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マチョ村のパラダイス
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「カレン」
マットは一旦冷静になろうと考えたのか、静かに私の名前を呼んだ。
しかし、思ったよりも頼りない、懇願するような声音に私の胸は締め付けられてしまう。
すぐ目の前に迫っている彼の瞳が、子供の頃と変わっていないせいかもしれなかった。
「なに?」
呼びかけに答えながら、私は無意識にマットの頬を撫でていた。
なんだか心細そうな様子に、気付いたら勝手に手が伸びていたのだ。
マットは壁ドンしている手とは反対の手を私の甲に重ねると、掠れた声で囁いた。
「好きだ。カレンのことがずっと好きだった……」
「マット……」
私はマットに好かれていたーー
驚きのあまり、言葉が続かない。
元は花も恥じらう女子高校生だったはずなのに、私は色恋に疎すぎるのではないだろうか。
筋肉が好きすぎて、脳筋になっちゃったのかもね。
ああ、マッチョの壁ドンって圧迫感がたまりませんなぁ。
この期に及んで現実逃避を始めた私に、マットがなおも攻め込んでくる。
新人といえどさすが騎士、好機は逃さないようだ。
「マッチョが好きなら、俺でもいいだろ? 俺って筋肉がつきやすいらしいから、本気で鍛えたらもっと逞しくなれると思うんだ。カレンの為なら、俺もっと鍛えるから」
「え、もっとマッチョに?」
つい食い気味に返していた。
話題が筋肉とあらば、逃避している場合ではない。
「ああ。亡くなったカレンの親父さんより鍛えて、絶対に任務で死んだりしない。いつだってカレンを守るし、寂しい思いもさせないから!」
私の中の、カレンの心が揺さぶられたのがわかった。
カレンが一番欲しい言葉だったのだから当たり前だろう。
真摯な思いとマッチョな体……おや? マットって理想の男性なのでは?
そう気付いてしまったら、一気に鼓動が早まった。
顔も熱を持ったように熱い。
「私、まだよくわからないけれど、今すごいドキドキしてて……え、なんかもう無理なんだけど!!」
マットの体を押しのけようとしたが、びくともしない。
「え、カレン可愛い! 照れてる顔がすげー可愛い!!」
マットが堪らないとばかりに私を抱きしめようとしたその時。
「マッチョ、お前にはまだ早い!」
レオナードの凛々しい、通る声が響いた。
見れば、騎士たちがズラッと勢揃いしている。
「マットです」
こんな時でも静かに訂正するマットをまるっと無視し、レオナードはさらに言い放った。
「俺の娘が欲しいなら、俺の屍を超えていけ!!」
相変わらず少しズレている気もするが、団長本人はドヤ顔をしているし、騎士らは「いいぞ団長ー!」と囃し立てている。
一体なんなのだ。
そして私はマットから引き離され、マッチョ集団に囲まれてしまった。
「カレンちゃん、そんなすぐに結果を出すことはないって」
「俺たちの筋肉も結構いいぞ?」
「ほれほれー」
なぜかいつもより薄着の騎士が、これでもかと筋肉を見せびらかしてくる。
そんなことをされて、私が平常心でいられるはずもなくーー
「きゃー! 筋肉だらけ……。マチョ村、幸せですぅー」
「カレン! 気を確かに持て!」
薄っすらとマットの声が聞こえた気がしたが、私は筋肉パラダイスに心を奪われていったのだった。
私とマットがいつ結ばれるのかーーそれは神のみぞ知る。
おしまい。
マットは一旦冷静になろうと考えたのか、静かに私の名前を呼んだ。
しかし、思ったよりも頼りない、懇願するような声音に私の胸は締め付けられてしまう。
すぐ目の前に迫っている彼の瞳が、子供の頃と変わっていないせいかもしれなかった。
「なに?」
呼びかけに答えながら、私は無意識にマットの頬を撫でていた。
なんだか心細そうな様子に、気付いたら勝手に手が伸びていたのだ。
マットは壁ドンしている手とは反対の手を私の甲に重ねると、掠れた声で囁いた。
「好きだ。カレンのことがずっと好きだった……」
「マット……」
私はマットに好かれていたーー
驚きのあまり、言葉が続かない。
元は花も恥じらう女子高校生だったはずなのに、私は色恋に疎すぎるのではないだろうか。
筋肉が好きすぎて、脳筋になっちゃったのかもね。
ああ、マッチョの壁ドンって圧迫感がたまりませんなぁ。
この期に及んで現実逃避を始めた私に、マットがなおも攻め込んでくる。
新人といえどさすが騎士、好機は逃さないようだ。
「マッチョが好きなら、俺でもいいだろ? 俺って筋肉がつきやすいらしいから、本気で鍛えたらもっと逞しくなれると思うんだ。カレンの為なら、俺もっと鍛えるから」
「え、もっとマッチョに?」
つい食い気味に返していた。
話題が筋肉とあらば、逃避している場合ではない。
「ああ。亡くなったカレンの親父さんより鍛えて、絶対に任務で死んだりしない。いつだってカレンを守るし、寂しい思いもさせないから!」
私の中の、カレンの心が揺さぶられたのがわかった。
カレンが一番欲しい言葉だったのだから当たり前だろう。
真摯な思いとマッチョな体……おや? マットって理想の男性なのでは?
そう気付いてしまったら、一気に鼓動が早まった。
顔も熱を持ったように熱い。
「私、まだよくわからないけれど、今すごいドキドキしてて……え、なんかもう無理なんだけど!!」
マットの体を押しのけようとしたが、びくともしない。
「え、カレン可愛い! 照れてる顔がすげー可愛い!!」
マットが堪らないとばかりに私を抱きしめようとしたその時。
「マッチョ、お前にはまだ早い!」
レオナードの凛々しい、通る声が響いた。
見れば、騎士たちがズラッと勢揃いしている。
「マットです」
こんな時でも静かに訂正するマットをまるっと無視し、レオナードはさらに言い放った。
「俺の娘が欲しいなら、俺の屍を超えていけ!!」
相変わらず少しズレている気もするが、団長本人はドヤ顔をしているし、騎士らは「いいぞ団長ー!」と囃し立てている。
一体なんなのだ。
そして私はマットから引き離され、マッチョ集団に囲まれてしまった。
「カレンちゃん、そんなすぐに結果を出すことはないって」
「俺たちの筋肉も結構いいぞ?」
「ほれほれー」
なぜかいつもより薄着の騎士が、これでもかと筋肉を見せびらかしてくる。
そんなことをされて、私が平常心でいられるはずもなくーー
「きゃー! 筋肉だらけ……。マチョ村、幸せですぅー」
「カレン! 気を確かに持て!」
薄っすらとマットの声が聞こえた気がしたが、私は筋肉パラダイスに心を奪われていったのだった。
私とマットがいつ結ばれるのかーーそれは神のみぞ知る。
おしまい。
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