迷子の天使の話~王子妃セスから冒険者レノになった話 シリーズ第4弾~

氷室 裕

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42 天使を隠して

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 どうしてくれるんだよ・・
 俺がかつてセスを愛していたと知っていて、あんな姿を俺に見せてくるなんて!!
 あああー!本当に・・本当に・・!

 確かに、気が付かなかった俺も悪い・・
 部屋に入った時のセスの様子がおかしかった。ブランケットから顔を出さないし、今思えば身体を震わせていたようにも思う。

 だからと言って、あんなふうに・・下から突き上げて・・セスの呼吸も濡れた声も・・俺の知るセスの姿と重なって、思い出してしまうじゃないか!!

 それで?何故レオナルドが俺の部屋にいる!?
 文句は俺の方が言いに行きたいくらいなんだぞ!

「だから!!早くセスを返せと言っているんだ!ヒューベルト!」
「知るわけないだろ・・?俺がいったいどんな顔でセスに会えると言うんだよ!ふざけるな!」
「セスがいなくなった・・あれから半日以上経つのに見つからない・・たぶん、私を怒っている・・」
「だろうな!馬鹿な事しやがって!いくらセスでも怒るだろ!?はぁ・・俺も探すから、手分けするぞ・・一応、ソルヴィンやユージーンにも伝えておく」
「分かった。頼む」

 俺はソルヴィンの私室に向かいながら、あちこちを探して歩いた。しかしソルヴィンは不在だったようで、立ち去ろうとした時にソルヴィンの側近に呼び止められた。

「ヒューベルト殿下、ソルヴィン殿下の所へご案内します。こちらへ」
「いや、止めておく。セスがいなくなったんだ、探したいからまたでいいか?戻ったら話したいと伝えてくれないか?」
「それならば尚の事、いらして下さい」
「セスが何処にいるか知っているのか?レオナルドに連絡を・・」
「いえ・・」

 何だよ・・何かあったか・・
 詳しくはソルヴィンに聞けという事か・・

「分かった。案内してくれ」
「はい、説明不足で申し訳ありません」
「いいよ、側近も大変だよな?お前、名前は?」
「私はブライアといいます。お見知りおきを・・ヒューベルト殿下には感謝しています。我が主は、本当に奥手で辛抱強いので。アリア王女を愛しておられるのに、上手くいかないお姿をみていてこちらまで苦しかったですよ」
「ははっ!そうやって心配してくれるのが側近のブライアで良かったよ。ふたりを頼んだぞ?」
「はい!お任せ下さい!」

 大切なアリアを託すんだ。主に忠実な側近でないと困るんだよ。その点、ブライアは信用出来そうな男だ。

 俺はブライアに案内されて、宮廷内のある部屋へ通された。俺が中に入るとブライアが礼をして部屋から出て行った。

 少し中へ進むと、あちこちに子供が遊ぶような玩具や人形なんかが置かれている。
 木製の小さな乗り物や絵の具なんかもあって、まるで誰かが遊んでいたみたいに賑やかな様子だった。

「ヒューベルト・・」
「ソルヴィン!」
「しー・・こっち・・静かにね?」

 俺はソルヴィンに手招きされて、部屋の奥にある寝室へと歩いていく。
 静かにと言われて、物音を立てないように中を覗いて見ると、寝台で眠っているふたりに目を奪われた。

「天使・・」
「ふふっ・・ね・・天使だ」
「可愛・・これは・・美しいな・・」
「うん、本当にね」

 寝台の上には、額を合わせながら向かい合って眠るセスとノアの姿があった。

 ソルヴィンは2人の髪を交互に撫でて、優しげに微笑みながら小さく話を始めた。

「ここは私たち兄弟の、子ども部屋だった場所だよ」
「今でも誰かがここで過ごしているみたいに見える」
「ノアをユージーンから取り上げていた時に、連れて来ていたんだ」
「アリアの為か?」
「失敗したけどね。でも結果お前に助けられた。ありがとう」
「ああ」

 俺はソルヴィンに促されて、寝台の近くに置かれた椅子に座る。

 本が山積みに置かれている。きっとソルヴィンがノアの為に揃えたものだ。

「午前中、ノアが私の所に来たんだ。ユージーンから逃げてきたと言われて驚いた。ユージーンの奴が、ノアとの関係を急いで傷付けたと思ったけど、そうじゃなかった」
「なら何なんだ・・?」
「気持、ち・・」
「え?」
「あー・・き、気持ち良すぎて、おかしくなっちゃうと・・ノアが」
「ぶっ!はぁ!?そういう、事・・?」
「そうみたい・・それで、私の所に隠れに来たんだ」
「ノアはまだ子供だぞ!?」

 ユージーンの奴・・こんな無垢なノアに、いったい何をしたんだよ!!手を出すにしても、順序というものがあるだろ!?

「ノアを連れてここへ向かおうとしていた時、セス様が私を訪ねて来たんだ・・レオナルド様から隠して欲しいと言われた・・どうなってる・・天使たちが乱されて・・ヒューベルト?」
「あぁ・・ふたりとも、ソルヴィンを頼って来たんだな。良かったよ、お前の所で」
「そう?よく分からないけど、ヒューベルトなら言っても問題ないかと思って・・ふたりの王子に恨まれるなら、ヒューベルトにも同罪になってもらおうかと・・」
「そんな事まで、俺を頼るなよ・・」

 俺はセスの経緯を簡単に話すと、ソルヴィンは「こんな天使たちでも、セックスを楽しんでるんだな」と言って少しガッカリしたような顔をした。

「悪い事じゃないだろ?相手を悦ばせるのは大事な事だ。お前だって、いずれアリアと・・」
「や、やめて?まだ心の準備が・・は、激しくして壊しそうで怖い。優しくしたいのに・・できるか分からない」
「大丈夫だよ。アリアの顔を見たら、愛しさが勝るだろうし。大事にしてやれ、満たしてやれよ、お前が」
「・・この子たちも、きっと行き過ぎた快楽に堪らなくなったんだろうな・・レオナルド様もユージーンも激しく求めそうだし」
「本当にな・・」
「このふたりが情事か・・想像出来ないな・・」
「忘れたい・・もうよそう・・」
「ふふっ!ヒューベルト、いろいろお疲れ様」

 こうして俺たちは、レオナルドとユージーンが反省するまでふたりの天使を眺めながら過ごした。

 夕方、ブライアに案内されたレオナルドとユージーンが青ざめた顔をしながらバタバタとここに来て、迷子の天使を引き取って行った。












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