の写真ばっかじゃん。折角だから、ゆあの写真もとっとけばよかったねー。まあ、いいや全部あげちゃお! 時間はたっぷりあるんだから」
「チェックアウト? 気にしない、気にしなーい。連泊しちゃえばいいでしょ、ほらフロントに電話電話。明日は月曜日だから空いてるって」
「まーゆーさーん、えっちしよ? どうせだし最後に思いっきり楽しもうよ? え? 気絶するくらいするからだめ? どうせ最期の日だからしっかり目覚めていたい? むむむー……だめじゃー、するんじゃー!」
「ふー、ご飯はもう旅館の中で済ませちゃいましょー、まだ旅館の温泉もちゃんと堪能してませんしー、私ここの海鮮気に入っちゃったしー」
「ねえ、まゆさん。これやろ? エステ、エステ。私やったことないんだ、ね、ね、いいでしょ? え? 私は見えないからできない? ……じゃあ、まゆさんの見とく!! やーるのー!!」
「ルームサービスでおやつも頼めるのか……、こんなのもったいなくて普段は絶対やんないよね……ちら」
「ねーねー、ブログみてみよーよ。反応来たかなー。いざあげると気になるねー」
「夕焼けきれー、部屋がベストスポットでよかったね。ね、写真撮ろ?」
「夕ご飯、おいしーね。昨日とはまた違った味わい、うふふ」
「ね、まゆ。ごめん、朝したのにもっかいしたちゃくなっちゃった。お願い? してほしいの、ね? 一生のお願いだから」
「ねえ、まゆ。眠いよ。もう、このまま眠っちゃお?」
※
夜中にふと目を開けた。まあ、元から寝入ってはいなかったんだけど。
ゆっくりと身体を起こすと隣で生まれたままの姿のゆなが、静かに寝息を立てている。
暗闇の中、視界を回して、部屋に据え置きのデジタル時計をちらりと見た。
時間は夜の十一時を過ぎたところだ。
ゆなを起こさないように、そっと布団から這い出て、布団の脇に脱ぎ散らかした浴衣と帯を一つずつ取って羽織っていく。
袖に腕を通すのもゆっくりと、衣擦れの音さえ響かないように。
ゆっくゆっくりと、帯を結び終えて、私はふうと息を吐いて旅館の下駄を履いて部屋を出た。
下着もつけていないけど、まあいいか。
どうせ、誰にも知られない夜の独り歩きなのだから。
明かりがついているけれど、誰もいない旅館の廊下を独り進む。
からん、ころん、と下駄が木をこする音を鳴らしながら。
まだぎりぎり人がいるエントランスを抜けて、その先へ。旅館の従業員さんが、こんな夜中に外に向かう私を不思議そうに見た。だけど軽く会釈をしてやり過ごす。
からん、ころん、と下駄が鳴る。
足を前に進ませるたび、小気味よく、軽快に、でもどことなく何かを引きずるような。
そんな音を鳴らしながら。
からん、ころん、と歩いていく。
自動ドアを抜けると、夜の風がごうっと私の頬を撫でていく。さすがにこの時間はちょっと肌寒い。
もう一枚、羽織ってくればよかったかなあ、なんて考えながら、でもそのまま私は、からん、ころんと歩いていく。
まあ、身体が冷えるほど長い時間いるわけでもないだろうし、大丈夫だ。
そうやって、人も少ない夜道を歩いてく。
からん、ころん、からん、ころんってアスファルトを進みながら。
浴衣と下駄で、たった独り夜の道を歩いてく。
時々、街路に照らされながら、海への道を、からん、ころん、と進み続ける。
海辺の坂を登って、土の階段を越えてその先へ。
そのころには下駄から鳴る音は、ざく、ざくって土を踏みしめる音に変わっていた。
進む、進む、ざく、ざく。
たまに石が下駄に当たって、からんと音がなる。
ざく、ざく、からん。
ざく、ざく、からん。
ざく、からん。ざく、ざく、ざく、ざく。
そうして歩いてたら、階段を上りきって高台の公園にやってきた。
海の傍の高台の公園、崖の下から波が岩にぶつかる音が、よく聞こえてくる。
ざく、ざく。ざざーん。ざく、ざく、ざざーん。
公園の端には木でできた柵が置いてあって、危ないから入っちゃいけないよって子ども向けの看板が立っていた。
私はその柵の前で立ち止まって。
両手を添えて、ぴょんってとんだ。
体育は2が恒例の私だったけど、幸い、難なく飛び越えられて、柵の向こう側に着地する。
下駄だから少しバランスが崩れかけたけど、どうにか立てて、うむうむ10点と頭の中で自分を褒めてあげる。どうせ最後だし、判定もあまあまなのだ。
そんなふうにほくそ笑みながら、そっと地面を踏みしめる。
あと、五歩も前に進んでしまえば、そこはきっと崖の向こう。
あと、もうちょっとだ。
長く息を吐いて、目を閉じた。
波の音がする。
ざざーん。ざざーん。ざざーん。
ざざーん。さく、さく。
ざざーん。さく。さく。ざざーん。
さく、さく。
ざざーん。
さく。さく。
ざざーん。
私は少しずつ足を前に出して、ぎりぎりかなってところで腰を下ろした。
とがった岩が、ちょっとお尻に引っ掛かるのが痛いけど、まあ我慢。そのまま崖の外に足をぷらぷらさせて、待ち人が来るのを待つ。あんまり足を揺らしてると、下駄がすっぽ抜けるかもしれないけど、気にしない。
さく。さく。
ざざーん。
ぎいっと背後で音が鳴って、その後に、ざって誰かが柵を越えて地面に着地した。
うーん、私よりやっぱり着地の音が綺麗な気がする。見てないから分からないけど。
その音は、私の隣まで来ると、同じように崖に腰掛けて、隣で一緒に足をぷらぷらしはじめた。
隣を見ると、暗闇の中、不貞腐れた顔のゆながいた。
思わず笑顔が綻んでしまう。
「何やってんの、まゆさん」
「んー? 夜の散歩」
「こんなとこまで?」
「うん、風が気持ちよさそうだったから」
ごうっと風が吹いた。後ろから押すような風が海に向かって吹いていく。まるで私の背中を海に向かって押すみたいな風だった。
「カメラ持ってこなくてよかったの、綺麗じゃん」
「うーん、そだね。でも今は持ってても意味ないし」
海の向こうは黒々としてて、街の明かりがほんの少しだけそこを照らしてる。
だけどそれが余計に、黒い海がずっとずっとどこまでも広がってるんだと教えてくれる。
明るさがあるからこそ、途方もない暗さがよくわかったんだ。
「でも、月が綺麗だよ。旅館に取りに帰ろうよ」
「えー、いいよ」
「ねえ、帰ろうよ」
「やーだ」
そのやり取りがなんだか楽しくて、くすくす笑ったけど、あなたは不貞腐れた顔のままだった。
楽しくてふと空を見上げてみたけど、月なんてどこにも浮かんでなかった。あるのは街灯と遠くに見える町の灯りだけ。
「ねえ、帰ろ」
「ダメだよ、ゆな」
「なんで」
「だって、今日だから」
そう今日が、私の最期の日なのだから。
「ごめん、私ずっと勘違いしてたんだけど。まゆの寿命、明日だから。今日じゃないよ」
「ダーウト。ゆなの嘘はすぐ顔に出るから。それにそんな大事なこと本当だったら、もっと早くから言ってるでしょ?」
「…………忘れてたの」
あなたは不機嫌そうな顔で、そう付け足した。暗いから顔色は見えないけれど、真っ赤になってるのかもしれない。私は相変わらずくすくす笑いが止まらない。
「ゆな、今日さー、ずーっと私をホテルから出ないようにしてたよね。普段はあんまり言わないわがまま言ったり、すごい空元気で色々誘ってみたり、とにかくいっぱい時間使わせよーって感じで面白かった」
「……なんだ、ばれてたんだ」
そう、この子はずっと。今日、ずっと。
「うん。あ、あとねえっちの時もすごい必死でびっくりしちゃった。自分が上になるのもこだわってたよねー、やっぱり本当に私を気絶させたかったの?」
「……だって、それが一番穏便に済むし」
「あはは、ちょっと乱暴すぎて痛かったぞう。あーいう時は優しくしないと気持ちよくなんないよ」
「……それは、ごめん」
私の軽口にあなたはちょっと落ち込んだように顔を伏せた。かわいいなあと笑いながら、私はそっとその肩にもたれかかる。
「ずっと、私が死なないようにしてくれてたんだね」
あなたは何も応えない。
「ありがとう、そう想ってくれただけで、幸せだったよ」
「 」
だって、ずっと、ずっと、私が死んだらみんな喜ぶって想ってた。
「今日がね、間違いなく、私の人生で一番の日だったよ。本当に最後で最高の日だったよ」
「 」
誰も彼も惜しみはしないし、それが自分にできる一番の罪滅ぼしだって想ってた。
「ゆながね、やってくれてることが全部嬉しいんだ。こんな私のちっぽけな人生なのに、あなたが必死に繋ぎ止めようとしてくれたことが、それがなにより嬉しかった。たった独りでも、私が生きててよかったんだって、想ってくれる人がいることが嬉しかったよ」
「 」
だから、初めてゆなが私が死ぬっていった時、上手く驚かなかった。驚けなかった。ああ、そうだよね、って想ってしまったから。私なんか死んで当然だよねって想ってしまったから。
「ありがとう、ありがとうね。ゆな。本当に、本当に、私の所に来てくれた死神が、あなたでよかった」
でも、あなたは、ゆなだけは。そうじゃないって言ってくれた。
私の幸せを考えてくれた、私のしたいことをさせてくれた。
私を必要としてくれた。
私の言葉で笑ってくれた。
私と一緒に旅をしてくれた。
私を好きになってくれた。
「本当に幸せな一週間だったよ、ありがとう」
そういって、あなたの頬に優しくそっと口づけた。
触れた頬は濡れていて、少しだけしょっぱい味がした。
擦り合う肩は震えてる。
でも、ゆなは少しするとこっちを振り返って、私をぎっと睨んだ。
とっても、とっても怒った表情で。
それすら愛おしいと想ってしまう私はきっと、もう、どうしようもないんだろう。
「だったら……、だったら生きてよ!!
死なないでよ!!
まゆは生まれてきてよかったんだよ!!
誰に嫌なこと言われたって気にしなくていいんだよ!!
この一週間は楽しかったでしょ!!
今日は幸せだったんでしょ!!
だったら生きてよ!!??
もう嫌なことなんてないんだよ!!
生きてよ!! だから生きてよ!!」
ああ、ごめんね。
どうしよう、嬉しいよ。
ほんと頭おかしいんだけどさ、私、今、どうしようもなく嬉しいよ。
こんな私の最期に、泣いてくれる人がいる。
こんな私の終わりを引き留めてくれる人がいる。
それがどうしようもなく、嬉しくて。
私もちょっとだけ悲しくなった。
でも、でもね。
「ダメなの」
あなたの顔が、涙に歪む。
「だって、この一週間が過ぎたらゆなは、いなくなっちゃうでしょ?」
「だからダメなの」
「それにね、この一週間はすごく私らしく生きられたけど。結局、それも期間限定なの」
「終わるって分かってるから、無茶できた。もう終わりだって決まってたから、後先考えずに、仕事も辞めれて、やりたいことができて、普段言えないことも言えてたんだよ」
「きっと、いつもの私なら、旅になんてでれなかった。写真だってずっと忘れたまんまで、ゆあにあんなことも言えなかった」
「……それに普段の私ならきっとね、ゆなが好きだなんてずっとずっと、言えなかったと想う。また今度、また今度って、想って、ずっと、きっといつか別れるまで、言えないまんまだったと想うんだ」
「今日を越えたらね、きっといつもの私になっちゃうの。自分のやりたいこともわからない、役にも立たない、言いたいことも言えない、そんなどうしようもない私に戻っちゃうの」
「だから、ダメなの。今日で終わりにしないと、ここで終わりにしないと。自分が好きな私のまま終わりたいの」
「ねえ、ゆな。私の死に方って自殺なんでしょ?」
「この前、他の人の死に方を教えてもらってる時になんとなく気づいちゃった」
「でも、なんというかね。それでしょうがないっていうか、それが自然だなって想ったの」
「最初は正直、マンガみたいにさ。なんだか途方もない力が働いて、私の意思とは関係なく死ぬのかなって想ってた」
「突発的にその人が普段しないような事したり、正気を失ったりして死んじゃうとか、そんなのイメージしてたんだけどね」
「でも、違ったんだ。私は今、私の一生と、この一週間の地続きの先でね、ちゃんと自分の意思で死のうって想ってるんだ」
「今日、目が覚めたときね、私は誰に言われるまでもなく、私の意思で、今日、死ぬんだなって実感できた」
「でもね、さっきはああいったけど、あんまり悲観してるわけじゃないよ」
「だって、今日生き残っちゃったらきっと酷いけど、でも今日終わる分にはきっと満足なんだよ」
「ああ、ここが終わりでいいなって。ここが終点でよかったって本当に、心からそう想えたんだ」
「ゆなと旅ができた。最後にやりたいことができた。君を形に遺せた。君とたくさんおしゃべり出来た」
「こんな私だけど好きって言ってもらえた。こんな私なのに、知らない女の子の命を助けられた」
「ゆなとできた旅が、この一週間が。本当に、本当に、楽しかったんだ。ゆなが一週間前に言ってくれた通り、本当に最期の最高の一週間にできたんだよ」
「ありがとう。それだけでもう、私は満足なんだよ。これ以上望んだらバチが当たっちゃうくらいにさ」
「だからね、ダメ、ダメなの。今日を過ぎたらきっと、ゆなに看取ってもらえなくなっちゃう。だって、死神は仕事が終わったら次の場所に行っちゃうんでしょ。だとしたら、それは嫌だよ。だって、私、また独りで置いてけぼりになっちゃうよ」
「だからね、ここが終点でいいと思うの」
「ここが一番、納得して死ねるとこなの。ここならいいの、ここでいいの、……ううん、違うかな」
「ここがいいの、ここで死にたいの」
「酷いこと言って、ごめんね? でも今ゆなが泣いてくれるのが、凄く嬉しいの。ごめんね、わがままで、ひどいやつで。でもね、あなたに看取ってもらえるのが、どうしようもなく嬉しいの。こんな私がいなくなって、他の誰が泣かなくても、あなたは泣いてくれるから、それがたまらなくうれしいの。ごめんね、ごめんね」
「でも酷いけど、ダメなの。ゆながどこかに行くのを見届けるとか、その後、独り取り残されるのはね、それだけは、どうしても耐えられそうにないの」
「だから、死なせて?」
「今、ここで終わらせて?」
「ここが終わりなら、きっと幸せだから」
「ゆな言ってくれたでしょ? どうせ最期なんだから思いっきり幸せになろうって、なれたよ。ちゃんとなれたよ、幸せに」
「今まで生きてて、こんなに幸せなことなんてなかった。私、生きててよかった。今までの人生に意味なんて一つもなくたって、この一週間だけで意味があるの。この一週間のために、きっと私の人生の全部はあったの。ゆなと過ごすために、私の人生はきっとあったの」
「ありがとう、ありがとう」
「わたしのゆな、わたしの死神」
「ありがとう。あなたが居たから、苦しいだけだった私の終わりが、素敵なものになれたんだよ。君が居たから、私はきっと今、こうやって笑えてるんだよ」
「あなたが居てくれて本当によかった」
私はそう告げた。
ゆなは微笑んだ。
「わかった、いいよ」
それから。
「じゃあ、一緒に死のっか」
呆ける私に、あなたはちょっと意地悪な笑みでそう告げた。
※
いつも、といっても大人になってからの話じゃなくて、子どもの頃のいつもの朝。
今日何をするんだっけ、明日何をしなきゃいけないんだったけ。
そんなことも忘れた、何もない朝。
聞こえるのは小さなの寝息と、少し遠くの海の音。
かもめの音、波の音。
不思議と頭はぼーっとしてる。
ぼーっとしたまま、そっと布団を這い出してカバンからカメラを撮りだした。
そのまま、窓を開けてふっと息を吸うと、ここちいい風が波の音に紛れてやってくる。
連射モードを切って一枚だけ、山の向こうからの朝焼けと、それを反射する海を撮った。
これでもう、朝の写真を撮ることは、二度とない。
私の人生は今日、終着点なのだから。
夜、眠りに落ちることも、二度とない。
朝、目を覚ますことも、二度とない。
今日が最期の日。
何枚も撮りたくはなかった、一枚で十分。
それより今は、窓辺に座ってただこの音を聴いていたい。
きっともう、こんな気分で音を聴くことも二度とないから。
波のさざめきがする。
鳥の声がする。
風の音がする。
部屋の中からもぞもぞと布団のこすれる音がする。
「……ふぁ……、まゆさん。おはよー、ございます」
少し寝ぼけた私の最期の見届け人は、お気楽に朝の挨拶を口にする。
私も少し微笑んで、窓辺から離れてゆなのほうに歩いて行った。
途中で、ついでに寝ぼけた君の写真を一枚。
こんな姿も今日で最後。
「おはよ、ゆな」
こんな些細なやり取りでさえ、もう今日で、最後だ。
※
「まゆさん、まゆさん。何してるのブログの更新? いいね!! どうせだから、目一杯時間かけて編集しよ! あ、でも。うわー、恥ずかし。いや私のことは見えてないんだけど、私の写真ばっかじゃん。折角だから、ゆあの写真もとっとけばよかったねー。まあ、いいや全部あげちゃお! 時間はたっぷりあるんだから」
「チェックアウト? 気にしない、気にしなーい。連泊しちゃえばいいでしょ、ほらフロントに電話電話。明日は月曜日だから空いてるって」
「まーゆーさーん、えっちしよ? どうせだし最後に思いっきり楽しもうよ? え? 気絶するくらいするからだめ? どうせ最期の日だからしっかり目覚めていたい? むむむー……だめじゃー、するんじゃー!」
「ふー、ご飯はもう旅館の中で済ませちゃいましょー、まだ旅館の温泉もちゃんと堪能してませんしー、私ここの海鮮気に入っちゃったしー」
「ねえ、まゆさん。これやろ? エステ、エステ。私やったことないんだ、ね、ね、いいでしょ? え? 私は見えないからできない? ……じゃあ、まゆさんの見とく!! やーるのー!!」
「ルームサービスでおやつも頼めるのか……、こんなのもったいなくて普段は絶対やんないよね……ちら」
「ねーねー、ブログみてみよーよ。反応来たかなー。いざあげると気になるねー」
「夕焼けきれー、部屋がベストスポットでよかったね。ね、写真撮ろ?」
「夕ご飯、おいしーね。昨日とはまた違った味わい、うふふ」
「ね、まゆ。ごめん、朝したのにもっかいしたちゃくなっちゃった。お願い? してほしいの、ね? 一生のお願いだから」
「ねえ、まゆ。眠いよ。もう、このまま眠っちゃお?」
※
夜中にふと目を開けた。まあ、元から寝入ってはいなかったんだけど。
ゆっくりと身体を起こすと隣で生まれたままの姿のゆなが、静かに寝息を立てている。
暗闇の中、視界を回して、部屋に据え置きのデジタル時計をちらりと見た。
時間は夜の十一時を過ぎたところだ。
ゆなを起こさないように、そっと布団から這い出て、布団の脇に脱ぎ散らかした浴衣と帯を一つずつ取って羽織っていく。
袖に腕を通すのもゆっくりと、衣擦れの音さえ響かないように。
ゆっくゆっくりと、帯を結び終えて、私はふうと息を吐いて旅館の下駄を履いて部屋を出た。
下着もつけていないけど、まあいいか。
どうせ、誰にも知られない夜の独り歩きなのだから。
明かりがついているけれど、誰もいない旅館の廊下を独り進む。
からん、ころん、と下駄が木をこする音を鳴らしながら。
まだぎりぎり人がいるエントランスを抜けて、その先へ。旅館の従業員さんが、こんな夜中に外に向かう私を不思議そうに見た。だけど軽く会釈をしてやり過ごす。
からん、ころん、と下駄が鳴る。
足を前に進ませるたび、小気味よく、軽快に、でもどことなく何かを引きずるような。
そんな音を鳴らしながら。
からん、ころん、と歩いていく。
自動ドアを抜けると、夜の風がごうっと私の頬を撫でていく。さすがにこの時間はちょっと肌寒い。
もう一枚、羽織ってくればよかったかなあ、なんて考えながら、でもそのまま私は、からん、ころんと歩いていく。
まあ、身体が冷えるほど長い時間いるわけでもないだろうし、大丈夫だ。
そうやって、人も少ない夜道を歩いてく。
からん、ころん、からん、ころんってアスファルトを進みながら。
浴衣と下駄で、たった独り夜の道を歩いてく。
時々、街路に照らされながら、海への道を、からん、ころん、と進み続ける。
海辺の坂を登って、土の階段を越えてその先へ。
そのころには下駄から鳴る音は、ざく、ざくって土を踏みしめる音に変わっていた。
進む、進む、ざく、ざく。
たまに石が下駄に当たって、からんと音がなる。
ざく、ざく、からん。
ざく、ざく、からん。
ざく、からん。ざく、ざく、ざく、ざく。
そうして歩いてたら、階段を上りきって高台の公園にやってきた。
海の傍の高台の公園、崖の下から波が岩にぶつかる音が、よく聞こえてくる。
ざく、ざく。ざざーん。ざく、ざく、ざざーん。
公園の端には木でできた柵が置いてあって、危ないから入っちゃいけないよって子ども向けの看板が立っていた。
私はその柵の前で立ち止まって。
両手を添えて、ぴょんってとんだ。
体育は2が恒例の私だったけど、幸い、難なく飛び越えられて、柵の向こう側に着地する。
下駄だから少しバランスが崩れかけたけど、どうにか立てて、うむうむ10点と頭の中で自分を褒めてあげる。どうせ最後だし、判定もあまあまなのだ。
そんなふうにほくそ笑みながら、そっと地面を踏みしめる。
あと、五歩も前に進んでしまえば、そこはきっと崖の向こう。
あと、もうちょっとだ。
長く息を吐いて、目を閉じた。
波の音がする。
ざざーん。ざざーん。ざざーん。
ざざーん。さく、さく。
ざざーん。さく。さく。ざざーん。
さく、さく。
ざざーん。
さく。さく。
ざざーん。
私は少しずつ足を前に出して、ぎりぎりかなってところで腰を下ろした。
とがった岩が、ちょっとお尻に引っ掛かるのが痛いけど、まあ我慢。そのまま崖の外に足をぷらぷらさせて、待ち人が来るのを待つ。あんまり足を揺らしてると、下駄がすっぽ抜けるかもしれないけど、気にしない。
さく。さく。
ざざーん。
ぎいっと背後で音が鳴って、その後に、ざって誰かが柵を越えて地面に着地した。
うーん、私よりやっぱり着地の音が綺麗な気がする。見てないから分からないけど。
その音は、私の隣まで来ると、同じように崖に腰掛けて、隣で一緒に足をぷらぷらしはじめた。
隣を見ると、暗闇の中、不貞腐れた顔のゆながいた。
思わず笑顔が綻んでしまう。
「何やってんの、まゆさん」
「んー? 夜の散歩」
「こんなとこまで?」
「うん、風が気持ちよさそうだったから」
ごうっと風が吹いた。後ろから押すような風が海に向かって吹いていく。まるで私の背中を海に向かって押すみたいな風だった。
「カメラ持ってこなくてよかったの、綺麗じゃん」
「うーん、そだね。でも今は持ってても意味ないし」
海の向こうは黒々としてて、街の明かりがほんの少しだけそこを照らしてる。
だけどそれが余計に、黒い海がずっとずっとどこまでも広がってるんだと教えてくれる。
明るさがあるからこそ、途方もない暗さがよくわかったんだ。
「でも、月が綺麗だよ。旅館に取りに帰ろうよ」
「えー、いいよ」
「ねえ、帰ろうよ」
「やーだ」
そのやり取りがなんだか楽しくて、くすくす笑ったけど、あなたは不貞腐れた顔のままだった。
楽しくてふと空を見上げてみたけど、月なんてどこにも浮かんでなかった。あるのは街灯と遠くに見える町の灯りだけ。
「ねえ、帰ろ」
「ダメだよ、ゆな」
「なんで」
「だって、今日だから」
そう今日が、私の最期の日なのだから。
「ごめん、私ずっと勘違いしてたんだけど。まゆの寿命、明日だから。今日じゃないよ」
「ダーウト。ゆなの嘘はすぐ顔に出るから。それにそんな大事なこと本当だったら、もっと早くから言ってるでしょ?」
「…………忘れてたの」
あなたは不機嫌そうな顔で、そう付け足した。暗いから顔色は見えないけれど、真っ赤になってるのかもしれない。私は相変わらずくすくす笑いが止まらない。
「ゆな、今日さー、ずーっと私をホテルから出ないようにしてたよね。普段はあんまり言わないわがまま言ったり、すごい空元気で色々誘ってみたり、とにかくいっぱい時間使わせよーって感じで面白かった」
「……なんだ、ばれてたんだ」
そう、この子はずっと。今日、ずっと。
「うん。あ、あとねえっちの時もすごい必死でびっくりしちゃった。自分が上になるのもこだわってたよねー、やっぱり本当に私を気絶させたかったの?」
「……だって、それが一番穏便に済むし」
「あはは、ちょっと乱暴すぎて痛かったぞう。あーいう時は優しくしないと気持ちよくなんないよ」
「……それは、ごめん」
私の軽口にあなたはちょっと落ち込んだように顔を伏せた。かわいいなあと笑いながら、私はそっとその肩にもたれかかる。
「ずっと、私が死なないようにしてくれてたんだね」
あなたは何も応えない。
「ありがとう、そう想ってくれただけで、幸せだったよ」
「 」
だって、ずっと、ずっと、私が死んだらみんな喜ぶって想ってた。
「今日がね、間違いなく、私の人生で一番の日だったよ。本当に最後で最高の日だったよ」
「 」
誰も彼も惜しみはしないし、それが自分にできる一番の罪滅ぼしだって想ってた。
「ゆながね、やってくれてることが全部嬉しいんだ。こんな私のちっぽけな人生なのに、あなたが必死に繋ぎ止めようとしてくれたことが、それがなにより嬉しかった。たった独りでも、私が生きててよかったんだって、想ってくれる人がいることが嬉しかったよ」
「 」
だから、初めてゆなが私が死ぬっていった時、上手く驚かなかった。驚けなかった。ああ、そうだよね、って想ってしまったから。私なんか死んで当然だよねって想ってしまったから。
「ありがとう、ありがとうね。ゆな。本当に、本当に、私の所に来てくれた死神が、あなたでよかった」
でも、あなたは、ゆなだけは。そうじゃないって言ってくれた。
私の幸せを考えてくれた、私のしたいことをさせてくれた。
私を必要としてくれた。
私の言葉で笑ってくれた。
私と一緒に旅をしてくれた。
私を好きになってくれた。
「本当に幸せな一週間だったよ、ありがとう」
そういって、あなたの頬に優しくそっと口づけた。
触れた頬は濡れていて、少しだけしょっぱい味がした。
擦り合う肩は震えてる。
でも、ゆなは少しするとこっちを振り返って、私をぎっと睨んだ。
とっても、とっても怒った表情で。
それすら愛おしいと想ってしまう私はきっと、もう、どうしようもないんだろう。
「だったら……、だったら生きてよ!!
死なないでよ!!
まゆは生まれてきてよかったんだよ!!
誰に嫌なこと言われたって気にしなくていいんだよ!!
この一週間は楽しかったでしょ!!
今日は幸せだったんでしょ!!
だったら生きてよ!!??
もう嫌なことなんてないんだよ!!
生きてよ!! だから生きてよ!!」
ああ、ごめんね。
どうしよう、嬉しいよ。
ほんと頭おかしいんだけどさ、私、今、どうしようもなく嬉しいよ。
こんな私の最期に、泣いてくれる人がいる。
こんな私の終わりを引き留めてくれる人がいる。
それがどうしようもなく、嬉しくて。
私もちょっとだけ悲しくなった。
でも、でもね。
「ダメなの」
あなたの顔が、涙に歪む。
「だって、この一週間が過ぎたらゆなは、いなくなっちゃうでしょ?」
「だからダメなの」
「それにね、この一週間はすごく私らしく生きられたけど。結局、それも期間限定なの」
「終わるって分かってるから、無茶できた。もう終わりだって決まってたから、後先考えずに、仕事も辞めれて、やりたいことができて、普段言えないことも言えてたんだよ」
「きっと、いつもの私なら、旅になんてでれなかった。写真だってずっと忘れたまんまで、ゆあにあんなことも言えなかった」
「……それに普段の私ならきっとね、ゆなが好きだなんてずっとずっと、言えなかったと想う。また今度、また今度って、想って、ずっと、きっといつか別れるまで、言えないまんまだったと想うんだ」
「今日を越えたらね、きっといつもの私になっちゃうの。自分のやりたいこともわからない、役にも立たない、言いたいことも言えない、そんなどうしようもない私に戻っちゃうの」
「だから、ダメなの。今日で終わりにしないと、ここで終わりにしないと。自分が好きな私のまま終わりたいの」
「ねえ、ゆな。私の死に方って自殺なんでしょ?」
「この前、他の人の死に方を教えてもらってる時になんとなく気づいちゃった」
「でも、なんというかね。それでしょうがないっていうか、それが自然だなって想ったの」
「最初は正直、マンガみたいにさ。なんだか途方もない力が働いて、私の意思とは関係なく死ぬのかなって想ってた」
「突発的にその人が普段しないような事したり、正気を失ったりして死んじゃうとか、そんなのイメージしてたんだけどね」
「でも、違ったんだ。私は今、私の一生と、この一週間の地続きの先でね、ちゃんと自分の意思で死のうって想ってるんだ」
「今日、目が覚めたときね、私は誰に言われるまでもなく、私の意思で、今日、死ぬんだなって実感できた」
「でもね、さっきはああいったけど、あんまり悲観してるわけじゃないよ」
「だって、今日生き残っちゃったらきっと酷いけど、でも今日終わる分にはきっと満足なんだよ」
「ああ、ここが終わりでいいなって。ここが終点でよかったって本当に、心からそう想えたんだ」
「ゆなと旅ができた。最後にやりたいことができた。君を形に遺せた。君とたくさんおしゃべり出来た」
「こんな私だけど好きって言ってもらえた。こんな私なのに、知らない女の子の命を助けられた」
「ゆなとできた旅が、この一週間が。本当に、本当に、楽しかったんだ。ゆなが一週間前に言ってくれた通り、本当に最期の最高の一週間にできたんだよ」
「ありがとう。それだけでもう、私は満足なんだよ。これ以上望んだらバチが当たっちゃうくらいにさ」
「だからね、ダメ、ダメなの。今日を過ぎたらきっと、ゆなに看取ってもらえなくなっちゃう。だって、死神は仕事が終わったら次の場所に行っちゃうんでしょ。だとしたら、それは嫌だよ。だって、私、また独りで置いてけぼりになっちゃうよ」
「だからね、ここが終点でいいと思うの」
「ここが一番、納得して死ねるとこなの。ここならいいの、ここでいいの、……ううん、違うかな」
「ここがいいの、ここで死にたいの」
「酷いこと言って、ごめんね? でも今ゆなが泣いてくれるのが、凄く嬉しいの。ごめんね、わがままで、ひどいやつで。でもね、あなたに看取ってもらえるのが、どうしようもなく嬉しいの。こんな私がいなくなって、他の誰が泣かなくても、あなたは泣いてくれるから、それがたまらなくうれしいの。ごめんね、ごめんね」
「でも酷いけど、ダメなの。ゆながどこかに行くのを見届けるとか、その後、独り取り残されるのはね、それだけは、どうしても耐えられそうにないの」
「だから、死なせて?」
「今、ここで終わらせて?」
「ここが終わりなら、きっと幸せだから」
「ゆな言ってくれたでしょ? どうせ最期なんだから思いっきり幸せになろうって、なれたよ。ちゃんとなれたよ、幸せに」
「今まで生きてて、こんなに幸せなことなんてなかった。私、生きててよかった。今までの人生に意味なんて一つもなくたって、この一週間だけで意味があるの。この一週間のために、きっと私の人生の全部はあったの。ゆなと過ごすために、私の人生はきっとあったの」
「ありがとう、ありがとう」
「わたしのゆな、わたしの死神」
「ありがとう。あなたが居たから、苦しいだけだった私の終わりが、素敵なものになれたんだよ。君が居たから、私はきっと今、こうやって笑えてるんだよ」
「あなたが居てくれて本当によかった」
私はそう告げた。
ゆなは微笑んだ。
「わかった、いいよ」
それから。
「じゃあ、一緒に死のっか」
呆ける私に、あなたはちょっと意地悪な笑みでそう告げた。
※
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