【完結】婚約破棄されたお転婆令嬢は、チャンスの神様を逃さない

櫻野くるみ

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繋がる過去と現在

しばらくは、時折風にそよぐ自分の前髪の束を、くすぐったい思いで楽しんでいたクロヴィスだったが――
ふと隣の少女が静かなことに気付いた。
さきほどまで、あれほど予測不可能な行動ばかり起こしていたじゃじゃ馬だというのに、どうしたのだろうか。

クロヴィスが立ったままの少女を怪訝そうに見上げると、彼女は腕を組んで何かを考え込んでいる。
真剣に悩む子供の様子が可愛らしく、しばらく様子を見守っていると、ふいに少女が閃いたといわんばかりに「そうよ!」と声を上げた。

「何か思い付いたの?」
「うん。私、いいこと考えちゃった!」
「いいこと?」

なぜだろう。
なんだか嫌な予感がしてきたぞ。

妙な胸騒ぎがしたクロヴィスの直観は、案の定間違ってはいなかったようで、少女は輝く笑顔で言った。

「お兄さん、強い騎士になって!」
「は?」

クロヴィスから間抜けな声が漏れる。

いや、まるで「クッキーをもっと持ってきて!」くらいの気軽さで言われても。
こっちは騎士を目指すのをやめようかという瀬戸際なんだけど……。

簡単に頷けるはずもなく、クロヴィスは返事をすることが出来ない。
しかし、そんなクロヴィスの様子を気にすることなく少女は話を続けた。

「私ね、そろそろ令嬢らしくならなきゃって思っていたところだったの。この前も男の子を怖がらせちゃったし、スカートも破いちゃったし」
「そ、そうなんだ」

急に話の内容が変わり、突っ込みたい気持ちを抑えながらクロヴィスは先を促す。

「でも急に大人しい令嬢になるのも面白くないでしょ?」
「うーん、そういうものかな?」
「そういうものよ。だって、怖がらせたから反省したみたいに思われるのも嫌だし。だから――」

一度言葉を切った少女は、キラキラした目でクロヴィスを見下ろす。
上気した頬は微笑ましいが、不安が増すのはどうしてだろう。

「お兄さんも騎士になって? 私も大人しくなるから」
「待って、どういう理屈でそうなるの?」
「え? 令嬢に向かないわたしが頑張って淑女になるから、騎士に向かないお兄さんも頑張って立派な騎士になってって話よ」
「ええっ!?」

思っていた以上に無茶苦茶な話だった。
無茶苦茶すぎて、意味がわからない。

でも、『どんな論理だ』『さすが子供の考えることだ』と思う気持ちもあるのに、不思議とクロヴィスは少女の提案を退ける気にはなれなかった。
すでにこの少女に気を許している自分がいるからなのかもしれない。

「どうかしら?」
「どうって。変なことを言い出したと思ったけど、案外乗り気の自分に戸惑ってる……かな」
「あははっ。じゃあどちらが早く理想の姿に近付けるか競争ね!」
「わかったよ。でも……」

クロヴィスも立ち上がって少し屈むと、少女の目を覗き込んだ。
やはりエメラルドの瞳は、生命力に溢れて煌めいて見える。

「君の元気なところ、僕は好きだから無くして欲しくないな」
「わたしもお兄さんの綺麗な顔と瞳、髪で隠して欲しくないわ」

しばらく見つめ合った二人は自然と笑い合うと、約束だと言って小指を絡めた。

やがて少女は「お母様にしっかり謝ってくるので、これにてごきげんよう」と、破れたスカートを少し持ち上げて挨拶すると、イタズラっぽく笑って元気に駆けていった。
今度はしっかり生垣の切れ目を通って。

清々しい気持ちで小さなレディを見送ったクロヴィスは、かつてないやる気が漲るのを感じ、その日のうちに前髪を切り落としたのだった。


◆◆◆


過去の思い出を振り返りつつも、しっかりと夜会の警固にあたっていたクロヴィスは、唐突に婚約破棄を宣言し始めた男へと意識を向けた。
公の場で一方的に喚き立てる令息に呆れ、自分の合図と共にいつでも駆けつけられるように部下に指示を出しておく。

令嬢側にも言い返したいことはあるだろう。
馬鹿にされるだけでは気の毒だから、頃合いをみて止めに入るか。

すると、静観するクロヴィスに予想外のことが起きた。
今まで気丈にも冷静に対応しているように見えていた令嬢が、令息の背中に飛び蹴りをくらわしたのである。

ドレスで飛び蹴り?
こちらからは後ろ姿で顔はわからないが、あの度胸と跳躍力……まさか彼女が?

振り返った令嬢の瞳は、クロヴィスがずっと探していたあのエメラルド色で――

ようやく見つけたぞ!
今までよく淑女の仮面をかぶっていたものだ。

クロヴィスは愉快な気持ちで大人になった少女……ロレッタを見つめると、これからどう話しかけようかと算段を立てたのだった。






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