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氷の騎士様がやって来ました
夕暮れ時になり、ロレッタはシンシアの家から王都にある自分の屋敷まで馬車で帰ってきた――のだが。
あら?
お客様なんて珍しいわね。
屋敷の前に、一台の馬車が停車している。
見るからに豪奢な造りの馬車は、ファンネル家より格上の貴族の訪れを告げていた。
「ただいまもどりました」と、ロレッタがいつもの挨拶をしながら扉をくぐると。
「ロレッタ! 良かった、帰って来たか。待っていたぞ」
「おかえりなさい、ロレッタ。あなたにお客様よ」
なぜか両親が玄関ホールに顔を揃えており、ロレッタを待ちわびていたかのような声を掛けてきた。
父はまだギックリ腰が完治していない為、母に支えられるようにして立っているが、それよりもロレッタが気になったのは、両親と向かい合うスラっとした男性の後ろ姿だった。
随分背の高い方ね。
こちらからだと顔はわからないけれど、服装からするとお父様よりも若そうな感じかしら?
でも私に、屋敷まで訪ねてくるような男性の知り合いなんていないのだけど。
……え、誰?
ロレッタは、その男性に心当たりが全くなく、困惑するしかなかった。
一応ライナルトという婚約者がいたこともあり、ロレッタには屋敷まで会いに来るような男友達もなかったのである。
すると、両親の言葉でロレッタの帰宅に気付いたらしい男性が、おもむろに彼女の方に振り返り、口を開いた。
「やあ、ロレッタ嬢。また会えて嬉しいよ」
軽く口角を上げて笑って見せたその人は、なんと夜会でロレッタに鋭い視線を投げかけてきていた、あの氷の騎士で……。
「クロヴィス・アッシュフォード近衛騎士団副団長様!?」
予想外の人物の登場に、ロレッタはまるで早口言葉のように彼の名を叫んでいた。
普通の令嬢であれば、『とうとう夜会で起こした騒動の罰が下されるのかも』と青褪めたり、氷の騎士の貴重な笑みに頬を染めて卒倒したりしそうなものなのだが、普通の令嬢に当て嵌まらないロレッタの反応は、そのどちらでもなかった。
彼女の肝は据わっているのだ。
どうして彼がここに?
騒動の取り調べに来たにしては、色々とおかしいわよね。
一人のようだし、どうして近衛騎士団の制服じゃないのかしら?
それに、抱えているあの大きな花束は一体……?
クロヴィスは一人で訪ねてきた上に、なぜかいつもの白の騎士服ではなく、グレーのフロックコートを着用している。
私服姿など見たこともなかったロレッタだが、こんな不可解な状況でなければ見惚れていたに違いないほど、彼に良く似合っていた。
しかし、クロヴィスはいつもなら適当に垂らしている前髪を、今は後ろに撫で付けるようにして固めているし、左腕には大きなバラの花束を抱えている。
ロレッタが、『氷の騎士』とのギャップに違和感を覚えるのも当然だった。
一見すると、騎士というより高位の貴族令息にしか見えないクロヴィスを、ロレッタは怪訝そうに見上げた。
現況、不自然さは否めないけれど、ロイヤルブルーの瞳が今日も美しいわね……などと、現実逃避をしていると、両親が機嫌良さそうに口を開いた。
「アッシュフォード侯爵令息は、ロレッタに話があるそうだ」
「応接室へお通ししてさしあげて。あとでお茶を運ばせるからごゆっくり」
両親に促され、クロヴィスを連れて廊下を案内するロレッタは、狐につままれたような気分だった。
え、話って、婚約破棄騒動についてよね?
仕事で訪ねてきた騎士様に対して、お父様はなぜ騎士の役職ではなく、『アッシュフォード侯爵令息』だなんて呼んだのかしら?
それ以前に、氷の騎士様の様子がいつもとだいぶ違うせいで調子が狂うのだけど。
「あの、本日は夜会の時の事情聴取でいらしたのですよね? 私、ありのままをお伝えしますし、逃げも隠れもいたしませんわ」
応接室のソファーにクロヴィスを座らせ、開口一番にロレッタがそう宣言すると、驚いたように目を見開いた後、彼は破顔した。
「君は変わらないな。ああ、これを」
流れで花束を受け取ってしまったロレッタは、ますます意味がわからなかったが、なんだか楽しそうに笑うクロヴィスに胸がときめくのを感じていた。
あら?
お客様なんて珍しいわね。
屋敷の前に、一台の馬車が停車している。
見るからに豪奢な造りの馬車は、ファンネル家より格上の貴族の訪れを告げていた。
「ただいまもどりました」と、ロレッタがいつもの挨拶をしながら扉をくぐると。
「ロレッタ! 良かった、帰って来たか。待っていたぞ」
「おかえりなさい、ロレッタ。あなたにお客様よ」
なぜか両親が玄関ホールに顔を揃えており、ロレッタを待ちわびていたかのような声を掛けてきた。
父はまだギックリ腰が完治していない為、母に支えられるようにして立っているが、それよりもロレッタが気になったのは、両親と向かい合うスラっとした男性の後ろ姿だった。
随分背の高い方ね。
こちらからだと顔はわからないけれど、服装からするとお父様よりも若そうな感じかしら?
でも私に、屋敷まで訪ねてくるような男性の知り合いなんていないのだけど。
……え、誰?
ロレッタは、その男性に心当たりが全くなく、困惑するしかなかった。
一応ライナルトという婚約者がいたこともあり、ロレッタには屋敷まで会いに来るような男友達もなかったのである。
すると、両親の言葉でロレッタの帰宅に気付いたらしい男性が、おもむろに彼女の方に振り返り、口を開いた。
「やあ、ロレッタ嬢。また会えて嬉しいよ」
軽く口角を上げて笑って見せたその人は、なんと夜会でロレッタに鋭い視線を投げかけてきていた、あの氷の騎士で……。
「クロヴィス・アッシュフォード近衛騎士団副団長様!?」
予想外の人物の登場に、ロレッタはまるで早口言葉のように彼の名を叫んでいた。
普通の令嬢であれば、『とうとう夜会で起こした騒動の罰が下されるのかも』と青褪めたり、氷の騎士の貴重な笑みに頬を染めて卒倒したりしそうなものなのだが、普通の令嬢に当て嵌まらないロレッタの反応は、そのどちらでもなかった。
彼女の肝は据わっているのだ。
どうして彼がここに?
騒動の取り調べに来たにしては、色々とおかしいわよね。
一人のようだし、どうして近衛騎士団の制服じゃないのかしら?
それに、抱えているあの大きな花束は一体……?
クロヴィスは一人で訪ねてきた上に、なぜかいつもの白の騎士服ではなく、グレーのフロックコートを着用している。
私服姿など見たこともなかったロレッタだが、こんな不可解な状況でなければ見惚れていたに違いないほど、彼に良く似合っていた。
しかし、クロヴィスはいつもなら適当に垂らしている前髪を、今は後ろに撫で付けるようにして固めているし、左腕には大きなバラの花束を抱えている。
ロレッタが、『氷の騎士』とのギャップに違和感を覚えるのも当然だった。
一見すると、騎士というより高位の貴族令息にしか見えないクロヴィスを、ロレッタは怪訝そうに見上げた。
現況、不自然さは否めないけれど、ロイヤルブルーの瞳が今日も美しいわね……などと、現実逃避をしていると、両親が機嫌良さそうに口を開いた。
「アッシュフォード侯爵令息は、ロレッタに話があるそうだ」
「応接室へお通ししてさしあげて。あとでお茶を運ばせるからごゆっくり」
両親に促され、クロヴィスを連れて廊下を案内するロレッタは、狐につままれたような気分だった。
え、話って、婚約破棄騒動についてよね?
仕事で訪ねてきた騎士様に対して、お父様はなぜ騎士の役職ではなく、『アッシュフォード侯爵令息』だなんて呼んだのかしら?
それ以前に、氷の騎士様の様子がいつもとだいぶ違うせいで調子が狂うのだけど。
「あの、本日は夜会の時の事情聴取でいらしたのですよね? 私、ありのままをお伝えしますし、逃げも隠れもいたしませんわ」
応接室のソファーにクロヴィスを座らせ、開口一番にロレッタがそう宣言すると、驚いたように目を見開いた後、彼は破顔した。
「君は変わらないな。ああ、これを」
流れで花束を受け取ってしまったロレッタは、ますます意味がわからなかったが、なんだか楽しそうに笑うクロヴィスに胸がときめくのを感じていた。
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