迷子の天使の話~王子妃セスから冒険者レノになった話 シリーズ第4弾~

氷室 裕

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43 迷子の天使たち~最終話

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 俺はノアが俺の側からいなくなったと気が付いて、思考が止まった。

 いつものように、昼に執務室から私室へ戻ってきたけれどノアの姿が視界に入らなくて、またどこかで隠れるようにして眠っているものだとばかり思っていた。

 俺は宝探しでもする気分で部屋のあちこちを探した。最初はうまく隠れたものだな、なんて思いながらいたんだ。

 庭?外に出たか?探して、探して・・いない。そのうち焦りだして、なのに、探しても探してもノアがいない・・

「・・なんで・・ノア!!ノア!!ノア!!」
「うるせぇな・・ユージーン、何だよ」
「お前は呼んでない!ノアがいない!フリード!探せ!」
「へー・・とうとう逃げられたか?」
「嘘、だろ・・なんで・・」
「お前が、初めてのノアに激しくするからだろ?手加減しろ、馬鹿が!」

 やっと、初めて・・ノアと繋がってひとつになったと思って歓喜していた。
 俺だけか?幸せだと思っていたのは・・

 そうだよな・・ノアは辛い思いをしたんだ・・かつて、凌辱されて痛め付けられたんだ・・きっと、怖かったに違いない。

 辛かったのか?痛かったのか?それを俺に言えなかった?苦しんだのだろうか・・決して忘れていた訳じゃないんだ!

「ノア・・」
「はぁ・・ユージーン、探すぞ・・まずは行きそうな所、ソルヴィン殿下のところだな」
「なんで!?」
「ノアならソルヴィン殿下しかいない。あれだけ可愛がって懐柔した人だぞ、ノアは殿下を信頼してるだろうな」
「・・納得できないが、仕方ない!行くぞ!」

 俺は兄上に会うために執務室へ向かうが、姿は見えず私室でも会うことが出来なかった。

 兄上は、まさかまたノアを連れて、どこかへ行ったのだろうか・・
 ノアを探しつつ、兄上の所在を確かめるために、専属の侍女や従者を探す。

「ブライア!なぁ、兄上は!?どこだ!」
「ユージーン殿下、どうかなさいましたか?」
「いや・・実は、ノアがいなくなった」
「ソルヴィン殿下は来客がありまして対応されていますよ。ノア君をお探しだという事は、俺からお伝えしておきますか?」
「頼む!」

 俺がブライアとそんな会話をしている時、兄上の私室へと向かうレオナルド様の姿が見えて引き留めた。

「え?セス様も・・」
「ああ。ソルヴィンの所だと思っていたが違ったか・・」
「レオナルド様、あー・・ちょっと、お話が」

 俺はレオナルド様を俺の私室へと招いた。
 不可思議な話だと思われるかも知れないが、あれだけ瓜二つのふたりだ・・繋がる何かがあるかと思ったんだ。

「2人同時にいなくなるなんて・・大丈夫ですよね・・まさか、まさか、還った、とか・・」
「帰る?どこに・・まさか、ユージーン・・」
「レオナルド様にとって、もし思い当たる事でなければ無視して聞いて下さい・・ロキ神・・」
「なるほど。お前も会ったのか・・」

 やっぱり・・
 ふたりは、かつて天使だったんだ。
 ふたりとも、あまりにも可愛らし過ぎる・・

「会いました。ノアが天使だと言われて驚きましたが、妙に納得しました。セス様も、そうなんですね」
「そうだ」
「ふたりが同時にいなくなるなんて!!どうしたら!!俺は!ノアを失いたくない!」

 俺は思わずレオナルド様の腕を掴んで見上げた。
 きっとレオナルド様だって不安に違いないのに、それでも今まで居場所が分からなくなることなんて、一度もなかったんだ!!

「大丈夫だ、落ち着け。ロキ神はまだふたりを連れていかない。きっと城のどこかにいる。私たちの所から、迷子になっただけだ」
「何故・・分かるのですか?」
「私とセスはロキ神とそう契約したからだ。とにかく、探すぞ。必ず見つかる」
「はい」

 それからしばらくは、あちこち探しながら気が気でならない状態だった。

 夕方になって、ブライアが俺たちに声を掛けてきた。連れていかれたのは、昔兄上と過ごした子ども部屋だった。

「ノア!!ノア、ここにいたのか・・ごめん・・許してくれ・・」
「セス!悪かった!探したんだよ!」

 俺とレオナルド様が必死の形相で駆け寄ると、兄上とヒューベルト様が二人の前に立ちはだかる。

 天使のふたりは少しむくれていて、まるで保護者の背中に隠れるようにしてしがみついている。

「セス!ヒューベルトから離れて!おい!ヒューベルト!セスに触れるな!」

 レオナルド様が一歩近づこうと足を踏み出すが、セス様がヒューベルト様を後ろに引いてまた隠れた。

 それからヒューベルト様は両手をあげるようにしてレオナルド様に言った。

「俺はセスに触れてない。セスが俺に触れてるんだ!お前は少し反省しろ。何故セスがお前から逃げたか考えろ!」
「分かったから!反省したんだ!返してくれ・・お前は駄目だ、私を不安にさせる・・」
「なら俺にあんな姿を見せるなよ。セスを大切にすると誓え!」
「セス・・もうしない。どうかしてた。ごめん・・ね?許して?愛してるんだ」
「レオ、沢山反省、した?」
「した!セスが可愛くて・・虐めたくなった・・ごめん」
「ふたりだけの時にしてね・・?恥ずかしいから・・」

 セス様はヒューベルト様をしばらく見つめると、小さくありがとうと囁いて笑った。そして、レオナルド様に強く腕を引かれて、抱き締められた。

「ノア?お前もおいで?おいで・・」
「殿下ぁ・・」

 俺がノアに近づいて少しだけ髪に触れた時、ノアはその場にしゃがみ込んでフルフルと小さく震えて俯いてしまった。

 やはりノアにはまだ早かったのか。俺の事が怖くて逃げ出した・・ノアを怖がらせた。ゆっくり進めていけばよかったんだ・・どうしたらいい。

「ノア・・俺が、怖いか・・?」
「ユー・・ジーン、だめです・・」
「ごめんな・・?ノア、ノア!愛してるんだ」
「ユージーンの、声・・だめ・・顔、だめ・・僕、気持ち良く、なっちゃう・・!」
「え!?」

 ノアは俺をゆっくり見上げると、まるで俺を欲するみたいな赤い顔で見つめた。

 俺は咄嗟にノアを抱き上げて、誰にもノアの顔が見えないように隠した。

「ユージーン、ノアが私の所へ逃げてきた訳が分かったか?求めるのもいいが、ノアはまだ受け入れたばかりだ。ゆっくり進めてやれ」
「はぁ・・あはは・・そういう・・こと・・?えー・・なんか・・すみません」

 そういうこと・・?ノアは、俺に抱かれるのが気持ち良くなって?それに耐えられず兄上の所へ逃げ込んだと・・

 全然大したことはしてないぞ・・俺はノアに過剰に触れた覚えはない。もっと、まだまだノアに試したい事が山のようにあるというのに、その度に兄上の所へ泣き付かれたんじゃ、たまったものじゃない・・俺は我慢なんて出来ないぞ・・

「何を考えてる、ユージーン。がっかりした顔をするんじゃない。別に全て自粛しろなんて言ってないだろ?ノアに合わせてゆっくり進めろと言ってるんだよ。ちゃんと気持ちも慣らしてやれ」
「ヒューベルト様、お手を煩わせてすみません。克己します・・はぁ・・困った迷子の天使だな・・ノアは」
「ごめんなさい!でも、ユージーン、僕をたくさん、気持ち良くしてください」
「ノ、ノア!」

 そんな事があったものだから、俺はノアを抱く度にひと苦労しそうだと憂鬱になりながら、兄上に申し訳ないと言って頭を下げた。そして、やっと子ども部屋からノアを連れ帰る事に成功した。

 俺は、これからノアが俺の側から離れないように、迷子にならないように守っていく覚悟をしたのだった。




『迷子の天使の話』
 お話シリーズ第4弾、終わり☆

 お読みいただき、ありがとうございました。

 このエピソード以降、ちょこっと修正を加えながら、不定期で番外編を書いていけたらと思っています。


 お話シリーズには、本編の『王子妃セスから冒険者レノになった話』に登場するキャラクターたちが沢山出てきます。シリーズものでお楽しみ頂けましたら幸いです。












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