【完結】マッチョ大好きマチョ村(松村)さん、異世界転生したらそこは筋肉パラダイスでした!

櫻野くるみ

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壁ドンの威力

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新人騎士、マットの紹介は簡単に終わり、改めて歓迎会が開催されることが団長の口から告げられた。
歓迎会は新人が寮に入ってくる度に行われている恒例行事なのである。

またご飯を大量に作らなきゃいけないのか……。
でも幼馴染みのマットの為だし、頑張らないとね。
マット、子供の時は食が細い子だったけれど、今の体を見ると結構食べそうな気がするし。

解散後にチラッと彼の方を見ると、もう先輩騎士に囲まれて打ち解けていた。
両側から肩を組まれているが、マッチョが連なって素晴らしい絵面となっている。
いつまででも見ていられそうだ。

「おい、マッチョ。なんだよ、カレンちゃんと知り合いだったのか」
「マッチョじゃなくて、マットです。俺もカレンもまだ小さい頃のことですけどね」
「なんだよ、マッチョ。カレンとか呼んじゃって随分親し気じゃないか」
「マットです。そりゃあ幼馴染みですからね」
「妬けるな、マッチョ~。俺たちだってやっと昨日から仲良くなれたっつーのに」
「だからマットですって。俺の話、聞いてます? ……え?昨日から?」
「そうなんだよ! カレンちゃんの長い反抗期が昨日終わってさ、一気にフレンドリーになって俺たちは幸せってわけ」
「は?」

マットが意味がわからないといった顔をしているが、至極当然な反応だと思う。
そして、マットは私のせいで『マッチョ』というあだ名になってしまっていたが、謝る気はない。
私はそそくさと仕事に戻ったのだった。


◆◆◆


今日も、騎士の仕事から戻ってきたマットは私の後ろをついてきている。
最近はこの光景が当たり前になりつつあった。

「マット、今は特に教えることもないし、部屋で休んでいたら?」
「いや、いい。俺がいると邪魔か?」
「そんなことはないけれど。でも特に面白いこともないわよ?」
「俺的には面白いからいい。なんだか昔を思い出すしな」

そういえば、昔もマットはこんな風に私の後ろを付いて回っていた。
本を持って、小さい体でヒョコヒョコ追いかけてきていたのだ。
それはもう可愛らしくヒョコヒョコヒョコヒョコ……。

振り返った私は、マットを見上げて昔とのあまりの違いに困惑を隠せなかった。
歓迎会でも目を疑うほどの食欲だったし、何がどうしてこうなった?

「本当にでかくなったわね……」
「だから好きででかくなったんじゃねーよ。俺はできれば筋肉を付けずに騎士になる予定だったんだ。予定外にこんなについちまったが」

筋肉を付けずに騎士になる?
どういうこだわりなのだろうか。
なかなかの無理難題な気がする。

「なんで? 騎士なんだから見るからに鍛え上げられているほうがいいじゃない」
「カレンがそれを言うのか? 筋肉が嫌いってカレンが言うから、俺は筋肉がなるべくつかないようにしようと……」
「そうなの? 私、筋肉もマッチョも大好きだけど」
「そこなんだよ!」

ん? どこ?
私、何か変なこと言った?

マットが目を見開いて私に詰め寄ってきた。
昔は可愛い顔をしていたが、今は日焼けして健康的なイケメンになっている。

「騎士にならないとカレンに会えないし、でも騎士になってムキムキになったらカレンに嫌われる……。そんな葛藤を抱えながら俺が必死で筋肉がつかないようにしてたのに、いつの間にかカレンは筋肉が好きになってて。俺、馬鹿みたいじゃないか!」
「え、ちょっと待って。本当に私に会いたいと思ってくれていたの? 昔の恨みを晴らす為とかじゃなくて?」
「はああ??」

気付けばドンっと壁に手をついたマットに、壁際まで追いやられていた。
これは前世でいう壁ドンというやつに違いない。
怒ったようなマットの表情から目が離せない私は、ただされるがままに息を詰めるしかなかった。
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