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愛しい者の故郷
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ディランはマイクに、アンリの普段の様子も尋ねてみた。
グランダースでは、アンリはディランやディランより年上の人間と関わることが多いが、彼らは政務の中心にいるような身分の高い者ばかりだ。
アンリ自身が聖女なのだから、むしろ身分的には国王のディランに匹敵するのだが、アンリはいつだって謙虚だった。
その為、尚更同年代の者との過ごし方に興味が湧いたのである。
もはやディランが個人的に知りたいだけなので、調査という大義名分にも若干の無理が生じてきたが、そんなことは気にしない。
「うーん、アンリはこの畑のトマトの世話を一生懸命していました。まさか、家のことを全部やらされているとは知らなかったから、大変だったと思います。アンリは魔法が弱くて、そのせいで学校でも冷たくされることが多くて……」
「そうか」
ディランの低くなった声に恐怖を感じたのか、マイクは慌てて付け足した。
「で、でも、担任も飛ばされて、同級生達も反省したし、今ではみんなアンリの帰りを待っているんです!」
「君もか?」
「もちろんです!!僕はアンリがいつ戻ってきても大丈夫なように、この畑を守ってるんです」
ディランは複雑な気持ちになっていた。
アンリが慕われるのはもちろん嬉しいし、アンリもこの事を知ったら喜ぶだろう。
ただーー。
アンリが故郷へ帰りたがったら、俺はどうしたらいいのだろうか。
俺はアンリを手放せるのか?
答えはわかりきっていた。
アンリを手放すには、ディランは彼女を愛しすぎてしまった。
「あの、アンリの部屋も見ていきますか?ビックリするくらい何もない部屋だけど」
ディランが黙りこくってしまったからか、マイクが気を利かせて提案した。
一番近所のマイクの家が、留守の間、アンリの家の管理を任されているらしい。
「ここです」
案内されたアンリが使っていたとされる部屋はとても質素で、陽が当たらないからか、とても寒々しかった。
家族の中でいかに酷い扱いを受けていたのかが一目でわかってしまう。
「納屋も見てもいいか?」
胸が痛くなったディランは、続けて納屋も案内してもらった。
そこもまた、夜に女の子が閉じ込められる場所とは思えず、言葉に詰まる。
こんな場所でアンリは……。
そんな辛い感情が、無意識に召喚に応えることに繋がったのかもしれないな。
「マイク、聞いて欲しいことがある」
ディランは全てをマイクに打ち明けることにした。
アンリを案じる彼に黙っておくことが出来なかったのと、自分の気持ちを伝えておきたかったからだ。
「なんですか?」
首を傾げるマイクに、ディランはアンリが今グランダースで聖女として働き、皆から愛されていることを話した。
「ええっ?聖女を召喚って、そんなことが出来るんですか?しかもそれがアンリだなんて!!」
最初は驚いていたマイクだったが、納屋から消えた理由と辻褄が合うと考えたのだろう。
次第に信じてくれた。
「そっか、アンリの魔法が強力に……。きっと今までは抑圧されて、本来の力が発揮出来ていなかっただけなんですね。凄いや、アンリは」
寂しそうに笑うマイクには、自分が自信を付けてあげられなかった心苦しさが感じられた。
「マイク、俺はアンリを愛している。まだ本人には伝えていないが、申し訳ないが、正直こちらに帰したくはない。もちろんアンリの気持ちを尊重するつもりだが……」
ディランの言葉に言葉を失ったマイクだったが、やがて斜めに提げていたバッグからノートとペンを取り出すと、何かを書き始めた。
何を書いているのかと、ディランは不思議に思いながら待っていたが、やがて書き終わったページを破ると、マイクはそれを小さく折ってディランに差し出した。
「これ、アンリに渡してください。本当にディランさんの夢だったら無駄かもしれないけど、もし夢から覚めても残っていたらでいいので」
「ああ、わかった」
ディランが胸ポケットに大切にしまうと、まるでその時を待っていたかのようにディランの体が透け始めた。
マイクとの別れの時が来たようだ。
「ディランさん、アンリをよろしく!!泣き虫だけど、頑張り屋なんだ!!」
「ああ、必ずアンリを守る。会えて良かった。ありがとう」
ディランはそこで意識を失った。
グランダースでは、アンリはディランやディランより年上の人間と関わることが多いが、彼らは政務の中心にいるような身分の高い者ばかりだ。
アンリ自身が聖女なのだから、むしろ身分的には国王のディランに匹敵するのだが、アンリはいつだって謙虚だった。
その為、尚更同年代の者との過ごし方に興味が湧いたのである。
もはやディランが個人的に知りたいだけなので、調査という大義名分にも若干の無理が生じてきたが、そんなことは気にしない。
「うーん、アンリはこの畑のトマトの世話を一生懸命していました。まさか、家のことを全部やらされているとは知らなかったから、大変だったと思います。アンリは魔法が弱くて、そのせいで学校でも冷たくされることが多くて……」
「そうか」
ディランの低くなった声に恐怖を感じたのか、マイクは慌てて付け足した。
「で、でも、担任も飛ばされて、同級生達も反省したし、今ではみんなアンリの帰りを待っているんです!」
「君もか?」
「もちろんです!!僕はアンリがいつ戻ってきても大丈夫なように、この畑を守ってるんです」
ディランは複雑な気持ちになっていた。
アンリが慕われるのはもちろん嬉しいし、アンリもこの事を知ったら喜ぶだろう。
ただーー。
アンリが故郷へ帰りたがったら、俺はどうしたらいいのだろうか。
俺はアンリを手放せるのか?
答えはわかりきっていた。
アンリを手放すには、ディランは彼女を愛しすぎてしまった。
「あの、アンリの部屋も見ていきますか?ビックリするくらい何もない部屋だけど」
ディランが黙りこくってしまったからか、マイクが気を利かせて提案した。
一番近所のマイクの家が、留守の間、アンリの家の管理を任されているらしい。
「ここです」
案内されたアンリが使っていたとされる部屋はとても質素で、陽が当たらないからか、とても寒々しかった。
家族の中でいかに酷い扱いを受けていたのかが一目でわかってしまう。
「納屋も見てもいいか?」
胸が痛くなったディランは、続けて納屋も案内してもらった。
そこもまた、夜に女の子が閉じ込められる場所とは思えず、言葉に詰まる。
こんな場所でアンリは……。
そんな辛い感情が、無意識に召喚に応えることに繋がったのかもしれないな。
「マイク、聞いて欲しいことがある」
ディランは全てをマイクに打ち明けることにした。
アンリを案じる彼に黙っておくことが出来なかったのと、自分の気持ちを伝えておきたかったからだ。
「なんですか?」
首を傾げるマイクに、ディランはアンリが今グランダースで聖女として働き、皆から愛されていることを話した。
「ええっ?聖女を召喚って、そんなことが出来るんですか?しかもそれがアンリだなんて!!」
最初は驚いていたマイクだったが、納屋から消えた理由と辻褄が合うと考えたのだろう。
次第に信じてくれた。
「そっか、アンリの魔法が強力に……。きっと今までは抑圧されて、本来の力が発揮出来ていなかっただけなんですね。凄いや、アンリは」
寂しそうに笑うマイクには、自分が自信を付けてあげられなかった心苦しさが感じられた。
「マイク、俺はアンリを愛している。まだ本人には伝えていないが、申し訳ないが、正直こちらに帰したくはない。もちろんアンリの気持ちを尊重するつもりだが……」
ディランの言葉に言葉を失ったマイクだったが、やがて斜めに提げていたバッグからノートとペンを取り出すと、何かを書き始めた。
何を書いているのかと、ディランは不思議に思いながら待っていたが、やがて書き終わったページを破ると、マイクはそれを小さく折ってディランに差し出した。
「これ、アンリに渡してください。本当にディランさんの夢だったら無駄かもしれないけど、もし夢から覚めても残っていたらでいいので」
「ああ、わかった」
ディランが胸ポケットに大切にしまうと、まるでその時を待っていたかのようにディランの体が透け始めた。
マイクとの別れの時が来たようだ。
「ディランさん、アンリをよろしく!!泣き虫だけど、頑張り屋なんだ!!」
「ああ、必ずアンリを守る。会えて良かった。ありがとう」
ディランはそこで意識を失った。
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す、すごいです!
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これからも完結目指しつつ、色々書いていきますので、よろしくお願い致します。
待ってました!
更新嬉しいです。
更新して早々にありがとうございます!
今後はもう少し頻繁に更新出来るように頑張りますので、引き続きよろしくお願い致します。