殺し屋さんと自殺少女

キノハタ

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伝えることと受け取ること

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 「亜衣、朝だよ起きて」

 「・・・・はあい」

 「水のんで着替えたら集合ね」

 「・・・はい、あれ綿貫さんは?」

 「あの後、帰ったみたい。書置きがあった」

 「・・・そーなんだ」

 「じゃ、先行ってるよ」

 「はあい」

 「・・・・・」

 --------

 「ひっひっひ・・・」

 「おっけー、今日はここら辺にしとく?」

 「はい。今日はあんまり調子よくないなあ・・・」

 「はは、そんな時もある」

 「うぬぬ・・・」

 「はい、へこまない。いつも頑張ってるから、そんな時もある。シャワー浴びてきな」

 「はーい・・・」

 --------

 「----------」

 「----------」

 「「いただきます」」

 ---------

 「「ごちそうさまでした」」

 「今日、洗い物当番、私でしたっけ?」

 「うん、そだね」

 「じゃ、やってきます。洗濯物お願いしますー」

 「りょーかい」

 -----------

 「終わりましたよー、洗濯物手伝います」

 「ありがとう、そっちたたんでくれるとありがたいかな」

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 「ねえ、亜衣」

 「はい、なんでしょう」

 「この後、話があるんだけどいい?」

 「・・・・・・はい」

 ----------

 「それで、話ってなんでしょう?」

 「うん・・・・ちょっと待ってね、整理してるから」

 「・・・・・」

 「・・・・・ふう」

 「・・・こころさん。こころさんが一生懸命、私に何かを伝えようとしてくれてるのはわかります。・・・だから辛かったら、無理しないでくださいね?」

 「うん。・・・でも、大丈夫。僕が言いたいんだ」

 「はい・・・」

 「よし、まとまった」

 「・・・・」

 「まず、順を追っていこうか」

 「・・・」

 「僕は君の両親と同級生を殺した。ごめん。許してほしいわけじゃない、ただ一度も謝ったことがなかったから。言っておきたかった。ごめんね」

 「・・・」

 「最初にカウンセラーだって言ってだましたことも、ごめん」

 「・・・」

 「その後、殺してほしかったのに。殺してあげられなくて、ごめん」

 「・・・」

 「引き取ることを勝手に決めて、ごめん。余裕がない時に辛いことを伝えて、ごめん。僕が実行犯なのに、辛いことの原因は僕にもあったのに、偉そうに立ち直り方とか語って、ごめん」

 「・・・」

 「きっと、君のことをたくさん、たくさん傷つけた。ごめんね」

 「・・・」

 「それから、ありがとう」

 「・・・」

 「実はあの時、久しぶりにカウンセラーらしいことができてうれしかった。ありがとう。僕が無理矢理、生かしたみたいだったのに、ちゃんと生きてくれて、ありがとう」

 「・・・」

 「ひどい奴なのに僕を拒絶しないでくれて、ありがとう。僕の生活に付き合ってくれて、ありがとう。立ち直ってくれて、ありがとう。君を見ていて、僕もなんとか前を向こうって気になれた」

 「・・・」

 「おばあさんを受け入れてくれて、ありがとう。僕や綿貫なんかともちゃんと向き合ってくれて、ありがとう」

 「・・・」

 「それから・・・僕なんかのために泣いてくれて、ありがとう。一緒に幸せになりたいって言ってくれた時は、本当に、本当にうれしかったんだ」

 「・・・・」

 「それから、ごはんのことも、生活のことも、一緒にいった川も山も海も、いろんなことが楽しかった。ありがとう」

 「・・・・」

 「僕が僕だと気づかせてくれて、ありがとう。誰でもない僕を認めてくれて、ありがとう」

 「・・・・」

 「愛してくれて、ありがとう」

 「・・・・」

 「僕の幸せを願って、そのためにたくさんのことをしてくれたよね。ありがとう」

 「・・・・」

 「亜衣、君がいてくれて本当に良かった」

 「・・・・」

 「ありがとう、こんな僕だけど、愛してる。僕も君の幸せのために、できることがしたい」

 「・・・・・」

 「こんな僕だけど、一緒に生きてほしいんだ」

 「・・・・・そんなの、ずるい」

 「・・・泣かないで」

 「だって、だって」

 「ごめんね」

 「ずるい、ずるいです。私はまだちゃんと言えてないのに。ずるいです。私はちゃんと伝えれてない。こころさんに、ごめんなさいも、ありがとうも、まだまだ伝え足りてないんです」

 「うん、ごめんね。それでも黙って聞いてくれたんだね、ありがとう」

 「はい、だから伝えます。今からだって伝えます」

 「うん」

 「ごめんなさい、わがままばかりでごめんなさい。私のために辛い思いをさせちゃって、ごめんなさい。苦しませちゃって、ごめんなさい。お母さんのことも、お父さんことも、クラスメイトのことも、ごめんなさい。私が悪かったの、ごめんなさい。私が弱かったの。ひどいことさせて、ごめんなさい」

 「・・・」

 「たくさん面倒をかけてごめんなさい。落ち込んだ私に一杯付き合わせて、ごめんなさい。無視して、ごめんなさい。こころさんも辛かったのに、ごめんなさい」

 「・・・」

 「傷つけて、ごめんなさい。殺してなんて言って、ごめんなさい。私のためにたくさん、たくさん時間をつかわせちゃって、ごめんなさい」

 「・・・」

 「それから、それから、まだきっと謝り足りないけど。・・・ありがとうございました」

 「・・・」

 「ずっと、話を聞いてくれて、ありがとうございました。ずっと誰にも言えなかったから、すごくうれしかった。誰かに伝えるだけで、こんなにほっとするんだって思えました。辛い時に一人にしないでくれて、ありがとうございました。夜中まで手を握ってもらったり、わがままばっかり言ったのに、一杯聞いてくれて、ありがとうございました」

 「・・・」

 「辛いことから守ってくれて、ありがとうございました。生活の面倒を見てくれて、ありがとうございました。おトイレの世話とかされたのは、今思うと恥ずかしいけれど、きっとあの時は本当にたくさん迷惑かけたのに、ずっと諦めないで一緒にいてくれて、ありがとうございました」

 「・・・」

 「たくさんのことを教えてくれて、ありがとうございました。ご飯も、運動も、読書も、お祈りも、心と体を強くする方法を、たくさんたくさん、教えてくれて、ありがとうございました」

 「・・・・」

 「犠牲になった人たちとの向き合い方を教えてくれて、ありがとうございました。へぼへぼな私なのに、ずっと一緒に手を引いてくれてありがとうございました。こころさんに励まされなかったら、きっと運動も、他のこともこんなに続かなかったと思います」

 「・・・・」

 「そう言った積み重ねがあったから、おばあちゃんともちゃんと向き合えたんだと思います。ありがとうございました。こんな私なのに、ずっとずっと見守ってくれて、ありがとうございました」

 「・・・・」

 「それと、こんな私を生かしてくれて、ありがとうございました。こころさんがいたから、今日、ちゃんと生きてます」

 「・・・・・」

 「最近、ようやくお母さんのこととか、思い出しても平気になったんです。ちょっとあったかい気持ちになるくらいで、ありがとうございました」

 「・・・・・」

 「あと、へへ、私も一緒に幸せになろうって言ってくれた時、すっごいうれしかったんです。こんな私だけど、こころさんとなら自分で自分を幸せにできる気がするんです」

 「・・・・・」

 「こころさんの幸せのためにできることをしようって、最初は思いつきだったんです。でも、よくよく考えたら、それって私が最初にお母さんからもらった愛そのものだったんです。こころさんと一緒にいたから、そんなことにも気づけました。で、気付いたら、あなたが幸せそうだと、私も幸せになって。ああ、これが愛だって、ずっとずっと前に教えてもらってたことに、ここまで歩いてようやく気が付いたんです」

 「・・・・・」

 「ねえ、こころさん。愛してます。本当に本当に、何度言ったって足りないんですけど、愛します。こんな私ですが、よろしくお願いしますね?」

 「・・・・・・うん」

 「あ、あと、先に謝っておきます。きっとこれからもいっぱい迷惑かけると思うので、ごめんなさい!お金のことも、学校に行ったら、きっとそのことでも。いっぱい、いっぱい、迷惑かけると思います。ごめんなさい。それから、こんな私と一緒にいてくれるって言ってくれたの、とっても嬉しかったです。ありがとうございます」

 「・・・・・・・・」

 「ちゃんと伝えてくれて、ありがとうございました。あと聞いてくれて、ありがとうございました。これからも、どんどんお話しましょう。きっと、きっと伝えなきゃいけないことはまだまだいっぱいあるんですから!」

 「うん」

 「ふふふ、こころさんは意外と泣き虫ですよね」

 「亜衣に言われたくないなあ」

 「へへ、私が泣き虫なのは公然の事実なのでいいのです!」

 「そっか。ねえ、亜衣」

 「はい、なんでしょう、こころさん」

 「今度、一緒に行きたいところがあるんだ」

 「はい!行きましょう、楽しみですね」

 「うん、そうだね、楽しみだ」

 「では、私もやりたいことがあります!」

 「うん、なに?」

 「はい・・・・・・!」

 「・・・・どうしたの?腕広げて」

 「ハグ、ミー!」

 「うん・・・・こう?」

 「ふふふ、そうです。あ、こころさん、こっちに顔向けてください」

 「ん?なに・・・・・っっ?!」

 「ふふふ、ファーストキスあげちゃいました」

 「・・・・亜衣!?」

 「まあ、実は寝ている間に一度おでこにしているのですが。まあ、お口同士は初ですね、うんうん」

 「あのねえ、君・・・」

 「こころさんも一度、おでこにしてきているので、おあいこですね?ふふふ」

 「僕もちゃんとしたの初めてなのに・・・・」

 「あはははは!いいですね、とっても素敵です!可愛いですよ?こころさん」

 「僕、女じゃないって・・・」

 「女性じゃなくても、かわいいものはかわいいのです!誰より、何より、こころさんがかわいいのです!」

 「ははは、色々、大丈夫かな」

 「ふふふ、もう一緒に生きてっていっちゃったのです!返品なんてさせてあげません!私もこころさんを返すつもりなんて毛頭ありませんので覚悟してくださいね?」

 「うん、こんな僕だけど、よろしくね」

 「はい!私もよろしくお願いします!」



 ーーーーーーーーーー






 あなたがいてくれて本当に良かった







 ーーーーーーーーーーー



 夕食前に手を合わせる。

 ごめんなさい。

 お母さん。

 お父さん。

 クラスメイト。

 そして、たくさんの人たちの不幸せ。

 そしてきっと、そして何より、私が生きるために費やしてきたたくさんの命。

 それは獣であり、魚であり、植物であり、数えきれないほどのたくさんの命。

 私が今まで生きるのに犠牲になった命はどれくらいだろう?

 数千?数万?それとももっと多いのかな。

 分からない、数えきれないほどの膨大な命。

 それに報いれるような生き方を私はしているかな?

 わかんない、わかんないね。失われたものはもう何も教えてくれないから。

 だから、せめて目一杯生きましょう。費やしてきたものが無為に終わらないように。

 あなたたちのおかげで、今日、私は生きています。

 たくさんの命に笑ってお礼を言えるように。

 あなたたちのおかげで、私は今、幸せです。

 そう胸を張って、いつかどこかで言えるように。

 人生は続いていくのです。

 終わりを迎えるその日まで。

 いつか来るその日まで。

 だから精一杯、今を楽しんで生きていきましょう。

 たくさんたくさん、今日を積み重ねて歩いていきましょう。

 つまずいたって、大丈夫。

 きっとこの人となら、大丈夫。



 「ねえ、こころさん、明日は何をしましょうか?」

 「そうだね、じゃあーーー」



 きっと私たちなら、大丈夫。

 そう笑って、私たちは生きるのです。

 過去を越えて、未来を目指して、何よりきっと今日を踏みしめて。



 どうか、どうか。



 私たちが幸せになりますように。



 私はこころさんの隣に座ってゆっくりと眼を閉じました。


 
 私たちの声だけが、今、聞こえています。



 優しいこころと笑うあいだけがここにありました。
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