8 / 9
壁ドンの威力
しおりを挟む
新人騎士、マットの紹介は簡単に終わり、改めて歓迎会が開催されることが団長の口から告げられた。
歓迎会は新人が寮に入ってくる度に行われている恒例行事なのである。
またご飯を大量に作らなきゃいけないのか……。
でも幼馴染みのマットの為だし、頑張らないとね。
マット、子供の時は食が細い子だったけれど、今の体を見ると結構食べそうな気がするし。
解散後にチラッと彼の方を見ると、もう先輩騎士に囲まれて打ち解けていた。
両側から肩を組まれているが、マッチョが連なって素晴らしい絵面となっている。
いつまででも見ていられそうだ。
「おい、マッチョ。なんだよ、カレンちゃんと知り合いだったのか」
「マッチョじゃなくて、マットです。俺もカレンもまだ小さい頃のことですけどね」
「なんだよ、マッチョ。カレンとか呼んじゃって随分親し気じゃないか」
「マットです。そりゃあ幼馴染みですからね」
「妬けるな、マッチョ~。俺たちだってやっと昨日から仲良くなれたっつーのに」
「だからマットですって。俺の話、聞いてます? ……え?昨日から?」
「そうなんだよ! カレンちゃんの長い反抗期が昨日終わってさ、一気にフレンドリーになって俺たちは幸せってわけ」
「は?」
マットが意味がわからないといった顔をしているが、至極当然な反応だと思う。
そして、マットは私のせいで『マッチョ』というあだ名になってしまっていたが、謝る気はない。
私はそそくさと仕事に戻ったのだった。
◆◆◆
今日も、騎士の仕事から戻ってきたマットは私の後ろをついてきている。
最近はこの光景が当たり前になりつつあった。
「マット、今は特に教えることもないし、部屋で休んでいたら?」
「いや、いい。俺がいると邪魔か?」
「そんなことはないけれど。でも特に面白いこともないわよ?」
「俺的には面白いからいい。なんだか昔を思い出すしな」
そういえば、昔もマットはこんな風に私の後ろを付いて回っていた。
本を持って、小さい体でヒョコヒョコ追いかけてきていたのだ。
それはもう可愛らしくヒョコヒョコヒョコヒョコ……。
振り返った私は、マットを見上げて昔とのあまりの違いに困惑を隠せなかった。
歓迎会でも目を疑うほどの食欲だったし、何がどうしてこうなった?
「本当にでかくなったわね……」
「だから好きででかくなったんじゃねーよ。俺はできれば筋肉を付けずに騎士になる予定だったんだ。予定外にこんなについちまったが」
筋肉を付けずに騎士になる?
どういうこだわりなのだろうか。
なかなかの無理難題な気がする。
「なんで? 騎士なんだから見るからに鍛え上げられているほうがいいじゃない」
「カレンがそれを言うのか? 筋肉が嫌いってカレンが言うから、俺は筋肉がなるべくつかないようにしようと……」
「そうなの? 私、筋肉もマッチョも大好きだけど」
「そこなんだよ!」
ん? どこ?
私、何か変なこと言った?
マットが目を見開いて私に詰め寄ってきた。
昔は可愛い顔をしていたが、今は日焼けして健康的なイケメンになっている。
「騎士にならないとカレンに会えないし、でも騎士になってムキムキになったらカレンに嫌われる……。そんな葛藤を抱えながら俺が必死で筋肉がつかないようにしてたのに、いつの間にかカレンは筋肉が好きになってて。俺、馬鹿みたいじゃないか!」
「え、ちょっと待って。本当に私に会いたいと思ってくれていたの? 昔の恨みを晴らす為とかじゃなくて?」
「はああ??」
気付けばドンっと壁に手をついたマットに、壁際まで追いやられていた。
これは前世でいう壁ドンというやつに違いない。
怒ったようなマットの表情から目が離せない私は、ただされるがままに息を詰めるしかなかった。
歓迎会は新人が寮に入ってくる度に行われている恒例行事なのである。
またご飯を大量に作らなきゃいけないのか……。
でも幼馴染みのマットの為だし、頑張らないとね。
マット、子供の時は食が細い子だったけれど、今の体を見ると結構食べそうな気がするし。
解散後にチラッと彼の方を見ると、もう先輩騎士に囲まれて打ち解けていた。
両側から肩を組まれているが、マッチョが連なって素晴らしい絵面となっている。
いつまででも見ていられそうだ。
「おい、マッチョ。なんだよ、カレンちゃんと知り合いだったのか」
「マッチョじゃなくて、マットです。俺もカレンもまだ小さい頃のことですけどね」
「なんだよ、マッチョ。カレンとか呼んじゃって随分親し気じゃないか」
「マットです。そりゃあ幼馴染みですからね」
「妬けるな、マッチョ~。俺たちだってやっと昨日から仲良くなれたっつーのに」
「だからマットですって。俺の話、聞いてます? ……え?昨日から?」
「そうなんだよ! カレンちゃんの長い反抗期が昨日終わってさ、一気にフレンドリーになって俺たちは幸せってわけ」
「は?」
マットが意味がわからないといった顔をしているが、至極当然な反応だと思う。
そして、マットは私のせいで『マッチョ』というあだ名になってしまっていたが、謝る気はない。
私はそそくさと仕事に戻ったのだった。
◆◆◆
今日も、騎士の仕事から戻ってきたマットは私の後ろをついてきている。
最近はこの光景が当たり前になりつつあった。
「マット、今は特に教えることもないし、部屋で休んでいたら?」
「いや、いい。俺がいると邪魔か?」
「そんなことはないけれど。でも特に面白いこともないわよ?」
「俺的には面白いからいい。なんだか昔を思い出すしな」
そういえば、昔もマットはこんな風に私の後ろを付いて回っていた。
本を持って、小さい体でヒョコヒョコ追いかけてきていたのだ。
それはもう可愛らしくヒョコヒョコヒョコヒョコ……。
振り返った私は、マットを見上げて昔とのあまりの違いに困惑を隠せなかった。
歓迎会でも目を疑うほどの食欲だったし、何がどうしてこうなった?
「本当にでかくなったわね……」
「だから好きででかくなったんじゃねーよ。俺はできれば筋肉を付けずに騎士になる予定だったんだ。予定外にこんなについちまったが」
筋肉を付けずに騎士になる?
どういうこだわりなのだろうか。
なかなかの無理難題な気がする。
「なんで? 騎士なんだから見るからに鍛え上げられているほうがいいじゃない」
「カレンがそれを言うのか? 筋肉が嫌いってカレンが言うから、俺は筋肉がなるべくつかないようにしようと……」
「そうなの? 私、筋肉もマッチョも大好きだけど」
「そこなんだよ!」
ん? どこ?
私、何か変なこと言った?
マットが目を見開いて私に詰め寄ってきた。
昔は可愛い顔をしていたが、今は日焼けして健康的なイケメンになっている。
「騎士にならないとカレンに会えないし、でも騎士になってムキムキになったらカレンに嫌われる……。そんな葛藤を抱えながら俺が必死で筋肉がつかないようにしてたのに、いつの間にかカレンは筋肉が好きになってて。俺、馬鹿みたいじゃないか!」
「え、ちょっと待って。本当に私に会いたいと思ってくれていたの? 昔の恨みを晴らす為とかじゃなくて?」
「はああ??」
気付けばドンっと壁に手をついたマットに、壁際まで追いやられていた。
これは前世でいう壁ドンというやつに違いない。
怒ったようなマットの表情から目が離せない私は、ただされるがままに息を詰めるしかなかった。
93
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?
きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。
異世界推し生活のすすめ
八尋
恋愛
現代で生粋のイケメン筋肉オタクだった壬生子がトラ転から目を覚ますと、そこは顔面の美の価値観が逆転した異世界だった…。
この世界では壬生子が理想とする逞しく凛々しい騎士たちが"不細工"と蔑まれて不遇に虐げられていたのだ。
身分違いや顔面への美意識格差と戦いながら推しへの愛を(心の中で)叫ぶ壬生子。
異世界で誰も想像しなかった愛の形を世界に示していく。
完結済み、定期的にアップしていく予定です。
完全に作者の架空世界観なのでご都合主義や趣味が偏ります、ご注意ください。
作者の作品の中ではだいぶコメディ色が強いです。
誤字脱字誤用ありましたらご指摘ください、修正いたします。
なろうにもアップ予定です。
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
痩せすぎ貧乳令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます
ちゃんゆ
恋愛
男爵家の三女に産まれた私。衝撃的な出来事などもなく、頭を打ったわけでもなく、池で溺れて死にかけたわけでもない。ごくごく自然に前世の記憶があった。
そして前世の私は…
ゴットハンドと呼ばれるほどのエステティシャンだった。
とあるお屋敷へ呼ばれて行くと、そこには細い細い風に飛ばされそうなお嬢様がいた。
お嬢様の悩みは…。。。
さぁ、お嬢様。
私のゴッドハンドで世界を変えますよ?
**********************
転生侍女シリーズ第三弾。
『おデブな悪役令嬢の侍女に転生しましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
『醜いと蔑まれている令嬢の侍女になりましたが、前世の技術で絶世の美女に変身させます』
の続編です。
続編ですが、これだけでも楽しんでいただけます。
前作も読んでいただけるともっと嬉しいです!
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
彼氏がヤンデレてることに気付いたのでデッドエンド回避します
八
恋愛
ヤンデレ乙女ゲー主人公に転生した女の子が好かれたいやら殺されたくないやらでわたわたする話。基本ほのぼのしてます。食べてばっかり。
なろうに別名義で投稿しています。
かなり昔に書いたものなので今と芸風(?)が違うのですが、楽しんでいただけると嬉しいです。
一部加筆修正しています。
2025/9/9完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる