王子妃セスから冒険者レノになった話

氷室 裕

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第11章 神の暇つぶし編

⑦偽りの自分

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 俺はロキ神に連れて来られ、気が付くと暖かな草原に佇んでいた。見渡す限り地平線が見えるようなそんな中に、ポツンと置かれた椅子に座っている。

 ツカサさんとレインの最後の時間が迫っているのに、俺は何もしてあげられないんだな。ツカサさんとの再会こそがレインの望みだったと言うのに、ふたりが別れてしまうだなんて。

 少しずつレインは俺から記憶を聞いて、自分を知っていった。

 全て思い出して使者としての力が戻ったら、地球に迎えに行くと。そしてツカサさんをアンダムに異世界転移させると言っていたのに。
 でも、その前にツカサさんが入水自殺を図ってしまって・・今、ツカサさんの肉体は生死をさまよっている。

 レインはツカサさんを愛してるのに、お互いに求め合っているのに引き裂かれてしまう。俺はもう、何も出来ないの?レインやツカサさんの為に・・

 俺は・・ツカサさんにこの体をあげてもよかった・・俺は微睡んでさまよっていた空間に、あのまま飲まれて消えてしまってもよかった。俺のような厄介者がいるから、レオやひゅうの足を止めてしまうんだから。ふたりは王子・・俺に構っている立場ではないんだ。

 それに、多分もう俺は男性に戻れない・・レオが愛してくれた姿には戻れないんだ。だって、呪の迷宮に辿り着く事も、紅血のドラゴンに対峙する事だって不可能なんだから・・立ち向かう程の力を持っている者なんて、誰もどこにもいないんだから。

 だけど・・もしも迷宮に辿り着く事が可能だとしても、きっと俺は誰かを巻き込んでしまう。そんな事になって、万が一誰かが傷付いたり、命を脅かされる事になってしまったら・・?それこそ俺は生きていなければ良かったと後悔するに違いない。

 これから女性として生きていく覚悟なんて、俺は持ち合わせていない。こんな偽物の自分で誰かと関わって行くなんて・・愛される事だって、騙しているのと同じなんだから。

 ひゅうを、この偽物の俺で騙して傷つけた。だって気持ち悪いだろ?本当は、身も心も男だっていうのに。

 レオだって、こんな知らない姿で寄ってこられても困るに決まっているはずなのに、夫婦だからと離婚をしないでくれていた・・俺は、ずっと居心地が悪くて堪らなかった。

 俺は自分が自分じゃない気がして、ずっと苦しかった。これからの未来像が・・何も見えないんだ。

 ロキ神・・あなたなら、俺の体をツカサさんにあげることくらい簡単なんでしょう?俺を知る全ての人から俺の記憶を消すことだって出来るでしょう?俺がいなくなっても、誰も気が付かない世界を、あなたなら作れるんでしょう?

 本当は、すごく不安だった・・王宮を出て、ひとりになって生きていく事が。

 魔女ウィリアから受けた呪術が解けないと分かったから、もう進む道が閉ざされた・・俺にはもう希望がない。

 ひゅうには、幸せになって欲しい。俺のような異端児ではなくて、ひゅうの好きな可愛い女の子を愛して欲しい。

 レオ、家族を作って欲しい。男の俺じゃあ・・レオの子供を産んであげられないから。ずっと悩んでたんだ。レオの子がどんなに可愛いか、想像に容易いから。レオ、記憶から俺を消して、そして家族を作って幸せになって欲しい。

 ロキ神、俺の決心を、俺の願いを聞いてもらえますか?

「本当に・・セスって子はお人好しで、無自覚で困るなぁ・・こんなだから、昔から目が離せなかったんだ。いつか俺のものにしようと思っていたんだけど、ちょっと放置しすぎたね」

 ロキ神が紅い瞳で俺を見つめて、俺に口付けて抱き締めた。

「あ・・あの、俺・・」
「うん?辛そうだねぇ、セス」

 辛い?俺は・・俺に関わった人達をいつも困らせるから、レインにだって、何もしてあげることが出来ないから。

「だから、言ってるだろ?人の事なんてどうでもいいんだって。何故自分が幸せになる事を考えないんだ?諦めが早いんだよね・・セスは」

 諦め・・?こんな姿で・・嘘で固められた自分で、どうやって幸せになれって言うの・・人を騙して、偽りの自分に怯えて、誰かに愛されるなんて出来ない。消えてなくなる方がいい。

「消えてなくなる?そんな事、この俺が許さないんだよ?セス・・まずは、セスに自覚と言うものを教えてあげなくちゃね・・おいで」

 広い景色が目の前から消えて、真っ白な空間に変わった。


 













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